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Chapter:03 海竜
Episode:29
◇Sylpha
「先輩、うしろっ!!」
 ルーフェイアの叫びで、もういちど私の身体に緊張が走った。
 絶命したとばかり思っていた海竜が、首だけとなって尚牙をむく。

 驚いて、一瞬対応が遅れた。
 首が跳ね上がり、大きく口が開く。
――間に合うか?
 サイズを持ちなおし、踏みこむ。

 まだ精霊ヴァルキュリアの憑依状態は解けていないが、間合いが近い分、先に動いた向こうが有利だ。
 案の定向こうの方が速い。さすがに怪我を覚悟する。
 が、突然海竜の動きが遅くなった。同時に私の身体がスピードを増す。どちらも魔法だ。

――あの2人か?
 これだけ離れていてこの連携を見せるとは、なかなかやる、そう思う。
 さらに私の良く知る気配が辺りに満ちた。風に乗ってか、呪文の詠唱が聞こえる。
「闇の底に眠りし混沌の力、一条に集いて――」
 タシュアの禁呪だ。

 目を射る光の矢が飛来して、海竜の首に突き刺さった。
 たちまち松明のように、首が白い炎に包まれる。生命力を削り取る禁呪を、タシュアに連続で使わせてしまった自分に、腹が立った。
 その思いを叩きつけるようにして、サイズを振るう。海竜の首を、今度は縦に両断した。

 燃えながら、首が左右に分かれて落ちる。しばらくうかがったが、さすがに今度は動かなかった。
 ようやく緊張を解く。
「先輩、大丈夫ですか?」
 いちばん近くにいたルーフェイアが、真っ先に駆けてきた。

「すみません、あの、あたし、とっさに……魔法、かけちゃって」
 第一声は、なんと謝罪だ。
「あの状態じゃ……もしかしたら、危険だったかもしれないのに……」

 下手な言葉をかけようものなら泣き出しそうな表情で、少女が私を見上げている。
 先ほどから連続で凄まじい魔法を放ち、海竜を丸ごと凍結させ、さらに絶妙の連携プレーまで見せたのとはまるで別人のようだ。

「なんでもなかったんだ。気にしなくていい」
「でも……」
「いいんだ」
 私がきっぱり言うと、ようやくルーフェイアも表情を変えた。どうにか納得したらしい。
 しばらくそのままその場にいたが、そのうち海竜の首――というより残骸――に歩み寄り、つま先でつつき始めた。




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