四畳半のテーマパーク
『SSバトル企画』参加作品です。
お題
「毒電波」
ルール
「作者」
・参加者はお題から連想されるSSを2000字前後で作成する。
・それを衆目に晒し、どれがよりお題を連想させる作品だったかを投票してもらう。
「読者」
・参加しているSSを全て読む。
・その中でよりお題を連想させた作品に投票する。
・投票方法は評価欄に「企画概要を知っている旨」と「自分がこの作品に投票する旨」さえ書いてあれば他はどんな内容でもOK。
・もちろん投票しない作品へ評価を残しても大丈夫。むしろ、していただけるとありがたいです。
企画概要はこんな感じです。
お題である「毒電波」に明確な定義がありません。
あくまで主観的に、各作品を読んでどれが一番自分の中の「毒電波」だったかを投票していただけたら幸いです。
エントリー作品
・ガルド 『魔術師の眼』 http://ncode.syosetu.com/n6063g/
・蜻蛉 『四畳半のテーマパーク』 http://ncode.syosetu.com/n6140g/
・黒木猫人 『姫神くんと姫神さん』 http://ncode.syosetu.com/n6134g/
(検索からは「SSバトル」あるいは「毒電波」でご利用ください)
からんころん。ちゃんちゃんちゃららん。
四畳半くらいの狭い俺の部屋で、メリーゴーランドが回っている。天蓋には王国の兵士や森の小人、青や赤や黄色など色とりどりの魚が、今にも飛び出しそうな脈動感とともに描かれている。お馬が楽園的なミュージックとともに畳の上を駆け回る。白馬に乗った王子様が白い歯を輝かせて笑った。黒馬に乗った王子様も黒い歯を輝かせて笑った。お姫様なんかほったらかしにして、自分の自信の馬を自慢するように、乗馬を楽しんでいる。
「はっはっは! 見てくれよ僕のサンダーホースを! この美しい毛並みと凛々しい顔立ちを。僕と彼が一緒になれば、乗馬で右に出るものはいないよ!」
「そんなことより僕のブラックローズを見てくれよ。駆ける死神と言われたこともあるこの圧倒的な格好よさ! 見惚れてしまうだろう?」
とても不毛な争いが繰り広げられている。確かにどちらの馬も上玉だが、俺の眼中にはない。メリーゴーランド上で行われる激しい争い。聴こえてくる軽快な音楽とは真逆の、必死の攻防。メリーゴーランドの回転が増す。段々と熱を持ち始めてきた舞台が、大きく悲鳴を上げる。
目で追うのは、聖ブリリアント公国から出馬された、ホワイトライダー。俺の一番星だ。台座の加速が更に更に増し、ついには肉眼で捉えられない速さに到達する。
――来る……!!
そう思った直後、メリーゴーランドから流れる音楽が突然止まった。まるで今までのことが夢のことのように、微動だにしない空気が形成された。照明が落とされて、駆け回っていた馬たちはそれぞれ四方八方に散っていき、畳の上にはいつの間にか俺だけになった。口の中がからっからに乾いている。争いの余熱が部屋に立ち込め、肺が新鮮な空気を求めて呼吸を荒げた。
幻覚を見ていたのだろうか。しかし、俺の手にはしっかりとあるものが握られていた。汗ばんでいて、しわしわだった。手を離したら、粉になって畳の下に吸い込まれて行った。
☆☆☆
そんな喜劇をほとんど毎日のように続けていた、ある日のことだった。
その日の朝、朝食を買いにコンビニに出かけたあと、部屋に戻ってくると、俺の部屋は跡形もなく消え去っていた。小さなアパートの二階、二〇四号室と二〇六号室の間だけぽっかり抜け落ちている。遠くを見ると、朝やけに染まった濃い緑の山が見えた。下の部屋の天井が剥き出しになっている。初めて見る光景に、兎角唖然とした。
抜け落ちたスペースから、身長三十センチにも満たない小人が姿を現した。緑色の民族衣装に、でっぷりとした腹が収まっている。自身の身長を超える長さはあろうかという髭を垂らして、仁王立ちになってふんぞり返っていた。
「よう兄ちゃん。いい朝だな」
