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恋愛仲介部
作:MOR



恋愛仲介部の奮闘


一学期の終業式を後一週間程に控え。
睡眠に対する意欲抜群の態度で部室で一眠りしようと思い部室の扉を開けた俺に
部長氏はこんなことを言い出しやがったのさ。

「甲子園に行くぞ」
いつものことなので唐突なのは十分承知だが…。
どうも最近は加減ってものを考えなくなってきたらしい。
「試合観戦に行くのか?」
そんな筈は絶対に無い…断言できるが一応聞いておこう。
「いや、参加する」
ほらな、やっぱり…。
奴と付き合い始めて既に三ヶ月が経つが一向にこいつの発言の一貫性が発見できない。
いや、できてしまったら人間として終わりの気もする。
「どういうことだ?」
壁に寄りかかって小説を読んでいた叶野に聞く。
「聞いての通りですよ」
分からんから聞いたんだがな。
「まさかこんな訳の分からない部活が甲子園に出るのを学校側が許可をしたとでも言うのか?」
神崎家の力か…叶野の働きかは知らんが俺にとって迷惑極まりない。
「先生、詳しい説明をお願いします」
説明好きのお前が説明しないなんて…珍しいこともあるんだな。
「えっとね簡単に説明すると、野球部と試合をして勝ったら予選に出れるみたい」
先生は夏の暑さも吹っ飛ぶような冷静な口調でそう言った。
…マジですか?
「あのなぁ…なんで甲子園なんだ?俺たちは熱血球児じゃないんだぞ」
「そんなのは知ってる、聞くがお前は甲子園と言ったら何を想像する?」
「そんなのテレビ中継とか…」
まさか…テレビに映って恋愛仲介部の知名度を全国区に広めようとしてるんじゃないだろうな…。
「テレビに映って有名になる」
ははは…そのまさかでしたよ。
「お前の言いたいことはよーく分かった、だが一つ言おう」
「なんだ?」
「人数が足りん」
そうさ、人数さえ足りなければ試合どころの話じゃない。
それにこんなけったいな部活に手を貸してくれるようなお人よしはこの学校に存在しないのさ。
「確かに…俺、お前、神崎、叶野、影島、先生、マネージャー、の七人か…補欠を合わせてあと三人は欲しいな…」
こらこら…池上はともかく先生まで頭数に入ってるのかよ…。
「それでは僕が調達して来ましょうか?」
いらん、余計な事をするな叶野。
「いや、大丈夫だ既に心当たりはある」
なんですと…こいつに頼れる人間が存在していたとは…世界は広いって事か。
「おい…心当たりって…」
誰を連れてくる気だよ…。

てな訳で部長はその心当たりとやらに話をつけに行ってしまわれたので
俺が帰ろうとしていると奴は一度戻ってきて
「これからグラウンドで練習な、帰ったら恋愛仲介部から除名だ」
なんて言い残して行きやがったからなぁ。
別に除名できるなら直ぐしてもらいたいが
神崎さんを一人この魔の巣窟に残すわけにもいかんので我慢するとしよう。

張り切ってグラウンドに出たものの…。
練習と言ってもみなさん素人な訳でして…。
いったい何からすればいいのか検討もつかない状況ですよ…。
「それではみなさん、グローブです」
叶野は大きなダンボールを持ってきたかと思うと中からグローブを取り出しみなさんに配っている。
「おい、これどうしたんだ?」
と、俺が聞くと。
「経費で落としました」
なんの経費だ…その前にこの恋愛仲介部によっていくら校内の予算が無駄使いされているか提示してくれ。
「それではキャッチボールでもしましょうか…お相手をお願いします」
仕方ないか、神崎さんが運動音痴なのは知っているからここは叶野とするとしよう。
「それでは行きます」
叶野が放った球は偉く普通の球で吸い込まれるように俺のグローブへと入って行った。
「それっ」
俺も…まぁ適当に投げ返す。
それを何度か繰り返していると奴が戻ってきた。
「連れて来たぞ」
予想の範囲内だったが…。
「今度は野球かい?いつも面白そうでいいなぁ」
なんて言う井上栄治と
「アンサン、ちょっと…俺まだ生徒会の仕事が…」
奴に引きずられている田中の姿があったのさ。
「これで九人揃った、よしみんな守備に着け、今からノックをする」
「そんな唐突に…まだポジションも決まって無いんだぞ」
「じゃあ今決める」
「どうやって?」
「とりあえず、俺は4番だから…」
お前が4番なのは決定事項なのかよ…。
まぁ奴が勝手に決めたポジションは次の通りだ。

