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非公式部活動ALM 作者:泉野 六
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始まりの夜校舎2

 湧哉は口型の校舎の中央広場に足を踏み入れていた。広間は五階まで吹き抜けだ。東西南北にそれぞれ階段があり目的地に辿り着きやすいようになっている。
 だが、湧哉は階段には向かわず中央広場を横切った。その先にはエレベーターがある。目の前までやってきて上の階へ行くボタンを押すが反応はなかった。
「やっぱり動いてないか」
 仕方がないといった風にエレベーター横の階段を上り始めた。
 北側にだけエレベーターも取り付けられているは、校長室が北側の五階にあるからだ。校長の年齢は七十を超えている。
 ここだけ聞くと、校長のために設置されたんだろう、だったら校長室をもっと下の階に作ればよかったんじゃない?、といった意見も出てくる。
 しかし校長はこのエレベーターを使わない。校長の見た目は五十代後半で、毎朝ジャージを着てランニング出勤をするほどだ。そんな校長にはエレベーターなど不要だった。
 ならばなぜあるのか。ここで例の教頭が出てくるのである。新校舎の建造の話が持ち上がった際、何かと理由を持ち出してエレベーターを取り付けようとしたらしい。校長は高齢だから何かあったら大変だ、生徒がスムーズに階を行き来できるようになる、などなど言ってくれたようだが実際のところは生徒の使用は基本的に禁止になっている。
 湧哉は二階に到着した。職員室は北階段を上がってすぐ目の前だ。二階の北側は全て職員室になっている。入口は三つ。向かって正面と左右に一つずつだ。
 とりあえず正面の戸を開けようと手をかけた。しかし扉は開かなかった。
「鍵、掛かってるし……」
 扉に鍵が付いていることはわかっていたのだが、普段は鍵が掛かっていることはないのでそこまでは考えていなかった。開けようとしてもガチャガチャと音を立てるだけで開く様子はない。
 他二つの扉も試してみたがどれも鍵が掛かっていた。
「おいおい勘弁してくれよ。鍵って確か警備会社管理だったよな」
 そうなのだ。鍵は教員ではなく警備会社の人間が最後に閉めて持ち替えている。そして朝一番に来て鍵を開けていくのだ。
 腕組みしてどうしようかと考え出す湧哉。階段に目を移した後再び職員室に目を戻す。これからどうするべきか考えているようだ。
(ここにいても何もできないし帰るか? でも手ぶらでいいもんかな……)
 奥崎はデータを回収できなかったことをネタに何を言いだすかわからない。それが不安なのだろう。
(そもそもこんな時間に普通に入れるとかおかしいだろ。警備会社契約までして昇降口開けっ放しってなんだよ。……。なんで昇降口は開いてたんだ?)
 湧哉が校舎内に入る際、昇降口の扉は開いていた。こんな時間に開いているはずはない。たまたま警備会社の人間が閉め忘れてその日にたまたま学校に行けと言われた? それはいくらなんでも都合が良過ぎる。
(俺の他に校舎内に……誰かいる?)
 校舎内の暗闇をじっと見つめるがよくは見えない。逆に誰かいるとすれば明かりを持っている湧哉の姿は丸見えだろう。
(さっさと帰ろう!)
 湧哉は階段に向けて駆け出した。階段の手すりに手を引っかけ踊り場をコンパスのように弧を描いて曲がる。最後の数段は一気に飛び降りた。中央広場も同じように駆け足で通り行けると昇降口のある廊下へ出る。昇降口にたどり着くと律儀に下駄箱にしまった自分の靴を取り出そうと戸を開けた。
 キーーーー!!! とブレーキ音が鳴り響いた。同時に昇降口が二つのライトに照らされる。
「な、なんだぁ!?」
 目が眩んで思わず手で顔を覆ったので開きかけた下駄箱が音を立ててしまった。
 湧哉が照らされたのは一瞬で、ライトはすぐに消えた。車のエンジン音も消え、バタン! と誰かが車を降りてきた。強烈な光を目に浴びたせいでチカチカしてはっきりとは見えないが車から降りてきた人物はこちらに向かってきている。
「やばっ」
 湧哉は咄嗟に廊下に出て下駄箱の陰に身を隠した。
 カチャカチャ っと鍵穴に鍵を差し込む音が聞こえる。警備会社の人間が鍵を閉め忘れたのを思い出して閉めに来たのだろうか? だとしたら他に誰かいるという湧哉の想像は的外れだったようだが―
(このまま鍵閉められたら俺どうすんだよ!)
 閉めたはずの鍵が開いていれば誰かが侵入したと一大事になるだろう。
 しかし、昇降口を開けた時点で普通は校舎の警報装置がなるはずなのだ。それがないということは装置が切れているということで、出ようと思えば窓からでも出れるのだが、今の湧哉にその発想はないようだ。
(どうするどうするどうする?)
 頭の中で同じ言葉を連呼するだけで実際には何も考えることができない。持ち時間は大してないのにも関わらずだ。
 カチッと、焦る湧哉をよそに昇降口の鍵が回された。
(終わった……。このまま朝まで学校とかやばすぎるだろ……。どっかに隠れるか?まさか朝来てそうそう大人数で校内周りなんてないだろうし。あ、でも課題……)
 感情が焦りから諦めへ移行すると途端に頭が仕事をし始めた。
 しかし様子がおかしかった。外の人物はそのまま帰ることなく扉を開けようとしたのだ。外の人物は元々扉が閉まっていたと思っていたらしい。
 少し戸惑ったようだが、再び鍵をまわして今度こそ昇降口の扉を開けると中に入ってきた。
 湧哉は入ってきた人物が廊下に出てくる前に、反対側の下駄箱のほうに回るとその陰からそーっと頭を出した。
 廊下に出てきたのは額から後頭部まできれいに髪の抜けた頭に、淵の丸い眼鏡をかけた男だった。年齢は六十代近く見える。こんな時間にも関わらずスーツを着ているのはここが学校だからだろうか。
(なんで教頭が?)
 そう、この人物こそこの渡ヶ丘高校の現教頭だ。生徒の間での評判もよくない。特に女子生徒には嫌われている。教え方が下手、発言が矛盾している、目つきがいやらしい、体を触ろうとする、ハゲ。最後のは本人にはどうしようもないことなのだが、とにかく評判は悪いのだ。
 教頭が入ってきた扉の鍵は開いている。今出ていけば、鍵の心配はない。
 教頭が校舎内にいる以上下手な行動は避けるべきだろう。見つかりでもしたら停学は免れない。寮生活の湧哉としてはなかなか辛い日々になるだろう。
(帰ろう)
 湧哉はこのまま帰ることにした。
 だが、そんなことはさせまいという風にポケットの中でスマートフォンが動き出した。
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