第九話「歯車が壊れる時」
「……ようやく着いたな〜」
大した道のりではないが、つい言ってしまう。人の性だろうか。
「親父、今戻ったぞ。それと頼まれた物だ」
皇帝の間に入り、父にレニウスから引き取った、小さな包みを渡す。
「うむ。ご苦労だったな」
書類に眼を向けたまま父が言う。もう慣れたが……
「いい加減、その包みの中身教えてくれないか?」
結果は分かっているが、やはり気になる。帰りの道程で見れば良い物だが、複雑な魔術が掛けられていて無理だった。
しかし、そこまでしなければならないような物なのか。
「時が来たら、な」
やはり、書類に眼を向けたまま父が言う。何を言っても無駄のようだ。
「……分かった。その時とやらを楽しみにしているよ」
皮肉を滲ませた言葉を吐き捨て退室した。
「……時、か」
オルベルクが小さく呟いた。
「ね〜え。少しは休んだら?」
退屈したような声でマーラが言う。
「……」
そんなマーラを無視し、政務を続ける。リオンは皇帝と言う、立場の重さをここ数週間で身に染みて感じていた。
一日の半分はこういった書類などを片付ける政務で必要に応じて、国内の視察、軍の調練の視察。余った時間があれば魔術の研究に明け暮れていた。
まぁ、その魔術の研究はマーラのおかげでかなりの成果を上げている。
「無視なんてひっどーい。女の子に嫌われるよ?」
からかうような口調でマーラが言う。この台詞を何回聞いたことだろうか……
「後で相手してやるから、少し待ってろ」
苦笑いし、リオンが言う。何というかマーラが居ると和む。魔王とは言う物の普段の姿を見ている限りとてもそうは見えない。
人には心を開かない。そう誓ったがマーラに対して自分は心を開き始めているのかもしれない……
「陛下、失礼します」
帝国四将の筆頭セルシウスが入ってきた。
「どうした?」
「申し渡されていた遠征軍の準備が整いました。幸い前皇帝の崩御、リオン殿の即位。どれも他国には漏れていません」
過去のように戦乱の時代ならまだしも、今のような平和な時では間者を放っている国は居ないだろう。だが、絶対とも限らない。だから念を入れどれも極秘に行ってきた事である。規律のレベルが高いベルネスだからこそ漏らさずにできた事だろう。
「……今が機か」
「まさしく」
今が時。この世を変える……時。
「よし、今日の夜間に進軍を開始する。軍勢は精鋭五万で先鋒はアーベル。標的は……アーノルト」
「直ちに」
セルシウスが退室する。
「いよいよ、始まるのね。リオン?」
「ああ、そうだな」
激しい戦にはならないだろう。同盟をも破り奇襲を仕掛けるのだ。
悪く思うなリウス。これも世の為だ……
その夜、ベルネスの帝国軍五万がアーノルトに向け進軍を開始した。
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