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非公式部活動ALM 作者:泉野 六
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輪を広げる

 湧哉の返事に奥崎は何も言い返すことができなかった。ひどい仕打ちをしたはずだ。だが湧哉はあっさりと手を貸すと言った。奥崎からすれば信じられないことなのだろう。
「もし奥崎先生が手伝ってくださるなら僕も助かります」
「本当に、いいのか……?」
「はい! 大歓迎です!!」
 奥崎の質問はどちらかと言えば湧哉に向けられたものだったが奥崎と湧哉の関係を知らない悠は無邪気に返事をした。一方の湧哉は眉を上げ、視線で悠を指す。それを見た奥崎は小さく息を吐いた後、ゆっくりと答えた。
「わかった。よろしく頼む」
「やったー!」
 奥崎の返事を聞くと悠は表情を崩して喜んだ。先ほどまでの真面目な表情とは大違いだ。そのおかげもあってかこの場の雰囲気もいくらか明るくなったようにも思えた。
「討論会に参加すると言ったが、具体的な話は決まっているのか?」
「それじゃあ2階の資料室に戻りましょう。そこの方が物がそろってますからね」
 再び資料室に戻ると悠は湧哉と奥崎を隣通しで座らせ、自分は机を挟んだ向かい側に立った。
 湧哉が来た時から机の上には束になった資料が重ねて置かれていた。それを指差しながら悠は話しを始めた。
「まずは意見集めです。これは奥崎先生に貸していただいた卒業生の連絡先です。これを使ってやります」
「まさか、これを全部か?」
「はい!」
「無謀だ……」
 奥崎の反応は驚きよりも呆れの方が強かった。一人増えた3人になったとはいえ、それでもこの数をやり終えるのは容易ではないだろう。
「それから在学生にもアンケートを取りたいと思ってるんです。こちらは取り壊しについてではなくて旧校舎の事を知っているかどうかを聞きたいんです」
「な、なるほどな」
「討論の方は僕が参加するので奥崎先生とハタハタにはこの意見集めとアンケートの結果をまとめるのを手伝ってほしいんです。それから署名集めは文化祭初日から行っていきましょう。討論会直後は一番集まるでしょうけど、討論の時間がいつになるかまだわからないですからね」
 湧哉の時と違い説明が丁寧だった。悠は相手が奥崎ということでとても張り切っている。
「奥崎先生は職務もあるでしょうから時間が空いた時にお願いします」
「俺もいろいろとやることが……」
「ハタハタにはしっかり手伝ってもらうからね」
「……はい」
 悠の湧哉に対する反応がきつくなっている。先ほどのことをまだ根に持っているようだ。奥崎と湧哉の扱いは明らかに対等ではなかった。
「わかった。だが、この量をやるとなると……」
「やっぱりもう少し人数ほしくないか?」
「そうは言っても時間を割いてくれる人はなかなかいないと思うんだ」
 奥崎の怪訝な顔を見て湧哉も本当に終わるのかと不安になった。悠は意見集めのことは心配していないようだったので自然と気にならなかったのだ。
 しかし、人数を増やせるのならもう集まっているであろうし、悠の言うように文化祭のこの時期に手の空いている者はいないだろう。今ここにいる3人ですら空いた時間でどうにか処理しなければならないのだ。果たしてそんな人物はいるのだろうか?
 しばらく考えた湧哉は一人思い当たる人物がいた。それは奥崎とも面識のある人物だ。奥崎が名前を出さないということは可能性がないからかもしれないが聞いてみるだけならばいいだろう。
「奥崎先生、古野濱先輩はどうですか?」
「古野濱か……」
 驚いた様子もなく奥崎はすぐに答えた。
「確かに手伝ってくれる可能性はあるがあの子はなんというか……その、目立つことはしたがらなくてな」
「え、そうなんですか?」
「気が小さいというわけではないんだが人前に出ることはやりたがらない」
「でも卒業生の意見集めぐらいならできませんか? それなら人前に出ないですし」
 古野濱は悠とは違った意味で奥崎を慕っている。あと一歩が踏み出せなかったが視聴覚室で奥崎を救おうとするぐらいだ。手を貸してくれると湧哉には確信があった。
「本人の了承が取れたとしても意見集めだけになるだろうが、それでもいいか?」
「大丈夫ですよ。むしろ手伝っていただけるなら大歓迎です」
 悠は問題なさそうだ。となればあとは声を掛けるだけだ。
「おそらく古野濱も明日登校するだろう。私から声を掛けてみよう」
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