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エクリースの塔の部屋に飛び込んで来た白い鳥、白鳩は目をパチクリして辺りをキョロキョロと眺め回していたが、直ぐにソラリスに気付いたようだった。
「わたしじゃ、鳩よ、わたしっ!」
「ひょっとして……ドブネズミ?」と鳩が喋ったので、エクリースは腰をぬかすほど驚いた。
「な、なんで、鳩とネズミが……」
「言葉が分かるのはな、王子、そなたの持っている魔法のおかげじゃ。他人からは、ただクックークックーとしか聞こえんのじゃよ」
「僕は魔法使いじゃない!」
「けれども、今までどれだけその力で自分の身を護ったものやら、じゃな」
と、もとドブネズミのソラリス先生は、皮肉っぽく言った。
「確かに」とエクリースは腕組みしつつ首を傾げた。「色々危ないことが起ると、不思議とどこかから力が出て来たり、黒い雲が現れたりしていたな……」
「そなたは、何かに守られているのだよ、王子。自信を持つことじゃな」
「じゃなぜここから出られない!?」
「ん? ま……それはじゃな……試練は必要、ということかも知れんな」
「それじゃ説明になってない!」とエクリースは怒鳴った。
「とにかく、王子」と小さな声で振り返ると、そこには例の白鳩が黒い目を輝かせていた。
「ここを出たいなら、お早く」
「ああ、出たいよ、だけど君の身体ではな」
「この身体は自分の物では無いんです」と鳩は言った。
「ああ、じゃあなにか……まさか、君もなんかの博士とかじゃないだろね」
「いいえ~、わたしは鳥の中の鳥、いわゆる王、なんですよ」
「馬鹿らしい」とエクリースは一蹴した。「こんな小鳩が鳥の中の王、だと!?」
「まあまあまあ、王子、彼の言う事をよく聞き、そして彼本来の姿を取り戻させて下さい」
とソラリス先生が取り成す。「この鳩のいう事は事実なんです。古の魔法により……」
「鳩にされた」とエクリース。
「仰るとおり!」と鳩は羽を広げてギャーギャー騒ぐ。
「だけどどうやって、その鳥の中の王、とやらに出来るんだ、この僕が」
「王子、この鳥の本質だけを見てあげて下さい。さすれば、この鳥がどういう姿をしているか、分かるはずです」
「分からないね、先生」とエクリースはつれなく言った。「単なる、鳩にしか見えないよ」
エクリースは急にバカバカしくなって、どっと疲れを覚え、その場にへたり込むと目を逸らした。
「結局の所……脱出なんて不可能なんだ。大鷲でも居ない限り。それも、この石壁を壊すほどの巨大な大鷲が……」
夕暮れの光が、鳩の上に落ち、鳩の黒い影が石壁に映っている。
「そう、それぐらいの巨大な大鷲とか居ればなぁ~」
「居るじゃないですか」とさり気なく言うソラリス先生に、カッとしてエクリースが振り向くと、そこには……確かに! 確かに、大鷲が居るではないか!!
「えええ~~~っ!? まさか」
エクリースが疲れや痛みを忘れるほど驚愕していると、大鷲は羽根を広げて、首を伸ばした。その羽根は牢の中の壁に当たるほどだった。
「王子よ」と呼びかけるその声は、さっきの小さな可愛い声とは明らかに違う。威厳がある重々しい低声。まさに鳥の中の鳥、王の鳥の声音だ。
「わたしを元の姿にもどしてありがたく思うぞ」
「ひゃ~~~っ! あんたは元々はそんな姿だったのか!」とソラリス先生も叫んだ。
「待ってよ。僕は何もしていない。魔術を使ったわけでもないし、今回は僕の痣からも何も出なかったし」
「いやいや」と大鷲は遮った。「さっきお前は、『大鷲でも居ない限り。それも、この石壁を壊すほどの巨大な大鷲が……』と言ったな。その願いが、わたしの元の姿と同一だったのだ!」
「では、王子は知らない内に、あんたの元の姿を頭に浮かべていたというのじゃな」
「その通り」と大鷲は我が意を得たりとばかり、頷いた。
「知らない内に……か」とエクリースは呟いた。「少なくとも、僕は何もしなかったけど……でも、元の姿に戻って良かったことは確かだ」
「当たり前だ、王子。感謝するぞ。して、王子、そなたの求めていることを実行してあげよう」
「ここから……逃げる!?」
「もちろん」と大鷲は言った。「わたしの背中に乗りたまえ。一人ぐらいなら、運んであげられる」
「それじゃ、わたしはどうなる?」とソラリス先生は喚いた。
「王子がお前の姿を戻してあげたのだ。お前みたいなバッチいドブネズミに口づけするとは! そんな人間はもう誰も居らぬぞ! あとは自分で考えるのじゃな、その奸智で」
「奸智とは、そりゃ又失敬な」とソラリス先生はブツブツ。
「分かったよ。わたしは何とかする。が、王子をどうやってここから脱出させるのじゃね」
「こうするんだよ」
そう言うと、大鷲は鋭い鋼鉄のような嘴で、塔の石に突進した。幾つかの石が、物凄い音を立てて、地面に崩れ落ち、ポッカリと穴が開いたのだった!
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