1番、影島、レフト。
2番、神崎さん、ライト。
3番、田中、キャッチャー。
4番、部長、ピッチャー。
5番、俺、セカンド。
6番、叶野、サード。
7番、池上、ショート。
8番、先生、センター。
9番、栄治、ファースト。

と、まぁこんな感じになった…。
奴とバッテリーを組むことになった田中を哀れに思うね。
そんなこんなでノック開始。
「行くぞっ」
カキィンと乾いた金属音がして球が真っ直ぐ飛んでいく。
…って…あれ?
「どうやら、ホームランの様ですね」
ボソッと呟くな叶野、三塁の癖に二塁の俺に話しかけてくるな。
「すまん、飛ばしすぎた、もう1回行くぞ」
再びカキィンと音がして球が飛んでゆく。
今度はライト前方向にって…。
「神崎さん危ないっ」
「えっ?」
まったく打球が飛んでくることを予想できなかったのか
はたまた取る気が最初からなかったのか神崎さんは無防備状態。
助けに行きたいが間に合わない。
バシィとグローブに球が収まる音がして俺は愕然としたね。
「え…あれ…取れちゃいました」
顔を守ろうととっさにグローブを前に出したのか神崎さんは球をちゃんと取っていた。
「ナイスキャッチです、神崎さん」
叶野が微笑を浮かべて拍手をしている。
「ほら、どんどん行くぞっ」
奴は休む暇も無く、次々と球を打ってくる。
「くっ…」
セカンド直に飛んできた球をとると手が痛かった。
野郎…こんな球を神崎さんに向けて放ったのか…許せん。
なんて考えてる暇も無く、どんどん球が飛んでくるので
それを捌くのがやっとでとても余裕が無い。
ある意味地獄の特訓とも言える…。

「よし、終了」
の声が聞けたのは辺りがすっかり暗くなってからだった。
結果を言うと俺と池上と叶野はそれなりに球を取れていた。
田中は論外、ちなみに影島と先生の方へは一球も飛んでいかなかった…なぜ?
それと一番驚いたのは飛んでいった打球は少ないものの全てをキャッチした神崎さんである。
「野球…上手いんですね」
と、言うと。
「初めてやったんですけど、いっぱい取れてよかったです」
なんて言うもんだからなぁ…この人は。
それはそうと…こんな練習が何度続くか分かったもんじゃない。
一応試合の日程でも聞いて置くか。
「なぁ、試合とやらはいつやるんだ?」
「明日」
「ちょっと待て、いくらなんでも早すぎるだろ…もっとこう練習を積んだりしてだな…」
「じゃあ明日は9時にグラウンド集合だ、遅刻したら影島が呪いをかける」
本当にしそうなことを冗談で言わないでくれ。
いや、部長は本気で言っているのかも知れないが…。
その前に聞きたいんだが…俺の話の途中で解散ってどういうことだ?

