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非公式部活動ALM 作者:泉野 六
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手助け

 このまま視聴覚室に行く意欲が無くなった湧哉だったが、すぐにはこの場を離れなかった。まだ気になることがあったのだ。
 古野濱がここに来た理由は何なのか?
 この時間に五階まで上がってくる者は少ない。文化祭が近づいているのでその準備のためかとも思ったが、それならば隠れる必要はない。一体何から隠れているのか?
 再び古野濱の顔を見るが先ほどと同じように一点を見つめている。だが今度は表情が異なっていた。先ほどの真剣な雰囲気はどこへ行ったのか。目は潤み今にも泣きだしそうな顔をしながらブツブツとつぶやいている。
「私がやらなきゃ私がやらなきゃ……」
 もう湧哉が隣にいることも忘れている様子だ。本人も言っていた『周りが見えなくなっている状態』になってしまったのだろう。しかも前回よりもマイナス方向のベクトルが強い。
「古野濱先輩、古野濱先輩!」
「え……?」
 湧哉の呼びかけで我に返った古野濱は驚いた顔をした。完全に自分だけの世界に入ってしまっていたようだ。
「ご、ごめんね。私また……」
「一体何しにこんなところまで来たんですか?」
「ちょっとやらなくちゃいけないことがあって、でもいつもはやってくれた人がいたんだけど今日は来てくれなくて……。だ、だから私がやらないといけないの!」
 拳を握りしめて説明する古野濱は必死だった。
「それってあの二人に関係あるんですか?」
「そ、それは……」
 奥崎と教頭のどちらから耳にしたのかはわからなかったが、古野濱のこの反応は何か知っているようだ。それはあの二人の先回りするようにここに来た彼女の行動からも想像できた。
「何か知ってるなら教えてくれませんか?」
 奥崎に呼ばれてきたとは言わなかった。ここは慎重に行動する時だ。古野濱が何を目的にここへ来たのか、それを確認するまで自分の立場を明かすべきではない。
「えーっとあのね、詳しくは言えないんだけど、奥崎先生は教頭先生に呼ばれてここまで来たの。二学期に入ってから何度かこういうことがあって……。この間は授業中にもあったし、いつも来る子は奥崎先生にもうやめるって言ってたんだけど、私は奥崎先生が困ってるのに何もしないなんてできなくて。それで助けようと思ってここまで来たんだけど……」
 古野濱の顔はどんどん下を向き、最後には地面を見つめる角度になった。
 奥崎のことは助けたい、しかし実際にそれを行動に起こせない自分が恥ずかしい、といったところか。
 助けたい自分とそれができない自分。この二つがお互いを否定している状態を克服することが彼女の目指す場所のはずだが、彼女にはそれが簡単なことではないようだ。
 その思いがどんなものなのか湧哉にはわからなかった。しかし、この状態の古野濱をこのまま置いていくこともできなかった。
 それに古野濱は奥崎を助けに来たと言っていた。ならば、あの電話は救援を求めるものだったのではないだろうか? 普段は助けている人物が今回は来れないために湧哉に連絡が来たのではないか? それに二学期が始まってからということは湧哉の件は関係なさそうだ。
「いつもはどうやってたんですか?」
「いつもって……?」
「俺も奥崎先生に呼ばれてきたんです。何かできることがあったら言ってください」
「奥崎先生が? そ、そうなんだ」
 古野濱の顔には疑問の色が浮かんでいた。本人は表に出していないつもりなのだろうがうっすらとそれを感じ取れた。
「畑原君ってその……部活、部活入ってるの?」
「部活? いや、入ってませんけど……」
「そ、そうなんだ。き、気にしないで」
 なぜここで部活所属の話が出てきたのかさっぱりわからなかったが今は深く聞き返すことはなかった。
「毎回違ってたの。そのまま奥崎先生に用があるって言って部屋に入っていったり、教頭先生の悪口を廊下で叫んだり。とにかく二人のどっちか外に連れ出せればよかったの」
「なるほど」
 とにかく二人を引き離すことができればいいらしい。しかしそこで疑問が浮かんだ。
「悪口叫ぶって言うのは無理そうだけど最初に言った方法なら普通にできたんじゃないんですか?」
「わ、私、教頭先生って苦手で……。一年生の時に……ちょっと……。それから一人の時は教頭先生とはその……」
「そ、そうなんですか」
 どうやら話しにくい理由があるようだ。教頭が何をしでかしたのかというのはここでは聞かないでおく。
 誰かと一緒ならば大丈夫だが、一人では教頭相手にはどうにもできないのだろう。
 湧哉としても教頭の前に一人で出るというは気が引けた。前例に倣って教頭の悪口を言うという手もあったが逃げるのは危険だ。奥崎が後ろ姿を見られていたかもと言っていたことがあるからだ。何かのきっかけで気が付くかもしれない。
「こうなったら正面から行くか……」
 湧哉は持っていた自分の鞄を開けると中から大量のプリントを引っ張り出した。
「な、何するつもりなの? それに畑原君は奥崎先生とどういう関係なの?」
「奥崎先生にはいろいろとお世話になってるんですよ。そのお礼をしてきます」
 プリントを握りしめ、湧哉は階段を駆け上がった。
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