浜越柳矢の留まらぬ非日常
☆遊森謡子様企画!春のファンタジー短編祭(武器っちょ企画)参加作品です。
●短編であること
●ジャンル『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
詳しくは遊森様の活動報告かまとめサイトで(http://shinabitalettuce.xxxxxxxx.jp/buki/index.html)
☆『木立周の知られざる日常』の続編です。
破魔声一族――― かつて、関東一帯の寺社の”裏”を取りまとめ市井の人々を、鬼をはじめとする”魔”に属する者どもから護っていたという最強の祓い手。
『I want you ---♪』
――― 一声で雑鬼を滅し ―――
『I need you ---♪』
――― 二声で乙鬼を祓い ―――
『I love you ---♪』
――― 三声で甲鬼を縛り ―――
『君にーあー♪「やめレやッ!! 柳矢、おまえ仮にもハマゴエなんだぞ自重しろッ。」
――― 四声では真鬼すら怯ませる ―――
そんな破魔の声を持つという超正統派の祓い屋一族だ。
もっとも、現在では血と共にその霊力も薄れ、名も変えてしまい、”裏”でも知る者が少ない。
だが、その手の家系にはよくあるように、ひょいと霊力の高いものが生まれてくる事がある。
所謂”先祖がえり”というヤツだ。
国民的アイドルと言って差し支えない某アイドルグループの歌をノリノリで歌っている彼、浜越 柳矢もそんな一人。
「なんでだよ~。歌ぐらい歌わせろよ~。」
ついこの間までごく一般的な高校生であった柳矢だが、ひょんなことから現場を目撃してしまい”裏”に関わることになってしまった。さらには父親の実家である破魔声神社とその裏稼業を手伝うはめになってしまい、修行修行の毎日でうんざりしていたのだ。
それに
「お前がMD落とさなきゃ、あんなもの知りすらしなくて済んだんだぜ? イヤガラセぐらいさせろよ。」
何を隠そう、歌を止めさせたこの木立 周こそが”非日常”の元凶なのだ。まあ今では”日常”にとってかわってしまったわけだが…。
「あー、悪かったって。不可抗力じゃねえかよ。
てか、お前のダミ声に聞きほれそうになるとかイヤガラセどころじゃないだろ。本気でやめろって。」
ところで、何故 柳矢の歌を周がいやがるのか。
コレには、破魔声の力と柳矢の未熟さが関係する。
破魔声の力とは即ち声だ。そこには強い霊力が乗り魔を破り、あるいは祓う。それは霊力の強い人、特に魔に属するものと敵対する祓い屋達にとっては「清めの声」であり「癒しの声」となる。
しかし、一般人に毛が生えた程度の霊力制御しかできない柳矢の歌は、方向性も定まらず強い霊力が溢れ周囲に留まって、魅了にも近い威力になっているのだ。
しかも、彼の声はお世辞にも美しいとは言えない。
考えてもみてほしい、ちょっと気を抜けば大して巧くもない歌う同性の友人をうっとりと眺める危ない子になってしまうのだ。周の気持ちもわからないではないだろう。
「ははっ、冗談冗談。練習がてら歌ってみたけど、やっぱダメだな。」
霊力制御の未熟さについては柳矢自身 自覚があるらしく明るくとりなす。ただし、イヤガラセが本当に冗談なのかは怪しいものだが仕方がない。
ところで、と声をひそめて話を変える柳矢。
「今日もオシゴトあるわけ?」
「ああ、あるよ。九時半に小浦公園集合な。」
「近場?」
「多分な。ただ鬼じゃないってさ。」
「リョーカイッ!じゃ俺バスだから。」
「おう、あとでなー!」
こそこそと言葉を交わし、一転やけに明るく別れた二人。
そのやり取りをジッと見つめる視線に気づかないまま……
時刻は既に十二時になろうかというところ。
シャッターが下り、人気もない商店街を歩く影が二つ。一方はパーカにジーパンというラフな格好で大きな鞄を抱えており、もう一方は狩衣という何ともアンバランスな組み合わせだ。
―――もちろん前者が周で後者が柳矢である。
さて、小浦公園で九時半に集合したはずの彼らがこんな時間にこんな所にいるのかというと、有体に言えばパトロールだ。
指定の公園で周の兄と落ち合った二人は依頼内容の説明を受けた。依頼主は近くの小さな神社の神主で、”魔”の気配を感知したのだが本人には祓うほどの力が無いので代行を頼んできたらしい。