帰り道、いつもの様に神崎さんと帰っているのだが
残念なことに今日は+αが一緒にいるのさ。
「明日のことですが」
喋りかけてくるな、俺は身体中に疲れが溜まってお前の相手をしている余裕が無い。
「…なんだ?」
「あなた的にはどう考えていますか?」
「回りくどい…なんの話だ?」
お前はもっと親切に話をした方がいいぞ…。
「万が一にですよ、僕たちが野球部に勝ってしまったら…どうします?」
「知らん、どうとでもなるだろ」
「いえ、少し困った事態になりますね」
「困った事態だと?それなら俺は奴と出会ってから半永続的に困った状態だが」
「…そうですか…でも、これはかなり重要な問題なんです、僕たち生徒指導係がどうしてこの部活に在籍しているかはご存知ですね?」
「ああ、この間お前に聞かされたばかりだ」
「そう、僕たちは比較的に生徒の監視がしやすく、そして周囲から何の疑問も抱かれない部活…それが理想的な環境なんです」
疑問を抱く前に俺たちの所業に呆れるのが大多数を占めていると思うが…。
「つまり、知名度が上がると本職の活動がし難くなるんです」
「じゃあ負ければいいだろ」
叶野は少し困ったような顔で
「それでは困ります、あなたもご存知の通り部長さんはとても不安定な方です、もしかしたら部活を解散…なんてことも十分に考えられます」
そうなった方が俺を筆頭にみなさん大喜びになると思うけどな…。
「全ては奴の気まぐれだろ?だったらどうなるかは分からないじゃないか?」
それが分かったら誰も苦労はしていないね。
「あくまで確率の問題ですよ、それで僕から提案です、こういうのはどうでしょう」
俺の耳元で叶野は自分が考える最高の策を述べた。

「…できるのか」
「いえ、できるのか…ではなく、出来なければなりません、そのためにもあなたには頑張ってもらいたいのです」
と、言われてもねぇ…。
「それでは、また明日、お互いに頑張りましょうね」
爽やかな笑みを見せて叶野は去って行った。
頑張ろう…と言われても…どう頑張りゃいいんだか…。

翌日…遅れるなと言っていた奴が遅れてくるのは既に定説になっており…。
もちろん部長は待ち合わせの五分後にやって来た。
「全員揃ってるな、それではユニフォームを配る」
おいおい…わざわざユニフォームまで作らんでも…。
しかもご丁寧に背中には「恋愛仲介部」と堂々と書かれているし。
で、全員揃ったのでグラウンドに整列。
野球部のみなさんは負ける気なんか毛頭無いような感じの面構え。
そりゃそうさ、俺たちに負けたら野球部が第二の恋愛仲介部の拠点になっちまうからなぁ…。
「それではこれより、恋愛仲介部対野球部の試合を始めます、礼」
礼を終えて俺たちはベンチへと入ってゆく。

1回の表は俺たちが攻撃。
一番打者である影島がバッターボックスへと入ってゆく。
相手ピッチャーなのだが…投球練習を見た感じでは軽く140キロは出ているんじゃないだろうか…。
本当に打てるのか?
「プレイボール」
審判の一声でピッチャーがボールを投げる。
そしてボールはパスッと音を立ててミットに吸い込まれる。
「ストライク」
1球目は見逃し…というか影島はボールを見ていない、眼中に無いって感じだな…。
「ストライク」
続く2球目もストライク、さて、後がなくなったぞ。
そして相手ピッチャーが余裕の表情でストライクゾーンに球を放った瞬間に。
カキィンと音がした。
影島はバントをし球はボテボテのピッチャーゴロ。
どんなバカでも初球からバントはないだろう…と思っていると
「セーフ」
いつ、走ったのか分からないくらいの速さで影島は一塁にいた…。
おいおい…なんだよあの俊足は…。
「影島君は以前、陸上部でしたから」
と俺の疑問を打ち砕くように隣に座っている叶野が言う。
「初耳だぞ」
「ええ、僕も昨日まで知りませんでした、恋愛仲介部に誘ったのは三年生時でしたから」
お前は同じ中学じゃなかったのかよ…。
それより、影島が中学時代は陸上部にいたなんて…意外すぎるね。
続く二番打者は神崎さん…バットを持つ手が細い…本当に振れるのだろうか?
さすがに相手ピッチャー殿も神崎さんが打てる筈は無いと思っていたらしい…。
完全におちょくっている下投げと来たもんだ。
ゆっくりと弧を描きキャッチャーミットに入る。
「ストライク」
確かに…神崎さん相手ならそれでいいかも知れないが…野球部の方は驚いていただろうさ。
いつもまにか影島が盗塁をしてセカンドにいたんだからな。
それによって少し緊張感が戻ってきたのか影島を警戒しつつ。
今度は本気の投球のご様子である。
「えいっ」
へなへな〜とバットを振った神崎さん…当たるはずも無く。
「ツーストライク」
影島も盗塁をせずに二塁にとどまっている。
そして最後の1球も打つことなく。
「スリーストライク、アウト」
悲しそうにベンチに戻ってくる神崎さん。
「…ごめんなさい」
いや、謝られても…。
「大丈夫ですよ、まだ始まったばかりですから」
「はい」
神崎さんが俺の隣にちょこんと座ったのと同時に田中がバッターボックスへと入る。
「見ていてください、お母さん!!この田中剛、必ずしもホームランを打って見せます!!」
と、意気込んだのはいいものの…。
「スリーストライク、アウト」
1球もバットに掠りもせずにあっさりと田中はアウトになった。
「この役立たず、罰として部室掃除一週間を命じる」
「そんなぁ…」
かわいそうに田中よ…。
さて…ツーアウト二塁…ここで主役の登場である。
「よし、来いっ」
意気込んでバットを深く握る…。
もしかしてホームラン狙いか?
そして投手から鋭い内角低めの球が投げられる。
完全に腰砕けだが…。
「ジャストミートっ!!」
カキィン…あらまぁ…完全に場外ホームランを打ちやがった。
「見たか、俺の真の力を」
なんてファースト、セカンド、サードの野球部員に言いながらバックホームした。
これで2対0…もしかしたら勝てるんじゃないのか…?
そして俺の打順さ。
「ストライク」
一球目は打球の速さを見ようと思ったのだが…。
ダメだ…打てる気が全然しないんですけど…。
「ツーストライク」
ブゥンと俺のバットは空を裂く。
くそぅ…完全に真ん中を狙ったが今度は変化球か…。
「振って振って振りまくれー」
無茶を言うよ部長さん。
「スリーストライク、チェンジ」
まぁ初回の攻めは俺の不甲斐無いバッティングセンスで幕を閉じたのさ。

