一頁目 ダンナと呼ばれた朝の訪れ。(正直驚愕)
俺の十六歳の誕生日に、父は一冊の台帳をくれた。分厚い、黒い革製のカバーがかかった立派なもの。しかし幾分古ぼけていて、生誕記念の日にコレなのか、とも思ったけど口には出さないことにした。何か意図があるのかもしれない。
開いてみると真っ黒な万年筆、そしてなにやら記号や文字が書かれた御札が入っていた。真ん中に『怨敵封殺』とか書かれた札。趣味悪いなあ、とも思ったけどやはり口には出さなかった。世渡りはこれでも上手い方だと自負している。そんな俺に、父は語りかけた。
「いいかな、少年。もうそろそろ君も、自分で考えて自分で行動出来る年齢だろう。だから、この台帳を託す。気負うことはない、気ままにやってくれ。ただ、二つだけ覚えておいてくれないかな。一つ、自分で言ったことには責任を持つこと。二つ、自分の流儀に反することだけはしないこと。正しいのは君じゃないかもしれなくても、心の底から賛同出来ないことには決して首を縦に振ってはいけない。自分を曲げたら、その瞬間から君は君じゃなくなってしまうんだ。……言うべきことはこれだけかな、うん。じゃあ、おめでとう」
翌朝、目覚めたのは肌寒かったからだ。起き上がって周りを見ると家がない。朝もやに包まれた屋外だった。あたりを見回して気づく。俺は自宅近くのゴミ捨て場の脇、そこに布団を敷いて寝ていたのだ。おかしい……昨晩寝入るまではたしかに家の中にいた、そのことは間違いないのだが。
なんでこんな目に遭ってるんだろ、と考えながら身体を起こすと、右手が何かに触れた。見ると、枕元には「後は頼んだby父」と書かれた置手紙が鎮座している。これはアレだろうか。俗に言う捨てられた、という奴か。そうかそうか。あの親父とうとうそういうことをするわけか。
なんで家がないのかとか、不条理すぎる現実を目の当たりにして。俺はまず現状把握よりも現状打開を選択した。
このときになってようやく、俺は世渡り上手な子供でいることをやめたのだった。
「誕生祝いは自分の使ってた中古品をプレゼント。翌日には家ごとドロンか? クッソ、あんの親父ィ……絶対許さん。決めた。次に会ったらあの親父絶対ぶちのめす。思いっきりぶん殴って明日の日を拝めなくしてやる」
我ながら黒いこと考えてるなあ、と頭の一部で冷静な自分を感じつつ、さらに恨みは膨れ上がる。この秋の朝、寒い時間帯に息子をゴミ捨て場脇(しかも生ゴミの日)に放っておくなんて、父親失格ではないかと思う。あー腹立つ。
幸いにも家まではここから二十メートルほどしか離れていない。素足で布団引きずって歩く距離も、それだけでいいということだ。ポジティブに考えればそういうことだ。
「……あれ?」
ところがそこには。
俺の見知った家ではなく、見たこともない家が建っていた。朝もやが晴れ、白い漆喰の壁が徐々に姿を現しつつある。現実を真っ向から否定するような非現実。その輪郭はハッキリと高くそびえたち、一軒の二階建て木造建築が出現していた。うちは平屋造りの家だったはずだ……住所間違えたか? いやそんなことはない。
しかしまるごと違う家だ。俺の家は敷地を囲うのは鉄柵だったのに、瓦を乗せた漆喰の塀まで出来ている。その奥には引き戸が見えたがなぜか小さく、前庭もやけに小さい。それに、道路側(南)に、窓が一つもない。のっぺらぼうに口(引き戸)だけつけたような、そんな造りだ。
ハハハ。あーこれはアレか。
「………………あ、そうかコレは夢か」
そうとわかれば路上でゴロリと横になり、目覚めを待つ。
十七秒で車が来て、運転手の禿げたおっさんに怒鳴られた。どうせ夢の中の登場人物だろうと思ってグーパンチしてやったが、張り手で反撃された。かなり痛い。
いやまさか。こんな不条理な一日の始まりなんて。
「嘘だろ夢だろ。もういい加減起きたい」
「いや、もうあんたは起きてんのさ。ダンナ」
ガバッと起き上がって(いや、まだ夢って可能性はある)後ろを振り向くと、そこには赤茶色の髪を頭の後ろでポニーテールにして、緋色の着物に橙色の帯を締めた女の子が。黒いマフラーを巻いた縁から、ちょっと眠そうな黄色い二つの目で俺を見下ろしていた。
ただ、見下ろすといってもそう高くはない。身長は相当低いようで、俺が立ち上がれば胸くらいまでしかないだろう。百五十センチに届かないに違いない。
「ダンナ、起きな。もうあたしらは準備出来てんだ」
ちょっと舌足らずな、どう考えても子供の声。だというのに、やたらと凄みがある。
あ、俺が話しかけられてるのか。ようやく気がついた。
って、準備ってなんなんだ。
「いや俺はなんにも心の準備デキテナインダケド」
