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ラブ・オブ・マネー
作:岡谷




「百円のお釣りになりまぁす。ありがとうございましたぁ」

 コンビニの店員は元気よくそう言った。

 男はお釣りとしてもらったばかりの百円玉を財布の小銭入れの中に入れた。


 ・・・・・・・


(ふぅ〜、やっと引越し出来たよ)

 百円玉の気持ちである。

(一ヶ月もずっと同じ家だとさすがに飽きたな)
 
 お金達の世界では財布やレジなどのお金を入れておくところを家と呼んでいる。また、レジから財布へ、財布から別の財布へと移動することを引越しと呼んでいる。

(どれどれ新しい家の住民はどんな金達かな?)

 百円玉は狭い小銭入れの中を見回した。

(え〜、あいつがいるんかよ。あいつ太っているから家が窮屈になるんだよな。うわっ最悪、二枚もいるじゃん)

 五百円玉のことである。

(あとはチビが四枚に稲穂が三枚か。細かいのばっかりだな)

 一円玉と五円玉のことである。

(それだけかな?)

 百円玉はもう一度よく見回した。すると隅っこの方にもう一枚いるのが見えた。

(あれは誰だ?)

 それは十円玉だった。

(な、なんて綺麗な十円玉なんだ)

 その十円玉は今まで百円玉が見てきたどの十円玉よりも綺麗だった。

(こんな綺麗な十円玉がいたなんて)

 百円玉は十円玉に釘付けになった。俗に言う一目惚れというやつだ。そして、それは百円玉にとって初めての恋だった。

「・・・あ、あ、あ」

 百円玉は十円玉と話をしたくて声をかけようとするが、緊張のあまりなかなか声が思うようにでなかった。

(ど、どうしよう・・・。早く声をかけないとすぐに引っ越してしまうかもしれない。そうなったらもう一生会えなくなってしまう)

 百円玉は頑張って声をかけようとした。

「あ、あ、あ、のッ、あ、あのッ」

 しかし、いくら頑張ってもうまく声がでなかった。っとその時、

(うわっ!な、なんだ!?地震か?)

 この財布の主人が財布を揺すったので部屋の中が大きく揺れたのだ。

(びっくりしたぁ・・・ん?)

 揺れが収まり、ひと安心した百円玉は隣に誰かの気配を感じた。

「・・・わぁぁぁっ!」

 なんと隣にはあの十円玉がいたのだ。今の揺れで百円玉の側に転がってきたのだ。

「ど、どうかしました?」

 十円玉はいきなり大声を出した百円玉に対してそう尋ねた。

「いいいいい、い、や、ややや、な、なななんでも、なななないですう」

 百円玉はパニックになった。

「私、何か変ですか?」

「そそそ、そんなことないですよッ」

「そうですか・・・。あなた、今入ってきたかたですよね?」

「はは、はい」

「よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ」

 百円玉は十円玉から出る優しいオーラのせいで不思議と落ち着きを取り戻していった。

「・・・はぁ」

 十円玉はため息をついた。

「ど、どうかしましたか?どこか体調が悪いんですか?」

 百円玉は心配になり、そう尋ねた。

「いえ・・・。大丈夫です。・・・ただ最近悩み事がひとつあるんです」

「悩み事?もしよかったら聞かせてくれませんか?」

「はい・・・。実は私、好きな人がいるんです」

「えっ、そ、そうなんですか・・・」

 百円玉はショックを受けた。まさか恋の悩みだったなんて・・・。

「それでその好きな人っていうのがこの家のご主人様なんです」

(マジかよ。人間かよ。たしかに好きな人って言ったけどさ)

「以前私はずっとホームレスだったんです。汚い道路の上で毎日を過ごしていました。そして、私はこのままこの汚い道路の上で錆びていってしまうんだと思ってました。しかし、ある日、この家のご主人様がそんな私を拾ってくれたんです。私はすごく嬉しかった。それにご主人様もすごく嬉しそうな顔をしていました。そのときから私はご主人様のことを好きになったんです」

 百円玉は真剣に十円玉の話を聞いている。

「しかし、ご主人様は人間で、私は所詮お金です。そんなことはわかっています。だから願いが叶わないのだったらせめて一秒でも長くご主人様と一緒にいたいんです。でもこの部屋を見ればわかるように十円玉は私一枚しかいないんです。私がどこかに引っ越してしまうのは時間の問題です。大好きなご主人様と離れ離れになってしまうかと思うと私っ」

 そこまで言って十円玉は顔を伏せてしまった。

「・・・・よし。ぼくが何とかしましょう」

 黙って十円玉の話を聞いていた百円玉はそう言い切った。

「・・・ありがとうございます。気持ちは嬉しいです。でもどうすることも出来ないんです」

 十円玉はとても寂しそうに言った。しかし百円玉は、

「いや、大丈夫です。ぼくに任せてください」

 自信満々にそう言った。

「でもどうやるんですか?まさか私をどこかに隠すつもりですか?」

「いえ、そうではないです。単純な話ですよ。要はあなたと同じ十円玉がたくさんいればいいわけですよね?そうすればあなたが引っ越す確率も下がる」

「確かにそうですけど、そんなにたくさんの十円玉をどう集めるんですか?」

「そこでぼくの出番です。ぼくが十円玉十枚に両替されれば良いんです」

「でもそんなのどうやるんですか?あなたが両替されるまで結局は待たければいけないじゃないですか」

「実はこう見えてぼくちょっとした力が使えるんです」

「・・・力?」

「はい。ぼくの好きな時に人間が両替したくなるようになるんです」

 なんとも都合が良い能力である。

「本当なんですか?」

「本当ですよ。これならあなたの願いを叶えてあげられる」

「ありがとうございます。本当に感謝します」

「いえ。そんな感謝されることでもないですよ」

 百円玉は笑顔でそう言ったが、本当は泣きだしたかった。十円玉がこの家の主人と一緒にいたいと思うのと同じように百円玉も十円玉ともっと一緒にいたかったのだ。しかし、百円玉も男だ。好きな女のために一肌脱ぐことにしたのだ。

「それじゃ、さっそく力を使ってみます。・・・・はぁぁぁぁぁぁ・・・・はっ・・・・・・たぶん成功したと思います」


 ・・・・・・・


 百円玉がそう言い終えたと同時に男は無性に両替をしたくなった。そして、ついさっき行ったばかりのコンビニへ再び行き、財布の中の百円玉を手に取った。


 ・・・・・・・


「それじゃ十円玉さん、行ってきます」

「本当にありがとうございます。あなたのことは一生忘れません」

「ありがとう。どうか、どうか幸せになってください」

 百円玉はこぼれ落ちる涙をグッとこらえてそう言った。


 ・・・・・・・


「すみません。これ両替してください」

 そう言って男は百円玉を店員に渡した。そして、店員から両替してもらったお金を受け取りながら、何でおれ急に両替なんかしたくなったんだろう?と不思議に思ったが男は結局気にしないことにした。
 
 こうして男の財布には新しい住民である五十円玉二枚が引っ越してきたのである。




                                    (完)














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