君のいた冬〜君ガ支エテクレタ〜縦書き表示RDF


この小説は、本編である『君のいた冬』の第拾参話からの、舞視点のお話になります。 多分、本編を読まないと、話がわからないと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
君のいた冬〜君ガ支エテクレタ〜
作:GRAIN


うぅ、あんなに泣くなんて。

自分が弱いと再確認する。

昔からバカにされたくなくて、男より気強く生きてきたハズだった。

そんな私が、貴志に泣きつくように号泣した。

そして、今は貴志の部屋で天井を眺めている。

あれから、泣いていない。

さっき溜まっていた物すべてが出ていったらしい。

と言っても、私はそんなに我慢していたのだろうか。

確かに桜が死んだ時は我慢してた。

でも航が自殺を謀り、奇跡的に助かって、ベッドで寝ている航を見て私は泣いた。

そんなに我慢してなかったと思う。
自分ではわかっていないだけ。

私の中の何かがそんな事を答えてきた。

でもそんなのわかってる。

わかってるけど、わかりたくはなかった。

だって私は姫里舞だもん。

いつもみたいに、誰からもバカにされない舞に戻らなきゃ。

今のままじゃ、あの貴志にバカにされちゃう。

顔は涙でグチャグチャのまま。

顔…洗わなきゃ。

ベッドに横になっていた私は、ゆっくりと体を起き上がらせる。

でもその刹那。

美華が見せた、あの航の左腕にあった無数の傷を思い出した。

その瞬間また涙が溢れてくる。

際限なく、涙は頬を滴る。

体からは力が抜け、ただ堕ちてゆくような感覚が私をさらに陥れる。

ダメだ、ダメだ。

泣いちゃダメだ。

強くならなきゃ。

「えぐっ……ひっ…ぅあっ」
私は必死に堪える。

でもそれは無駄に近かった。

いや、むしろそれが悪化させた。

今まで我慢してきて、あんだけ泣いたから、緩んじゃったみたいだった。

だから……止まらない。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

また私は大声を出して泣いた。

枕を顔に押し付け過ぎて、枕はビショビショに濡れている。

それでもまだ、涙は止まってくれることはなかった。

ピンポーン

呼び鈴が鳴っても、私はそれに気付くことはない。

それぐらい大声を出していた。

「―――ぁあっ!なんでよ、なんでなのよ、航っ!」

無数の傷。

それは一つではなかった。

私の知っている傷だけじゃなかった。

航は寂しかった。

美華はそう言った。

でも私は冷却期間などと偽った。

ホントは恐かった。

航に会いに行って、また自殺なんかしてたら、私がどうなるかわからなかったから。

だから今日航に会って、本当に嬉しかった。

でもそれと同時に、腕を組んでいた美華にとても腹がたった。

貴志だったら訳くらい聞いてるかもしれない。

けど、私はすぐに怒鳴り散らすことしかしなかった。

あげくには美華を叩き、私の手にはその感覚が残り、それが私の心を締め付けていった。

あのあと何度後悔しただろう。

美華を叩きことにより、私自身が傷つくなんて、今更ながら気が付いた。

なんで――――なんで、私は…

「―――最低なのは私なんだ」

消え入るような声。

まるで私ではないように、微かに聞こえた私の声は、掠れて訴えかけてくる。

そんな時だった。

「――最低じゃねぇよ。舞、お前頑張ったんだろ?なら最低じゃない」

そこには頭を抱え、丸くうずくまっている私を、強く抱き締める貴志がいた。

「なん…で?」

私は驚いたように貴志を見上げる。

「ここはオレの家だし、お前を連れて来たのもオレだからな。それに、呼び鈴鳴らしたぞ?」

貴志の瞳は真っ直ぐ私を見ていた。

強く抱き締めたまま、その事を言い聞かせる。

「待たせてゴメンな。でも今、航と話してきたよ。正直殴り合った………けどさ、アイツはやっぱり航だったよ。前と全然変わってないよ」

私には何が言いたいのかわからなかった。

変わらないからなんだと言うのか。

真意は、貴志は何を感じ取ったのだろうか。

なんか、私だけ除け者にされた気分にもなる。

