39 月光
如月が抜いたとき。もうあたりは暗闇だった。空はもう確実に黒雲が包んでしまっている。シンには空の面影など感じず、ただ闇しかないと思った。
傷にたえながら殺気にたえながら霊圧にたえながらシンは目の前の女を睨んだ。如月は前の天使のような顔をしていなかった。目は赤くどすぐろい。歯は牙のように向いている。あろうことか背中には黒い翼が生えていた。もう死神でもなんでもない。
「この姿を...。君みたいな人間に見せたのは初めてだよ。あの藍染惣右介にも見せてない。」
そう言う彼女はもう死神ではなく虚だったのかもしれない。ただ感じたこともない霊圧と殺気にシンは震えるだけだった。さっきまでは彼女に霊圧など感じられなかったのに。もうそれが空間や世界を支配している。
「さぁ。君はどうする?闘うか。逃げるか。死ぬか。選べばいい。」
彼女の笑う牙がシンの心臓を突き刺す。
「私がこの剣を一振りすれば瀞霊廷なんてもう終わりさ。この世界も全部消えるさ。でもあえて使わないのは...わかるよね?私の気持ち。」
(わ、わからない...。)
心の中ではいくらでも声にできるのに口にすることは到底できなかった。
「本当は全部いらないけれどそうしてしまったら本当に悲しいから。だから絶対しない。人は戦争するよね。死神も虚も闘う。けど何のために闘うんだろうね?護るため?違う。欲のため?違う。闘うことは憐れなものだ。望まない人まで巻き込むんだ。そして哀れな者たちは最後を知らないんだ。すべて殺せば周りの者も邪魔になって喰らう。そして一人になって...一生孤独にすごす。その辛さは...。わかるよね?誰も会話する人がいなくなって。生き物がいなくなったらもうこの世に何も残らない。そんな世界は誰もが望みながら恐怖するのさ。闘うことは自らを孤独にし、悲しむことさ。」
「・・・・・。」
「君はそうだね。君も心春ちゃんのためなら人殺しでもなんでもするよね。簡単に言ったらさ。世界中人間がすべてが心春ちゃんと付き合いたい。結婚したいとか言ったら全部殺すでしょ。そうしたらもう....。心春ちゃんは君のことを嫌いになってそれがたえられなくなって大事な心春ちゃんまで殺しちゃって....。君は地獄に落ちるのさ。」
「!!!」
「はははは!!いいね。その顔!最高だよ。.....だから....。君はもう死んだら?楽だよ。」
(もっともっと私を憎んで。お願い...。)
シンはもうシンではなかった刀を掲げると幻影は一つになった。シンは異様に包まれる。そして如月のもとにまっすぐにつっこんだ。
「なっ...!」
(速い!)
如月はよけることができず、腹に剣がささる。
「くっ...。」
如月はすぐにふりはらって剣を振る。そうすると見たことない竜巻のようなものが作り上げられ空に放たれる。それは見えない刃となってシンに降り注ぐ。微弱な傷ほど痛いものだ。
しかしシンはもう止められなかった。我を忘れ心春さえも忘れ、如月を殺すことしか考えられなくなった。シンは再び突き刺す。今度は胸にあたる。
(こいつっ!アルテマを解放した私より速い。こんなの...クソジジイ以上だ!イチゴくん以上...。)
如月は翼を広げ飛んでいった。しかしシンはすぐに追いかけ如月を下へ落とした。
「くっ!!」
如月は湖へと叩きつけられる。この湖は沈まない。ということは...。
(月姫の湖!)
触れた傷は水のおかげで回復していく。しかし押さえつけられている腕はどんなにもがこうとも殺気をぶつけてもはずれない。シンの顔を見た。その時如月の思考はもう動かなかった。
そう。その顔は...。
シンが如月ののど元に剣をつけた瞬間ーーーー。
『シン....。』
心春....。
心春の顔が見えた。背景は真っ白だ。心春は微笑んでシンを見ている。その顔は変わることなく。
ただ見つめるだけ。
『シン...。』
彼女は満面笑みを見せてくれた。かつてこれほど笑っている姿は見たことがない。
『無理しないでいいんだよ。もう...。私のために頑張らなくていいんだよ。言ったでしょ?』
『私はシンが大好きだから。私は闘うから...。だからシンは....。』
その一言は....。シンを変えたんだろう。
『自分らしく生きて。』
心春は消えていく。
もうシンは闘うことに疲れたのだ。如月の言っていることがあまりにも真実だったから。
「っ....?」
如月が目を開けると、黒い瞳に戻ったシン。その顔はどんな時よりも美しく見えた。
「あんたはもう眠れるだろう....。あんた...。」
如月が気が付くとそれはもう自らの剣で腹を貫いていた。
「どう...して....。」
「・・・・・。」
「私はこんなんじゃ死ねないよ...。シンくんみたいな強い心で...なのに...どうして血が止まらないの...?どうしてこんなに苦しいの...?教えてよ....。」
「あんたは...もう死神なんだ。化け物じゃない。あんたは生きているんだよ。あんたは俺に殺されるよりももう自由だったんだよ...。」
「そんな...だって..私はずっと....ずっと...。生きる...。」
如月は涙を隠すことはなかった。
「もう眠れるはずだ。あんたが望んだこと...。神様が叶えてくれる。」
「神様...?」
「あんたにも聞こえないか?あの唄が。」
「唄...。」
シンは如月を抱え、湖の中心に向かう。そしておろしてやる。
「月姫が...あんたを迎えてくれている。あんたは永遠に眠れるよ。」
「.....!もう...いいんだね...。もう...。生きなくていい?」
「ああ...。あんたの苦しみ...俺はわかった。剣をまじえてわかることだ。あんたは闘うことを俺に教えてくれた。だから感謝してる。」
「っ...。ありがとう。ごめんね。シンくん...。ごめん...。」
「もう...。いいんだ。だから...。」
如月は瞼を閉じる。
「安らかにおやすみ...。」
そして彼女は沈んでいく。誰にももう彼女を目覚めさせることはできない。話すこともできない。彼女は完全に世界から消えたのだ。
ねぇ...。シオン...。言ったよね。お前は死ねないって...。
でもね...。今もう死ぬんだよ。
シオン...。あなたの苦しみはすごいよね...。
ずっと独りで....。ずっと生き続けて...生命の誕生を待っていたものね...。
知ってるよ...。私は。あなたの悲しみも涙も。
でも憎んでたよ。愛してたよ。その矛盾も全部。
あなたも眠れたらいいと思う。けどできない。
ごめんなさい。あなたを置いていく。あなたをまた一人にしてしまう。
でも私の幸せ願ってくれるなら....。
私も。あなたにまた会えることを望みたいと思います。
それまで一度も思っていなかったことを。
夢の中で会えるでしょうか?
私の永遠の空虚の中で。
びみょ~な終わり方ですね。わかってますよ!もうすぐ終わりですよ~。
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