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  Flow 作者:森カラ
第十章 鬼ごっこ 八
 自分の手に余る動揺を、反射的に出来るだけ隠そうと何かを言いたかったが、開いた口からは何の言葉も出てこなかった。
目の前の誠大の雰囲気も再び剣呑(けんのん)なものに変わっている。

「いや、俺が見たのはオンラインゲームの中でのことなんだけど」

 僕の様子に少々慌てたのか、誠大は力なくだが笑顔を滲ませながら言った。
それを聞き、とりあえず僕は大きく胸を撫で下ろした。

そしてぼう、とした頭で、誠大は今、境界線にいるのかもしれないなどとぼんやり思う。
救い上げたい、という気持ちと今の向井を肯定してやりたいという気持ち。

それらのせめぎ合いが今の誠大に、この危なっかしい空気となって表れているのかもしれない。
思いながら、動悸を落ち着かせるように、深く息を吸った。

「全ては俺を救うためだと言いながら、殺してたんだ」
「誠大を救うため?」

 誠大は頷きはしたが、唇は納得のいかないときのように歪ませながら、

「そう、救うためだって。本当のリアルを見せてやる、なんて言っていた。けど、分からないんだ。龍が何でそう言ったのか。俺の何を救おうってのか……そのオンラインゲームをすることで、龍は俺をどうしようっていうんだろう」

「それは売ってるゲームなの?」

「いや、分からない。何というゲームかも分からないんだ。一見して雑な作りに思える所もあったし、とても市場に出回っているゲームとは思えないな。無料のオンラインゲームでも、最近はかなり綺麗なのを見たことがあるし。でもゲームの内容が内容だからか、妙に殺伐としたものに見えたのかもしれない」

「何なんだ、それ? 個人で作ったものだとか?」
「ああ、その感覚に近いかもしれないなあ」

 けれど、誠大はまだ自分の表現したいこととしっくりきていないような表情をしていた。

 一方、僕は突然始まった“ゲーム”の話に全くついていくことが出来ていなかった。
 確かにゲームに没頭する向井像というのは、受け入れるのに努力を要する程結びつかないものだったが、それよりも気になるのは、その「ゲーム」という響き自体には、何ら危険な感じは受けない、ということだった。
しかし、目の前の誠大はひどく怯えている。

 大体出回っているゲームなんて、その大抵が何かを殺さないと目的の達成できないようなものばかりだ。
今更驚くべきことではないだろう。

一体、向井のやっているというそのゲームが、誠大をここまで苦しめる理由は何なのだ。
きっと彼だからこそ感じた何かがあったはずだ。
 僕は率直な疑問を誠大にぶつける。

「人殺しって言っていたけど、そのゲーム上では何が行われているの」

「パッと見る限りは普通のゲームだよ。戦士がいて、商人がいて、魔法を使う奴もいる。でも、戦いが終わった後が普通じゃないんだよ。
 簡単に言うと、そこにオンラインで集まっている奴や、コンピューターが配置したアバターを殺した後、変わった売り買いが始まるんだ」

「売り買い? 一体何の」

「被害者の持っていたものは勿論、人肉まで、全部がその対象になる」
「人肉って言ったって……ゲームなんでしょ?」

 僕は思わず大きくなってしまう声を抑えることが出来ず、少々身を乗り出して言った。
そのせいで安定の悪いテーブルが揺れ、丼の上に乗っていた箸がテーブルに落ちて間抜けな音を上げる。誠大はそれを無機的に見つめながら、

「勿論そうだよ。人肉って言ったって、全てゲーム上でのことだ。
 ゲーム内で動き回るアバターは、いくつかの世界の中を旅することが出来るらしい。商人になる奴や狩りが専門のハンターとして動く奴とか様々みたいだった。
 でも何より見てみぬふりを出来ないのが、殺し合いをして倒した相手の肉を売ったり、高価な物を奪ったりすることでプレイヤーのレベルが上がるってことだよ」

「何なんだよ、それは。どんな人が参加してるの、そんなゲーム。聞いたことがないよ」
「俺だって初めて見たよ、あんなのは」

 誠大はそう言って笑った。
いつもの僕なら、それにつられてヘラヘラと笑ってやり過ごしただろう。

けれどとても笑顔を作る余裕などなかった。
“人肉”や“殺し合い”といった殺伐とした単語が、終わりに近づいたパズルのピースをはめるときのように、軽快にあるべきところに収まっていく感じがして、己の無気力を嘆く暇もない。

「人肉を求めて、まるでハイエナのように集まるんだ、そこに参加しているたくさんのユーザー達が。ゲームだって分かってても吐き気がしたよ。
 一番高く売れるのは、脳や傷ついていない心臓らしい。あとの部分にはほとんど値段はつかないみたいだから、龍は興味がないようだった。ああ、でもゲーム内にも現実世界と同じように犯罪者と呼ばれる者がいて、そいつらのものだと、腕や指でも相当いい値で売れる場合があるらしい」

 誠大はそこまで言うと、頭痛に悩まされているかのように、指先でこめかみの辺りを何度も押して、長いため息を()いた。

 未だ僕は流れ込んでくる情報の一つ一つに、全く意味を持たせられないでいた。
想像を膨らませるのは得意な方だと自負していたが、今回ばかりは想像が誠大の独白に追いついていかない。

まるで小さな子供に戻ってしまったかのように、目に映る、自分を取り巻いている世界の大きさに、ただ足が竦んだ。

「ますます向井が分からなくなってきた」





また更新が遅れてしまい、本当に申し訳ありません。
書いている本人が、前回の更新の内容をまるっきり忘れているという笑えない状態ですが、生暖かい目でお付き合い頂けたら幸いです。

台詞を書くのが非常に苦手です……。
よく、「台詞だけ読み進めて意味が通る(流れが分かる)ものだと良い」などと聞いたことがありますが、お読み頂くと分かります通り、台詞だけ読んでいても全く意味が分かりません。開き直ってどうする。

突然愚痴ってすみません。
話のテンポが悪い分、もっと早く更新できるようにがんばりたいと思いますっ。ではっ。
WEB拍手



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