そして1回の裏、俺たちの守備である。
投球練習を見たところ…奴の投げる球はかなり速い…速いのだが…。
「ぎゃあ、あ、危ないって…」
なぜ、田中の顔面に向かって投げられているのだろう…?
まぁそれはともかく、試合再開。
「スリーストライク、アウト」
一番打者はどうやら様子見らしく打ってはこなかったが、二番打者になにやら指示を出しているらしい。
「大したこと無いな野球部も、おとなしく恋愛仲介部の踏み台として消えるべきだ」
なーんて奴が挑発するもんだから…相手もやる気になってきたみたいだぞ…。
「カキィン」
「なっ…」
ほら見ろ、余裕を出しているから打たれるんだ。
しかも打球はサードゴロ、軽やかに叶野が取ったのはいいが。
一塁は既に埋まっていた。
「どんまい、こういうこともあるさ」
なんて自分を慰めていた奴だったが…。
続く三番打者にも長打を打たれ。
ワンアウト、一二塁…。
結構不味い展開じゃないのか?
「くそう…打てるもんなら打って見やがれっ」
と、やけくそに放ったボールを4番打者に軽くホームランにされ2対3と逆転されてしまった。
「タイム」
叶野が審判にそう伝えて部長の元にみんなを集合させる。
「どうした、打たれてるぞ」
俺が奴に言うと
「どうやら俺は限界みてぇーだ…」
なんて某マンガの様なセリフを言いやがった。
いくらなんでも早すぎる、俺の記憶が正しければお前は10球も投げてない筈だが…。
「困りましたね…では、誰がピッチャーをやりますか?」
叶野が聞くが名乗り出る者なんて一人も
「俺がやる」
いたよ、妙に目立ちたがりやな田中…。