貴志はそれを察したのか、嬉しそうに微笑んだ。

「アイツさ、何だかんだでオレ達を忘れてなんかいなかった。勿論桜もね。結局航は、桜を皆の記憶から失っていくのが辛かったんだ」

「そんな、私や貴志が桜を忘れるわけないじゃない」

「そう思うだろ?でも航はそうは思わなかった。だってアイツ、ここ何年かでかなり神経削がれてるから。航はいつだって桜のことを考えてたよ…それと同時に美華ちゃんもね」

貴志が何を言いたいのかわかった。

航に時間をあげろ。そう言っているんだ。

本当の冷却期間。

偽り、逃げる為の口実ではなく、猶予の時間だ。

そこで出した考えを、私や貴志は見守っていけばいい。

要はそう言うことだ。

あの航のことだ。考えれば絶対に何かしら道を見い出すはず、貴志はそう思ったのだろう。

やっぱり貴志は大人だった。

私や航以上に貴志は大人に見えた。

「………うん。航が答えて出すまで待つよ」

「あぁ、待っててやろう―――いつまでだってさ。だってそれが親友のオレ達に出来ることじゃないか。信じてアイツの答えを聞こう。それに――――」

















「―――それに、航さ、もう自分を傷つけたりしないってさ。それと、舞に謝ってた」

勿論航はそんなこと言ってない。

オレは舞に嘘をついた。

それがオレに出来る、舞を元気にするのに一番の薬だと思ったから。

「今航さ、桜の死を前向きに向き合ってるらしいんだよ。だから……」

そこで言葉に詰まった。

舞を元気づけると言っても、嘘をついているのには変わりない。

オレはどんどん自分自身の首を絞めていく。

それでもオレは嘘をつき続ける。
だって、舞にはそれが本当だと思えてるのだから。

ならオレは、悪役にだって何だってなってやるさ。

これ以上、壊れていく友達なんか見たくないんだ。

だから見ろ。舞の顔には希望の光が射してきているのがわかる。

「本当…なの?」



嘘だよ。



そんなことを言ってしまえば舞をまたドン底に落として、オレ自身の身は軽くなる。

でも、今はそんなこと言えない。

言ったら、今度こそ落ちたショックで舞が壊れてしまうから。

だからオレは揺るがない。

たとえオレが辛くても、そのぶん舞が笑ってくれるなら。いつもの舞に戻ってくれるなら。

オレはいくらだって嘘をついてやる。

「あぁ、本当だよ。アイツ、ちゃんと前向いてたから。過去に囚われてなんかいない」

その言葉を聞くなり、舞は安堵したらしい。

そして、オレの嘘もここまで。

オレ、本当にこれでよかったんだよな。

そう、オレの中にある何かに言い聞かせた。

「よかった……よかったぁ――――」

安堵し過ぎたのか、舞はまた大粒の涙を滴らせる。

その一粒一粒が、さらにオレを締め上げる。



『いいんだ。これでよかったんだ』



心の中で、呪文のように何度も言い聞かせる。

「――――うぅ、ひっく……ねぇ貴志。またアンタの胸貸してよ」

舞は手で何度も何度も涙を拭い、それでも拭いきれないようだった。

それに多分、溜め込んでる物、出したいんだろうな。

「あぁ、いいよ」

そう言って、オレはしまいこむように、舞を抱き寄せた。

「うっ…グスン――――うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

何かに着火したように、舞は叫び泣いた。

「辛かったんだよな、親友を失うのは。オレだって辛かったんだ、舞なら尚更か……」

そう呟いた。

そして、フルフルと震える舞の頭を優しく撫でた。

少し癖があるようで、綺麗な髪の毛。

それが、手に絡みついてきて、まるでオレの心を写しているようだった。

「弱くて…悪かったわね!んぁ――これで最後にするから、すぐに……笑うから―――ちょっとだけ……」

「あぁ、わかってるよ。いくらでも、な?」

そう言うと、無言で舞はオレの腕の中で頷いた。














「すー…すー…」

それから20分ほど経って、舞は寝息をたてていた。

オレの腕の中でだ。

疲れたのか、安心してなのかはわからないが、この寝顔を見ていると、オレは嘘をついてよかったと思えてくる。

