第七章 プレイ 一
その後、どんなに待っても誠大からの連絡はなかった。
それを知ったのは随分後で、僕は携帯を握り締めたままどうやら寝てしまったみたいだった。
ただ身体が鉛のように重く、頭が押し潰されるように痛む。
ゆっくりと身体を起こすと、おかしな体勢で寝てしまっていたせいか、首の付け根と腰が軋むようにひどく痛んだ。
腕を伸ばして静かにカーテンを開けるともう空はうっすら白み始めており、だが分厚い雲がいつも以上に空を低くさせている。
僕はまだ重い浮腫んだ瞼をゆっくりと閉じて昨日を反芻した。
拭いようのない不安が闇の中で蟲のように蠢いている。
何かとんでもなく良くないことが起こっているような気がして仕方がなかった。
今日は一月十一日。時刻は朝の五時に差し掛かるところだ。
僕は未だ握り締めていた携帯をようやく離すと、パソコンの電源を付けてインターネットに接続した。
ディスプレイの光が真っ暗なこの部屋に妖しく届くと、途端に嫌な焦燥感が心臓を鷲づかみにして無理矢理動かしているような感覚に襲われる。
とりあえず昨日の事件の続報が出ていないか一通りの情報サイトで検索するが、これといって新しい情報は補足されていなかった。
僕は昨日の飲みかけのもう温いミネラルウォーターを嫌に渇いた喉に流し込むと少し迷ってある掲示板を覗いた。
そこは北高に通う生徒しか知らないような、小さなコミュニティー掲示板だ。
最近になって徐々に閲覧者が増えてきたのか、日々新しいスレッドが立てられている。
そこから僕は迷わず昨日の事件に関係のありそうなスレッドにマウスポインタを合わせてクリックした。
書き込みのほとんどが噂好きの野次馬程度の盛り上がりか、下らない揚げ足取りの嵐で僕は流し読み程度にスレを読んでいた。
だがある箇所で止まらざるを得なくなった。
自分の中にある気持ちの悪いざわついた感情が名前をつけられたみたいにはっきりと型にはまるのを感じた。
89:aki:2006/01/11(水) 03:32:59
ていうかさ、Sの奴こんだけ騒いでもらえて良かったじゃんね
90:名無し:2006/01/11(水) 03:34:12
やめとけよ、そういうこというの
とかいう俺も>>89に便乗
91:名無し: 2006/01/11(水) 03:38:43
>>89
同じく
92:jin:2006/01/11(水) 03:39:00
>>89
とかいうお前が犯人
93:aki: 2006/01/11(水) 03:39:28
でもぶっちゃけ誰が犯人だと思う?
94:名無し: 2006/01/11(水) 03:42:18
案外学校の奴だったりして。
95:名無し: 2006/01/11(水) 03:42:53
>>94
そういうお前が犯人
96:shiho: 2006/01/11(水) 03:45:04
ていうか2−9のスレッド見た人いる?
やばくない?
97:名無し: 2006/01/11(水) 03:45:10
詳しく!
98:名無し: 2006/01/11(水) 03:45:19
なになになに?!
99:shiho: 2006/01/11(水) 03:46:01
何かSと揉めた人がいるらしい。
その人が犯人とかいって祭りになってる。
これは明らかに向井のことだ、と僕は思った。
震える手で慎重にマウスを動かしながら、動揺からか、目の前でミミズのように蠢く文字たちを必死に判読しながらすぐに自分のクラスである「二−九」のスレッドを開く。
252:名無し:2006/01/11(水) 03:05:12
S先生って特に目立った人じゃないよね
253:名無し:2006/01/11(水) 03:08:16
結構キレやすかったよね?
前に校門指導で「寝坊した」いったらキレられたよ
254:名無し:2006/01/11(水) 03:09:00
ていうか何でみんなあのこと覚えてないの?
256:名無し:2006/01/11(水) 03:09:27
いいづらい
257:名無し:2006/01/11(水) 03:09:57
すんげえキレたよね
ていうか○○は一体何したの?
見えない位置だったから知らない
258:名無し:2006/01/11(水) 03:10:45
知らない
でもSがすごいキレたのは覚えてる
すっごい怖かった
259:名無し:2006/01/11(水) 03:11:32
てかやめない?
何か遊んでたんでしょ?
それか携帯いじってたとか
260:名無し:2006/01/11(水) 03:12:05
でも別に事件とは関係ないと思うんだけど
261:名無し:2006/01/11(水) 03:12:58
>>260
え、そりゃそうでしょ
262:名無し:2006/01/11(水) 03:13:09
確かに
そんなことごときで人殺されても困る
ていうかそういうの想像できないような奴じゃん、アイツ
263:名無し:2006/01/11(水) 03:14:00
でもSのあのキレようは異常だったでしょ
祭りになるのはしょうがないよ
それぐらいのインパクトだった、あれは
そうだ。
そう思いながら忘れていた酸素を肺に送り込むと、頭の芯が痺れるようにジジジと痛むのを感じた。
そうなのだ。僕らにとって「斉藤」のことですぐに思い出されるのは向井との諍いだ。
けれど向井のあの激しい怒りを帯びたような顔を見たのは、本当に極数人のことと思う。
彼のあの凄まじい顔の理由や斉藤のあの異常な怒りの理由を今僕が考えても、それは机上の空論でしかない。
ただ何故か見過ごせない、ただならぬ悪寒を拭いきれずにいた。
まさか向井は事件に関わっているとでもいうのか。
下らない疑問が僕の穴という穴から駄々漏れる。
一度形になった言葉はそう簡単には消えてくれない。
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