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嘘斬り姫と不死の怪物 作者:Hiro

嘘斬り姫

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第一章 七話

 灰色の木々を斬り裂くようにせり上がった丘で、一角獣ユニコーンの白い馬体が月光を反射する。それはまるで一枚の絵画のような神々しさがあった。
「待たせたなスミ、侵入者はどこだ?」
 侵入者を発見したにしては、落ち着いたスミの様子にトールは違和感を覚える。
「トール、実は話がある。アヴェニールのことについてだ」
「ん? あいつがどうしたんだ?」
 トールは怪訝そうにしながらも、スミの話に耳を傾ける。
「彼女はやはりもとの人間たちの街へ返すべきではないだろうか」
「なにを言ってやがる。俺たちだって立派な人間だ。身体はこんなんなっちまったがな」
 トールが腹のでた岩鬼人トロールの姿を自虐する。
「しかし、ここでの生活は普通とは言い難い」
「だからなんだって言うんだ。普通でなけりゃ生きていけないってわけでもねーだろ」
「だが、街にいるよりも多くの不自由を強いるにはちがいない。私もおまえも一日中彼女に構ってやれるわけでもない」
「別にガキじゃねーんだから、一日中べったりだなんて気持ちわりーだろ。それに案外本人もここでの生活を気に入ってるかもしれねーぜ。
 だいたい、どうして突然そんなことを言う? そもそもはあいつを帰らせる方法がないからここにおいてるんだぞ。あいつはひとりじゃ旅ができねー、オデ様はここを離れられねー。おまえはオデ様から離れられられねー」
「実はアヴェニールを街に帰すあてができた」
「なんだと?」
 その言葉にトールが眉をしかめる。
「彼女の関係者を名乗る人間がやってきたんだ。その者は彼女の身を心配する父親の元へ連れ返したいと言っている」
「それはいきなりだな。だが、せっかく手に入れた女だ。オデ様はあいつを手放す気はないぜ」
「本人のためを思えば街に帰すのが得策だろう」
「俺のためを考えれば、せっかく手に入れたおっぱいは手放せねーな」
「やはり、こういう結果になるのか」
 スミの角がきらめくと、突如地面から木が生え、急激に成長してトールを囲う。
「いきなり力尽くかよ。だが、ぬりい!」
 トールは腕輪を金棒に変形させると、樹木の檻を瞬時に打ち破る。
「知ってんだろ。俺を止めたきゃ、いつぞやのように殺す気でやるんだな。代わりに残りの目玉も潰してやんぜ!」
 その挑発に応えるように、スミが眼前から光線を放つ。金棒を盾へと変形させてトールはそれを受け止める。
「なぜわからん、それが本人のためだというのに。ここは呪われた灰色の森だぞ。ここに留まって彼女になんの益がある」
「そういう事は本人の口から言わせろ!」
 トールは吠えると、小石大の魔具を三つ指に挟む。
 それを投げつけると、魔具は光の矢と変わり、片目であるスミの死角から襲いかかる。しかし、螺旋の角が輝くと、元の魔具に戻りと力なく落ちてしまう。
「(ちっ、魔力を散らしやがった。めんどくせー)」
 魔法よりも遙かに少ない魔力で発動する魔具だけに、魔力が減るとその効果は打ち消されてしまう。それをスミは効果的に使ったのだ。
「聞くまでもないことだ。それに本人に言わせれば、いらぬ気を使わせる!」
「気を使うってことは、気があるってことだよ。だったらその意思を無視してんじゃねー!」
「減らず口を!」
「どっちがだ!」
 強靭な肉体と無数の魔具を操るトール。
 俊敏な四肢と強大な魔法を行使するスミ。
 月明かりの下、ふたりの術と力がぶつかり火花を散らし、その余波がまわりの樹木をなぎ倒す。巻き添えを恐れた獣や魔物たちは、巻き込まれぬよう夜の森を逃げ惑う。
 攻防を繰り返すトールとスミ。戦いは拮抗し、どちらが優位に立つこともないまま続く。
 だが、トールはスミの攻撃に違和感を覚えていた。
 スミはトールの回復力の高さを誰よりも理解している。その割に攻撃に込められた火力が低いのだ。その分攻撃の回転が速く、トールが攻撃にまわり難いが、その戦法はスミの実直な性格に合わないように思えた。何よりスミが本当に頼りにする攻撃は魔法ではない。
「(足止めか? ここで足止めするってことは……)」
 トールがスミの意図を察する。
「ちぃ、侵入者ってのは嘘じゃなかったのかよ!」
 アヴェニールのもとへ向かおうと、スミに背をむけるトール。
「逃がさん!」
 スミも目論見が露見したことを察すると、トールの前へ回り込み行く手をさえぎる。
 足はスミの方が断然に早い。仮に魔具で一時的に引き離したところで、すぐに追いつかれることになる。
 そう考えたトールは、ズボンから取り出した巻物スクロールを口に咥えると、両手で印を組み命令語コマンド・ワードを唱える。
分身の術(ブランチ)!」
 巻物に込められた魔術が発動すると、巨大なトールの身体が無数の小人に分裂した。
「なにっ!?」
「そ~れ、逃げろ~」
 驚くスミを尻目に、分裂したトールたちは四方八方へと分かれ、木々の隙間をぬうように走っていく。
「しまった!」
 小さくなった身体は素早い上に隠れるのに適していた。
 どれを追うべきか迷うスミだったが、どれも追わないことを瞬時に判断する。
「(トールの目的はアヴェニール。ならば行く先は屋敷か)」
 先回りをしようとスミは月下の森を駆け抜ける。
 だが、彼はトールがアヴェニールを幻影城へと連れて行ったことを知らなかった。
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