田中の投球は普通が似合っていた。
が…それはかなり打ち易い球で野球部の集中砲火をくらい。
現在は2対7…しかもワンアウト…このままではコールドゲームにされてしまうのでは?
と思いたくなるぐらい爽快に打たれている。
「タイム」
再びベンチに集合。
「へっぽこ、お前のせいで4点も取られたじゃないか」
怒る部長と土下座をして動かない田中を放置して
俺たちは作戦会議をする。
「本当にどうする気だ?こもままじゃ負けは確実だぞ」
「そうですね…やはり投手が問題です」
このメンツじゃ投げられる奴はいないだろう…。
「…やります」
意表をついて手を上げたのは影島だった。
「できるのか?」
と聞くと
「…一応」
なんて頼りの無い返事が返ってきたが仕方ないので影島を投手に抜擢した。
「ストライク」
一球目はストライク。
「ツーストライク」
調子がいいのか二球目も見事にストライク。
「スリーストライク、アウト」
相手のバッターは小首を傾げながらベンチへと帰っていった…。
そしてそのまま次の打者も打ち取り。
やっと二回目の俺たちの攻撃へと移ったのである。
「すごいじゃないか影島…いったいどんな魔球を投げたんだ?」
部長が影島を誉めると。
「…シャドウ…ボール」
と、魔球の名前をつけていた…。

二回の表の攻撃は叶野から。
「では、行って来ます」
と爽やかに言ってバッターボックスへと立つ。
ピッチャーは容赦なしに速球を投げるが。
「ファール」
で粘っている…やるなぁ…叶野。
まぁ結局のところアウトになったのだが
「ピッチャーの癖を分析できました」
なんて格好良いこと口にした。
「癖ってどんな?」
続くバッター池上が叶野に尋ねる。
「初球は内角低目が65%、二球目が真ん中の確率が80%くらいですね、三球目は変化球を狙ってきますので、よく見て振ってください」
「わかった、ありがと」
バッターボックスに立つ池上。
「なぁ…なんでそんな分析できたんだ?」
俺が聞くと
「この試合の投球傾向とこの投手の今までの投球パターンを調べた結果ですよ」
「また調べたのか?ご苦労な奴だ…」
「これも必要なことでしたので」
なるほどねぇ…確かにお前の策をやるには負けてちゃできないもんな。
そんで池上はと言うと…。
「もらったわ!!」
と大声を発し、女の子とは思えない鋭いスイングでセンター前ヒットを打ったのさ。
予想外なところに飛んだのか野球部員の反応が送れ見事ツーベースヒット。
ワンアウト、二塁…だが、この後に控える選手を見るとこれも好機とは思えないね。
「じゃあ行って来るね」
俺たちとお揃いのユニフォームを着て、まるで同級生にでもなったかの様な先生は打席に立つ。
「えいっ」
野球のルールブックを読んできたらしく、先生は送りバントを成功させた。
「アウトっ」
先生は一塁にたどり着く前にアウトになったが…。
おかげで池上は三塁にスライディングで見事に滑り込んでいた。
「困ったなぁ…こんな大事な場面で僕に回って来るなんて…」
と緊張している栄治。
「とにかく、一点入れることだけ考えとけ」
栄治にはそれだけ考えていてもらえば十分さ。
前にボールを転がせば、池上の俊足で1点は貰ったも同然だからな。
「わかった、頑張るよ」
打席に栄治は立ったのだが…。
野球経験がないので見事にツーストライクにまで追い込められちまった…。
「栄治ーとにかく、振れーー!!気合で打て!!」
部長さんよ…それは無理ってもんですぜ。
気合でどうにかなったら世界の物理法則の立場が無くなるだろ。
しかし…部長の祈りが通じたのか栄治の振ったバットにボールが掠った。
そしてボールはピッチャー前でワンバウンドしてショート前に転がってゆく。
池上の反応は早く、栄治が打つ瞬間に三塁を飛び出していた。
「早くっ、ホームだ」
焦る相手キャッチャー、野球部の意地としてこれ以上の加点は許されないのだろう。
ショートは勢い良くホームへとボールを投げる。
スライディングで滑り込む池上。
そして一瞬の沈黙…。
ベンチで見ている俺には池上がベースを踏んだのとキャッチャーがタッチしたのは同時に見えたのだが…。
「セーフ」
審判の一声で池上は嬉しそうにしながら俺たちの元へと帰ってきた。
これで3対7の4点差。
しかもちゃっかり栄治は一塁に残ったままだ。
「お見事です、池上さん」
叶野より一言。
「さすがマネージャー、どこかのへっぽことは大違いだ」
奴は隅で落ち込んでいる田中を指指す。
「凄いでしょ」
と、俺にまで言うもんだから。
「ああ、凄いな見直したぞ」
正直に思ったことを言ってやると
「あ、ありがと…」
急にハイテンションの自分が恥ずかしくなったのか大人しくなってしまった。
さて…打順は一回りして影島からだ。
今回もいきなりバントは無いだろうが…。
野球部陣は警戒をして一塁のところに守備の重点を置いている。
そしてピッチャーが投球。
またもバントの構えの影島。
コンと音を立てて前に転がる、しかしそれは三塁側に転がって行く。
「なっ」
野球部全員が驚いた。
普通右手バッターがバントをすると大体が一塁側へ転がるもんだからな。
影島は池上よりも速い俊足で一塁を制し。
栄治もなんとか二塁へと滑り込んだ。
だが喜ぶのはここまでだ…なぜなら次に控えるバッターは神崎さんだからな…。
万が一にも打つ筈は…。
「えいっ」
カキィン…って打ってるし…。
神崎さんがゆる〜くバットを振ったら偶然にもバットにボールが当たった…マジですか。
だが転がったのはピッチャーの真ん前で…。
「あ、あたりました」
嬉しがる神崎さん、見ていて可愛らしいのだが…。
「神崎さん、走って、一塁、一塁っ!」
打てた喜びは大きかったのか神崎さんの頭の中には
「なぜ走るんですか?」
って浮かんでたんだろうよ…。
「?」
無垢な瞳でホームベースの前に立っていた神崎さんをよそに
「スリーアウト、チェンジ」
三塁に着く前に栄治がアウトになっていた。
はぁ…神崎さん、ルールくらい知っておきましょうよ。

