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 雪の積もった北の最果てのドリアン伯爵邸に着いた大きな包みを開けてみると、それは少年の肖像……美麗なブルーの服に包まれ、黒い髪に包まれた愛らしい少年王子の姿だった。
「まあ、綺麗!」とベアトリスがまず叫んだ。
「案外可愛らしい王子様なのね、エクリース様は」
と伯爵夫人がぼそぼそと、けれどもどこか不服そうに呟いた。
「画家がわざと美しく描いたのさ」とドリアン伯爵は、ぶすっと言うと、目を背けた。
「でも、本当に綺麗ね」とベアトリスだけが、相変わらずエクリースの肖像画を見つめていた。「嘘じゃないと思うわ」
「ベアトリスったら、あなたは本当に優しい子ね」
と伯爵夫人が言ったが、心ここにあらずといった感じだった。

 伯爵と伯爵夫人は、雪が解けた春になると愛しい一人息子のクリフを王宮に差し出し、そして忌み嫌われている王子エクリースを代わりに育てなければならないのだった。今まで散々難癖をつけては先伸ばしにしていたのだが、肖像画が来た以上もうこれ以上は伸ばせそうも無い。
 二人はわずか7歳のクリフを見ては、別れの日を想像して涙にくれていた。けれども皮肉にも唯一人、ベアトリスだけは新しい客が来るのを無邪気に待ち望んでいたのだった。
 ベアトリスは活発な姫であり、新しいものが好きだった。この暗い陰気な場所に訪れる人々はほとんど居ない。どのような人であったとしても、新顔がやってくるのは歓迎すべきことだったのだ。

 ベアトリスはその栗色の髪をリボンで留め、薄氷の張った池を見つめたり、窓からじいっと中庭の雪景色を見つめては、エクリースが来るのを待っていた。そして、
「きっとステキな王子様なのよ!」とベアトリスは侍女達にもいつもそう言っていた。
「本当にお人よしで無邪気な娘だわ」と伯爵夫人は至って機嫌が悪かったが、日々は刻々と過ぎて行き、やがてその日取りと王の書簡が届いた。
 書簡には、エクリースにちゃんとした学問と礼儀作法を身に付けて欲しいという事、必要なものは何でも直ぐに送るということ、そして預かるクリフにもちゃんとした家庭教師と侍女を付けて大事に育てるという約束をした。
 そして最後に、こう記されてあった。

『無事に成人するまでエクリースを育てた暁には、ドリアン伯爵一家を再び王宮に迎えたい……』

「これは信じて宜しいのですね、あなた」と夫人は伯爵に詰め寄った。
「再び都に戻り、伯爵家の名誉を継ぐ事ができるのですね!?」
「そうらしいな」と伯爵は顎を撫でた。「この書簡は、証明として取っておこう」
 伯爵は狡猾そうに、その書簡を引き出しに仕舞いこんだ。

           ☆ ― ☆ ― ☆

 ちょうどその頃、ある成金の布織物の商人が銀鎖の付いたキラキラ光る時計を持って、献上品を王に届けに王宮に上がった。この時計は実は壊れており、針は動かなかったが、闇で安く買い叩いたもので、この成りあがりの男にとっては単なる装飾品として飾るだけで満足だったのだ。
 それがこの成金商人の不幸の始まりだった。
 商人が王宮に通され、布を届けて帰る途中、王宮の外庭で狩りに出かけていたブライト王子一行とすれ違った。
 その瞬間、不吉な時計は時を刻む代わりに、キラリとその忌まわしい光を放ったのだった。

「待て!」と馬上のブライト王子が、既に声変わりした凛とした声で、その頭を下げている成金商人に命令した。
「その時計はそなたの物か?」
「はい」と商人は得意げに答える。彼は勘違いしていた。王子が自分の時計の美麗さに目を留めたと思いこんだのだ。

「そうか」とブライト王子は不敵に微笑んむと、さっと片手をあげた。
「こいつを捕らえろ!」
「え?」と商人は訝しげに顔をあげる。
「その盗人を捕らえろ!」と再びブライトは命じ、すぐさまその商人は縄をうたれて牢獄に繋がれて行った。
「なぜだ!」と言う悲痛な叫び声を残して。





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