「準備なんてしなくていい。今すぐに『開業』とだけ言やあいーんさ。言え」
空気を震わす凛とした声は、なぜかすんなりと耳に入る。子供の声で、外見もどう考えても小さく幼くて、だというのに。どうしても言うことを聞かなくてはならないような気にさせられる、力強い声でもあった。
まあ、実は声を聴いてから、ビビってしまっていたのだ。初対面の少女相手に。それだけの迫力と意思が、少女の言葉には込められていた。と、女の子は唐突に手拍子を始める。
「ほら言え、さんはい、開業!」
「か、かいぎょう?!」
しまった。ノせられた! いや、別に大したことないか。サギに引っかかったわけでもあるまいし。
なんで慌ててるんだか。しっかりしろ、俺。
……なぜだか一陣の風が俺の横を吹きぬけ、辺りの空気が変わったけど。気にしない。
「ちょっと、今の言葉って何の意味が」
問いかけようとして、俺は背後の自宅(があった土地)から異様な気配を感じ、振り返る。
しかしそこには誰もいなく、能面のように表情のない、窓すら見当たらない家の壁面が見えるだけだった。
「はい開業だ開業!! 新しいダンナを出迎えだー!!」
瞬間、手を叩きながら目の前の着物少女が叫び。俺は自分が何を言ったのかもよくわからないまま。なんだかよくわからないが脳髄に危険信号が発せられる。
「な、なに、コレ、いや、もう、意味わからない」
不条理イベントの多発でショックが大きかったのか、目の前が暗くなった。
いや。違う。
きっと今ようやく目が覚めるんだ。
*
目が覚めた。
そこは昨日まであった俺の部屋よりも数倍広く、綺麗な和室だった。ちなみに布団の中で俺は横になっている。つまりあれか。介抱された感じ。でもまあこれ、夢だろうし。目が覚めた、ってさっき思ったけどアレも錯覚だな。
「おやすみ」
「起きたばかりで何を言ってんさ」
横を見るとさっきの着物少女が正座していた。
……俺が起きるのを待っていたのか。いや、違う。起きてない。コレは夢なんだ。
…………夢。
……こんなリアルな夢が、あるわけ、ない。
「起きてすぐ寝るたあどういう了見だいあんた」
訝しげな目でマフラーの裾からこちらを覗き見てくる着物少女。今はたしかに秋ではあるが、よく考えてみたらマフラーを巻くには早い季節だ。
「いや、これが現実に起こってると思うともう、非常識な夢の世界に逃げ込みたくなって。だってあそこは非常識があっても少なくとも現実じゃないからね。仕方ないよと思えるけど。非現実的なことは現実では起こっちゃダメだと思う」
「なんだ、ここが不服?」
くつくつ笑いながら着物少女は覆いかぶさってくる。何をする気だ、と思ったが、なんと言うことはない。ただ布団を俺から剥いだだけだった。秋の朝特有の涼しげな空気を吸い込んで、俺は上体を起こしてあぐらをかいた。
「不満というかなんというかまず今の自分の状況がよくわからない。あなたは誰、という質問から始めようか」
俺がそう言って指差すと、着物少女は軽く舌打ちした。なんか悪いこと言ったか?
「……斎の奴、引継ぎを適当に済ませたわけか。まあ正直進んでこっちに来そうな人柄じゃない、かあ。ふう。……まあいっか、あたしの名前は姫。ダンナは、有和良春夏秋冬、って名前だろ?」
合ってるけど。俺としては気に入ってない名前だ。一巡りの季節を名にされて。
それになんだか釈然としない。相手は自分を知ってて自分は相手を知らない、って変な気分だ。
「で、ダンナ。あんたはこれからこの宿屋『紅梅乃花弁』の主人だ。そしてあたしはその教育係というものになるんだろうね。これからよろしくお願い、な?」
小首を傾げながらそう説明されたが。
あー。意味わからん。理解不能な状況がやってきた。こちらも小首を傾げたくなる。
「細かく説明してもらえるかな」
「今はそんな時間ないだろ。学校とかいうところに行かにゃならんのじゃないか?」
その時、柱時計がボーンボーン、と時刻を知らせる。時は既に八時。走っていっても間に合うかわからない。
「……遅れそう、って顔だな。仕方ない、一番早い手段を採る。ダンナは早いとこ自分の部屋行って準備して勝手口に出てきな、って部屋がわからない? 勝手口も? 部屋は廊下に出て右に三つ隣、勝手口は廊下に出て左手の階段降りたらすぐ! 十五秒以内に用意せにゃ間にあわないぞ!」
姫(まあ外見から察するに年下だろう多分。呼び捨てでいいか)の横に立ち上がり、思ったよりさらに身長の低い彼女に急かされながら俺は支度をした。寝巻きの作務衣を脱ぎ捨て、壁のフックにかけてあった白いシャツ、臙脂色のネクタイ、水色のブレザーに袖を通して灰色のズボンを穿く。頭は元々ボサボサな髪なので気にせず、階段を駆け下りた。
