裏ボス
大きな鏡が壁にいくつも飾られ、辺りには観葉植物の植木鉢が所々に飾られている。日の光が店内を照らし、暖かく明るかった。お喋りに花を咲かせる主婦。ドリンクバーに群がる子供たち。トーストの焼けた匂い、コーヒーの香り。私達はファミレスで待ち合わせをしていた。
「時間を置いて自宅に戻ったら、あったよ。離婚届。こんなに上手く、ことが運ぶとは思わなかったよ」
「慰謝料も財産分与もしなくて良いのだから、儲けものでしょ? 本当だったら貴方は慰謝料を払わなくてはいけない身分だものね。あ! こっち! アイスティーお替り! ……駄目な店員ばかりね? ここ」
「……まさか君だとは思わなかったよ」
「あら、愛する貴方を苦しめている奥さんが、どんな人なのか? 確かめたかったの。良い方向に転んだじゃない。嬉しいでしょ?」
「ああ。でもあいつ、最初はあんなんじゃ無かったんだよ。ゲームをやり始めてから、おかしくなったのかも知れないな。どんどん無口になって……ゲームしか目に入らなくなってしまったんだ。寂しくなってさ、あいつの好きな芸能人の振りをして、どんな世界なのかを見たくなったんだ。……朋子はゲームの世界では、沢山俺に話しを掛けてくれた――初めは凄く、嬉しかったんだよ」
「だから拓也さんは優しさに付け込まれるのよ。私がいなければ、ズルズルと貴方ばかりが我慢をしていたわよ? 本気だった貴方の相談話を聴けたのは、嬉しかったけどね」
普段好き好んで飲んでいるアイスティーのはずなのに甘くほろ苦い。いつもとは違う勝利の味がした。
――ニヤケ顔が止まらない。
「元気のキャラでさ、会おう、会おうってずっと言っているのに、会ってくれなかったんだよ。約束でもしてくれたのなら、俺だとバラして今後の関係や生活について、ちゃんと向き合って話し合いたかったのに」
「不眠症、薬……挙句の果てに、貴方より先に出会った男と浮気だもんね。あっ、虚言癖まであったわよね? あれは怖かったわ」
「もう止められないところまで、いちゃってたね。手がつけられないよ。……改めて掲示板に載せられた君の写真を見た時に、側にこんないい女がいたのかと実感させられたよ。益々君が愛おしく感じたよ……りん、愛してる」
「ええ、これからは堂々と会えるわね。拓也さん、私こそ愛してるわ……」
あんなに喜怒哀楽の激しい奥さんと、真正面からぶつかり合ったら、精神的にクタクタになるだけ慰謝料、財産分与、親権、離婚の話は長引くもの……それだけ貴方を手に入れるのが遅くなってしまう。
元気のことを本気だと、画面越しからもひしひしと伝わってきた。必ず上手くいくと女の勘が働いたの。奥さん、薬で女の第六勘がいかれちゃったんだね? お陰で楽勝に愛しい拓也さんを手に入れられたよ。
待ち合わせに来ない相手を、貴方は今も尚、待っているのかしら?
――夫の影武者をいつまでも……
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