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Chapter:03 海竜
Episode:27
 と、今度は風に乗ってタシュア先輩の呪文詠唱が聞こえた。
「……の嘆きと怒りの咆吼をもちて……」
 聞いたことのない韻。
 いや、ちがう。聞き覚えがある。

――まさか、禁呪?

 ちょっと信じられなかった。
 禁呪は要するに精霊が使うもので、人の器で扱えるようなものじゃない。
 呪文そのものはいちおう誰でも唱えられるけど、発動させると代償として、生命力までもぎ取られて衰弱する。魔力が弱い人が使うと、死ぬことだってあるくらいだ。
 それを、こんな風に簡単に扱うなんて。

 でも、シルファ先輩がもう海竜に突っ込みかけている。このタイミングで魔法をかけたら、巻き込まれるのは確実だ。いくら精霊を完全憑依させているといっても、禁呪の直撃には耐えられない。
 なのにタシュア先輩、まったく気にする様子がなかった。
 そして魔法が発動する。

 一瞬にして暗くなった空から十数条のもいかずちが降り注ぎ、あたりを薙ぎ払い、帯電した風が逆巻く。
 空気が焼け焦げて、あの独特の匂いがただよった。
 さすがにこれは効いたらしく、海竜が咆哮をあげて動きを止め、その長い首を落とす。

 逃さず、シルファ先輩のサイズ(大鎌)が一閃した。
――抜群のコンビネーション。
 ほんの僅かな発動範囲の差とタイムラグとで、シルファ先輩は無傷だ。
 どさりと音を立てて、海竜の首が落ちる。シルファ先輩がほうっと息を吐き、燐光が薄れ始めた。
 でもその時。

「先輩、うしろっ!!」
 切り落とされて背後へと落ちた海竜の首が、突然牙をむいた。
 まさかの事態に、一瞬シルファ先輩の動きが止まる。

――いけない!
 戦いの最中には、この一瞬が命取りになるのだ。
 とっさにあたしは呪文を唱え始めた。
 選んだのは加速魔法。本当なら海竜のほうをどうにかするべきだけど、今はその必要がなかった。
 理由はわからないけれど、それはイマドがやってくれるという確信がある。

「すべてを包む流れよ、幾重にも重なるその手にて……」
 呪文が、完成する。




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