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非公式部活動ALM 作者:泉野 六
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選択の理由

「私は古野濱このはま 美沙みさ。君は?」
「畑原湧哉……です」
 よくよく見てみれば眼鏡の女生徒、古野濱の名札は緑。三学年だった。
「次からは食べるとき気を付けないとダメだよ」
「はい……気を付けます」
 故意だったわけではないが、彼女のことを否定してしまったのは事実だ。おかげで湧哉の歯切れは悪かった。
「もしかしてさっきのことを気にしてるの?」
「……」
 そんな湧哉の気持ちが筒抜けだったかのように古野濱は言い当てた。それによってさらに気まずくなった湧哉は無言だった。
「気にしなくていいよ。ハンバーグか卵焼きの二択で、私と同じ方を選ぶ高校生って少ないだろうから」
「でも声に出して言うことじゃなかったです」
「だから気にしなくていいよって。私も気にしてないから。それは君の意見なんだから私がどうこう言うことじゃないんだもの」
 謝る湧哉に対して気にしなくていいと古野濱は言う。その表情は柔らかで本当に気にしていないのだろうと湧哉に思わせた。
「それじゃあ、なるべく気にしないことにします」
 少し気が楽になった湧哉はそう言うと今度はゆっくりと食事を再開した。
 それを確認すると古野濱も手を合わせて定食に手を付けた。
 しばし無言の二人だったが古野濱が口を開く。
「畑原君はハンバーグ好きなの?」
「特別好きってわけじゃないですけど、どちらかといえば好きです」
 無難な答えだった。普段ならばそのまま流されてもおかしくないほどに。だが―――
「なんかちょっとあいまいだね。そう言うときは素直に好きっていえばいいと思う」
―――古野濱は意義を唱えた。
「それってどういう……?」
「最初に好きじゃないって否定してるのにそのあとは好きって肯定してるもの」
 おとなしそうな彼女がそんなことを指摘するとは思っていなかった湧哉の箸はそこで止まった。
 湧哉としては自分の考えを伝えただけだ。別に特別ハンバーグが好きなわけではない。だが、嫌いというわけでもなかった。それでも、今こうしてハンバーグを食べているのは好きだからなのだろうと自分では思ったのだ。
「わざわざ自分を否定することはないんじゃないかなって。自分を否定するっていうのは……」
 何か語り始めそうな古野濱だったが、湧哉が会話に付いてきていないのを見て話を止めた……ように見えた。
「ご、ごめんね! なんか説教みたいになっちゃうよね。スイッチが入るとついつい周りが見えなくなっちゃって。それに偉そうなこと言ったけどこれって私の考えじゃなくて受け売りで、その人のまねしてるだけって言うかそうなりたいって言うか、でもでもそんなことおこがましいって言うか―――」
「ちょちょ、ちょっとストーーップ!!」
「え?」 
「完全に周り見えなくなってますから!」
「あ……。アハハー……」
 古野濱は湧哉の静止で今度こそ我に返ると恥ずかしそうに笑った。
 スイッチが入ると周りが見えないというのは本当のようだ。しかも、一度止まったかに見えたにも関わらずまた違うスイッチがオンになってしまっていた。
「否定がどうこうって言う話は分かりませんでしたけどスイッチが入ると止まらなくなるっていうのはわかりました」
「ご、ごめんね。昔からだから気を付けてるんだけどどうしても治らなくて……」
「ハハハ、癖みたいなものなんですかね」
「うん、そうなの……」
 会話はここで終わり、二人は再び箸を動かし始める。
 それ以降、二人は言葉を交わらせなかったが予鈴が鳴り席を立った湧哉が古野濱に問いかけた。
「そういえばどうして卵焼きだったんですか? やっぱり好きだからですか?」
「ううん。単純に食べきれないからだよ」
 卵焼き定食を見て古野濱はそう言うとまた恥ずかしそうに笑った。
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