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ホラーシリーズ

アナアナ。

作者:あゆ森たろ

 ギャル視点ギャル口調ギャルホラー。怖くね♪
 …どうぞ。


 あっつー。今日はカレシ(彼氏)のゴローとプール。昨日約束したんじゃん。だから、今からその待ち合わせに駅まで向かうんじゃん? 急いでないけど、携帯電話見ながらで忙しいっつーの。
 そうしたらさ、歩いてる途中だったんだけどさ。道のド真ん中にお金、落ちてたんじゃん……。都合いいことにィ、周りは誰もいない、住宅ばっかりで人間はアタシひとり。アタシしかいない。
 アタシ、それと見つめあった。約27秒くらいかなァ、アタシはお金を拾おうとした。万札1枚だったけど、誰だって見つけたら拾おうとするじゃん。違うワケ? アタシだって例外じゃないしィ……とにかくさ、拾おうと手を伸ばして前屈みになったワケよ、そうしたら。
 フザけんなってのね、突風が、いきなり奇跡みたいに吹いてさ。すくい上がるみたいに、万札の奴、風で飛んでいっちゃったってワケぇ。うっわー、信じらんない! って呆気にとられたってーか。でも、でも、よ。でもでも。
 アタシ、追っかけた。逃げる万札、追っかけるアタシの鬼ごっこ。光景は想像にお任せするけど、アタシは万札のヤローを追うために、道の脇から外れて、広がって荒れ放題になっている空き地のボーボーとした草かき分けて、続いていた山道へ入って行った。すぐに戻ってくるつもりで肩からぶら提げていた、水着の入ったバッグを適当にその辺に放り出して、林のなかに潜って行った。何処だ万札、晒せ万札。お姉さん痛いことしないから出てきてよ、ってさァ、アタシは見失った万札君を探していた。

 それからすぐよぉ。アタシ、ドジ踏んだ。突然、足元が無くなった。
 地面を踏んだつもりだったけど、消えた。足場が無い。アタシは、穴に落ちてった。マジで!?

 自分がどうなったのか……ぜーん然わかんない。アタシ、ひょっとしたら死ぬの。まだ16(歳)じゃん……。
 気がついてゆっくりと目を開けたら、周囲は暗かった。ひんやりとした壁が体に当たっていて、湿気が気持ち悪いんだけどーもと○ーいちィ、と暫く所在が分からないせいで頭おかしかった。
 アタシ、どうなっちゃったんだろう。まず。
「ちょっとォ……ここ、何処ー?」
 擦れたけど、声を出した。頭痺れてる? 起き上がれないじゃん、どうなってんの。
「誰かァー」
 もう一度、声を。声は、反響している気がする。狭い所にいるんじゃね? 場所もそうだけど、今が何時で、気絶してから何分だか何時間だか経ったのか、分からない。携帯って持ってきたっけ、バッグのなかだったっけぇ?
 それより、体が動かない。ヤバくね?

「こんにちは」

 はァ!?
 声がした。アタシ、死ぬほど驚いた、背筋が凍るほど。「ひっ」慌てふためいた、心中で。
「怖がらなくていいよ。オレは許斐このみといいます。気だけは若いサラリーマンんん」
 こんにちは、に続いて何処かからした声は、陽気そうにアタシに話しかけていた、でも語尾が震えている。「誰だオッサン」アタシはたぶんだけど真っ青になりながら暗いなか、声に声で返した。ユーレイだったらどうしようってーの。
「人の話を聞こうね。オレはコノミ、コノミちゃん。安月給だけど建設会社で平日頑張ってます。土日はホリデー、でもカミサンと息子に殴られてます。誰か通報して」
 オッサンは冗談を言ってる。何したのか知らねーし笑えないしカミサンと息子にボコられようが何されよーが、アタシには関係ないんじゃん? それより、オッサン、アンタ何処にいるのさ? におい嗅いでもオッサン臭の気配は無いし。よく聞いてたら、声ってアタシのすぐそばでしているような気がするんだけどー。どうなってんの?

「君はね、穴に落ちているんだよ。で、ケガはないかい?」
 オッサンが聞いてくる。
「穴ァ!? ……やっぱりね」穴に落ちたっぽい所までは思い出せるんだっつうの。
「でも、動けない」
 アタシはため息をついた。頭がぼうっとしてる。「ははあ、ケガしてるみたいだね。それで、身動きできないと。そりゃ大変だ」人事みたく言ってんの。
「オッサン、何処にいんだよ」
 アタシはイライラしながら言った。
「えーっとね。詳しくは端折るけど、要するに。オレも『隣の穴』に落ちたみたいでね」

 はァ!?