舞は、スヤスヤと微笑んでいた。



『すぐに……笑うから』



そう言えば、舞はいつも笑っていたな。

辛い時も、苦しい時でも、オレ達を励ましていたムードメーカーだったっけな。

でもそれ故に、いらん火の粉まで払っていた。

オレ達の中で一番苦労してるのが舞なんだと思う。

それでも笑って、オレ達とバカやって、励まして。

お前頑張り過ぎなんだよ。

入ってくるものは多いくせに、出す量が少な過ぎるんだ。

だからどんどん溜まって、いつかは爆発する。

要領いいくせに、不器用なんだよな。

もしお前が器用だったなら、今はまた違う結末だったかもしれないのに。

いやそうか。オレ達が不器用にさせたんだ。

オレ達のレベルに合わせて、舞はレベルを落とした。

だから、あんなに好きだったテニス部も辞めて、航を励ましてたんだ。

自分の好きなこともやらずに、オレ達をとったんだ。

ホントに頑張ったんだな、舞。

こんなに、はち切れるくらいまで溜めていたにもかかわらず、舞は我慢し続けた。

今度はオレが支えてやるよ。

桜や航に代わって、オレがその苦しみ、悲しみを一緒にしょいこんでやるよ。

だからさ、もう無理して笑うなよ。

自然と涙が瞳に溜まる。

オレじゃ役不足かもしれないけどさ、少しでもお前の助けになれるようにオレ頑張るからさ。

だから―――

「…痛い」

「ほわっ!?」

声を出したのは言うまでもなく舞。

オレの腕の中で、見上げるように睨んできている。

なんか怒ってる気がするのは、オレだけ?

「アンタ強く抱き締め過ぎ。痛いでしょが」

その言葉でようやく意図が掴めた。

つい想いと同時に、舞を強く抱き締めていたようだ。

正直顔が火照ってるのがわかる。

オレは慌てて舞から離れた。まぁその後、勢いが強すぎて、ベッドから落ちて、頭を打った。

「いつつ…」

頭にできた小さなコブを擦りながら、起き上がる。

しかし、ベッドの上。

そこには、ちょこんと体育座りをしている舞がいた。

特に何もなかったかのように、ただ鼻から下を隠すように座っている。

「…えっと、そのゴメン。悪気があったわけじゃないんだ。ただ、その…」

そこで言葉が出てこない。

ここから先を言えば、何もかもが終わってしまうかもしれないから。

それがとてつもないくらい怖かった。

「…ただ、その―――なによ。言いたいことあるんでしょ?」

「………」

口ごもる。

さっきまでの決意はどこにいった。

航や桜のぶんまで、オレが舞を守るんじゃないのかよ。

オレって、こんなもんかよ……。

そこで少し沈黙。

そこには時々通る車の音や風の音以外には音は皆無。

オレに、その沈黙を破るだけの度胸はなかった。

正直不甲斐ない。

しかしやはり、その沈黙を破ったのは舞。

舞は、大きくため息を吐くと、オレとは逆の方向を向いた。

「……貴志ってさ、本当に優しいよね――――優し過ぎるくらいにさ。それってさ、やっぱり皆になんだよね……」

「―――んなはずねぇだろ!お前が心配だから、大事だから――だか、ら……えっと…」

そこまで言って、ようやく自分が言っていることを理解した。

それでまた一気に熱が上がる。

脳が沸騰しているみたいだ。

何がなんだかわからなくなってくる。

頭が回らない。

何か言わないと!

そんなことばかり思い浮かんできて、焦り出すオレ。

なんとかぁぁぁぁ――――。



「私は…好きだよ」



その言葉に、オレの思考が停止した。

「―――へ?」

さっきまで沸騰していたなんて嘘のように、なぜか冷静になれた。

なんか、喉がカラカラで声も出ないし。

「べ、別に優しくされたからって簡単に好きになんてならないわよ!ただ――――それが貴志…だったから」

最後の方はいまいち、声が小さくて聞き取れなかったけど、今かなり嬉しい言葉を言われた気がする。

舞は舞で、さっきからそっぽ向いてるし。まったく意図が掴めない。

「改めてわかった。貴志は大人なんだってさ。私なんてまだまだお子ちゃま、よくてガキね。アンタがいるとさ、安心できるんだよね、私。それに、ちゃんと私を受け止めてくれた」

