彼の者
先刻の勇気ある者が死んでからはや5年。
男は絶望の中にいた。
彼がラストチャンスだったのかも知れない。
彼がこの世界の希望。最後の一搾りだったのかも知れない。
男がこの世界に生まれ1500年と少し。
まだ『人間』だった頃は良かった。
地位も名誉もあり、日々が満たされていた。
だが、世界が彼を見放した。
友の裏切り、妻の不倫。在らぬ疑いを掛けられ国からも追放になった。
絶望の淵に追いやられた彼は秘術を用いて『化物』になった。
彼は復讐した。裏切った友を、妻を、そして国を。
そして自分が味わった屈辱を人類へと。
いつの間にか、彼は人類の敵に成り下がっていた。
彼はどうでも良くなっていた。
既に化物になり、死ねなくなった憐れなフリークス。
絶望だけが、彼を埋め尽くしていた。
その時。ある者が彼の元へやつて来た。
彼は勇者と名乗った。
強かった。今まで出会った人の中で一番強かった。
もしや自分を殺せる者が現れるのでは?彼は期待した。
次の勇者も強かった。前に現れた勇者よりも強かった。
だが届かない。
次の勇者は異世界から呼ばれて来たと言った。
確かに強かった。様々な奇術に魔術。
見たこともない武器に魔法。
だが、届かない。彼は最期「何でだよ・・・俺・・・主人公じゃねぇーのかよ?チート貰ってtueeeee出来てハーレム作れるんじゃねぇのかよ・・・」と呟き散って行った。
チート?やハーレム?と良く判らない事を言っていたので記憶に残っている。
未だにチートやハーレムは判らないが、何かの能力だろう。
その後も様々な勇者が、勇者達がやって来たが。
未だに私を殺せる者は現れない。
先刻の勇者が一番惜しかった。彼が生きて、あと10年後かに訪れていれば或いは・・・いや。過ぎてしまった事だ。
少し眠るとしよう。あと50年もすれば、新たな勇者が訪れるかも知れない。