そこは狭い玄関のような土間で、勝手口という言葉にも納得させられた。
「さ、これに乗っていきな」
姫が指差したのは中型のオートバイ。小柄な俺では乗るのが少し難しそう、というかまず俺は免許を持っていない。心配になって姫の方を見ると、いいから行け、と背中を押された。乗せられたのはバイクの後部、運転手は……いつの間にやら、フルフェイスのメットをかぶったライダースーツの人物が、目の前に座っていた。
「しっかり掴まって行け、ダンナ」
「ちょっと待て姫、ちゃんと帰ったら説明を、詳しく頼む」
「承知した」
「もう意味わからな、ああアアアアアアアアああああああああああああああああああああああ!!」
狭い勝手口前から急発進したバイクは、猛スピードでうちの周りの住宅街をかっ飛ばした。反射的に掴まらなければ、多分振り落とされて後頭部が熟れたトマトのように変形していただろう。それに掴まったといっても油断は少しも出来ない。一秒でも気を緩めれば曲がる時にかかるGで吹き飛ばされる。
嗚呼。
平穏な日々はどこにいったのだろう。
*
無事に学校までつけた奇跡を噛み締めながら、俺はガクガク震える膝を手で押さえて地面に降りる。運転していた主はわりと背が高く、校門前で目だっているのだがまったく意にしない様子だった。
「あ、ありがとう、ござい、ます」
途切れ途切れに礼を述べるが、ヒラヒラと手を振っているだけ。俺はその動作が「気にしなくていい」と言っているようにも見えた。とりあえず、俺はぜいぜいと乱れた呼吸を整えるのに必死になった。
「おや、有和良。朝からずいぶん派手に来たじゃあないか」
聞き覚えのあるくたびれた声。膝に手をついて屈んだ体勢から見上げると、そこにはやけにデカいフレームの眼鏡の奥に、井戸の底のように黒い、半開きの瞳を隠した優男。髪は栗色でパサついており、頭の後ろで短く一つに束ねている。服は俺と同じ制服、しかしネクタイは緩んでいて欠伸をかまし、覇気のない感じが容易に見て取れる。
「辻堂、今日は早いな」
「たまには私だって早く来る。そう遅刻ばかりしていて、気がついたら退学になってたりしては困りものなのでなあ。ほれ、うちの学校は遅刻三回で欠席一回の扱いだろ。……ところで、そちらの女性は誰かな? おまえさん、姉とか居たか?」
辻堂が指差しているのは俺の後ろ、バイクの運転手だった。
ただ、ライダースーツによってくっきりとボディーラインが浮かんでいる。
さっきまではそんな部分に気づかなかった。最初から最期まで後ろ姿しか見てなかった上、恐怖心で気にする暇がなかったとも言える。ひょっとすると、かなりきわどいところに掴まって俺はここまで送ってきてもらったのかもしれない。
……すいません。
「あ、その。とりあえず、俺は学校行くんで。ありがとう、ございました」
内心どぎまぎしながらそう言って頭を下げる。すると、ライダーはメットを取ってお辞儀した。
髪の色は黒く、短めのボブカット。細く傾斜のキツい眉と、その下の青みを帯びた鋭い双つの瞳が冷たい印象を与える。細面な美人だった。
「帰りはお迎えにあがりましょうか、ダンナ様」
問いかけというよりは確認。のびやかな声だが、どこか強い芯がある。
「あ、いや、歩いて帰るよ」
「左様で。ではこれにて」
はきはきとしゃべって、ライダーはメットをかぶると帰っていった。名前、聞き忘れたな。
「ダンナ様って有和良、おまえさんあの女性と夫婦なのか?」
「んなわけないだろ。なんかよくわかんないんだけど送ってもらったの」
「ふーん……まあ、私の守備範囲からは大きく外れてるしどうでもいいんだけどなあ。ま、とりあえず遅刻せずに済んだことを喜ぼうじゃないか。先に行くぞ」
「あ、おう」
フラフラと前を歩く辻堂を追って、俺はようやく、平穏な日々の中に入っていった。
*
と思ったら平穏な時間はあっという間に過ぎ、気がつけば俺は家の前に居た。まあ家と言っても昨日まで俺が父と住んでいた家はもうないのだが。目の前にあるのはやけに簡素で窓すら見当たらない、戸のみがついた殺風景な家。ご近所はなんで何も言ってこないのだろう? 一夜で家がすっかり変わってしまったのに。
溜め息を吐きながら、引き戸を開けて勝手口前の小さな庭のようなスペースに入る。と、朝乗ったバイクが置いてあった。朝のライダーさんはここの従業員なんだろうか……そう言えば、病院に行き忘れた。多分色々考えすぎて気が回らなかったのだろう。なんにしても。
……入る気がしない。かなりいろんな意味で怖い。
「なにやってんさ?」
「うわあ!」
