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約束
 ライタ「凄いかわいっすよね、リンさん! 他の写真も見たいんだけど!」
 グレート「いやー! 俺もギルド内で、こんなに可愛い子がいるとは正直びっくり! 口説いても良い?」

 リン「止めてください! 皆と、もっとお近づきになりたいと思ってプロフィールを公開しただけですよー」
 イチゴ「まじ引く! グレートは、ピュアを口説いてたんでしょ?」
 ドラゴン「俺もそう聞いたよ! ピュアにプロポーズもしたんだって? リンちゃん口説いてる場合かよ?」 

 ライタ「ええ? まじっすか? グレートさん大胆ですね」
 グレート「おいおい! 誰がそんな事を言ったんだよ! プロポーズなんてしてないし」
 イチゴ「二人だけ来なかった日があるじゃん? 正確にはあの夜、ピュアだけ遅く来たんだけどそう聞いたよ! そんな風に、あっちこっちに手を出さないでよ」

 グレート「……何それ? 俺、言ってないし。じゃあ言わせて貰うけど会って即、帰りたかったよ。ゆうこりんに似てるって言っていたのに全然違ってさ……ファンだったし興味があって、会いたかったんだよ。元気さんとも仲良いの知ってるし、友達としてだよ。もう興味もないよ。あんなオバサンだと思わなかった」


 ドラゴン「ホテルまで行っといて、なにを言っているんだか!」
 グレート「何? そんな話までしたわけ? あのオバサン最悪。違うよ、俺の身の方が危なかったんだよ。驚いて逃げたくらいなんだから」

 元気「……今の話は、本当の話?」
 グレート「元気さん! ……何時の間にログインしていたんだ、気づかなかった。ごめん。本当の話だよ。友達として会っただけだから、気にしないで」
 元気「俺はピュアを信じるから」
 リン「元気さんが可哀想です……」
 
 ピュア「こんばんわ! ごめんね! 友達からの電話で遅くなっちゃった。で、リン。なにが可哀想なわけ?」
 リン「ええ! 元気さんです。こんばんわ……」
 ピュア「リン、掲示板見させて貰ったけどなによあれ? 掲示板を汚さないでくれる? プロフィールを書くのに、なんで誘っているような写真まで載せるわけ?」

 ライタ「いいじゃないですか。ピュアさんも載せて下さいよ! ゆうこりんに似ているんでしょう? お願い!」
 グレート「掲示板にルールは無いし仲間内だ。良いじゃないか。リンが可愛いからって僻んでいるの?」
 リン「すみません、私が悪かったんです。削除しておきますね! 今日はこれで落ちます。仲良くしましょう。ではまた」

 ピュア「なにを言っているの? 秋人君、どういうこと?」
 グレート「ああー、リンちゃん可哀想! なんだか急に面白くなくなったな。俺、もうゲームに来ないかも。秋人? 気安く名前で呼ばないでくれる? 困るんだけど? アドレスも消去しといて。ライタ、言ってんじゃん。ゆうこりんに似てないって! 虚言癖でもあるの? 嘘つかないで変な事を皆に言わないでくれる? お、ば、さ、ん。では、落ちー」


 私は画面に釘付けになった。可愛いキャラクターとは似つかわしくない会話。
 額からじっとりと汗が流れ、ラーメンを啜る手が止まった。
 かわりにお酒を手に取り、飲まずには入られなかった。咽越しがいつもより苦い。
 皆はなにを言い出しているの? なんのこと? リンなんて、いないほうがいいじゃない!

 イチゴ「グレートがプロポーズしてないって言ってるんだけど、どっちが本当なの?」
 ドラゴン「ホテル行ったのは本当みたいだけど、良くわかんねぇーな」
 ピュア「勝手に言ってるだけよ! 私には元気がいるし、友達として会っただけ。振られたのを腹いせに妄想しているだけよ!」

 イチゴ「……でもグレートの言ってることも本当のようだったし、優しい彼がそんなにも急変するもんかしら?」
 ピュア「私が信じられないの?」

 イチゴ「そうじゃないけど、グレートはあまりにも具体的に言ってきたもんだから。ごめん、今日はまともに喋れそうにない。整理したい。こんな気持ちじゃゲームは楽しくないから」
 ドラゴン「イチゴが落ちるなら俺も落ちるねーまたねーん」

 イチゴ「じゃあ落ち」
 ライタ「すみません。俺も落ちます。今度は仲良くやりましょうね? ……では落ちます」

 三人までもがサーバーから居なくなり、元気と私、二人だけになった。

 ピュア「皆の言っていることは気にしないで。元気……私は貴方だけなの。愛しているのは貴方だけ」
 元気「……俺はピュアを信じるよ。でもちゃんと現実に会って話がしたい。会えないなら信じない。いつ会えるかも分からないし、もう待てないよ」

