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絶対的
作:川瀬時彦



絶対に消してはいけない消しゴム


  絶対に消さないでください

 そう書かれていた。
 なんの疑問もなく小包を開けると、中からは消しゴムがひとつあった。
 入っていた箱は無地で伝票のみが張られていた。伝票を見てみると差出人の部分は空欄だった。
 いったい誰が……?
 それにしてもこの消しゴム。ケースがついているわけでもなく、ただ黒のインクで直に『絶対に消さないでください』と書いてある。
 いや、消しゴムは消すためにあるものである。それを唐突に消すなといわれても。困る。第一、なんの目的で? 
 そんな疑問を頭の中で考えたところで解明するはずもなく、その消しゴムをリビングのテーブルの上に放り投げ、クローゼットから適当な服を手に取る。
 服を着ながら、沸騰したヤカンのお湯をコーヒーメーカーに注ぎ、食パンをトースターに入れる。
 二、三分後、ソファーでくつろいでいる俺をチンッという音がパンの焼き上がりを伝える。
 片手でトースターから食パンを掴み上げ、コーヒーカップにコーヒーを注ぐ。時間がない朝はいつも食パンとコーヒーである。
 急いで朝ご飯を済ませ、玄関に放り投げてあるカバンを拾い上げて靴を履く。
「七時五十分か……」腕時計をちらと見てみる。
 時間がない。急ごう。俺は、ドアノブに手をかけた。
 しかしその時だ、何かが俺を引きとめた。声や音ではない。気配だ。いや、これは気配と呼べるのか? 体全体から伝わるこの感じ……。靴のままでリビングに引き返しテーブルの前まで直行。そこにある、得体の知れない消しゴム。なぜだかそれを俺は手に取り、カバンを開け、ふでばこの中にしまう。
 もう一度玄関に向かう。
 鍵を閉めたことを確認して、急いでアパートを後にし最寄の駅へと向かう。いつものように定期を使って電車に乗り込む。
 十五分後、いつもの駅で下車し、急いで大学へ向かう。
 なんとか一時限目に間に合った。机に腰を下ろし、カバンからノートとふでばこを取り出す。
 講義の内容をノートに取りながら、あの消しゴムをふでばこから出してみる。書かれた警告文以外は、やはりなんの変哲もない消しゴムである。
 あの時、なぜ俺はこれを手にとってしまったのか? 今となってみればなんともないがあの時、あの感覚が俺をそうさせた。この消しゴム……。
 使ってみよう。
 俺はノートにシャープペンシルで適当に文字を書き込んだ。
 右手に消しゴムを取って、手前から紙に押し付けて、こする。
 一拍置いてからだった。
 消しゴムが通過した箇所は、光というものを失ったかのように真っ黒に塗り潰された。その黒くなった箇所は、いくら他の消しゴムで消そうとしてもいっこうに光を取り戻さなかった。












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