今俺が入ってきた引き戸から現れた姫。怪訝な顔をしながらひょこっとこちらを見上げていて、両手にはスーパーの買い物袋がぶら下がっている。料理でもする気なのだろうか。
「あ、ダンナは特に好き嫌いないんだよな? 斎にそう聞いてるんだが」
「まあないけど。え? 姫が俺の夕飯作るの?」
「そうだよ、一応あたしはダンナの下で昼夜問わず働かにゃならない立場だ」
となると、哀しいことにこれが俺の、初めて異性に料理を作ってもらう経験になるのだろう。といっても何か色っぽい事情があるわけでもなし、どちらかといえば妹とか従姉妹に作ってもらう感覚だが。
「とりあえず入ろう、ダンナ。朝の約束は帰ったらちゃんと説明する、だったしな。夕飯の用意をしながら説明するぞ」
頷くしかない俺は、流行歌を口ずさみながら勝手口を足で開ける姫の姿を、どこか遠い別の世界の出来事のように感じていた。非現実感たっぷりだ。
朝は見回す余裕もなかったが、勝手口の奥には廊下があった。そこに入ってすぐ左を見ると、一家庭のキッチンとしては大きすぎ、いわゆる厨房と呼べる場所があった。
「デカいキッチンだね」
「そりゃーそうさ。お客の食事もここで作ることになってんだから、大きくなんのは当たり前だよ」
その中央にあるテーブルに、どさっと両手の買い物袋を置く姫。材料から連想される料理名は幾つかあるが、それにしても量が多い。一体何人分作る気なんだろうか。とりあえず姫と俺、それに朝のライダーさんを含めるとしてもまだ余りそうな量だ。それらの包装をどんどん破って、終いには全部むき出しの状態にしてしまった。そして、かなり危なげな手つきでそれに包丁をいれていく。
「で、どこから説明すりゃいーんだ? あたしは少しはこっちの仕事を知ってるもんだとばかり思ってたんだが、どーにもこーにもダンナは反応が薄い。ひょっとして、この宿屋の仕事については斎からなにも聞いてない、と?」
「斎って父さんだろ。俺は父さんが普通にサラリーマンやってるって聞いて、それをずっと信じてたんだよ。だから、宿の仕事なんてさっぱり。ついでに言えば、なんで突然に父さんが失踪したのかもわからない」
俺がそう言って返すと姫は頭を抱えた。包丁持ってるし、危ないって。
「斎の奴め……きちんと引継ぎを済ませてからここに連れてくる、って言っただろぉが……くっ、あいつを信じたあたしらがバカだったんだ。あーイライラするあのボケカスクズとーへんぼ」
「あー! で、ここはなんなんだよ? 宿屋って言ったけど。突然に家がなくなったり代わりにここの宿が現れたり、不条理なことばっかりだ。普通の宿屋じゃ、ないんだろ?」
なんだか父さんに向けて恨み言を呟き始めたので、俺は話がわき道に逸れないように話題を振った。幸いにも姫はそれに乗ってくれたので、俺は自分の親の仕事仲間から愚痴や恨み言を聞くという、かなり辛い状況になることを回避出来た。
いくらダメ親だとわかっていても、他者の口からそれを聞くのはやはり辛い。
「――そうさな。ごふん。えー、ここは、どっかとどっかの間にあって誰かと誰かの間にある。そういう宿さ。客は神格の精霊から一般人まで幅広く、料金は誰であろうと変えない。公正公平、誰もがのんびりするための場所。それがここ『紅梅乃花弁』だ。ダンナ、あんたはここの六代目主人になったんだよ」
意味不明。
タンタンと鳴り響く包丁の音が、俺の理解力も削ぎとっているのだろうか。
……そういえば何を作っているのだろう。どうやら、鍋料理を作ろうとしているらしいが。そこは理解できる。材料とかから判断して。多分間違ってはいまい。
ただ思うのは、白菜をみじん切りにする必要性は皆無だろうということだ。
……いかん、意味不明な出来事に遭遇して理解しようという心持ちが失せていく。
「急に言われてもわからないのか。まあ仕事内容はおいおい説明するとして、とりあえず今は基本的なことを頭に入れてもらうぞ。この世界にゃな。精霊とか幽霊とか、一般的にはいないとされるものが実在するんだよ。で、ここはそういう人外の者も含めて宿泊させる宿屋。世界の狭間に位置し、日々放浪して客を探す生きた宿屋。そういう場所だよ」
いきなりそんな幻想的なこと言われても。生きた宿って。
「とにかく、わたしたちはここで働いています。あなたの先代、有和良斎様に拾われて、従業員として働いているんです。そして、この宿屋の主の地位はこの、台帳と万年筆を託された有和良の家系の人間のみが継げるのです。即ち今のあなたが、わたしたちの主人ということになります」