微かだけど、その言葉を並べながら、舞の肩が震えていた。

「…舞」

「私さ、いつだって一人で生きてやるって思ってた。でも…無理だったみたい。だって貴志が私の悲しい時、寂しい時いつだって支えていてくれた。貴志がいなかったら、今の私、ないから。私すっごく感謝してるの」

だんだん声も震えてきていた。

きっと泣いてるんだろう。

舞は強い娘だから、見せるのが恥ずかしいんだろう。

昔から、そうやってオレ達に心配かけまいとする。

だから、またそうやって無理をする。

なんだってお前は―――お前は!

「だからわかったんだぁ…私本当は弱い人間なんだって。一人でなんて無理なんだって……独りはヤダよぉ―――」

そこで舞に火がついた。

際限なく泣きわめく。

それでも、まだ言いたいことがあるのか、声を必死に出していた。

でも、それも言葉になっていない。

そこでオレも我慢ができなくなった。

もう、どうにでもなれ!

逃げるな、オレ!もう逃げるなよ、藤原貴志!

「―――独りじゃねぇよ……オレがいる。ならもっと、オレを頼れよ」

そう言って、オレは後ろからだが、舞を抱き締めた。

普段こんなことをすれば、地獄への片道切符しかもらえないが、今は平気だろう。

微かに震え、啜り泣いている様子にそれがわかる。

「…いいの?」

「あぁ」

「…私ワガママだよ?」

「知ってる」

「…バカだよ?」

「友達の為に、全力を尽くすバカだろ」

「…気が強いんだよ?」

「オレを誰だと思ってんだ」

「………泣き虫…かもし―――」

「―――お前は強いよ。友達の為に体はって、考えて、悩んで……それでも頑張り続けるお前が、舞が弱いはずがない」

最後に耳元で小さく『オレが保証する』とだけ付け加えて、強く抱き締めた。

「…なんか強いだなんて、女の子として、嬉しいんだか、嬉しくないんだか、わからないわよ」

そんなことを呟いてても、オレの腕は振りほどかない。

むしろ、少し微笑んで、オレの手に舞の手を重ねてきたくらいだ。

心臓の高鳴りがピークに達してきている。

さっきまで必死にだったから気付かなかったが、それのせいで、目眩にも似た感覚に襲われた。

いや、あれ?周りが回ってる?

あれ、どうしたんだろ………体が言うことを聞かない。

あ――――本当に…ヤバい……な。

オレの意識は遠退いてゆく。
目の前が真っ暗になって、この腕に抱いていた舞も見失ってしまった。

「――――…してっ!」

意識を全て刈られる前にそんな声が聞こえた。

一体、どこなんだ……舞。

そして、オレの記憶はそこで切られた。
















「しっかりしてっ!貴志!」

さっきまで私を抱き締めていた貴志は今、私を離して倒れている。

何故かわからない。ただ、嫌な予感だけが私を支配していた。

「…貴志っ!貴志!?」

なんど呼んでも貴志は起きず、瞳を閉じたまま。

錯乱した私はとりあえず、貴志の額に触れる。

「―――熱っ!?」

かなりの熱。

少し触れただけでわかる。

とにかく、冷やさなきゃと、私のハンカチを濡らして額に置いた。

いくら幼なじみとはいえ、タオルが置いてある場所など知らなかったから。

どうしよう。どうしよう。

早くしないと、貴志が危ない。

そんな嫌な予感が私をさらに焦らせる。

とにかく、体温計。

それを探して、体温を計らないと。

貴志には悪いと思ったけど、部屋をの中を探すことにした。











体温計は無事に見つかった。

途中変な雑誌とか見つけたけど、今はそんなことはどうでもいい。

今は計測中。

ただただ、貴志が平気であってほしい。

ただ、それだけだった。

ピピピッ

体温計の音がする。

「……っ!40度!?」

なんだってこんな熱を?