ただ、対象は獣の異形らしく街中をかなり速い速度で徘徊しており結界での捕縛は難しい。そこで、祓い屋側が動いて遭遇し次第祓っていくことになったらしい。
「いないなー。周、そろそろ帰ろうぜ。」
「おっまえなー、緊張感持てよ。…にしても、来ないな。」
とは言うものの当てずっぽうに歩きまわってもそうそう見つかるわけもなく、既に二時間以上歩きまわるはめになっている。
周も不審に思い始め、大した仕事をこなしていない柳矢に至っては緊張感すらなくなってきている。
さらにしばらく歩き商店街も終わりに差し掛かったころ
―――ゾワリ―――
大きな力が蠢く気配がした。
「うっわ、今の何!? 霊力っぽいけど…なんてか、ヤバそう?」
「ああ、たぶん例の異形だろ。…裏道だな急ぐぞ!!」
「えッ? 俺 超走りにきいんだけどっ。」
素人もどきの柳矢にも分かるほどの気配は、よほどの大物か戦闘が始まっているのか、どちらにせよ急がねばならない。
走って商店街の裏手に回ると、大きな犬のような異形が三匹。
グルルと唸りながらこちらを振り返った顔にはそれぞれ三つの目が光る。
「先手必勝。頼むぜ柳矢」
2m近い異形の体長も不気味な風体も意に介さ無い様子で、にやりと笑う周。両手には計八枚のMDがすでに握られている。
あえて、サポートに回ってくれてしまうらしいスパルタな親友に同じく笑みを返して柳矢が吠える。
『俺の声を聞けええぇぇ!!』
霊力がたっぷり乗った”声”の威力は抜群で、異形どもはすっかり威圧され硬直してしまう。
この隙に周が片付けてもよかったのだが、今回は柳矢が戦いに慣れる事も目的のひとつなので、周はギリギリまで手を出さない。
『よっしゃあああ。行くぞおぉぉ!!』
さて、ココからが問題だ。と周は一人思う。
”破魔声”は声自体が”魔”に対する武器となる。だから、きちんと霊力込められれば言葉の内容はどうでもいいのだ。極端な話、柳矢が周と駄弁っていても問題ない。
だが
『寿限無、寿限無 五劫の擦り切れ 海砂利水魚の 水行末 … 』
いくらなんでもコレは無いだろう。
柳矢が唱えるのは、御経でも祝詞でも真言でも聖書でもない。皆さんご存じであろう、とある落語に登場する長い長い名前だ。
これでもやはり効果があるらしく、異形どもはグァァァァと呻くような鳴き声を上げて、だんだんに弱っていく。
その姿に二人が多少の安心をしてしまったのが悪かったのだろう。一匹の異形が最後のあがきとばかりに跳びかかってきた。
気を緩めていた二人はとっさの反応がうまくとれなかった。周の投げたMDは半数近くが見当違いの方向へ飛び、柳矢は声を止めてしまった。
「かべ」【壁】
あわやというとき、低く澄んだ声と共に黒い何かが二人の前に現れた。それは2m四方ほの光る【壁】と言う漢字で、ぶつかった異形を跳ね返すと忽然に消えた。
「大丈夫ですか?」
背後からの耳覚えのある声に現実に引き戻された二人。
振り返れば、同じ高校の制服を着た少年いた。片手には文庫本を持ち、整った顔に銀縁の眼鏡をかけている。だれかにそっくりだ。そう同じクラスに転入してきた…
「「都筑!?なんで?」」
「ええ、僕は都筑ですけど。…後ろ、平気なんですか?」
―――グルルル―――
「くそっマズイ。柳矢 今度は祝詞だ、その方が効く!」
”破魔声”の力が薄れた異形どもはすでに臨戦態勢だ。
周はMDを取り出して柳矢に声をかける。そして、都筑に逃げるように言おうとして、そんな場合じゃないと思いつつも瞠目した。柳矢は懐から出した祝詞を読み上げている。
「都筑は…ぇ、なんで紙食ってんだ?」
「ひょっほふぁふぁふぃふぇふぇ(チョット弾切れで)」
「は?なんて言「何やってんだ、周!!」
焦れた柳矢が周を呼ぶ。未熟なうえ三匹とくれば、いくら”破魔声”でも決定打にならない。
「とりあえず、お前逃げろ。」
「いや、及ばずながら助太刀しますよ?」
MDを投げて逃亡を促せばわけのわからない答えが返ってくる。都筑の周りには真っ白な紙の切れ端と所々ページが足りなそうな文庫本。手元にも武器らしいものはない。
ワイヤー付きのMDを片手に構え、ふと都筑がさっきの【壁】を作った奴だったらと思いつく。