2回裏、守りに入ってからの影島は凄かった。
どうやら野球部員はあのシャドウボールとか言うのが打てないらしい。
どんな魔球なのか見ている俺にはさっぱりだが。
これで失点はゼロ、またしても攻めの展開である。

3回表。
田中は早くも三振してワンアウト。
打順は4番の部長からである。
「よーし、軽くホームランにでもしてやるか」
よく言うぜ、さっき限界…とか言ってなかったか?
「スリーストライク、アウト」
意気込んだのはいいものの…見事に空振り。
「手加減してやらないとな」
この状況でそんなこと言える奴を世界中検索しても該当するのはお前くらいだろうな。
そんなこんなで再び俺の打順である。
「はぁ…」
溜息を吐きつつバットを握る。
スパァンと音を立ててボールがミットに収まる…速い…。
「ストライク」
何が何でも打たなければ…田中と同じ扱いだけは避けたい。
「二球目は真ん中が80%です」
ふと、叶野の言葉が脳裏に浮かんだ。
仕方ない…ここは叶野を信じるか…。
「っ…」
渾身の力を込めてボールを打ち返す。
バットはボールにクリティカルヒットし
ライト前まで飛ぶ長打になった。
「よしっ」
バットを投げ捨て一塁へと走る。
ふとベンチを見ると部長が親指を立てていた。
ここからでは聞えないが口の動きからこう言ってたと思う。
グッジョブと…。
で、続くバッター、我らがブレイン叶野君は
焦りだしたピッチャーの隙を捉えてヒット。
二塁に俺、一塁に叶野でツーアウト一二塁だ。
次のバッター池上も塁に出るかと思われたが…。
俺、叶野の連続ヒットにより冷静さを取り戻したピッチャーによってツーストライクへと追い込まれてしまう。
「仕方ないわね」
といって池上はバント、池上の俊足なら一塁はいけるだろうが…。
俺と叶野が間に合わない…。
「サードっ」
そりゃそうだよなぁ…この状況でまずボールが来るのは三塁だろう。
くそっ…こうなりゃ自棄だっ。
俺は滅多にしないスライディングをして滑り込む。
何とか足がベースに着き、その後にサードにボールが届いた。
「セーフ」
サードの選手はチッと舌打ちをしていた。
よほど頭に来ているらしい…。
まぁこんな恋愛仲介部とか言う訳の分からん部活に点を取られたら野球部として恥だもんな…。
向こうの監督さんもベンチでイライラしてるみたいだし…。
この満塁という好機に先生がバッターボックスに入る。
先程気づいたのだが…明らかに打順の設定をミスってるだろ…。
しかし、冷静な先生はバッターの微妙な投球の癖を叶野から教えてもらっていたらしく。
ボール球には手を出さずにしかも真ん中はファールにすると言う絶妙なことをやっている。
そんなんでまぁ…現在スリーボールでピッチャーは追いつめられているのだが。
「くそっ…」
ピッチャーはもう、真っ直ぐを投げるしか無いので…。
「ボール」
しかし先生は振らなかった。
それはボール球だったからである。
「ゴメンね」
とキャッチャーに一言言い一塁へと向かう。
必然的に俺はホームに戻るのだが…。
「なぁ…先生どうして振らなかったんだ?」
と、影島に聞くと
「…投手の性格…把握、負けず嫌い…だから」
なるほどね、彼は負けず嫌いな性格なのか。
だから最後もボール球で先生が空振るのを待っていたのか。
そこを読むとは…さすが教員指導係、心理戦はお手の物だね。
「それと、一つ聞いていいか?」
「…なんですか…?」
「お前の今読んでいる本…それ何だ?」
影島は自分の読んでいた本を手渡す。
何々…「魔球を作ろう、中級編」…ってこんな本が出版されてるのかよ…。
しかも中級編ってことは初級があったのだろうか…。
気を取り直して4対7、じわじわと追い詰めてきている。
まぁネクストバッターは栄治で三球三振であっと言う間にチェンジになった。