考えている暇はない。私は素早く救急車を呼び、来たのはそれから15分後のことだった。














あのあと、貴志は病院に運び込まれ、病室のベッドで横になっている。

未だに意識はない。

病気としては、ただの風邪とストレスだそうだ。

何よ、我慢してたのはアンタの方じゃない。

それでも顔ひとつ変えず、私を受け止めてくれた。

ホントにバカ。

「んぁ………ここは?」

「貴志!?貴志、大丈夫なの?」

深夜。まだ薄明かりにもなっていない時間に貴志は目を覚ました。

でも、私には貴志が目を覚ましたという事実がとてつもなく嬉しかった。

「ん、まぁ大丈夫かな。オレ倒れちゃったのか―――ごめんな、迷惑かけて」

「――――アンタ、バカでしょ!!」

私はつい大声を出してしまう。

貴志はこんな状態にも関わらず、まだ私の心配をしてくる。

ありがたい、ありがたいけど、そうじゃなくて、今心配するのは自分の身体でしょ?

なのに、なんで私の機嫌なんか伺うのよ。

そんなことが、私の逆鱗に触れる。

少しは自分の身体心配してよ。

「――――ありがとう」

「…え?」

拍子抜けした。

突然お礼なんて、なんでなんだろう。

「心配してくれたんだろう?だから、ありがとう」

それを聞いて、私の顔が紅潮してゆくのがわかる。

確かに心配はしたけど、お礼をもらうなんて。

「べ、別に心配なん、て……少しはしてたけどさ」

どんどん顔が熱くなってくる。

もう、なんで私が赤くならなきゃいけないのよ。

貴志は貴志で、私見て笑ってるし。

「なぁ舞?」

不意に名前を呼ばれる。

「な、なによ!」

それに対して、つい強い口調で返してしまう。

あぁ、私ってなんでこう…。

「オレも好きだよ。舞のことが」

「……え?」

「だって、さっきちゃんと返してなかっただろ?だからだよ」

初めて貴志の口から聞けた『好き』という言葉。

どんだけ待っていたのだろう。

おかげで心臓はバクバクだし、どうしようもなく顔が熱い。

でも、その言葉は私にとって、とても嬉しかった。

やっぱり私、前から貴志が好きだったんだろうか。

「な、何よ、いきなり。夢でも見てたんじゃない?」

それでも、素直になれないのが私。

昔から素直に物事を受け入れたこっなんてなかった。

だから、ついそんな言葉も出てしまう。

「あれ、夢…だったの?そうか、残念……だったな」

なんて本気で言ってるし。

でも、すべては私のせい。

素直にならないから、貴志が困っちゃうんだ。

たまには弱いところ見せなさいよ、私。

貴志になら見せてもいいじゃない。

貴志なら絶対、全部受け止めてくれるはずなんだから。

それは頭ではわかってる。だから、あと一握りの勇気だけ。

それくらい出しなさいよ。

ほら、貴志があんなに悲しそうな顔をしている。

このままでいいはずがない。いいはずなんかないだ。

勇気を出せ、舞!

「な、なら、夢じゃないってなら、現実だっていう証拠見せてよ……」

なんでこう、可愛くない態度をとるかな。

こんなんじゃ、嫌われちゃうじゃない。

って、なんで私がそんな心配しなきゃいけないのよ。

貴志のくせに生意気ね。

……なんて、言える立場でもないか。

今私は本気で貴志に惹かれている。

それはどうしようもない事実。

どんなに足掻いても、気付いたらそれまで。

私は気付いちゃったから。

やっぱり、どうやっても貴志が好きみたい。






あれ、なんでだろ。

さっきあんだけ泣いたのに、なんでまた私は泣いてるの?

刹那、一筋の涙の雫が頬をつたう。

ボロボロ出る涙ではなく、チロチロと雫が一つずつ滴るかんじ。

なぜか心にスッポリ穴が空いたような、寂しさにかられる。

そう、好きだって気付いちゃったから。

貴志を求めてるんだ。

私を受け止めてほしい。

私を支えてほしい。

私を抱き締めてほしい。

それが、寂しさを訴えているんだ。

一人じゃ生きていけないとわかったから。

貴志がわからせてくれたから私は貴志を求めたんだ。

なのに、私は自分勝手で素直になれない。

愛想をつかれるのも時間の問題かもしれない。

「…なるほど、そうきたか。なら―――」

貴志は顎に手をあてて、少し考えたと思うと、手招きで私を引き寄せる。

何がしたいのかわからない。

とにかく、私はその指示に従うように貴志に近づく。






「一体なによ―――――っ!?」






そこで、私の言葉を遮るように貴志の唇は私を塞ぐ。

時間が凍結した。

動くことも、ましてや瞬きすらしてなかったと思う。

それがなんだったのかわからなかったから。

刹那の時の出来事で、理解するのがむずかしかったから。

いくらでも、言い訳がつく。

ただ貴志は、私の唇を自分の唇で塞いだだけ。

でも、それって…それって―――――っ!?