「もしかして、…っと。さっきのお前?」
「ふふっ、御名答。【刀】」
ワイヤー付きで一匹を切り祓い、聞いてみれば楽しそうに肯定する。
さらに、都筑が呟いた「かたな」という言葉が漢字として具現化し、黒い刀へと姿を変える。
都筑が自分の生み出した刀で一閃、一匹に深手を負わせると刀は消えてしまう。しかし都筑はすぐさま【薙刀】と呟く。周は都筑がそのまま異形に接近するのについて走り、もう一度ワイヤーで切りつける。
「凄いな浜越君。断然やり易い。」「周!そろそろ保たねぇぞ!!」
「わかった。都筑、そっち頼む、ぞっ」
「ええ。わかって、ます、よっ。」
―――ギャンッ―――
都筑の感嘆と柳矢の怒声が重なる。
周は激昂した異形の猛攻を往なしながら、柳矢に答え、そして都筑を見やる。都筑は周の言葉に応えるように【薙刀】を払い、体勢を崩した異形を突いて止めをさした。
次いで周の方もけりがつく。ワイヤーで口を縛りMDで喉笛を切り裂けば異形は声もなく消えた。
「「「はあ…」」」
三人の溜息が重なる。
お互いに顔を見合わせてしばし、まず霊力を使い果たしゼィゼィと肩で息をする柳矢が口を開いた。
「…っで、なん、で、つ…きが、ココ、に、いる、んだ?」
「あー、えっと二人のあとをつけてて…危なそうだったんで出てきました。」
「つけられてたのか。気付けなかった…」
気まずげに答える都筑と自分たちが尾行されていた事を知り落ち込む周。
「まあまあ周の兄さんだって気付いて成っかったろ、な?」
「…ああ」
「で、都筑はなんだって俺らをつけようと思ったわけ?」
息が整ってきた柳矢が周をなだめつつ、さらに都筑に問う。心なしか険呑な雰囲気だ。
答える都筑は後ろめたさも相まって、自然しどろもどろなしゃべりかただ。
「えっ、あ、それはですね…。確かめたい、事が、ありまして…」
「確かめたい事?」
「確かめたい事ってなんだよ。」
「…ぇっと、その…はあぁ。」
復活した周も一緒になって問い詰めれば、都筑は泳がせていた目をスッと落とし諦めたように息を吐く。
もしや、稼業の事がばれていたのでは、都筑を見つめる柳矢と周。
その二人に、じゃあ聞きます、と腹をくくった様子で都筑が問うたのは予想の斜め上をいくものだった。
「やっぱり、二人も妖怪なんですか?」
「「は?」」
「アレ?違うんですか?力も大きいし、てっきり…」
「人間だよ!!」
「ってゆーか二人”も”ってことはお前妖怪なの!?」
「ええ、正確には付喪神と人のハーフですね。」
まさかの疑問に当惑する二人だが次の反応は対照的だった。柳矢はなぜか残念そうな都筑に過剰なまでの否定を送り、周は最初の問いの意味を正確に取り驚いて聞き返す。
周の問いにさらりと答えた都筑は、なんで驚くのかわからない、といった様子だ。
しばらくの沈黙のあと都筑はついと空を見上げたかと思うと、僕は帰りますね、と言って立ち去ってしまう。だいぶ傾いた月の下、混乱の収まらないまま置いてゆかれた二人は顔を見合わせた。
「「なんだったんだ?」」
数日後、柳矢達のクラスでは都筑文弥、木立周、浜越柳矢、の三人がつるむ様子がしばしばみられるようになる。
きっかけは、翌日の学校で都筑が周と柳矢に改めて謝罪と説明をしたことだった。
都筑は自分の父が”筆の付喪神”である事やあの夜の【文字】も受け継がれた力によるものだという事を明かした。さらに、あの夜の尾行については「前々から霊力の高い二人が自分と同じ半妖なのではと思っていたところに”仕事”という言葉を聞いたので他の同胞もいるのかとはしゃいでしまった。あんなに危険な事をしているとは知らず申し訳なかった。」といった。
その時は三人はそのまま別れたが、自然と互いに歩み寄っていった。
周と柳矢は、都筑の真摯な態度に好感を持ったし、何よりイレギュラーとはいえ共闘した事で(一方的な)親近感を覚えていた。対する都筑も抱えていた孤独から同胞を求めてたのだ。
同じ”裏”に与する彼ら三人が仲間となるのは出会ったときからの必然だったのかもしれない。あるいはその出会いも……。
一応”声”が武器の作品です。
浜越柳矢無双!!のはずが、都筑文弥の乱入でおじゃんに…。
『あかつきのよるに』のほうもよろしくお願いします。