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第二章 追放 1
第二章 追放



 国の北の果て、辺りにはうっそうと茂った暗い森と、一方には絶壁。そして崖下遥かq谷底には、轟々たる川が流れている。南方に行く街道は唯一つ。それも一つ間違えば、谷底に落ちていくほど狭い道。
 そのような陰気な場所に、ドリアン伯爵一家は数人の侍従と侍女達と侘しい住まいを持っていた。

 伯爵一家が住まう古城に、使者によって今しも王からの手紙がもたらされていた。
 ドリアン伯爵はその書状を一瞥すると、深い溜息をついた。
「あなた。どうなされたのです?」と奥方が顔を覗き込む。「なにか……悪いお知らせですか?」
「ああ、そうのようだ」と伯爵は率直に答えた。
「え!? それは……?」
「安心しろ。わたし達を殺そうというのではない。けれどもある意味ではもっと大変なことを、王は我々に仰せつかったようだ」
「何なのです?」と奥方は震え声で聞き返す。
「王の二番目の王子、エクリース様を預かって欲しいとの仰せだ」
「それは!」
 奥方は驚愕の為に身を縮めてしまう。

 エクリースの評判は、不運なことにこのような辺鄙な場所にも聞こえていた。不幸を呼ぶ、日食に産まれた王子、闇の使者デスティの生まれ変わり、等々である。
「エクリース様を? それを拒む事は出来ないのでしょうか」
「我が息子、クリフを人質に取り、エクリースに何か有れば直ぐにクリフを殺すと言われる」
「むごい事ですわ! クリフをあの呪われた王子の身代わりにと?」
「他人の風評を鵜呑みにするな」と伯爵はたしなめた。
「だってあなた、そうでなければなぜこのような場所に王子を置くのです?」
「厄介者だからだろう。最近、お世継ぎのブライト様がお怪我なされたと聞く。それもエクリース様の目の前でらしい。王はこれ以上、エクリース様をブライト様に近付けたくはないと見える」
「でもそれじゃ、エクリース様は今度はわたし達に、きっと不幸を運んで来ますわ!」
「そうとは限らぬ!」と伯爵は苛々して怒鳴りつけた。

「とにかく、使者が返事を待って待機しておる。直ぐにも返事を差し出さないと、何が起こるか分からぬぞ。クリフの為にも、それからベアトリスの為にも」
「ああ~!」と奥方は既に絶望の悲鳴を挙げていた。

 そこに一人の愛らしい姫が、乳母の手を振り切って駆け寄ってきた。この姫にかかると、この陰気な古城をも、パッと明るく輝くようだ。
「ベアトリス!」と奥方は叫んだ。
「わたし、聞いていました。王子様がいらっしゃるのね」
と9歳になるベアトリス姫は可憐な声で言った。「楽しみだわ」
「何を言うの、ベアトリス!? その王子は……」
「お母様、誰であろうと、お客様は大歓迎よ。わたしは何ともないもの。ここではお友達も居ない事だし」とベアトリスは無邪気に答えた。

 もしも将来を見通すことが出来ていたら、ベアトリスはそうは答えなかっただろうし、伯爵夫妻もエクリースを引き受けはしなかっただろう。
 けれども伯爵は、結局王の意向に沿う他はなかった。やがて嫡男のクリフとエクリースは、近いうちに交換することに決まってしまったのだった。







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