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コレットがエクリースとビクターを案内した家は、森の淵に建っていた。この家もどこか風変わりな家で、馬の蹄の音で中から飛び出して来たのは、一人の若者だった。もじゃもじゃの赤い髪に、獅子っ鼻。けれども、一見乱暴そうな中にも狡猾で聡明そうな趣がある。
「コレット~!」と若者は両手を広げて叫んだ。
「ああ、兄さん!」と叫び返すコレット。
「あの男は、お前の兄なのか!?」とエクリースはコレットの耳元で聞いた。
「そうよ」とコレットはちらっとエクリースに振り返る。「騎士エリス様。兄は猟師をしているの。僅かばかりの畑と猟で、あたし達何とか暮らしていけてるの」
「そうか」とエクリースは事務的に答えた。
それから直ぐにコレットは、馬から飛び降り、兄に抱きついた。
「兄さん! この方々がわたしを救ってくれたの。今晩泊めて上げてよ」
胡散臭そうに、兄はエクリースとビクターを眺めたが、妹が裸足でそして顔に痣が在るのに気付き、仕方なく片手を差し出した。
「俺はリアム。妹を助けてくれたそうで、ありがたい。今晩はここに泊まってくれ。食べ物も、鹿の肉ならあるからな」
「兄さん、この方々は騎士様とそのお供の方よ。もっと丁寧にね」
「ああそうか」とリアムは素っ気無く言った。「確かに、違えねぇや。お偉い方のように見えるしな」
ビクターは、兄リアムの粗暴な言い方にムカついていたが、如何にも雨が降りそうな天気に、腹が立つがリアムの誘いに乗らざるを得ないようだと感じた。
エクリースは幾分笑いを含みながら、馬から優雅に降りて、リアムの手を握り返した。
「騎士様とは言え、まだほんの少年のようだな」と不躾なリアムの声がした。
「そう、わたしはまだ若干16歳でエリスと申します。宿を貸して下さるようで、とてもありがたい、リアム殿」
「ふん」とリアムは鼻を鳴らす。「まあいいや。粗末な家だが、泊まっていきな」
「兄の失礼な振る舞い、ごめんなさい」とコレットはエクリースに囁く。
「兄は人間不信なの。色々あって……」
「君がどんな目に合ったか知っているから、兄上の心配も分かるよ」
とエクリースは言った。
「お前が、村の若い奴らに色目を使うからだ。村人達には近寄らぬようにと、あれだけ言っているのに!」と兄リアムは嘆いた。
「あら。色目なんか使っていないわよ、わたし」
とコレットは反論する。「ただ、村で祭があると聞いたから、ちょっと寄ってみたまでよ」
「それがいかんのだ!」とリアムは気色ばんで、妹を怒鳴りつけた。
「まあまあまあ」とビクターが割って入る。「遠くで雷が鳴っている。早く中に入らせて頂くよ」
「嵐が来そうね」とコレットは呟いた。「恐ろしい嵐のような気がする……」
☆ ― ☆ ― ☆
兄妹が予測したように、直に嵐がやって来て、激しい雨が窓や扉を叩いた。けれども室内は暖かく、コレットはリアムの獲った鹿肉を料理し、部屋にはプーンと良い臭いが満ちている。奇妙な兄妹だが、家の中にはどこか寛いだ雰囲気が漂い、エクリースは心地良い疲労感と美味しい料理に舌鼓を打った。王宮にも、ジュリアの家でも感じなかったスパイシーな美味しさだ。
「この料理は、珍しいな」とエクリースが誉めると、
「そりゃそうだ。俺達の先祖代々の料理だからな」
とリアムが得意そうに言った。
「先祖はこちらではないと?」とビクターが聞くと、リアムは頷いた。
「そう。この森の向こう側だそうだ」
これを聞いて、エクリースとビクターは互いに顔を見合わせる。
「森の向こう側? ……と言えば、フォンテーンと言う者の領地だった場所かな?」
とエクリースがさり気なく聞いた。
「あたし、聞いたことがあるわ、その名前!」とコレットが叫んだ。
「やっぱり」とビクターは一人呟く。
「あたしの父が、その名前をよく言ってた。昔の領主様だったんだって」
「え! 本当に!?」と思わずエクリースは身を乗り出した。その時、外では落雷が近くに落ち、物凄い轟音が響いた。
「ええ、本当」と落雷の直後、コレットは自慢げに答えた。「両親はそこで働いていたらしいのよ」
「それじゃ……お父上は?」
「死んだ。っつーかな、あの森に行ったまま出て来ない。もう三年も前の話だ」
と兄リアムが陰気臭く言う。
「死んだかも、って?」
「あの森は、以前も言ったでしょ。“人食い森”なのよ!」
コレットが恐ろしげに叫ぶ。
「“人食い森”か。面白いな」
「ねぇ騎士様、これは本当らしいのよ。村人達もそう言っているし、あの森から出て来た人は誰も居ないの。面白いなんて言っている場合じゃないわよ」
「じゃあ、あの向こうに行くには?」
「そう、森を通らず遠回りをするの。でもそこには、人間くらいの蛭が居る沼があるって話よ。でも……大抵はそこを通って行くの。多分、両親もそこから来たんだから。沼にさえ近寄らなければ、何とかなるわよ。まあ、最低一週間は掛かるみたいだけど」
「一週間、か」とエクリースは溜息を付いた。
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