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嘘斬り姫と不死の怪物 作者:Hiro

嘘斬り姫

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第一章 四話a

「犯人は私だ」
 翌朝、目覚めたアヴェニールにスミがそう告白した。
「あの……なんの犯人なんでしょう?」
 唐突なスミの言葉に、アヴェニールは困惑を隠せない。
「昨晩、きみが寝付いてからトールと一悶着あってな。きみが気にする必要はないが、一応説明はしておこうと思ったんだ」
「はぁ」
 トールがいないことを察しながら、アヴェニールは生返事をする。目の見えぬ彼女には、隣の部屋でトールが血を流して倒れていることに気づいていない。
「さて、私はこれからまた森の見回りにでる」
「いってらっしゃいませ。気をつけてくださいね」
 その声にこもる力はとても弱かった。
 その様子をみたスミがアヴェニールに誘いをかける。
「どうだい、きみも一緒について来ないか?」
「えっ、でも。私が付いて行っては足手まといに……」
「なに、きみが歩く必要はない。私の背中が不服というのならば別だがな」
「そんなことはありません。でも、そんなことをしたら、こんどはスミさんが……」
「不満がないのならば決まりだ。安心したまえ、私はトールよりは紳士だ」
 自らを恐れるアヴェニールに、スミが強引に話を進める。
「それって比較対象があてにならないような……」
 呟くアヴェニールの言葉を無視し、スミは念動力で彼女を乗せ一足飛びに屋敷の外へ出た。
「しっかりと掴まっていたまえ」
 突然の出来事にアヴェニールはあわててスミにしがみつく。
「こんな…駄目です。スミさんまで酷い目に……」
 そう言いながらも、恐ろしくて掴んだたてがみを離すことはできない。
「しっかり掴まっていないと落ちるぞ」
 方角を確認し、走り出すスミにバランスを崩しかけたアヴェニールはより強くしがみつく。
 アヴェニールを乗せたスミは一陣の風となり、彩度のない木々の間を颯爽と駆け抜ける。
 アヴェニールは初めて体験するスピードに恐怖を覚える。だが、しがみついたスミの身体の熱が徐々に彼女を安心させていった。次第に道の体験に心を弾ませるようになる。
「(すごい。もしいま、目を開けることができたならどんな世界が見えるんだろう)」
 忘れていた願いが彼女の脳裏に浮かび上がる。
 なぜ自分は目も見えず、人に触れることもできないのだろうか。子どもの頃はそれをもどかしく思い泣いたこともあった。けれど成長し父親の仕事を手伝うようになってからは、そんなことを考えることはなくなっていた。
「でも……」
「なにか言ったか?」
「いえ、なんでもありません」
 呟きを聞かれたスミにあわててアヴェニールはごまかす。
 幼い頃は不満がたくさんあった。それでも、みなやさしくしてくれていた。
 今だって、スミは人間ではないけれど優しい。トールだって嫌なところがたくさんあるものの、不幸を振りまく自分に自然に接してくれる。
「(人を不幸にするから、自分も不幸だと思っていた。でもこうしてスミさんの背中で風を感じているこの瞬間だけをみれば、きっと私は誰よりも幸福だ。いままで大変なことがたくさんあったけれど、どこかでその帳尻は合うようになっているのかもしれない)」
 スミのたてがみに顔を埋め、意外と柔らかいその感触をアヴェニールは味わっていた。