キ、キキキキキ、キス…よね?

「なっ!?ななななな!」

一気に気が動転する。

こんなことなら、気付かなかった方がよかった、なんて思えてくる。

心臓は自分の存在をアピールするように動いてるし、言葉なんて、何言っていいかわからないから、どもってばかり。

頭だって上手く働いてくれなかった。

本気で頭から湯気が出てきそうだ。

脳が沸騰する。

顔は赤くなっているのは確定。

あぁ、ダメだ。頭が回らない。

その瞬間。

貴志は私の頭に手を置き、私に微笑んだ。

「現実…だったろ?少なくとも、オレはそう信じてるから」

それを聞いて、恐ろしくなるくらい私は冷静になれた。

顔の赤さは変わってないだろうけど、心臓はいつもの働きをしている。

それと同時にすごく安心する。

貴志の手、思った以上に大きかった。

なんか暖かくて、優しくて、いつも私を見守っていてくれた手だ。

「私も…信じる。夢じゃなかったんだって……」

そう言うと、貴志は優しく微笑んだ。












やっぱり私、貴志が好きなんだ。

微笑むなんて些細なことでも、とても嬉しかったんだもん。

貴志なら信じれる。

これからずっと私を独りなんかにしないから。

そして、航のことも。

航が自分を見つめ直すって、自分を大切にするって。

航には、航なりの考えが思いつくって信じるよ。

だから今度、美華に……謝ってこようかな。

あの娘は私達の代わりに頑張ってくれたんだ。

好きだからって、そこまでできるのはすごいことだから。

だから、謝りにいこう。

あの二人を信じよう。
















あれから、6年経った。

変わったことはたくさんある。

たとえば、航と美華は結婚して、双子の女の子が二人できたそうだ、とか。

当然、身の回りの物のほとんどが変わってきている。

でも、その中にも変わらないものは確かにある。

私と貴志。

6年も付き合ってるのに、未だプロポーズしてこない、あのバカ。

まったく、そのうちに愛想をつかしちゃうんだから――――なんて、できてれば付き合ってもないわよね。

なんだかんだで、やっぱり私を支えてくれている貴志。

その優しさは、今になっても変わることはない。

いや、むしろもっと優しくなった気もする。

なんて言うか、これが幸せなんだろうなって思う。

航も手に入れられたんだよね、幸せを。

美華に、二人の子供。

それは、かけがえのない物。

大事にしてほしい。

そして、いつかまた、皆で遊びに行きたいよ。

仲良くさ。

この蒼天の空のように、澄んだ気持ちで。

また皆に会いたいよ。

私は天に腕を伸ばし、固まっていた筋肉を伸ばす。

空は快晴、木々は緑や綺麗な花を咲かせている。

その中にはサクラの木もある。

そう、ここは昔皆で遊んだ公園。

思い出の詰まった、まるで私には宝箱のような空間。

つか、ここで貴志と待ち合わせしてるのに、あのバカ一向に来る気配がない。

時間にルーズなのは知ってるけど、今度怒らなくちゃ。

でも、待つのもなかなかいいものね。

私、桜が死んでから、生き急いでたんだと思う。

だから、今ゆっくりしてる時間がすごく気持ち良いし、安心できるんだ。

ポンッポンッポンッ

突然、蒼天の青空を仰ぐ私の足に何か軽い物があたる。

なんだろう。

それはサクラ色をしたピンクのゴム製のボールだった。
思わずそれを手にとる。

なんか懐かしい。

昔私達もこんなので遊んでたような気がする。

トッテトッテトッテ

そこへ走ってくる1人の子供。

このボールの持ち主だろうか。

それを、私は手渡す。

女の子だろうな。

年は、二歳から三歳くらいか。とても可愛かった。

自分にも、子供が欲しいと思うくらいだ。

「ありがとぉ」

女の子は私に無邪気な笑みを浮かべている。

自然に私からも笑みがこぼれた。

「すいませーん。ありがとうごさいます。美雨、お礼は言ったの?」

