日記を見ることが私の日課…書くことではないの、見ることなの。
書くことだったら三日坊主になっているわ。
私がその日記帳を買ったのは、十日ぐらい前のこと。
飽きっぽい性格だって自分で分かってたからすぐ止めてしまう事も知ってたんだけどね。
それでも高校の友達の間で流行ってるって…流行にはのらないといけないし。
でも私が日記帳買ってから直ぐにブームは去っちゃてさ、一回も日記書かないまま何だか興ざめっていうか、それでテーブルの上にほおっておいたの…あぁテーブルっていうのは私の住んでるアパートにある私専用テーブルのことね。一人暮し中なの。
まぁ初めは、学校であった事とか書こうとかおもったんだけどさ、やっぱり思うだけなんだよね、書かないの、お金の無駄になっちゃた。
でもどれぐらいだろう、日記帳を放り投げてから何日かたってからだったわ。日記帳を書きたくなったの、高校で文化祭があったからなんだけど。
それでテーブルの上にある日記帳を開いたの……うっすらと寒気が背中を走るのが分かったわ。だって未だ何も書いていない筈のそれに今日の文化祭の事が書かれているんだもの。
〈7月15日 今日は文化祭があった。大好きな真君が沢山声をかけてくれた。嬉しかった、本当に〉
書かれていたのは今日だけの事じゃなかったわ、昨日も一昨日もその前の事も書いてあった。最初の日付は7月5日だった。多分私が日記帳を買った日ね。
〈7月5日 今日日記帳を買ったの、流行ってたから、この日記帳真君との交換日記にしようかしら、なーんてね〉
この日記帳に書いてある『私』ってきっと私のことよね。でも私真君と交換日記しようなんて思ったかしら?
寒気は止まらなかった。こんな不思議で不気味な事今までなかったんだもん。当然だけどね。
だから明日は学校休もうって事にしたんだ。もう皆勤賞取れなくなってたし…風邪で一回休んだんだ。
そしてその日は眠ったんだけど。次の日、本当に熱がでてきていて、フラフラの状態で学校に電話して休みますって言ったんだ。
その日はずーと家にいたなぁ、私熱に弱いからさ、そうじゃなきゃ外に買い物にでも行ったのに…残念。
6時頃日記を見たんだ。気味が悪かったけど気になっちゃて。でも昨日見た時と何にも変わっていなかったわ。がっかりしちゃった…変だね。
そして次の日熱がやんだから、学校行ったの、とくに何にも変わりはなかったなぁ、あっ!ただ真君が私の事心配してくれたなー、部活やって大丈夫なのか?って。それでも私はしたけどね。あぁ私はテニス部よ。
家に帰ったのは7時くらいだったわね。まずしたことは、日記を見る事だった。
そしたら…書いてあったんだ。昨日は更新されてなかったのに。
〈7月17日 今日は真君が心配してくれた。嬉しかった嬉しかった、嬉しかった。〉
気持ち悪い感じがした。吐き気もした。私は手に取っていた日記帳を放り投げた。
その日はそうだったけど、でも好奇心がそれに勝っちゃって、それ以来も読み続けたわ。法則性も見つけたのよ、絶対日記帳には真君の事が書かれているっていう法則ね。
そして日記帳を読む事が日課になった今、私は恐怖を覚えている。いつもは過去での出来事しか書かれていない日記帳にこう書かれているから…
〈7月24日 私は三日後に殺される。痛い、苦しい、嫌だ、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死に た く い〉
今私が出来ることは何だろう、今日の日付は7月27日日記帳に書かれた私が死ぬ日…
私は考え直す事にした。こんな日記帳に書いてあることが起こる根拠なんかないんだから。
それに時刻は22時10分もう少しで今日は終わるんだから。
ピンポーン
チャイムが部屋に響き渡る。私は体が強張り、動けなくなった。
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
チャイムが連続で鳴る。チャイムは人を呼ぶためのものなのだが今は私を脅えさせ凍らせるためのものとなり本来のとは真逆の役割をしていた。
「真由子ーいるんでしょ、起きてよー」
私の名前を呼ぶ声がする。チャイムとは違いこちらは私を安心させるものだった。
「りっ律子?ちょっと待っててね今開けるから…」
「真由子、早く開けてちょうだい」
覗き穴からドアの前にいるであろう人を見る。
顔をドアに近づける…
居た…
律子が居た…後ろ手に手を組んでいる。
私は鍵を開ける
ガチャン…キィー
新しいとはいえない私の部屋の玄関のドアが軋みながら外側に開いていく。
静寂の中には唯一その音のみが響く、長い時間では決してなかったのだが私にはその時間が長く感じられた。
私の部屋からもれた光りが律子を照らす。いつもと変わらない律子の笑顔がそこにあった。
私は安心する。明日まで一緒に居てもらおう。
「中に入っていい?」
律子の声もいつもと変わらず明るく私の不安を消し去ってくれる。
「もちろんだよ!りっちゃん!」
律子と私は長い付き合いの親友なんだ。だから遠慮せず何でも言いあえるんだ。
「お邪魔しますー」
律子が私の部屋に入って来た、これで三回目かな。私の部屋…家に来るのは。私がりっちゃんの家に行ってばっかっりだったから。
律子は部屋の中心にあるテーブルの近くに座る。本当に遠慮ないなぁ。
「真由子…私話しがあってここに来たんだ」
「あっ!私もあるの、話し!学校じゃ言えなかったけど…」
「私、真が好きなんだ」
突然のことだった。
「え?」
私は真が好きだ、それは律子も知っていること。なのにどうしてそういうことをさらりと言えるのだろう?
「だから、真由子ぉ…真、諦めてくれないかな」
律子は淡々と言う。こちらを説得する気のないような、感情のこもっていない声で。
「…本気で言ってるの?」
私の声が上擦る。
「本気だよ」
私の言い終わりとほぼ同時に律子が断言する。
「…だから諦めてくれないかなぁ」
疑問のイントネーションは消えていた。命令に近い気のする律子の低い声。
「む、無理だよ…好きっていうのは、諦めるとか諦めないとかじゃないんだし…」
「本当に無理なの?」
「…うん」
律子のこんな雰囲気は初めてだった。何かに取り憑かれているんじゃないかしら?と思ってしまうぐらい。
―――――
―――
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「…私さ実はこの部屋の合い鍵持ってるんだ。」
少しの沈黙の後、律子は思いもよらないことを言い出してきた。
「んっ…んん?」
疑問しか言葉にでない。
「真由子に内緒で作ってもらったの、凄いでしょ」
律子はいつもの笑顔を見せた。
何が凄いの?どうして笑ってるの?分からない、分からない、分からない。
「この日記帳に書いてある通りになるよ」
律子はテーブルの上の日記帳を手に取る。
「真のこと諦めてくれるって言ってくれれば、この通りにはならなかったのに」
真由子は服から小さい包丁を取り出した。それは光りに反射してまばゆく白い光を放っていたが、きっともうすぐ赤く鈍い光りを放つのだろう。
私が死ぬ光景も書いてくれるのかな?りっちゃん…
恐怖より親友に裏切られた悲しみが私に涙を流させた。 |