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非公式部活動ALM 作者:泉野 六
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悠の気になること

「ごめんごめん。遅くなっちゃったね」
 パジャマ姿の悠が詫びの一礼をするとすかさず藤間がお茶を出した。
「ありがとう、藤爺」
「いえいえ」
「ところで盛り上がってたみたいだけどなんの話をしてたの?」
「それは……」
 湧哉は途中まで言いかけたが言葉を濁した。直前に話していた内容といえば、悠の恋路話と詳細は全く明かされていないが結の恥ずかしい過去だ。特に後者のことだろうが、結の鋭い視線が何も言うなと湧哉に訴えていた。
「それは?」
「人間は時間が経つと変わるもんだなーっていう話だ」
 湧哉は先ほどの藤間の言葉を借りてこの場を凌いだ。
「ははは、何それ。藤爺ならわかるけど、ハタハタと結でそんな真面目な話になったの?」
 悠はまさかという風に笑う。悠の言った通り藤間がそう言っただけであり、実際にはそんなに大それた話を湧哉も結もしていない。
「本当でございますよ。なかなか有意義なお話でした」
 にっこりほほ笑む藤間の表情は本当に楽しかったのか、また孫を見るような顔になっていた。湧哉も孫の中へ仲間入りをした様だ。
「ふ~ん。そっか」
 藤間の言葉には納得したのか悠は頷いた。少し気になっただけなのだろう。すぐに悠は今回の本題に入った。
「さて、ちょっと遅くなっちゃったけどそろそろ始めようかハタハタ」
「そうだな」
 湧哉は鞄を開き中から必要なものを取り出す。筆記用具、教科書、ノート、それから課題のプリントの山だ。
「いったん私も帰ろうかな」
「いったんって後で来る気かよ」
「いいじゃんいいじゃん~。せっかくのお泊り会なんだからさ~」
「だからって課題やるだけだぜ? いても仕方ないぞ?」
 湧哉は鞄から荷物を取り出しながら反論した。しかし―――
「僕はかまわよ」
「門紅?」
―――それに構わず悠は簡単に許してしまったのだ。
「やった~、じゃあまた後でね~」
 結は立ち上がると駆け足ですぐに部屋から出て行ってしまった。その後すぐに藤間も腰を上げた。
「では私も一度失礼いたします。新しいお茶と今度はお菓子でも準備いたしましょう。長い夜になるようですからね」
 結と対照的に藤間はゆっくりと去っていった。
 部屋から藤間もいなくなった後、湧哉は不安を悠にぶつける。
「本当に大丈夫か? 門白のやつ、邪魔にならない気がしないぞ」
「でも、ここでごねられるよりはいいかなって。それに藤爺が相手をしてくれるよ。それにね、今はハタハタに聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと? なんだよ急に」
 悠は机に手を付いてぐいっと身を乗り出すと湧哉の顔を真剣な表情でじっと見つめた。
「別にどうこうって詮索する気はないんだけどちょっと気になって」
「な、なんだよ……」
 少しずつだが悠の顔が湧哉に近づいてくる。よくよく見てみると少し怒っているようなのはの気のせいだろうか?
「ハタハタと奥崎先生はどういう関係なの?」
「……。なんだって?」
「ハタハタと奥崎先生はどういう関係なの?」
 全く同じ内容を全く同じ調子で二度も言われた。そう言えば、今日は記念館で悠を置いて奥崎と2人っきりで話をしたり、帰りには車で寮まで送ってもらいもした。少し気になっただけだと言っているが、奥崎に好意がある悠は彼女と湧哉の関係が気になって仕方がないのだろう。
「どういうって言われても別になんも……」
「奥崎先生はたった1人であの記念館を残そうとしていた。あの場合だったら普通他の先生や外部の大人を頼るはずなのにそれをしないということは何か問題があるんでしょ? それなのに特に秀でたところがあるわけじゃないハタハタがそれに協力してる。他の誰でもなくハタハタが……。それはつまり奥崎先生はハタハタのことを他の誰よりも信頼しているってことで、つまり、それって、その……」
 悠は一方的にしゃべっていたが最後の部分は少しずつ声が小さくなっていった。
(まさかこいつ、すごい勘違いをしてるんじゃ……)
 奥崎から誰よりも信頼されている湧哉は彼女にとって特別な存在であり湧哉も奥崎を手助けしている。秘密の関係ともいえる二人は互いのことを想いあっている。どうやら悠はそう考えているようだ。
 しかし、実際にはそんな甘い関係ではない。むしろ逆だ。奥崎の着替え現場を目撃してしまい(決してわざとではないが)、それをネタに脅されるような形で奥崎に協力させられていた。今でこそ和解という形を果たしたが、今日の購買での出来事がなければ未だに以前の関係のままだったはずだ。
 しかし、そのまま悠に伝えるわけにもいかない。自分が覗きをした(何度も言うが決してわざとではない)という事実を話す気はなく、その相手が奥崎だったとなれば悠に有らぬ疑いをかけられることは間違いない。
「た、確かに協力はしてたが別にお前が思ってるような関係じゃないぞ。ただの先生と生徒ってだけだ」
「じゃあハタハタだけが協力してたっていうのはどう説明するの?」
「たまたま俺が知っちゃったんだよ。それでまあ、放っておけなかったんだ」
 一度思い出を失った者としては放っておけなかった。ただそれだけなのだ。他に理由などない。
「……」
「……」
 しばらくの間、悠はジーーーーっと湧哉の顔を見つめていたが、直に身を引いて体勢をもとに戻した。
「わかった。今回はハタハタの言うことを信じることにするよ」
「ま、まあ別にそこまで気になってたわけじゃないし。ちょっとだけだよ。ちょっとだけ」
 悠は相変わらず隠すのがうまくない。あそこまで言っておいてそんなに気にしていなかったというのは無理があるだろう。これでもまだ隠そうとする頑なな精神は褒めてよさそうだが……。
「それにしてもハタハタ、放っておけなかったんだ、なんて随分と臭いこと言うんだね」
「んな!? お前調子乗ってんなよ! 俺が気を使ってやってるっているのにお前は!!」
「別に気を使ってもらうことなんてないもんね! 僕だってハタハタに気を使って今まで聞かなかったんだから!!」
「じゃあもう気を使うのはやめだぁ! 言っとくがな! お前が奥崎先生のこと好きなこと俺も門白も知ってるんだからな!!」
「なななななななに言ってるんだよ! そ、そんなわけないだろ!!」
「あんな質問しといてそんなわけあるかぁ!! それと、よくもちゃっかり俺のこと特に秀でたところがないとか言いやがったな!!」
「それはほんとの事でしょ!」
「なんだとぉ! もっかい言ってみろ」
「いくらでも言ってやるさ―――」
 もう夜の10時近いというのに二人はギャーギャーと言い争いを続けた。この後、結と藤間が戻るまで課題に手が付くことはなかったのだった。
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