 ピュア「貴方のことは本気だから、ちゃんと離婚してから会いたかったのに……」
 元気「そんなことを言っている場合なのか? 会えないまま俺を手放すのか? グレートとは出会えて、なぜ俺とは駄目なんだ? 友達とか本気とか関係ない! 大事なのは今だ。離婚なんて後からついてくるもんだ」

 ピュア「……分かったわ。貴方とは離れたくない」
 元気「じゃあ明日ピュアを迎えに行く。東京駅で待ち合わせしよう。全部を捨ててでも、俺に着いて行く覚悟を持って欲しい。決心してくれたのなら、お前を一生大事に大切にするよ」

 私は夫と子供を捨て、愛する元気に会いにいく。それで良いのだろうか? まだ心は揺れていた。
 でもこれで愛する人と二度と会えなくなるのならば、きっと後悔をする。もう何年も元気のことを信じ、愛し、頑張ってきたのだから。
 
 離婚や子供の問題。取りあえず出逢った後からでも解決してくれるだろう。貯金は300万もある。なんとかなるはず。病院にも、なんとなく行き辛い。義三の事も、いつ夫の耳に入るか分からない……着いて行く時期が訪れたのかも知れない。

 ピュア「……何時に行けばいいの?」
 元気「やっと俺に着いて行く決心がついたんだね。嬉しいよ。準備とかもあるだろうから、東京駅に朝10時くらいはどうかな? 旦那さんは出かけている頃でしょ? 俺もこれから東京駅に向かう準備するから」

 ピュア「そうね。その時間帯なら家には誰もいないから、準備しやすいわ……本当に大切にしてくれる? 仕事も投げ出して着いて行くなんて――ちょっと怖いわぁ」
 元気「仕事ならこっちにも沢山あるよ。特に医療関係なら引っ張りだこでしょう。仙台で暮す覚悟もつけといてね!」

 薬と酒で思考が悪と善で交差し、快楽が勝つ。
 ――そう、未来には幸福しかない。
 それが仙台の地。それだけだ。
 そこで芸能人、元気のサポートを受け、女王になるのだ。

 心配しない夫、母親に興味が無い子供……馬鹿ばっかりの病院、くたくたなジジイの介護業務。
 この生活に、なんの未練があるというのだ!

 ピュア「……分かったわ。仙台でも絶対私達は上手く行く。貴方を一生サポートしていきたい。それがこの何年間、私の夢でもあった。叶うと思うと、心臓がドキドキしてたまらないわぁ……」
 疑心暗鬼の感情を打ち消すかのように、タブレットを5粒また口内に放り込み、焼酎で胃袋へと流した。
 
 もう一人の私がいつも応援するの。
 太っている私が落ち込みそうになれば、貴方は太っていても十分魅力的だと。
 昔から成績が悪く、本当は頭が悪いのかも? と思えば、すかさずそいつは天才と褒め称える。

 もう一人の自分はいつから現れ始めたんだろう。睡眠薬を飲み始めた頃だったかしら?
 こいつがいる限り、私は無敵なんだ。

 元気「その言葉を聞いて安心したよ! 俺の携帯番号教えておくね。090ー○○○○ー○○○○メモしておいて! すぐに準備しなくっちゃね! 明日楽しみに駅で待っているよ」 
 ピュア「こんな日が早くも来るとは思わなかったわぁ。愛してる元気。名残惜しいけど、私も準備しなくっちゃ。また明日ね!」

 元気「じゃあまた。落ちます」
 戦士のキャラクターがいなくなり、ヨーロッパの町並みには可愛い魔法使いだけが一人残されていた。画面からまだ眼が離せなかった。

 明日には元気に会える。あれほど恋焦がれた元気に会える。
 これは夢? 幻? 本当に現実なの? リアルでも魔法が使えたんじゃないのか?
 元気と二人でテレビ画面に一緒に映り、ウエディングマーチのミュージックが掛かる。

 そして一躍私も有名人。
 ……夢みたいだ。
 お金にも一生困らない。子供もまた生めばいい。

 もう一人の私がチアガールのように、応援に拍車をかける。
 ヤッタネ朋子! 薔薇色人生!
 タマノコシ! タマノコシ! タマノコシ! タマノコシ! タマノコシ!

 ――コンコンッ。
「おーい、朋子ぉ?」
 部屋をノックする音が聞こえる。
 なんだよ、気持ちがのってきたところなのにさぁ?
「何? ちょっと待って!」

 急いで携帯を取り出し、画面に表示されている元気の電話番号を新規登録した。
 モニター画面と、携帯を何度も何度も照らし合わせ、確認終了。パソコンをシャットダウンした。

 番号が間違ってちゃ洒落にならないからねぇ。
 誰かが私に成りすますかも知れないし、世の中なにがあるのか分からない。
「お待たせ。なに?」

「さっきお袋から電話があったんだよ」
 まさかあの姑、早速告げ口したのか? ……でもそれは虐待していた自らの首も絞めるはず。まさかな?

