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神様に憐れまれて

  


                   はじめから

                  ➡つづきから


 「かわいそう……」


 目前に立つ少女の第一声は……そんな憐れみの言葉であった。


「ここは? ってか俺は……」


 気が付くとそこは謎の空間、あたりは真っ暗なのに、周りだけスポットライトが充てられたかのように明るくなった場所の中心で、俺は目を覚ました。


状況は不明であり記憶は少々混濁気味……現在の状況で解るのは、俺は現在真っ暗な場所で真っ白な椅子に腰を掛けているということと。


 そして向かい合う様に座っている女子高校生の制服を身にまとった女神さまに憐れみの言葉を賜ったということだけだ。


 ちなみに、なぜ俺が目の前の少女のことを一瞬で女神だと看破できたかというとだが、簡単な話、高校生の名札よろしくその胸に大きく~女神~と油性マジックで書かれたネームプレートが付けてあったからである。


「落ち着いて……説明する。 あなたのことを」


動揺する俺に対して女神はそう、機械音声のような淡々とした声で俺を落ち着かせる。


微笑みもなければ表情すら読み取れない氷のような少女、一昔前に流行った無表情少女のひな型のようなそれは、俺の動揺が薄れたと判断したのか、太ももの上に置いてある本を開き、俺について説明してくれた。


曰く。

 

 しがない自宅警備員NEETであるこの俺、佐藤竜騎は。妹の墓参りの帰り道、トラクターにひかれそうになった幼女を発見。 すぐさま助け出すべく駆けだしたはいいが、足元に落ちていたバナナの皮に足を滑らせ、少女を飛び越えてその先の田んぼに頭から落下……ものの見事に泥にはまり……抜け出そうともがくもその努力むなしく泥の中で溺死をしたらしい。


「ちなみに……少女はトラクターを自力で回避した……改めて、可哀想」


「二度も憐れむな俺を!? 余計にむなしくなるだろうが!?」


淡々と死因と死んだときの情景を語られる俺は、惨め以外の何物でもなく、その死因はまさに公開処刑としか言いようのないものだ。 


そのうえ聞いている最中に自分が死んだときの情景が思い出されていくのだからなおさら始末に置けない……死んだショックと死因のくだらなさに声を上げなかったのをほめてほしい。


「そう……ごめんなさい」


 淡々と謝罪をするその姿には、まったくもって謝罪の意は感じられなかったが……俺はとりあえずため息を一つ漏らして諦めることにする……何せ終わってしまったことなのだから。


「あぁ、もういいよ。 子供が無事ならそれでいい。 これで俺がとちったせいで死んじまったなんてことになってたら死んでも死にきれないからな」


「……意外と前向き」


 驚いたのか、目前の女神さまは瞼をほんの少しだけ動かした――ようなきがする――


「前向きというか、死んでしまったもんはしょうがないだろ? そこで終わりなんだったら少しは陰鬱とした雰囲気を醸し出すのかもしれないが、今の状況を鑑みるにまだ前を向くだけの希望は残っていると見た」


「まるで、これから何が行われるか分かっているかのような口ぶり」


淡々と機械のように話していた女神さまは、その時初めて興味深げに……というよりも何かを期待するかのように言葉をほんの少しだけ弾ませる。


その反応で、俺は予想に確信を持つ。


 しがないオタク人生を歩み、そのせいで結果、恋人、友人、肉親なしの天涯孤独ライフを送ることになったのであるが、普段なんの役にも立たないオタク知識がこんなところで輝くことになるとは知識とは本当どこで花開くかわからないものである。

 

そう、つまりだ……俺が今ここに置かれている状況こそ。


「異世界転生って奴なんだろう?」


中学高校時代の青春を無料小説投稿サイトに費やし続けた幻想が今目前に広がっているのだ。


「博識」


無機質に神様はそういうと、話が早いと言わんばかりに、ぺったんこの胸元から何かの紙を取り出し俺に手渡してくる。


ご丁寧に羽ペン付きだ。


「これは?」


「契約書」


「主語を言え主語を。無言で渡される契約書程恐ろしいものはないぞ」


「……分かると思った」


俺の反応に、女神さまは肩を落とす。


「なんであからさまにがっかりしているんだよ女神様……」


というか無表情なのにがっかりしてるところだけわかりやすいな。


「これは異世界転生に対する契約書……」


「転生を希望しますってか?」


「それもある……けれども、これは特別……これにサインをすれば、本来なら記憶も何もかもをリセットされたうえでニューゲームとなる輪廻転生となるところを、今のステータス、現代知識、身体的特徴全てを引き継いで転生する、強くてニューゲームにすることができる」


「それは助かるが……一応聞いとくけど、どうして俺が選ばれたんだ?」


「人を助けようとした勇気は称賛に価する……それに、貴方の人生を見返してみて思ったことがある」


「なんだ?」


「不憫」


「ほっとけ!?」


神様にも憐れまれる俺の人生っていったい何なのだろう。

俺は少しだけ目頭が熱くなるのを覚えるが、ぐっと耐えて半ばヤケクソ気味に渡された契約書とボードを受け取って内容を見る。

――――――――――――――――――――――――――――――――

【契約書】


私は、異世界転生を希望します。


署名・


――――――――――――――――――――――――――――――――

短っ!?