三回裏。
影島のシャドウボールのお陰で無失点を維持できている恋愛仲介部だが…。
そろそろ野球部の方達もあの魔球とやらになれてきたらしい。
現在ワンアウトでワンストライク。
「まずいですね…」
深刻な顔つきになる叶野。
「なにがまずいんだ?」
「シャドウボールですよ…そろそろ気づかれましたか…」
何を気づいたというのだろうか?俺にはさっぱり分からない。
「あの魔球の正体に気づいたってことか?」
「ええ、しかし、あれは魔球なんかじゃありませんよ」
「魔球じゃない?じゃあいったいなんだ?」
「あれは無変化球です」
「変化しないってことか?それじゃあストレートだろ」
「いいえ、ストレートには強力なバックスピンがかかっています」
「へぇ、そりゃ知らんかった、でもなんで変化がついてないんだ?」
「ナックルボールの応用版…みたいな物でしょう…つまり自分にも何処に行くか判らない球です」
ナックルボールねぇ…まぁなんでもいいが…。
「で、気づいたら打てる球なのか?」
「ええ、変化は微弱、風に煽られるくらいですからね、投球のポーズを見てからでもバントなら間に合います」
「…そうか、じゃあどうする気だ?」
「ピッチャー交代をお勧めします」
「誰にするんだよいったい…」
俺は無理だぞ。
「そうですね…僕が見た限りでは池上さんが適任かと思われます」
「えっ、私?」
いきなり話を振られて驚く池上。
「お願い、できますか?」
「仕方ないわね、わかったやってみる」
お願いすると断れないのが池上である。
投球練習も終えてマウントに立つ池上。
「見せてやるわ」
池上は急に姿勢を低くする。
な、なにをする気だ?
「水切り投げっ!!」
とか、適当に名付けたのは完全にサイドスローであって…。
おそらく…水切りの投げ方に似ているから命名したのであろう。
「もらったっ」
相手バッターは完全に余裕の表情でバットを振るが…。
ブゥンと大きな音を立てて空振った。
そう、池上の球はなぜか知らないが…バットの上を通過した…。
「よしっ」
ガッツポーズの池上、そして唖然とする野球部一同。
俺は三塁にいる叶野に話しかける。
「なぁ…今球が上に上がらなかったか?」
「そうですね…おそらくホップボールの類でしょう」
「なんであいつがそんな魔球じみた球を投げれるんだよ」
「さぁ…それは知りませんが、池上さんには天性の運動能力があるみたいですね」
確かにそれは否定のしようが無い。
で、その水切り投げとか言う、半魔球的なものを投げまくってあっという間にチェンジになったのさ。