「同類ですね。はっはっは。で、君を追いかけてきてあげた親切の挙句にこんな羽目になってしまったオレへ、温かい言葉と毛布はないかい」
「ねえよ!」
 アタシは呆れた。
「キツイなあ。もうちょっと優しく言えない? 女の子でしょ」
「放っとけよオッサン。よけーなお世話」
「君の親はどんなだかね」
「親ァ? ……どーでもいい」

 元気よくオッサンに返していたら、急に会話が止まった。何だオッサン、さっきとは逆に、声がしないと気味が悪いじゃん。「君の親御さんは、君に冷たいのかな」待っていたら、オッサンは続けた。
「親なんて知らね。親なんて自分のことばっかじゃん? アタシが外泊しよーと誰と付き合おーと、夜はいないし知りもしないし『知ろうと』しよーもしない」アタシは舌がもつれそうになった。
「親が勝手だからアタシも勝手にすんの。別にいいんじゃん。何か悪い?」
 アタシの親は両親とも夜はいない。オトンは仕事だろーけど、オカンはさァね。たまに帰ってきてるけど、挨拶だけ交わして、よそよそしいっていうの。避けられてんじゃないのって。避け……あー、アタシの普段の格好、マンバじゃないけどそれに近いからそれでかな。今の格好は、プールにいくからってそこまで化粧塗りたくってないし、どー見ても普通の学生じゃん?
 だーァれも怒らないんじゃん。だから好き勝手やるんじゃん?
「毎日楽しいかい?」
 オッサンは聞いた。
「べっつにィー。楽しい時は楽しいけどー」アタシは眠たくなってきた。
「楽しいとこ悪いけどね、君。君、このままだと死ぬよ」
 突如、オッサンが怖いことを言った。は?
「考えてみてごらん。君とオレがここにいることを知っているのは誰もいない。オレが気がついて君を追いかけてきたのは、立ち入り禁止になってる山に君が入っていくのをたまたま見かけたからだ。禁止になっているのを知っているのは近所の人だけだろうけどね。でも、看板が何処かになかったかい?」
「さー……」
「ここも古い所だから、看板は外れて何処かへいってしまったかもね。まあいい、それより、君はケガをしている。見えないから症状も何も分からないけど、もし骨折でもしていたら熱も出るし、時間が経つと腹も減る。間違いなく衰弱していくし、助けが来ないと事態はどんどん一方、悪化するさ。さーて、どうするんだ?」オッサンは挑戦的にアタシに言った。「どーすんだって……」
 体は動かない。どーもできないじゃん。
「アタシ、死ぬワケ?」
 アタシは聞いた。足に違和感っていうか、足が痛い気がする。動かしてみようかと思ったけど、オッサンの言う通り、骨折でもしていたらと思うと、怖くて動かしたくない。
 このままの状態がずっと続くのかってーの?
「オッサン、聞いてんの?」アタシは不安になった。
「聞いてる聞いてる。ま、君のことも考えてはいるが、オレも穴から抜け出せなくてどうしたもんかと考えてたとこ。なーんにも出来ないしなあ……」
 オッサンの困り顔が思い浮かんだ。「オッサン、ケガは?」「大丈夫」「あ、そう。ならいいけど」自力で這い上がれないほど深い穴ってー、早く埋めちゃえばいいのにっていうか。アタシもオッサンも何て不幸。
「つまんない人生だった」
 アタシは早くも諦めモードになった。「アタシ何で生まれてきたんだろ」そんなことを呟いた。アタシがどういう風に生きてどういう風になって、どういう女になろうとも。他人には関係ないしアタシも他人には興味ない、っていうか。無関心、っていうの? いつからかそんな風になった。
「無関心な親からは無関心な子どもが育つんだよ。そりゃそうだね。君に思い出はあるかい? 何が一番楽しかった?」オッサンがアタシに聞いてくる。「一番は……」一番、と聞かれても分からないんじゃね? とアタシは考えながら、自分の記憶のなかを辿った。