「ちょっと待て、短すぎないか!? 契約書ってもうちょっと色々注意事項がたくさん書いてあったりするもんだと思うんだが」


「面倒……大丈夫、そんなに注意することない」


本当かよ……と俺は問い正したかったが……目前の女神はこの契約書に名前を書かなければ頑としても続きを話すつもりはないらしく、俺は諦めてサインをすることにする。。


「まぁいいや、この契約書にサインするだけでいいのか?」


二ミリメートルほど顎を動かしうなずく女神様……もはや微妙な動きすぎて縦に


揺れたのか横に揺れたのかすらわからないが、話の流れからして縦に振ったのだろう。


「随分と事務的な異世界転生だな……もう少し派手さとか……魔法的なものを用いてもらった方が、こちらとしても実感がわくんだけど」


「……検討し、見直す」


その反応からなんとなくやらないだろうなと思いながらも、どうでもいいやと割り切って契約書にサインをし、女神さまにペンと一緒に契約書を渡すと、女神さまは一度目を通してその契約書を背後の机の上に置く。


名前さえもらえればさして重要じゃないのね、その紙。


「さて、貴方が行く世界は私が作ったもの……一応異世界」


「おいまて、一応ってなんだ」


「異世界はわしが育てた……」


「あ、面倒なのね説明するの」


「うん」


この時ばかりは、女神さまは大きく首を縦に振った。


なるほど、先ほどから態度や行動に違和感がありまくりだったが、この女神様無表情クールキャラかと思いきや……ド級の面倒くさがりやなだけだ。


「危険とか即死ゲーではないし、鬱ゲーでもない。 それに、死んでもちゃんと生き返れる」


「それは安心だ。 ところで、異世界転生っていうと魔王討伐だったりその世界の危機を救うだったりと、目標とかを貸されるはずなんだが……俺はその世界で何をすればいい」


「……何も」


「何も?」


「冒険者として世界を回るもいい。 現代知識を生かして金儲けをするのもいい。 あなたの自由」


「自由度高いな」


「オープンフィールドは好き」


「こだわり持ってるのね……だけど、目的がないとなるとなんだか張り合いがないような」


まぁしかし、目標だとかノルマだとか課されるよりかは気楽でいいのかもしれない。


「あ、一応魔王を倒すというメインミッションはあった」


「あるのかよ……さっきから重要な所で一応が付きすぎだろう」


「気にしなくていいレベルのミッションだから……誤差の範囲」


「いやいや、魔王が誤差ってどんな世界だ」


あれか? 一年ぐらい放置してると寿命で死んだりするのか?


「違う……今魔王まだいない」


「いないのかよ!?」


「パッチ1,2ぐらいで実装する予定」


「せめて完成させてから、実働させろよな」


「ゲーム業界ではよくある話」


「いやまぁ……そうなんだけどさ、結局そのまま未完成のままっていうのもお約束パターンじゃん」


「課金していただければ」


「ガチャ回す感覚で世界に魔王を投下するんじゃありません!?」


 まぁ神様にとって、人間の人生なんてゲームみたいなもの……なのか。


 そこの感覚はよくわからないが、とりあえずまあ魔王がいないのであれば本当に自分の好き勝手に生きていけるからいいのかもしれない。


「一応聞くけど、俺多分このまま異世界転生したとしてもただの役立たずだし、すぐに死ぬと思うんだけど」


世界有数の安全神話が確立されている日本であっても社会生活不適合、かつあんな死に方をした男だ……ニューゲーム開始五分で死亡なんて可能性は容易に想像できる。


一からやり直す転生とは異なり、相当なチートスキルか後ろ盾でも貰わない限り、普通の人間は異世界ではやっていけない。


だが。


「安心して、その世界の知識や地図など、ナビゲートをつける」


「ナビゲート?」


「いわば私の分身体……おいで」


「分身体?」


疑問符を浮かべ、女神さまが何を行うのかを黙って見つめていると。


女神さまはそっと片手をあげ、そっと虚空に文字の様なものを指で書く。


と。


「おはよーございまーーーす!」


小さな妖精のような少女が小さな煙と共にあらわれ、満面の笑顔を振りまいて元気な挨拶をした。



【Grap】: 掴む・一時的に握りしめる・もしくはその様子を表す擬音。

      強く握りしめる様。 強くとらえて離すまいとする様。


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