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非公式部活動ALM 作者:泉野 六
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名のない理由

「ない、ない。ここにもない」
「……」
「いったいどこにあるんだ……」
 湧哉は十年ほど前の卒業生名簿を手に叫んだ。この年代の名簿にはまだ誰も手を付けていなかったので大部屋から持ち出してきたのだ。奥崎と荻はその姿を後ろから眺めているが二人の表情は対照的だ。奥崎は拗ねたような顔を、荻はニヤニヤとこの状況を楽しんでいるようだった。
「あ! これ荻さんですよね!?」
 発見した荻の名前を指さす湧哉。荻はそれをのぞき込むとくぎを縦に振った。
「ああ、これは俺だ。荻 航。間違いない」
「じゃあこの年のどこかにいるはず……」
 湧哉はその年の卒業生一覧に前に目を凝らした。クラス別に並んでいる名前から『奥崎』の名前を探す。しかし、どういうわけか『奥崎』という名前はどこにも載っていなかった。
「ど、どういうことなんですか……?」
「私の名前を探すのにそこまで必死になる必要はないだろう……」
「いやいや、なりますよ。あの奥崎先生がいったいどんな生徒だったのか……。卒業した年がわかればそれをもとに記念館の写真を探すことだってできるわけで。見つければ多少からかうことだってできるかも―――」
「……」
「―――というのは冗談で……」
 湧哉は奥崎にキッとにらみつけられたことで発言を訂正するのだった。それを見ていた荻はついにこらえられなくなったようだ。
「くっくっく、二人のやり取りを見てるとなんだが懐かしくなってくるな」
「何を言ってる。元はと言えばお前が口を滑らすからこんなことに」
「はいはいわかったって。でも隠してたわけじゃないんだろ? それと、そろそろ種明かししてやれって。このままじゃ先に進まないぞ?」
「……わかった」
 奥崎は話したくない風だった。それを促すように荻が首を振ると奥崎はしぶしぶと話し始めた。
「私は確かにこの渡ヶ丘の生徒だった。だがそこに私の名前がないのは私がこの高校を卒業してないからだ」
「卒業して……ない?」
「私が渡ヶ丘高校に在籍していたのはたったの半年間だけだ。勘違いするなよ。高校はしっかり卒業してる。ただ入学して半年で私は父の転勤の影響で転校せざるえなかったというだけだ。だから先生たちの中でも私を覚えている人がほとんどいなかったんだろうな」
「俺とこいつは半年でいろいろやったけど俺が目立つことのほうが多かったしな。今となってはいい思い出……だよな?」
「ああそうだな。さあ、私のことはもういいだろ。そろそろ私たちも作業を始めるぞ。このままじゃ何のために集まったのかわからん」
 奥崎は昔のことをほじくり返されるのがよほど嫌なのか早々に話を切り上げた。荻もそれ以上は話を掘り下げようとはしなかった。
「そうだな。そろそろ始めないとな。行くか」
 湧哉個人としてはまだまだ話を聞きたいところではあったが、今この場でというわけにはいかない。また機会はあるだろうと湧哉は二人の後に続いて大部屋へと向かった。
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