すると、そこへ女の子の母親らしき人が走ってくる。

女の子は、絶えない笑顔のまま、母親を見ていた。

「いえそんな、可愛いお子さんですね」

「そうですか?これでもかなりオテンバで…困っているところなんで……す、よ―――――っ!?」








「………えっ?」








母親。

それはどこか誰かに似ていた。

何か切なくて、どこか懐かしい。

いや、私はこの女性を知っている。

髪の長さ、色。違いはあるけど、多分そうなんだろう。

「……み、か?」

美華。

それで間違いはないだろ。

だって、6年経っても美華は美華だったから。

「……じゃあやっぱり。舞…さんなんですね」

私にも気付いたようだ。

二人の間に、気まずい空気が流れる。

女の子は不思議そうに、美華と私を交互に見ている。

言わなくちゃ。

たった一言、ごめんなさいって、言わなくちゃ。

どんな状況でも、私は沈黙を破ってきた。

それなら、今回だってできるはずなんだ。

たった一言。

それが言えればいい。

でも、なかなか切り出せない、臆病な私がいた。

なんでよ、今は貴志がいる。

独りじゃないんだ。しっかりしなくちゃ。

「……舞さん、変わりませんね。ううん、綺麗になった」

しかし、意外にも沈黙を破ったのは美華。

何か思い詰める様子もなく、どこか澄んだ顔をしている。

その瞬間にわかった。

美華も幸せになれたんだって。

私だけじゃなくて、ちゃんと美華も幸せなんだって。

そしたら、なんでだろう。

涙が溢れ、止まらなくなってきた。

「う……くっ…………うぅ……………」

際限なく涙は溢れる。

ずっと言いたかったのに、言えなかった。

ごめんなさい―――…。

その言葉を言うのに、6年もかかってしまった。

そのあいだ、どれだけ自分を呪い、恨み、追い込んだか。

なんだかんだ言っても、所詮逃げていたのかもしれない。

言いたくても、その度胸がなかった。

でも、神様は私達を出会わせた。

だから、言わなきゃダメなんだと思う。

それに、美華は私を恨んでるとさえ思った。

美華を叩いた私を軽蔑しているとさえ思った。

でも、それでもいいとさえも思ってた。

それで、美華の気が治まるならと。しかし、美華は少し笑っていた。

軽蔑としてではなく、友達に対しての微笑みだったと思う。

それが嬉しかった。

最初の一言、それが嬉しかった。

だから、泣いているのは多分安心したから。

元より、私は独りじゃなかったんだ。

航がいて、桜がいて、貴志や美華がいた。

それに、私が気付いてなかったんだ。

人間。独りでなんか生きていけないのに、気が付いてなかった。

自分を怒ってくれる友がいて、自分を慰めてくれる友がいて、自分を心配してくれる友がいる。

それがどれだけ嬉しいことか。どれだけ幸せなことか。

元々、私は幸せだったんだ。

「ど、どうしたんですか、舞さん。大丈夫ですか?」

美華が私に寄り添ってくれる。

自分を殴った相手なのに、美華は優しい。

「う…ん、大丈夫、だから。ただ、嬉しい……のよ」

だから、言わなきゃ。

せっかくのチャンスだもん。

頑張れ、私。

――――頑張れ!

「アナタに言いたいことがあって―――――。






―――――ごめんなさい…」












〜〜〜Fin〜〜〜


いかがでしたでしょうか。楽しんでいただけましたか?これで、『君のいた冬』は完全完結となります。私はこの小説が読者様、皆様のお心に少しでも残れたらな、と思っています。これから、暇を見つけては、小説は書いてゆくつもりではありますが、何かの拍子に読みたくなるような小説を書いてゆきたいと思っています。どうぞ、よろしくお願いします。もしお暇でしたら、ご感想・ご意見もお待ちしておりますので、お願いいたします。ありがとうございました。













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