 夏、海へ行ったっけなァ、親たちと、親戚もいたりして、賑やかだった。釣りもしたし、溺れかけてサーファーに助けられたことがあったじゃん。オトンは気ままに蛸釣って、アタシがそばで溺れてるっつーのに気がつきもしなかったって、後でオカンに怒られてた。
 秋、小学生だったっけ、運動会が終わった後だったと思うけど、ちょっといい感じじゃんって思ってた男の子に告白されたんじゃん。アタシ、すっごく嬉しくて舞い上がってたけど、震災が起きて男の子はそのせいで転校しちゃったんじゃん。あれは悲しかったっけなァ、ずっと泣いてたしィ……あァ、震災っていえば、ゴローの奴、被災地に行ってたんだっけ。
「アタシも被災地に行けばよかった」
 オッサンの問いかけを無視して、アタシは思いを口に出した。「そうすれば、ちょっとは生きててよかったって思えんじゃん?」アタシのカレシは偉い奴で、3月11日に起こった大地震の時に支援団体ってーのに交じって北陸に行ったんだって。
 もしアタシがその時に一緒にいたなら行ったかもしれないけどォ、あいにくアタシがゴローと知り合ったのはもっと後。夏前なのに真っ黒になって帰ってきました、なんて言ってフザけて笑ってた、それで惹かれたのかもしれないけど。『サンデマンデユー』っていうカフェでアタシら出会ったっけなァ、つい最近のことだけどォ。

「地震か。オレもね、被災したんだけど、変な話、もしあれが無かったら、死んでいたのかもしれないな」オッサンが奇妙なことを言い出した。
 震災で死ぬんじゃなくて? どういうこった。
「あの時はね。仕事も家庭も上手くいかなくて、躍起になりかけていた時期だった。そんな自棄な時に震災だろう。皆が皆、協力し合わなければ生きていけなくなった。ひとりで過ごしている時間より他人と共有している時間が主になってしまって、でも、その時に過ごした時間の方が、『あーオレって今日も生きてんだなー』っていい気分で実感できたっていうかね。それまで躍起になってひとりで解決しようと、あーだのこーだのとカミサンや息子、上司や後輩たちにわめきちらしてたり偉そうになっていたオレ……馬鹿らしいっていうか……恥ずかしくなったんだよ……」

 オッサンはアタシに愚痴り出したけど、アタシは、どっかでオッサンに少し同感してる。
 テレビの向こう側では必死な人がたくさんいるっていうのにさ。他人なんて関係ないなんて言っといて、でもアタシ何やってんの? って、ちょっと思ってる。
 震災が外国だったらどう? 日本じゃない行ったこともない国の話で、アタシこんな風に思った? ゴローみたいに現地に行こうとした?
 無関心って何処までで、どうなんだ、っていうか。

 アタシって何で生きてんのー?
 アタシの叫びは誰の関心も向かない。ただ吠えてるだけ。
 生きたけりゃ生きなよ、ってさえ言ってくれない。無関心、そんなのってある? 

 素通りたくない毎日。アタシは今日、カレシとプールに行くはずだった。
 こんな所で死ぬんじゃない。
 アタシは、死にたくない。死ぬ実感がわかない。プール行きたい。ゴローに会いたい。
 もっと先が分からない代わりに、目先のことだけはとにかく考えられるんじゃん?

「もっと早くに気がついてたら日常も違ったかもしれないけど」とオッサンは言った。
「生きたいことはやりたいことがあるっていうことだし。助け出されたらいいね、君は」と、オッサンは続けた。
「オッサンしっかりしなよ。よく知らねーけどォ、今は死にたくないんだろ?」
 アタシはハッキリと言ってやった。オッサンは無言で、それから返事した。「うん」

 不思議じゃん。オッサンとアタシ、自分の話をお互いにぶつけてるだけなのに。
 これで明日の見方が変わってる。死にたくねって思うようになった。変じゃん、アタシたち。キョウユウ、って――不思議。


 ところが、ってやつ。
「オッサン、アタシ眠い」
「おや」
「何だろ、すごく眠い……」体が言うことをきかない上に、眠気が襲ってきた。手を上げたいけど、力が入らない。どうなっていくんだ、このまま、アタシ。
「祈ってるよ。君が助かるように。……祈ってる」
 アタシの隣、壁の向こう側になるんだろうけど、隣では、オッサンがアタシを励ましてくれた。
「アリガト、オッサン。っていうか、アタシ……」朦朧としてきた頭で、これだけはもう一度強く思っておこうと決めた。「死ぬ気ねー」

 今は眠いから眠るだけっつーの。おやすみ。アタシは、目を閉じたつもりで、……閉じた。オッサン、アタシだけじゃなくて、アンタも助かるように、アタシも祈ってる。お互いがお互いのことを思えるって……よくね?

