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三話 これから②
 
 剣、というやつは意外と重い。
 言うまでも無く、鎧はもっと重い。
 標準的な長剣で約2.5kg。
 漫画やゲームによく登場する板金鎧――プレートアーマーになってくると身動きが取れなくなるほどの重量になる。約30kgといったところか。もっとあるかもしれない。しかし、そんな重い鎧を着て戦うのは騎馬兵であり、鎧姿が制服であるような騎士たちも普段はもっと軽装であるという。それでも、20kg近いそうだが。

 さて。
 どうしてこんな話をするのか、というと『今の僕にできること その弐 -訓練-』の実行のため、身体に見合った装備一式を選んでもらっているのだ。が、これがなかなかうまくいかない。

「………」

「………すまんなあ」

 前者の沈黙は近衛騎士団の副長、ヴェルド・ブランデン卿のもの。後者は僕。
 僕に見合う武器が見つからないのも当然といえば当然だ。なにせ、筋力が違う。科学技術が発展していく中で、人類は色々なものを衰退させていったが、その中で真っ先に失われたのが筋力だろう。力仕事を機械に任せるようになって生活強度が下がっていけば当然筋力も落ちる、ということ。
 はっきり言って、僕の筋力は城で働くメイドさんにすら劣る。
 つまり、重たくて振れません。持てません。ということなのだ。情けなさ過ぎて申し訳ない。

「……フム」

「………」

 豊かな黒髪に武人らしい立派な体躯を供えたベテラン騎士。
 それがヴェルド・ブランデン卿のイメージだ。紹介してくれたストラトの話では、無口で無愛想ながら信頼できる人物であり、近衛は実質彼が統率している、とのこと。「まあ、陛下はまだなにもしておりませんから忠誠なんてものはありませんがな。はっはっは」という余計な一言がついたが。
 そのヴェルド卿は顎に手を当てて考え込んでいる。僕はそれを黙って見ている。

「陛下。いくつか質問を許していただけますか?」

「許す」

「武具の使用目的は訓練でございますか?」

「いかにも」

 …ストラトと対応が違うって? 偉そうだって? 僕も正にそう思う。しかし、必要なのことなのだとストラトは言った。なにがどう必要なのかはいまいち理解できてないが、変に丁寧に応じると臣下を増長させることになるらしい。誠実さが美徳とされるのは理解ある臣下に対してのみだ、ということなのだろう。なので精々、横柄な態度を心がけている。…子供が背伸びしてるようにしか見えないのだろうけど。

「では、剣に関しましては後ほどお持ちいたします。とりあえず、鎧を何とかいたしましょう」

 城の武器庫にはかなりの量の武具が備蓄されている。僕にはよく分からないが、多分高級品ばかりなのだろう。店の刻印らしきものがちらほら見て取れるが、あまり種類は多くない。多分、王城御用達とかそんな店の商品なのだろう。

(実はこんなところまで、カルテル組んで利益を巻き上げたりはしてないだろうな)

 そんな邪推ばかりが働く。

「陛下」

「なんだ?」

「こちらを」

 すっと差し出されるのは、鎖帷子?
 小さな金属製のリングをいくつも繋ぎ合わせて貫頭衣状にしたもの。リングメイルアーマーとかチェインアーマーとかいう類のやつだ。手にとって見ればズシリと重い。

「普段から身につけるようになさってください。まずは身体をお鍛えになるべきです」

「…どれくらいの重さ?」

「15kgほどでしょうか」

 重い。
 外国人らしく、大柄で立派な体躯が標準のこの世界で僕は小柄な人間になる。前の世界では標準的な部類だったけれど、日本人はそもそも小柄だ。そのことも鑑みての選別なのだろうけど――

「我々は筋力トレーニングを普段から行いますし、それが仕事です。ですが、閣下には他にもなさねばならぬことがおありのご様子。さすれば、日常生活で負荷に慣れていただくのが肝要かと」

 …どうやら気遣われていたらしい。言われて見れば、鎖帷子を構成している小さな鉄環は細かくしなやかだ。擦れ合う音もさほど気にならない手の込んだ一品。
 それに、だ。ただ僕の武具を選ぶだけならば誰かに任せても良かったはずだ。果たさなければならない仕事も多く抱えているはずなのに、そんなことをおくびにも出さずに僕に付き合ってくれていたのだ。

「ヴェルト・ブランデン卿」

「はっ」

「感謝する」

「勿体無いお言葉」

 状況は相変わらず最悪。
 それでも、希望の芽というのはそこらに意外とあるものらしい。
 腐敗しきっているとはいえ、国が一応形をなしているということはそれを支えている人間が居るから。貴族でもブランデン卿のような人物もいることがわかった。腐敗貴族連中が強固だと思っている搾取構造を泥濘に沈めてやるのは大変な困難が付き纏うだろうが、点在している反発心を集めればやれるかもしれない。

 これからやることは勉強と訓練。そして新たな人材集め。
 …しかし、数を集めるとすれば腐敗貴族どもも察するだろう。それをどう隠すかも重要になってくる…。
 問題は山積みだった。


なかなか話が進みません(笑)
異世界召喚系の物語を書いてらっしゃる方々を尊敬します。


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