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非公式部活動ALM 作者:泉野 六
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疑念から不安へ

「それじゃあ今の校長はどうやって選んだんだ?」
「大御門校長が病気で倒れた時に校長代理として働いたことがきっかけだったんだ。大御門校長はそのまま復帰することはなかったからそのまま役職に就いたんだったと思うよ」
「じゃあ元々渡ヶ丘の教員だったってことか」
「たしか当時の教頭先生だったのかな。経緯はわからないけど今の教頭先生もその時に入れ替わりで変わったみたいだよ」
 親戚と間違われるだけあって大御門の周辺のことは聞いているらしい。とはいえ大御門近辺のことだけであり、教頭が選ばれた詳細はわからない。校長と教頭を関連づける話は聞けないようだ。
 しかし、渡ヶ丘高校の教師として働いていたのならば、昔からいる田島や井ノ瀬などから話を聞くことができるかもしれない。ここで手詰まりになることはなさそうだった。
「お待たせしました。ツナトーストにココア、サンドイッチにコーヒーでございます」
 3人のもとに先ほどとは違う店員が料理を運んできた。店員は湧哉と悠の前に料理を置くと伝票を置いて席から離れた。
 サンドイッチは3つ皿に乗っておりそれぞれ中身が違うようだ。一方のツナトーストは4つにカットされた厚切りの食パンの上にツナが塗られておりいい具合の焼き加減がついている。その匂いが鼻をくすぐると急に空腹だったことを思い出した。悠もそうだったのか思わず声を漏らす。
「うわー、おいしそうですね」
「ほんとにおいしいんだよ~。サンドイッチはパンがふわふわで、トーストはもっちりしてるの」
 確かにツナトーストの切れ目から覗く生地は見ただけで古野濱いう通りだとわかる。
「それじゃあ、いただきます」
 悠は手を合わせると食事を開始した。まだ話したいことはあったのだがそれは食べながらでもできるだろう。湧哉も手を合わせるとツナトーストを口へ運んだ。
「うま……」
 一口かじるとパンの柔らかさが伝わってくる。味付けも絶妙だ。わかる範囲ではマヨネーズと細かく刻んだ玉ねぎが混ぜ合わせてあるようで、焼いたことで風味がよくなっていた。それはパンも同じようで口の中に生地の甘さが広がった。
「ね? おいしいでしょ?」
「思ってた以上ですよ」
「カツサンドもこのパンで作れたら売れそうだね」
「カツサンドって?」
「僕たちのクラス文化祭でカツサンドを売ることになったんです」
「へえ~そうなんだ。私のクラスはクレープなんだ」
「クレープですか。文化祭の実行委員の集まりじゃやりたがってるクラス結構ありましたけど古野濱先輩のクラスになったんですね」
「畑原君て実行委員やってるだ。すごいね」
「いや、まあ成り行きでなんですけどね」
 そこからは文化祭の話題で盛り上がった。話しているうちに去年の文化祭の話題が出たのだが、古野濱が男装女装喫茶のことを話し始めたので二人は必死に知らんぷりをしていた。悠は絶対に成功させるという討論会への意気込みを語る。湧哉も始めはトーストをかじりながら話を聞いているだけだったが、食べ終わると口を開いて会話に参加した。
 時間が過ぎると学生たちは店を出て行ったが、入れ替わりで客は入ってきていた。店員は忙しそうに動き回っているが客層が変わったようで、店を訪れた時ほどの騒々しさはなかった。今の状態のほうが店の雰囲気にはあっているように思える。
「ごちそうさまでした。すごくおいしかったです」
「気に入ってくれたみたいでよかった」
 悠は食べ終わると再び手を合わせた。湧哉よりも話をしていたので食べ終わりは少し遅かった。
「すみません。お手洗いってどこにありますか?」
「カウンターの左側にあるよ」
「僕ちょっと行ってきますね」
 悠は席を立つと古野濱と湧哉の二人きりだ。楽しい話題の後だが、今聞かねばならないだろう。校長という他の人物が出てきたが、このまま古野濱への疑念を持ったままでは先に進めないのだ。
「古野濱先輩、さっきの話なんですけど」
「教頭先生のことかな……?」
「はい」
 古野濱はわかっていたようだ。もしかすると彼女も二人きりになるのを待っていたのかもしれない。
「本当に話してないんですか?」
「話してないよ。教頭先生なんかに話したらまた奥崎先生が大変なことになっちゃう……」
 古野濱は顔を伏せてティーカップの中を覗き込んだ。
「奥崎先生って結構無理して頑張ってる時があるから。でも私、どんな時でもくじけないそんな姿にも憧れてるの。私もあんな風になれたらいいなって」
 俯きながら話す古野濱の顔に嘘偽りがあるようには見えなかった。やはり、古野濱が話を漏らしたというのは湧哉の思い過ごしだったのだろう。それならば今の奥崎の状況を伝えなければならない。古野濱ならば奥崎と近しい関係だ。何か力になってくれるかもしれない。
「実は奥崎先生が急ぎの仕事を教頭に渡されたらしくて」
「それって……」
「記念館を開けに行けないみたいなんです。古野濱先輩に門紅の手伝いの話をした直後だったので先輩が漏らしなんじゃないかと……。すみません」
「ううん。ほかに知ってる人がいないなら誰でも私を疑うと思う」
 疑っていたことに謝罪をした湧哉に古野濱は当然だという。古野濱の性格からするとかなり不安になったはずだ。
「それより奥崎先生大丈夫なのかな……?」
「大丈夫だとは思いますけど、このままだと意見集めもできるかどうか……」
「このことは門紅君には話してないの?」
「ええっと、いろいろと話しにくい理由がありまして……」
 主には覗いてしまったことだが、奥崎とほかの生徒以上の関わり(一方的な脅迫関係だが)があったなどと知れたらそれはそれで話がこじれる。できれば悠には秘密にしておきたいのだ。
「そうだよね。畑原君いろいろしてたもんね」
「はい、いろいろと……え?」
「あ……。ええっとぉ……」
 明確に何をしていたか言われたわけではないが、今の感じでは湧哉が何をしてきたか知っている風だった。
「古野濱先輩? なんか、知ってたり、するんですか?」
 湧哉の問いに今度は困ったような顔を見せる古野濱。今回は少し焦っているようにも見える、というか明らかに動揺していた。
「ええっとね……」
 何か言い訳を考えているのか彼女はきょろきょろと視線を泳がせるが、いったいそれは何を意味しているのか……。湧哉は不安でいっぱいだった。
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