ヴァサーナは東の大陸にある国で、こちら側の世界とはあまり付き合いがない。魔獣や海竜の棲む大洋が、行き来を阻んでるからだ。
ただシュマー家経由で入ってくる情報だと、独自の文化と、高い科学力を持ってるらしい。
だから昔から、とても興味があった。
けどこの質問で、なんとなく先輩の表情が変わった気がした。聞いちゃいけないことを、聞いてしまったのかもしれない。
「あの、すみません。えっと、いいです……」
慌ててそう言う。
でもタシュア先輩の答えは、ちょっと思ってたのとは違った。
「構いませんよ。聞いていいといったのは、こちらですからね。
――ヴァサーナですか。荒野に無理矢理人間の居場所を造った、居心地の悪いところです」
「そう、なんですか……?」
ぜんぜん想像していなかった答えに驚く。もっと素敵なところだと、想像してたのに。
「もっとも私も、すべてを知っているわけではありませんがね。ずっと研究所にいて、あとはそのまま戦場行きでしたから」
「じゃぁ、やっぱりその傷痕……?」
さっきからずっと気になってた。
上着を羽織ってはいるけれど、時々その陰から見え隠れしている。
それもひとつふたつじゃない。中には死にかけたに違いないもの――胸の傷は間違いなくそうだ――まで、信じたくない数 だった。
「そういうことです」
「そんな、ヒドい……」
涙がこぼれそうになる。
あたしも何度か大怪我をしてるから分かる。これだけの傷を負いながら生き延びることが、どれだけ難しいかが。
しかもずっと研究所に押し込められていて、そのあとはこんなひどい怪我をする場所に放り出されたなんて。
胸の傷が疼いた。
あたしにとってはいちばん大きかった怪我だ。
もっとも見た目には、何もない。あたしの場合ごく小さなものまで含めて傷痕はすべて、シュマーの医療技術を結集して消されてる。
それでも痛かった。
――どうしてあたしたち、こんな目に遭ってるんだろう?
涙があふれて、止まらなくなる。
そんなあたしを見て、タシュア先輩が冷ややかに言った。
「同情ですか? そんなものは欲しくありませんね」
「ちがいます!」
自分でもびっくりするくらい、強い口調だった。
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