後ろから唐突に発せられた声に驚いて振りむくと、黒い着物に身を包んだライダーさんが立っていた。帯は白色、割烹着も着ている。すると姫が持っていた包丁を手渡し、あっさりキッチンの占有権を明け渡す。格好から察するに、どうやらライダーさんが調理担当らしい。……そりゃ、さっきの姫の手つきは、とても客に出せそうなものが作れそうになかったしな。よかった。
「そういえば、朝送ってもらった時に名前を聞いてなかった。俺の方の名前は、もう知ってるんですか?」
頷いて肯定。知られて嬉しい名前じゃないが。
「わたしの名は葛葉です。よろしくお願いいたします、ダンナ様」
長身を折り曲げて深々と頭を下げてから、葛葉さんはまた調理作業に戻った。姫とは違って落ち着いているし、俺よりも年上のようだ。なんとなく、対応を丁寧にしなくては、と思わされる。
「まあなんにせよ、あんたが新しいダンナになったんだ。これから宜しくな」
「え。まさかこれで説明終わりなの? あんなファンタジーな説明を聞かされて、信じろと?」
「ファンタジーも何も、事実なんだからしょーがねーだろ」
そう言って姫は肩をすくめ、マフラーを巻きなおすと二階に上がっていってしまった。本当にこれで説明は終わりか。放浪の宿屋ってなんだ。精霊も宿泊って。そもそも有和良の家系はなんなんだ。
……なんだか知恵熱が出そうだ。と、そこで葛葉さんが助け舟を出してくれる。
「食事の支度はわたしがやっておきます。今日は姫についてきてもらって、宿の大体の間取りを掌握できるようにするといいでしょう。いきなりこんな状況になってしまって焦る気持ちも、わかりますし。食事は出来上がり次第、連絡をいたします。夕食の席上でまた少しずつ説明もしましょう」
「そっか。わかった、葛葉さん」
「葛葉と呼んでいただいて結構です。あなたがダンナ様なのですから」
少しだけ、この人と話してるとまだここは普通な世界なんじゃないかと思わされる。
多分それは、この人が丁寧に対応してくれるからだろう。こちらもそれに返そうという心持ちにはさせられるけど、それは決して不快なものじゃない。むしろ嬉しい心持ちだ。だから、なんとなく『さん』とつけてしまうのだけれど。
「葛葉さん、年上だろう?」
「わたしは今年二十歳ですが、あなたは雇い主です。どうぞ呼び捨てにしてください」
なるほど。ならそうしよう。
……それにしても羨ましい長身だ。四つ年上とはいえ、女性相手に身長で負けるとちょっと哀しい。そんな俺は百六十四センチしかない。多分、葛葉は百七十弱はあるだろう。分けて欲しい。切実に。
「じゃ、行ってくるよ」
「迷ったりしないよう注意してください」
「たかだか宿屋で迷うことはないと思うけどな」
まあ変わった宿ではあるようだけど。俺は厨房の戸を閉めて、二階に向かった。
二階への階段を上がって、手前から三部屋目が俺の部屋、だったな確か。自室にあったものはほぼ全てここに移動されていたが、今までと違って和室なのでなんだか落ち着かない。
しかしこの宿、ありえないくらいに広い。俺の住んでいた頃のここの土地はここまで広くなく、三十坪くらいしかなかったはずなのだが。
「これは、信じるしかないな……」
「そーゆーことさな。世界の狭間に位置するこの宿は、勝手口を一定の場所に設定してあるだけ。それ以外の部分は全て世界の狭間をさまよう、風変わりな宿さ」
左に見えた日本庭園に面した窓、そこに座った姫がぼやく。吹いてくる風に髪がなびいて、とても優雅に見えた。口調でほぼその雰囲気は台無しになったけど。あとその説明は聞いてもよくわからない。
「今は、客はいるの?」
「んにゃ。三ヶ月くらい前から斎は『そろそろ息子に継がせる』とか言ってたから。一週間前に営業を休止して、斎は旅に出るとか言い出す。今はどこにいるやら。で、あたしらは休暇。宿の中でゴロゴロしたり実家に帰ったり、みんな思い思いに過ごしてたんさ。
ところが今朝、突然にあたしらの宿が勝手口だけダンナの家があった土地に固定されたんだよ。今日までは散々世界の狭間を漂ってたのに、だ。で、休業から今日まではそんだけしか起こんなかったから、今はいねーなあ」
くりくりと髪をいじくりながら、姫はぼんやりと庭を眺めている。世界の狭間の宿屋、か。
父さんに渡された台帳を開く。カバーがボロボロなわりには中は新品同様で、パラパラとめくると父さんの字が見えた。どうやら、客の入りについてとか、仕事の反省とかが書かれているらしかった。
「わりと、真面目に仕事してたんだ」
「性格はいー加減なクセに、斎は仕事だけは几帳面にしてやがったよ。おかげで、帰るのが遅くなったりする日もあったろ。悪かったね」
「別にいい。父さんは『自分はサラリーマンだ』って俺には嘘ついてたけど。仕事から帰って来ても結構充実した表情で寝てた。その前に酔っ払うのが大半だったけどね」