確かに、最近稀に見ない雲ひとつない青空だった。ある意味では、恐ろしいくらいに清々しい朝だ。
「メリーゴーランドだがな、今日で閉店だ。オレたちはこんなところで留まっているようなヘタレた奴らじゃねえって分かったんだ。だから旅に出ることにした」
「それは……」
非常に困ることだ。あのメリーゴーランドが無かったら俺はどうすれば良いのだろうか。
小人がそんな俺を見て、ニヤついて言った。
「一緒に一攫千金、狙いに行くかい?」
「一攫千金だと?」
「ああそうだ。報酬は一生にして億単位。いや、兆をゆうに超えるかもしれない。どうだ?」
魅惑的な提案だった。この小人の顔を見ても、なかなかのやり手だと思える。こいつについていけばきっと、両手に余る札束を手に入れられそうな気がした。
「ただし条件がある」
小人は得意げに人差し指を立てて言った。数ミリ単位の指先が、俺を挑発するように左右に揺れる。
「お前さんには、オレたちに付いていく条件として、馬になってもらう」
「馬に? どういうことだ」
「最近馬のやる気が酷くてね。馬がいなきゃ商売にならん。だからお前さんを抜擢しようと思ってな」
馬になった自分の姿を想像した。見渡す限りの地平線。足元を撫でる柔らかい草の感触に、吹き付ける突風。自身の筋肉の限界を駆使し、大草原を駆ける。広大な大地を蹴り、果て無き海を目指し、照りつける太陽に跳ぶ。なんと気持ちの良さそうな話だろうか。
「分かった。俺は馬になろう」
「本当か!?」
「ああ」
ほとんど二つ返事で俺は頷いた。
「なら話は早い。今すぐ旅に出よう!」
小人はそう言うと、まるで物語に登場する小人のように、大きく手を足を振って行進を始めた。
俺は手に持っていたコンビニ袋を中身ごと放り投げて、意気揚々と小人のあとについていった。
☆☆☆
馬になったはいいが、訓練が意外と辛かったので、腹いせに小人を喰ってやった。肉の味はなかなかに美味だった。昔食べたロースステーキに似ている。焼かずに食える肉というのも新鮮で、刺身のような感覚だった。馬の口内は意外に便利に出来ており、肉をすり潰して骨を吐き出すという方法で、俺は安全に小人を喰らった。
今はもう四畳半の部屋じゃない。手に余るほどの敷地を手に入れた。誰に見せても恥じにならない立派なテーマパークを建設し、毎年莫大な金を稼いでいる。コーヒーカップにジェットコースター、観覧車だってある。今や俺のテーマパークは、メリーゴーランドに留まらない。
俺の目の前には、あの時と同じメリーゴーランドが回っている。天蓋には王国の兵士や森の小人、青や赤や黄色など色とりどりの魚が、今にも飛び出しそうな脈動感とともに描かれている。舞台の上では、白馬が煙草をふかしていた。その横に黒馬もいる。
「ちょー尻痛かったんだよなー。痣とかついてんだよ俺の尻。真っ白で自慢だったんだけどなぁ」
「俺だってやべえよ。何が駆ける死神だし。恥ずかしくって溜まらなかったっつうの」
ゲラゲラと笑う声。昔の俺には聞こえなかった声。
そんな俺は、メリーゴーランドの前で、細い脚を交差させてあぐらをかいていた。蹄となってしまった手で、俺はあるものを挟んでいた。変に挟んでいたせいか、ぐしゃぐしゃになっている。手を離したら、風に乗って空に消えて行った。空を仰ぎ見れば、雲ひとつ無い青空。すがすがしいほどの青天だった。
ひひーん。
☆☆☆
夜空の下、数千はいるかという小人が集結していた。その各々が、でっぱった腹にダイナマイトを巻いていた。彼らの視線の先には、豪華絢爛、煌びやかなテーマパーク。歪な、馬の楽園。
すべての小人が意志を一つにしている。我々はどこにいこうと、心はともにあり。そう、力強い瞳が語っているように思えた。
時が満ちた。そうして、髭面のオヤジが、先陣を切った。
どうでもいい話なんですが、この作品を「毒電波」と銘打ったは良いですが、私の毒電波は=村上春樹であり、いわゆる「超表現」とか「激しい隠喩」みたいなものを指すわけです。
まあこの作品、なんなんでしょうかね。
理解できれば何かが見えるかも。出来ないならひひーん。