「さて、着いたぞ。大丈夫か?」
 スミの背中から降ろされた、アヴェニールは地面にへたり込んでしまう。
「スミさん激しすぎます」
「そうだったかスマン。人を乗せたことがなかったのでな。加減がわからなかった」
「あんまり紳士でないのは、よ~っくわかりました。ちゃんとトールよりはマシでしたけど」
 謝罪するスミにアヴェニールはイタズラっぽく言う。
「むっ」
「紳士じゃないっていうか、不器用なんですよね。まるで無骨な騎士様みたい」
 その評価にスミがうめく。その反応をおかしそうにアヴェニールが笑う。
「あっ、花の匂い……」
 そこは微かに花の香りがする場所だった。
「昨日、見回ったときにみつけてな。本来ならもっと暖かくならなければ、花をつけない木なんだが、珍しくすでに咲いていてな」
 そこには灰色の森にあっては珍しい、淡い桃色の花を咲かせる木がたっていた。
 桜に似た小さな花弁が、風に揺れるたびに散っていく。その一枚がアヴェニールの頬に触れる。花を目で見ることはできないが、その匂いだけでも少女の心を和ませた。
「ありがとうございます」
 スミが落ち込んでいる自分のために、命の危険を冒してまでつれてきたのだ。その心遣いはとても嬉しかった。だが同時に自分のために危ないマネをして欲しくはないと複雑に思う。
 しかし、そんなアヴェニールを余所に、催しは終わっていないとスミが告げる。
「まだ礼をいうには早いな」
 そう言うと、スミは魔法を発動させる。幻獣であるスミは、道具も呪文の詠唱も必要なく魔法と言う名の不思議な現象を起こすことができる。
 すると、アヴェニールの脳裏に満開の花が風にゆられ、散り逝く光景が写った。
「これは!?」
 驚きのあまり声を上げる。そんな彼女にスミは何が起こっているのかを説明する。
「本来は、遠くにいる相手に見たものを伝える魔法なのだが、上手くいったようだな」
「すごい、これが花、これが見えるってことなんですね。すごいすごい、こういう時は『キレイ』って言えばいいんですよね!?」
 初めて使う言葉に少女は心を躍らせる。
 そして何度も『キレイ』とその言葉を楽しむように繰り返す。
「どうやら、お気に召してもらえたようだな」
「はい、とっても……。でも、どうしてこんなによくしてくれるんですか?」
 少女の疑問は自然と口から吐き出された。
「ん? そうだな」
 当然のことをしたと思っていたスミだが、問われたことでどうして自分がアヴェニールを気に掛けるのか考えてみた。自分は何故少女を背中に乗せ、ガラにもなく花など見に来たのかという理由を。
 その理由はいつまでもみつからなかった。
 応えを待つ少女の顔を見下ろすと、悪友の醜い顔が思い浮かんだ。すると当然のように理由も思い当たり、その内容に思わず苦笑してしまう。
「私は意外と負けず嫌いなんだよ」
「どういう意味ですか?」
 スミの答えを理解できないアヴェニールは首を傾げ、改めて問い直す。
「昨晩、きみの『触れた者を不幸にする体質』をトールは否定した。それには私も同感だった。だがヤツはそれだけでなく、躊躇なく自分の命をかけて確認したんだ。きみに呪いなんてかかっていないということを。
 それで自らの安全を考え、きみに触れられなかった私は、少しだけヤツに負けた気になったのさ。要するに自分のタメだな」
 トールの実験の結末は、あまりにも馬鹿らしいので伏せておいた。
「そんなことで命をかけるなんて……」
「触れるだけで不幸になるというのも信じがたいが、仮に本物だったとしても、トールは三度…いや、四度生き残っている。ならば私にだって耐えられないハズはない。そもそもどの件もあいつの不注意が原因だ。ならば私にあいつのような目にあうハズがない」
 それを聞いたアヴェニールが屈託なく笑う。
「意外と子どもっぽいところがあるんですね」
「そうだろうか?」
 その評価を少々不服そうに受け止める。
「はい、きっとトールと一緒なせいで普段は気付かないんでしょうけど、そういうところはなんだか男の子っぽいです」
「むっ、男とはそういう生き物なのだ」
「そういう言い訳の仕方も男の子っぽいです」
 顔をしかめたスミであったが、イタズラっぽく笑うアヴェニールにつられて笑いはじめる。
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