そうか、と呟いて姫は苦笑した。その横顔に俺もつられて微笑み、やがて互いに向き直った。
「姫、ここの宿の中案内してくれないかな? ちょっと好奇心が湧いてきた」
「りょーかい。とりあえずは大浴場とか遊技場、それに表玄関とかを回るこったな」
ぴょんと窓から下りた姫に先導され、俺は広い宿の中を探索に出掛けた。
「ところでこの台帳って、何のために使えばいいんだ?」
「さあ? 先代の斎はことあるごとにメモしてんのは見たけど。それ以上はよくわかんないよ」
やたらと広い宿の中は五、六分歩いてもまだ廊下が続いていたりする。そしてこの宿は空から見ると五枚の花弁の形に広がっているらしく、客用はそのうち四棟。今居るのは『花』『鳥』『風』『月』に分かれた客用の棟のうち、俺や従業員用の棟である『雪』から見て東にある『風』だった。まあ方角はあんまり関係ない(世界の狭間、つまり普段の世界とは異なる空間だから)とのことだが、勝手口は南の方角にあったことから俺はそう捉えている。
「でも宿のダンナって何をすればいいのかわからないな」
「そこは教えてもいいけど、自分で見つけてもらわないといかんだろ? 仕事の究極形ってのは、そういうこったろ」
「はいはい」
フラフラ歩くうち、気づくと階段を下りてきていた。そこは広いロビーになっており、赤い絨毯が敷き詰められている。視界の奥には曇りガラスがはめ込まれた大きな引き戸があり、そこがどうやら表玄関であるらしい。当然、その横には受付があった。
ここだけ見ていると、たしかに普通に旅館や宿屋として山奥で営業していてもおかしくはない。ここだけなら、だが。
「従業員ってどれくらい居るんだ?」
知らず、口は動く。新しい環境に慣れ、ここで生活していくために無意識に声を発してしまったのかもしれない。環境順応能力って恐ろしい。
「固定の面子は六人。うち二人が男。残りが女だ。時たま、旅費稼ぎとかで臨時に面子が増えることもあるけどよ。基本的に客はそんなに多くないから少人数で事足りてんだ」
「宿自体はこんなに広いのに、か? 掃除とか大丈夫?」
「ま、そう心配するこたない。ダンナ、あたしらはきちんと仕事してるから」
そう言って姫はけらけら笑っていた。俺もつられて軽く笑い、その後は大浴場やその外にある露天風呂、そして卓球台がなぜか四面も置かれた遊技場などを見て回った。軽く姫と卓球をしてみたが、毎日やっているらしくその腕前はのんきな温泉卓球の枠を逸脱していた。
と、俺の眼前に紙飛行機が飛んでくる。廊下の窓から舞い込んだそれは、開いてみると「夕食準備完了」と書かれていた。
「葛葉、夕食の用意を済ませたみたいだね」
誰に言うでもなく――いや、あの顔はものすごく嬉しそうだ。多分自分で言って自分で愉しんでる。そんなに美味いのか? ともかく、俺は上機嫌な姫の後ろについて、夕食の香りが漂ってくるさきほどの厨房に向かった。
ダイニングテーブルには鍋と五目御飯が置かれていた。食卓につく人数は三人だが、それにしては随分と量は多い。大体、鍋は鍋でも中華なべくらいのサイズがある。
「さっき言ってた、残り四人の従業員も来るの?」
俺が尋ねると姫は既に肉を取りにかかっており、自分の皿に山のように積んでいた。いかんせん身長が低いためか、大きく机の上に身を乗り出しているのがどうにも子供っぽい。そして取った肉をふーふー吹いて冷ましつつ、俺の問いにようやく答える。
「いんや? 残り四人は休暇になったから、ってそれぞれフラフラしてんだよ。実家に帰ってたり思い思いに過ごしてる。まあ、今日の朝に開業宣言をしたんだから、それが聞こえて戻ってくんだろ」
「どこまで俺の声は聞こえてるんだ」
「世界の狭間のどこまでも。物質的な次元での話じゃねーんだから、距離はあんま関係ない。あの一言には、この宿という生き物を冬眠から覚ます『言霊』が込められてたんだ。恐らく、世界の狭間全てに、ここの宿の開業はもう伝わってるさ」
……前から思ってたんだが。世界の狭間ってよくわからない。どういう意味だろ?
「世界の狭間とは一種の異空間です。簡単に説明するなら、この世で見える蜃気楼、それが具現化してもうひとつの世界となった、と言えば少しは解かり易いでしょうか。通常なら触れることも叶わぬ空間ですが、ひょんなことからそこに入り込んだり、そこの姿を見る人がいます。よく言われる神隠しというやつですね」
「そんなに顔に出てるか、俺?」
言うことだけ言ったらもぐもぐと食べるばかり。意外に葛葉は厄介な相手かもしれない。
しかも今の説明でわかったことは、俺にはわかることは一つもないということだけだ。
と、話に夢中になっていた。俺も食べよう。
ん?