 おやすみ……



 ……アタシ、夢を見た。汚いコート着たみすぼらしい格好の見たこともないオッサンが、倒れた家屋のなかからオレンジ色の服着た救助隊みたいな人たちに助け出されている所。色が鮮明についている夢だったんじゃん。美しい、ってーの? 銀杏の散った並木があって、救助隊の人たちの口から薄く息が白く吐かれて。秋の夕暮れでキラキラ輝いていて、絵に描いたように幻想的じゃん? 何でか美化されてんじゃん?
 オッサンの綺麗な夢が、アタシにうつったのかなっていうのか。ともかくオッサン、何でこんな夢見せてんのか分からないけど、元気出せよな……



 アタシは目を覚ますけど、白い世界にすぐには馴染めなかった。
 目を開けると建物の天井があって、そのまま横を見ても、白っぽい。それから鼻につく薬品みたいなニオイ。後で来た看護士のお姉さんに教えられる前に、ここが病室だってことが自分で分かった、ってワケ。病院じゃん。
 記憶は何ともなくね? 覚えてる……アタシ、穴に落ちてたんだ。

「先生を呼んでいますからね。落ち着いてね。ここは病院だから安心して。アナタ、助け出されて3日間眠っていたんだから」
 アタシが寝ているベッドの横で看護士のお姉さんは、微笑んでいた。
「あのォ」
「ん?」
「アタシの隣にいたオッサンは? どうなったの?」

 アタシがそう聞いたら、お姉さんは困った顔をしてんじゃんか。だから、あれ?、ってなった。
「隣って? オッサンって誰のことかしら」
「だからー、アタシが落ちてた穴の隣で、アタシと同じように穴に落ちてた惨めなオッサン」
 アタシ、ちゃんと説明したんじゃん。だけどお姉さんは、ますます困惑した顔でアタシを見てる……。
「何のことかしら……助け出されたのは、アナタひとりだったけど?」
 そう言われて今度は、アタシが混乱したんじゃん。あれ? どうなってんの?

 アタシは幸いにも骨折だけで済んで、入院していたってんじゃん。仕事先から、アタシが目を覚ましたってんで慌てて飛んできたっぽいオカンが詳しく教えてくれたけど。アタシは、携帯電話を穴に落ちる前に何処かで落としてたみたいで、着信音が鳴り響いて気がついてくれた人がいたらしいってさァ。ラッキーってやつ。
 でもまァ、気がついてくれた人ってのが近所の子ども(ガキんちょ)で、携帯に電話かけてくれた人ってのがカレシ。アタシが待ち合わせに来ないから、怒って心配してかけたんだってぇ。あー、よかった。アタシは助かった。
 何処でどう転ぶか分かんないけど、アタシは助かった。感謝するけどォ、……オッサンは?
 オッサンの行方は不明。オッサン、アンタ何処にいんだよ……っていうか……。

 もしかして全部、夢だったワケぇ?



 ・ ・ ・


 数日後、朝刊の紙面には、次のような見出しで記事が書かれていた。
『山中にて白骨化された遺体、発見か』
 アタシが退院するまでに穴を調査してくれたらしく、こうしてオッサンは、発見された。

 オッサンがアタシに見せてくれた綺麗な『夢』は、本当に綺麗だったのかなァ。アタシには、絶対に掘り返してはならない『穴』のように思えて仕方がない。カミサンと息子がいるって言ってた。しかも夢、あれは秋? オッサンが遭った震災って、いつのこと? ――難しいこと、分かんね。知ィらない、アタシ。そこ無関心でいいんじゃね?

 アリガト、オッサン。アタシ、ゴローと幸せになるわ。



《END》


 平成16年10月23日、新潟県中越地震の発生、っと。
 本作品は、小説家になろう『夏のホラー2011~夏の夜には怪談を~』企画参加作品です。
 http://horror2011.hinaproject.com/pc/

 ご読了ありがとうございました。

ブログ(PC用) あゆまんじゅう。 こちら

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