「なんだって言うの?」
「おい酒臭いぞ、この部屋。本当に具合が悪いのか?」
「いいから早く、要件を言いなさいよ!」

 ぼさぼさ頭で、くたびれたパジャマを着た痩せこけた夫。こいつとも、もうおさらばさ。ほなさいなら。今日ぐらい良い印象で、別れさせてくれよ?

「親父の具合が急に悪くなったみたいで明日の朝、様子を見に来て欲しいそうだ。親父はお前の名前ばかりを、呼んでいるそうだよ。悪いけど行って貰えないか? 明日休みだったよな?」

 どうせ姑が虐待し過ぎて、おかしくなってしまったんだろうよ。
 なんで私が行かなきゃならないのさ? 明日はビックイベントもあるっていうのに。

「明日は困るよ……用事があるんだよ。悪いけど無理」
「なんの用事があるんだよ? 休みだろ明日? 親父がお前を呼んでいるんだ。悪いけど頼むよ……」

「無理無理! 明日は絶対、無理!」
「……おい。こんな状態は今までに無かったことなんだぞ? 俺が怒らないからって、好き勝手やってきたくせに! お前、年々おかしくなってるんじゃないのか? ゲームのことも何も言わなかっただろう? お前のストレス発散方法がゲームなのかなと思って、大目に見てあげていたんだぞ? お前の用事なんて、どうせゲームだろ? こんな状況になるのなら、嵌る前に止めておくべきだったよ!」

 やっと落ち着いてきたのに、責めないでおくれよ……頭がガンガンと悲鳴を上げる。
「ゲームのせいじゃないよ、病院に行かなくては、いけない用事があるんだよ。その後は、親友の恵美の相談話も聞かなきゃいけないんだよ……」

 苦し紛れに言い訳をした。私にはゲーム以外に趣味がないから、大分か細い逃げ道だった。

「友達と体調が悪い親父、どっちが優先だと思うんだ? 友達も納得してくれるだろうよ。いいか! 絶対に朝一、行けよ? 行かなかったら離婚だからな。り・こ・ん! 離婚届はもう用意してある。お前は俺と別れたかったんだよな?」

「な、なんで急にそんな……離婚だなんて言いだすのよ!」
「堪忍袋の緒が切れただけさ。お前が俺を見る目、切ないよ。頑張って一戸建てを買ったのに、その苦労はなんだったんだよ? 俺だって悲しいんだよ。ゲームに逃げるなよ! 逃げたきゃ朝、離婚届書いてからにしろ! 分かったな。俺はこれ以上もう、なにも言わない。やり直せないところまで、お前はきているんだろう?」

 いつも関心を示さなかったのは、貴方のほうじゃないの! なにを言っているのよ、こいつは!

「ゲームのせいじゃないわよ! こうなったのは……なんでそんなことを今更言うのよ?」
「俺は俺で何も言わなかったのは、お前にストレスを与えたくないのもあった。だが間違いだったと今は思う。俺だってずっと考えてきたんだ。離婚も仕方ないと思っている。叫んでいる親父を面倒見れないのなら、俺達の老後も眼に見えていることだろ? テーブルに離婚届は置いておく。よく考えるんだな」

 バタンと閉められた扉は、まるで囚人が捕らわれた、冷たい氷のような檻だった。

 あの人、何を言っているの? 離婚を突きつけるのは私のはず。まさか旦那の方から、けしかけられるなんて!
 自分から言うのと、相手から言われるのじゃ大分違う。プライドがズタズタだ。
 ふざけるな! 私が捨てるんだよ。
 そして貴方は後悔するんだ。TVで元気と私が並んでいる番組を見て。それとも新聞かしら?

 ――昔に出会った頃の旦那の笑顔が脳裏に横切った。
 ……なんで? なんでなのさぁ?
 突然のプロポーズに、はにかんだ貴方の笑顔。
 子供が出来て、二人で飛び跳ねて喜んだ事。
 一戸建てを買う為に、小さなアパートの狭い部屋で、三人楽しく貧乏生活を送った事。
 綾の小学校の入学式で感動し、夫婦で泣いた事。
 目的達成で一戸建てをやっと手に入れて歓喜に奮えた事。

 思い出がしゃぼん玉のように浮かんでは消えた。
 今更なぜ、胸を締め付けられなくてはならないの?
 ここ数年で、なにもかも諦めがついていたハズなのに……

 ――トモコ? タマノコシヲ、アキラメルノ?
 そうよね。大好きな人と会えるチャンス、見す見す逃すわけにはいかない。
 この腐った生活にウンザリしていたのは私なんだ。

 捨ててやる! 決めたんだ私は! なにもかも捨ててやる!  ステテヤル!
 ――ソウコナクッチャ、トモコ。
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