「まあとりあえず今日はお客も来ねーみたいだし、食べ終わったからあたしは風呂入って寝る。もし客が着たりとかなんかあったら呼んでくれな。じゃ」
「ちょっと待て」
箸を机に置き、俺は背後の厨房出口へと駆け出していた姫の、着物の帯を掴む。
「なんだ、ダンナも風呂か?」
「いや、まあそれは後から行くけど」
そう返すと、姫はちょっと口を尖らせて、俺をじろっと見据える。
「……のぞくなよ」
「そんなことするか。大体おまえみたいなガキに誰が興味あるもんか」
「あ、姫の琴線に触れましたね」
「え?」
クルッとこちらを振り向く。その動作で俺の手は帯から離れる。
なぜだ。
俺よりも二十センチは小さいはずのその身体から、刺し殺されそうな殺気を感じる。
「……え?」
「姫はあなたと一つ違いです。十五歳ですよ」
「こんなナリで!? というか! そうじゃなくて! 俺が言いたいのはなんで食事が始まって十分少々であれだけたくさんあった鍋の中身が消えるのか、というか葛葉も姫もからだ細いのにどこにあれだけの食事が入っでうッッッッ?!」
振り返って、葛葉を見ながら、話したのが、運の、尽き。
こんな、小さい、からだに、どこに、これ、だ、け、力、が。
「……忠告しておけばよかったですね。すみません、ダンナ様」
出来れば、水月を殴られる前に、言って。
*
本日三度目の目覚めだ。
和室で目覚めてもまあ、何も違和感を感じなくなってきた。たった一日でどれだけ馴染んでるんだ、俺。
「てて、もう夜か」
一人ごちて廊下に出る。うぐいす張りという奴なのか、歩くたびにキイキイと音が鳴った。窓の外には月。黄色い明かりを落とすそれを見つめながら、ふと俺は病院に行き忘れたのを思い出した。……決して精神科に行くつもりじゃない。今日一日めまぐるしく過ぎて、すっかり日常生活を忘れてしまった気がするだけだ。
「……ま、いっか」
踵を返して部屋に戻る。部屋は、元々俺は所持品が少なかったためか服を入れたタンスとちゃぶ台、学業道具一式と布団、あとは少々大事な物を入れた桐の小箱のみ。中身は通帳と印鑑だ。
机の上を見ると、台帳が置かれていた。ここまであの二人のどちらが(両方かもしれない)運んでくれたのか知らないが、そのときについでに持ってきてくれたのだろう。厨房に置きっぱなしだったから。
「う。寝てる間に汗かいたな」
風呂は天然温泉だと聞いた(異空間にあるのにどうして湧いてるんだろ)。一風呂浴びてくるのもいいかも、しれない。
俺は廊下を歩いて『風』の棟に移ってから階段を下りる。一階の広いロビーに出て、絨毯を踏みしめながら廊下に出る。さきほど来たときに確認したのだが、風呂は一定時間しか従業員は使えないらしい。今は一応客もいないし開店休業中、ということで好きな時間に姫たちは風呂を使っているらしいが。
それって、接客業を営む者としてはちょっといけないんじゃないだろうか。
「って、なんだか俺もダンナって仕事を真剣にやろうとし始めてるなあ」
カラカラと軽快な音を立てる引き戸を開け、脱衣場に入る。鏡に映るボサボサ髪で目の細い俺の顔に、なぜか死相を見たような気がした。
*
「はあ……」
「なに溜め息ついてんですか、姫」
一方、風呂場。白く濁った温泉に浸る姫と葛葉は、そよそよと吹く風に耳を澄ましつつ、夜空を仰いでいた。満点の星空と月は、世界の狭間に位置するこの宿からでもよく見える。むしろ、空気の汚染された『外の世界』よりもきれいに見えた。
「いや、だってさ。ダンナが可哀想で」
滑らかな白い肌を湯で磨きながら、姫は大きな瞳をゆっくりと閉じる。
「それは、たしかにそうですね。あの方は斎様から何も教わらずにこの宿に来てしまった。準備も出来ていないあの方にわたしたちは『開業』とまで言わせ、勝手に引きずりこんだ」
「有和良の家系の宿命だ、って言っちまえばそうなんだけどよぉ……そんなん、割り切れないぞ、フツー」
ざば、っと音を立てて湯から上がる姫。各所平坦な体型はとっかかりが少ないせいか、タオルも巻きつけづらいらしい。両手で胸元(というほど大きくないが)にタオルをおさえつつ、腰まで伸ばした赤き髪を手で梳く。
その横に葛葉も湯から上がる。こちらの体型はむしろとっかかりが多く、タオルを手でおさえる必要もない。身長も高い。姫はなんとなくそちらに目をやって、続けて自分の身体を見る。
「……ホント、割り切れねーよな、フツーに」
「な、なにがですか?」
「わかってて言うとそりゃ嫌味にしか聞こえないぞ、葛葉」
じとっとした目で葛葉を睨む。自分の各所に視線が突き刺さっているのを感じて、あ、これはつらい、と葛葉は思った。普段は宿の従業員ももう少し多人数で入浴するため、こうして詰問責めにあうこともないのだ。
