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私は語るべきを持たない

作者:ガルド


 私は自らが生きているのかを自問する。
 果たして、私は生きているのだろうか?
 その問いはまず、人間の生を定義しなくてはならない。
 だが、果たしてそうなのだろうか?
 自分が生きているかどうかなど、自分自身のことなのだから、自分自身が一番、他の誰よりも明確に、理解できそうなものだ。
 その他でもない私が自問する。
 私は果たして生きているのだろうか?
 その答えはこの暗闇の中にはない。
 私は私の体を起こした。
 目を開けたその先にも、満足な答えなどありはしない。
 中流階級をしめすような質素なベッドも、最近めっきりやらなくなったPS2も、高校生の男子らしいといえばらしい掃除の行き届いていない私室も。窓からさしこむ初夏の陽射しも、小鳥のさえずりも。
 なにひとつ私に満足な答えなど与えてはくれない。
 私は生理的にあくびをひとつベッドの上にのこし、
 ひさびさの清清しい目覚めに満足して部屋を後にする。
「俺の朝食はいらないよ。なんど言ったら分かるのさ」
 私は毎日のように同じ言葉を口にして、家を後にする。
 目覚めた後はいつもどおりだった。顔を洗い、歯を磨き、朝のニュースを見ながら学校の制服に着替える。ワイシャツのボタンをしめながらコップと牛乳を用意する。ネクタイをしめおわると牛乳を一杯のんで、昨日用意した学校指定のかばんを持って玄関へ向かう。途中で一度洗面所へよって、口をすすぐと玄関で革靴に足を通した。
 私の母親は何度言っても私の朝食を用意する。
 毎朝毎朝、食べられることのない皿に乗った食パンに私は同情する。
 だが、生きていない食パンに向けられる同情は果たして意味があるのだろうか?
 ところで、本当に食パンは生きていないのだろうか?
 朝の早い通学路を、いつものようにひとりで歩く。歩きながら自問する。
 自問することに意味などない。
 ただ意味するところを自問するだけだ。
 私は歩く。
 暑くなりはじめた初夏の太陽は、私にじつにいい答えをくれそうなのに、焦らすかのように太陽は答えてくれない。
 私は焦れる。
 だけど、この問いに、他人から受け取った答えなどに意味はない。
 ただ意味がないからこそ、たまに私は、そこに無性に無意味を感じとる。
 ただそれだけの道理。
 義理もなければ引っ込むこともない道理。
 ちらほらと私以外の生徒たちが見られるようになって来る。
 そのうちの一人に私は見知った顔を見つける。
 私はあいさつをする。
「おはよう」
 学校に着くと私の机がなくなっていた。
 私の机はこの教室に存在することを許されなかった。
 許されなかった机に、私は同情する。
 だが、机は生きていない。有機物ですらない。食パンですらない。
 だからきっと私の同情は筋違い。
 けれどもそれは、机が生きていれば、筋違いではなくなるのだろうか?
 そもそも私は、だれに許されてここにいるのだろう?
 ちょっとだけ困ってしまう。
 困っている私を見て、教室にいた数人がくすくすと笑った。
 その他の私以外の人たちはただ気まずそうにしている。
 私は私に自問する。
 私はどうしたらいいのだろうか。
 珍しいことに答えはすぐに出た。
 屋上にあるあまっている机を持ってこよう。
 二階にある三年の教室まではちょっと遠いけど、それでも今の私はとてもきげんがいい。珍しく答えられた私はきげんがいい。とってもいい。
 キチキチと頭のネジがきしむ音がする。
 それはめすぎだ。それ以上絞められるとネジ穴がバカになるか、その前にネジが切れちゃうよ。
 ネジって結構頑丈だけど、それだって限界があるんだよ。
 一見硬くて壊れないように見えるけど、案外簡単に壊れちゃうんだよ?
 キチキチ、キチキチ。
 ところで私は自問する。
 ネジってところで生きてるのかな?
 キチキチ巻くと、それはまるで悲鳴のよう。
 軋んだ音は私の頭一杯に響き渡る。
 キチキチ音の鳴る様に、
 私はゼンマイ仕掛けに自分の机を用意する。
 気づけばもうすぐ放課後だ。
 私は一日中、ボーっとしながら授業を受けていた。
 ノートはきれいに取ってるし、内容もしっかり頭に入っている。家に帰ると、いつもすることがないので予習復習を欠かしたことはここ二年間に、一度もない。だって、私にはそれしか時間をつぶすすべがないから。
 気がつけばキチキチとあの可哀想な音はしなくなっていた。
 ネジはもう哀しくなくなったのだろうか?
 そうであれば、私としてはとてもうれしい。
 大学受験は近いが、私はそこに意味を見出すことができない。
 いまさら私は自問する。
 そういえば、意味ってなんだろう。
 それって生きていく上で必要なものなのだろうか?
 ところで私は生きているのだろうか?
 私をくすくす笑うあなたは、はたして生きているの?
 放課後になった。
 私は後ろの席を振り向く。
 そこには朝あいさつをしたクラスメイト。えっと、名前なんだっけ?
「なあ、お前ってさ。ちゃんと生きてるって実感を持ってるか?」
 クラスメイトは私を見ようともしない。
 そのクラスメイトのそばに、別なクラスメイトがよってくる。
 ふたりで話をし始めた。
 聞こえなかったのだろうか。私はもう一度、はっきりと言った。
「俺にはよく分からないんだ。お前は、さ。いったい何の為にに生きている?」
 帰り支度を進め、今まさに帰ろうとしていたクラスメイトはその一言でようやく私のことを見た。
 よかった。
 ちゃんと聞こえていたようだ。
「きも」
 ぼそっと。つぶやくようにクラスメイトは魔法の言葉をつぶやいた。
 それだけ言うと、ふたりは再び話し始め、やがて教室から消えていった。
 私の頭には、再びネジの絞められる音がき響いていた。
 家に着くと、とりあえず今日の復習をしておいた。
 男子高校生としては比較的整頓された勉強机に向かった。
 学校のとは違う、木目調がやけに目に付いた。
 やがて夕食の時間になった。
 食事時に会話はない。
 ただ沈黙を守り、いそぐわけでもなくゆっくりと夕食を咀嚼そしゃくする。
 そのあとはまたやることがなくなって机に向かう。
 気がつくと時計の針は11時を指していた。
 寝る時間だ。
 私は機械的に自室へ入り、布団をかぶる。
 目をとじて、ただよう暗黒の中で自問する。
 繰り返す毎日。変わり映えのしない日常。
 私は自らが生きているのかを自問する。



「当然だ! 俺は今、ここで息をして、ものを考え、確かに生きている…………っ!!」





































                              ……本当に?







 END。



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