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非公式部活動ALM 作者:泉野 六
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喫茶店へ

 その日は一日どこに行っても声を掛けられることとなった。岩木のような態度をとる者いなかったが、誰かに会うたびに同じ説明を繰り返すことに湧哉はうんざりしていた。
「そろそろ限界なんだが……」
「もう音を上げちゃったの? まだ一日も経ってないのに」
「だっておまえ、トイレに行っても声かけられるんだぜ? もう心の休まるところがないぞ」
「じゃあ個室に入っちゃえばいいんじゃないの?」
「いやそういう問題じゃなくってな……」
 昼休みの尖りすぎた発言はどこへやら。すっかりいつも通りの悠だった。
 記念館での作業中に顔を合わせるのは奥崎、悠、古野濱の限られたメンバーでありそのうち二人は事情を知っており一人は全く気にもしない。だが、これから帰る寮にはそうではない生徒がたくさんいる。部屋まで誰にも会わずにたどり着くには一苦労必要だろう。
「じゃあ僕は先に帰るから」
「おう、じゃあまた明日」
「奥崎先生、古野濱先輩。今日もお疲れさまでした。また明日もお願いします」
「うん、おつかれさま」
「ああ、気を付けて帰れよ」
「はい! それじゃあ失礼します」
 悠は自転車にまたがると颯爽と去っていった。
(いつもならここで一睨みしていくのにな。古野濱先輩が一緒だからか?)
 記念館から寮までは奥崎が来るまで送ってくれることになっていた。同じく寮生活の古野濱も同様だ。
「よし、私たちも行くぞ」
 三人は奥崎の車に乗り込んだ。

 車で市街まで走ってきた。もうじき寮に着くというところまで来ていたのだが。
「あれ? 今のところ右に曲がらないとじゃないですか?」
「ああ、ちょっと行先を変えるぞ」
「聞いてないんですけど……」
「どこに行くんですか?」
「喫茶店だ」
「『MANNER』に?」
「ああ。あそこで阿良田を待たせてる。いろいろ話をしようと思ってな」
「この時間の駅前って人多いですよね? そんなところで話なんてできるんですか?」
「それは問題ない。行ってみればわかるさ」
「?」
 それから数分で駅周辺へと到着した。近くの駐車場に車を停め、湧哉たちは喫茶店『MANNER』を訪れた。夕飯時のこの時間はやはり人が多い。その中に阿良田の姿も見られた。阿良田は店内には入らず、店前で腕を組んで待っていた。
「奥崎先生。こんなに人の多いところで集まろうなんてどういうつもりなんです?」
 阿良田はしかめっ面のまま小さな声で話をした。だが奥崎はそんなことは気にも留めていないようで。
「畑原と同じことを言うんだな」
「当然だ。誰でも気になるはずだ」
「畑原にも言ったが問題はないぞ。さあ行くぞ」
 奥崎はこそこそした様子も見せずに喫茶店『MANNER』の戸を開けた。
 店内は満席に近かった。店員たちは相変わらず忙しそうに動き回っていたが戸に掛けてあるベルの音ですぐにこちらに気が付いた。前回出迎えてくれたのと同じ店員だ。
「いらっしゃいませー……って、こりゃまた、随分と珍しいのが来たな」
「珍しいの?」
 古野濱は常連で名前まで憶えられているし、湧哉は珍しいと言われるほどこの店には来たことがない。となれば残るは。
「俺じゃないぞ」
 湧哉と古野濱の視線に阿良田はきっぱりと答えた。そうなれば残るは一人しかいない。三人の視線が奥崎へ向く。
「部屋を一つ空けてもらおうか!」
 なぜか得意げに奥崎は言い放ったのだった。
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