「昔はわたしだって姫みたいな体型でしたよ」
「そりゃいつのことだよ?」
「……中一くらいですか」
溜め息をついてもう一度湯に沈み込む。顔半分まで沈んでしまった十五歳の職場仲間を見つめて、これでも一応サバ読んだんだけど、と思う葛葉。本当のことを言えば、葛葉は小五くらいで姫の現在の体型を突破している。
少し間をおいて、浮上した姫はぽつりと呟いた。
「なあ。ダンナがいなくなったら、ここの宿も」
「間違いなくおしまいでしょうね。だからこそ、わたしたちは勝手な自分たちの都合であの方をダンナに仕立て上げている。危険かつ見返りの少ない、この仕事を」
「とんだ疫病神だな、あたしら」
そう言って自嘲気味に姫は微笑う。それを見て、葛葉はむしろ強い目をしてみせた。
「ならば、その分わたしたちはサポートしましょう。あの方に続けてもらうためにも」
「じゃあ仕事すっか。たしか、男湯に清掃用ブラシ置いたままだったろ。取ってくる」
*
風呂は室内に一つ、露天風呂が一つのつくり。サウナは隅に定員四名くらいのがあった。
「やっぱり露天風呂だな」
身体をさっさと洗って、肌寒い外に出る。露天風呂は飛び石をしばらく歩いた先で、湯気を出しながら待っている。さっさと浸かって温まりたい。自然と足も速くなる。と、横から衝撃を感じてよろけた。
「ぅん?」
横を見ると、赤茶色の髪が跳ねているのが見える。
ぶつかった拍子に外れかけたタオルを、はっとなった様子で掴む。
ばきっと嫌な音を立てたが、俺は首を反対方向に向けて全速力で回した。
「……」
「…………」
「なあダンナ。……見えたか?」
「まさか」
横目でそちらを、見るんじゃなかった。頬染めてこちらを見上げられると弱る。意図しなくても上目遣いになる身長差が疎ましい。それに、俺はシラをきるのがすごく苦手だ。
「発展途上だな、とかは」
「少し思った」
やっぱりしくじった。
「なあダンナ。そこいると邪魔だ。ちょっとどいてくれやしないか」
べぎっと嫌な音を立てて、あばら骨に衝撃が来た。
*
結局のんびり湯に浸かることも出来ず、俺はそそくさと風呂からあがった。その後厨房に行って何か飲もうかと冷蔵庫を漁っていると、後ろから姫がやってきた。一瞬眉の角度が上がり、口がへの字に引き締まる。ただ、頬だけが赤く染まっていた。
女ってやつはズルイ。そういう顔をされただけで、こちらに非がなくとも謝らなくてはならない気にさせられる。
「すいませんでした」
「別に、いいけどよ」
寝巻きなのか、少し薄手の白い浴衣に着替えた姫。俺の後ろから手を伸ばし、大型の業務用冷蔵庫の端においてあった牛乳を取る。コップも使わず、そのまま口をパックにつけて飲み始めた。
俺も飲もうと思ってたんだけど。なんか飲みづらくなった。
「仕事」
「え?」
紙パックをダイニングテーブルに置いて、姫は呟く。
「あたしも葛葉も他の従業員も、仕事だけはきちんとやる。だから、ダンナを、やっててくれるか」
顔を背けてしまっているため表情はわからない。
「突然にこんな仕事をさせられて戸惑うだろーけど。色々大変なこともあんだけど。でも、他にあたしらは頼れる人がいないんだ。ダンナがいなくなったらそこでおしまいなんだ。だから、自分勝手なのもわかってるけど、頼む。ここで、主人をやって、ください」
ただ、なんとなくだけど。小さな背中から必死さは、伝わってきた。
「……力不足だろうけど俺もやらせてもらうよ。そこは心配しなくていい」
返答を聞いて、姫は振り返って顔を輝かせた。俺はやれやれと肩をすくめる。
「そっか。なら改めて、よろしくな」
「ああ」
こうして俺は、とうとう正式に宿屋の主人になった。
本当は気乗りしなかった。どんなことをするのかもわからないし、さっき姫は危険とも言った。
でも。ただ一つ言えること。
姫は真剣に、俺以外には頼れない、俺に頼るしかない、と言った。
この程度で決断するなんて、やっすい構造の頭だと思う。でも、頼られたのだ。
その事実が俺に仕事というものをやってみる気にさせた。父さんに出来て俺に出来ないこともない。
かくして、俺は受難の日々を背負ってしまった、らしい。
はい、というわけでこんにちは。時間帯が夜の方とかもいるかもなのでそういうの関係ナシな言葉で挨拶をば。
アロハ。
初めての方は若輩ですがよろしくお願いします。久しぶりの方はお元気でしたか私は元気です訊かれてませんねハイ。
何はともあれ今出会えたことに感謝、今後ともよろしくお願いします。ではまた次回〜
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。