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第一章 向井龍之介 一
一月十日、火曜日。
その日僕は向井龍之介と日向誠大と共に駅前のファーストフード店にいた。
まだ店内に人は少なく、うっすらと聞こえてくる流行りの音楽がより一層その場を空虚なものにさせている。
外は今日から仕事初めや始業式とあってか、まだ正月ボケの抜けない顔で必死に走るサラリーマンや学生の姿が多い。
そんな中制服を着て堂々とコーヒーを飲む僕たちの姿は少々浮いていたかもしれない。
なぜなら僕たちはまだ高校二年生だからだ。
しかし、そんな僕らを特別咎めるものなんていない。
実際、まだ店内に人が少ないせいもあるだろうが、奥のキッチンからは僕らなど気に留める様子もなく店員たちが楽しく談笑する声が聞こえてきていた。
同日、午前九時。
駅に隣接した簡単な自転車置き場の見える、店内奥の角の席に僕らは座っていた。
そもそもここにいるのは誠大が学校に行くのが面倒臭いと言い出したのがきっかけで、それを聞いた向井が何も言わずに向かいにあったマクドナルドに入っていってしまったからだった。
僕はどちらでも良かったのだが、誠大が向井の後を追って走っていってしまったので、何となくその後を付いて行ったのだ。
僕らは特別仲が良いというわけではない、と僕は思っている。
元々僕は誠大と仲が良く、向井とは高校二年生になってから誠大の友達ということで一緒に行動するようになった。
誠大とは高校一年生で初めて知り合い、同じクラスで隣の席、というベタな境遇から話をするようになった。
だが僕は話をするとすぐに誠大とは気が合うことを確信する。
趣味も好きなものも、ノリも合ったからだ。
大袈裟かもしれないが、誠大は僕の友人として百パーセント、完璧だった。
知り合って間もない頃は誠大と話をする度に、それが下らない話の最中でも誠大と出会えたことを感謝せずにいられなかった。
僕はそれまで友達というものに恵まれたことがなかったのだ。
だからどうしてもこの幸運が運命的なものに思えて仕方なかった。
しかしきっと誠大は僕と同じようには思っていなかっただろう。
なぜなら誠大は誰とでもすぐに打ち解けられる性格で、クラスの人気者だからだ(いや、もしかしたら学年中かもしれない)。
それもあり、誠大には友達がたくさんいた。
だから彼も僕と同じようにそういった感情を僕の知らない誰かに持っているかもしれないのだ。
しかし彼は学校内でのほとんどの時間を僕と過ごしていた。
いや、冷静に言葉を選べば、ただ行動を共にする相手に僕を選んだという所だろうか。
しかしそれでも、誠大のその行動は僕の勝手な「運命論」を増長させるには十分だった。
僕たちは休み時間も下校時まで一緒にいて、たくさん話をした。
お互いの趣味のような砕けた話から哲学的なお堅い話まで何でも話した。
外見は派手に見えて(本人が好んでそう振舞っているのだが)、彼は常に色んな事を真剣に考えており、時折発せられる鋭い意見や頭の回転の速さに圧倒させられることもしばしばだった。
また、難しい問題に突き当たっても彼は自分の中に答えがでるまでとことん向き合い、戦う所があった。
本人は「俺はこの通りくどい性格だからね、こんな俺を知った女子は俺のことを避けるよ、きっと」なんてふざけていたが、僕の知る限りそういった真面目な部分は他の人間の前では一切見せようとしなかった。
そのギャップが僕に彼への興味をより一層引き立たせ、どんなことをしていようとコイツは頭が良いのだな、と思わせた。
その内一年があっという間に過ぎ、僕たちは二年生へと進級し、再び誠大と同じクラスになったことを僕は心底喜んでいた。
そして彼もまたそれを喜んでくれているように見えて、尚更胸が弾んだ。
だが、それもつい最近のことのように思っていたが、僕たちも春からはとうとう受験生になる。
そして中途半端な冬休みは足早に終わりを告げ、今日から高校二年の三学期の始まりだ。
僕は冷ましていたアップルパイの中身のりんごをズズズと啜りながら、向井にチラリと視線を向けた。
向井はちょうど誠大の目の前に細長くしなりとしたフライドポテトをかざしながら、無表情の目のまま口を開いたところだった。
「なあ、この日常の中に俺らが求めるものなんてあるのか」
向井はどこを見ているというわけでもなく、視線を宙に浮かせたままふと呟いた。
その顔に表情はないものの、妙に怒りを含んだもののように感じて、僕は一瞬持っていたアップルパイを握りつぶしてしまいそうになった。
「また、何言ってんだよ。朝っぱらからあんま難しいこと考えてんじゃねえよ」
誠大はまるで向井を小ばかにするような態度で首を傾げてみせた。その顔には少し焦りの色が見て取れる。
「(あ、まただ)」
僕は夏を過ぎた辺りから時々誠大に向井の前で慌てているような、どこかビクビクしている印象を持つことがある。
それは誰もが分かる変化ではなく、多くの時間彼と共にいた僕だから分かる微小な変化のように思えた。
しかしどうしてそう見えるのかは分からない。
ただ僕の中ではっきりしていることは、自分はどうも何を考えているのか分からない向井が苦手だということだけだ。
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