そんでもって4回表。
攻撃は影島から。
「…シャドウヒット」
とか、適当な打法で相手ピッチャーの球をバントにしたのだが…。
どこが特別な打法だったかと言うと。
転がっていったボールに放り投げたバットを当てて軌道をそらす…と言う完全にインチキ技である。
それで一塁を制したので続く神崎さんは今度は丁寧に俺がルールを教えたので。
「えいっ」
ピッチャーゴロになった打球はあっと言う間に取られてワンアウト。
でも、ちゃっかり影島は二塁に居るという1回と同じ展開になってきている。
で、礼の如く田中は三振、奴は見事にホームランを放ち2点を追加し
6対7へと追いつくが…俺が三振に終わりチェンジ…。

4回裏の相手チームの攻撃だが…。
池上の水切り投げのお陰で相手チームは三者凡退。
そしてついには5回の表、ついに後半戦か…。
おいおい…本当に逆転するんじゃ無いだろうな。

なんだかんだで五回の表、俺たちの攻撃である。
バッターボックスに立つ叶野。
「ボール」
ボールギリギリの球を見切ってバットを振らなかった。
そのまま叶野は相手の球を良く見てなんとか一塁へと進んだ。
相手のピッチャーさんは疲れてきているんじゃないか?精神的にな…。
さてさて、期待のエース池上さんはと言うと…。
カキィンとボールをバックスクリーンまでかっ飛ばし余裕の笑顔でベンチに戻ってきた。
これで逆転8対7…野球部のみなさんもそろそろ鬼気迫ってきているご様子だ。
続く先生、栄治は三振で、影島に打順が回ったのはいいが。
インチキ打法が来ることを向こうもどうやら予想して一塁に進ませ。
続く神崎さんも進ませ、確実にアウトに出来る田中を打ち取りチェンジ。
野球部のみなさんも恋愛仲介部の欠点に気がついたらしいね。
田中で確実にアウトが取れるので、わざわざ危険を冒して恋愛仲介部正規メンバーにボールを放るのは止めた様だ。

それはそうと5回の裏、野球部の攻撃。
池上の水切り投げの活躍により現在ツーアウトでランナーは無し。
しかし…魔球にも慣れてきたらしくさっきからファールで粘られている。
「タイム」
叶野の一言でみんながピッチャーマウント上に集合する。
「そろそろ慣れて来たようですね…打たれるのも時間の問題かと…」
「そうだな…」
それに池上の投球には負荷がかかり過ぎるみたいで先程からベンチで肩を冷やしていたからな。
これ以上投球させるのはまずいだろ。
「じゃあ、どうするんだよ?」
部長が叶野に聞くと
「僕に秘策ありです」
と爽やかに答えたのさ…嫌な予感が…。

なんとまぁ…俺の予感は的中で…。
俺は現在、キャッチャーのポジションにいるのは気のせいでは無いらしい…。
ピッチャーは叶野。
投球練習後に。
「好きなところに構えてください、僕のピッチャーとしての才能はゼロですがコントロールには自信があります」
なんて俺に全てを一任した…。
と言う訳で野球部のバッターがボックスに立つ。
それじゃあまずは適当に…内角低めにでもしておくか…。
「ストライク」
ズビュンとあまり球威の無い球が俺のミットに納まる。
なるほどな、この球威じゃ打たれるだろう…。
って事は俺のリードしだいってことになるのかよ…。
「ストライク」
今度は外角低め。
相手バッターは驚いていた。
そりゃそうさ、叶野の球は変化して俺のミットにきっちりと入ったんだからな…。
本当にコントロールはいいな…。
そんなんで相手バッターを三振にしてチェンジ。

六回の表、俺たちの攻撃…と言ってもこれ以上点を取る必要はないんだけどな…。
でもまぁ…次がうちの監督兼部長氏だからそうも言ってられないだろうね。
案の定、気持ちいいほどに金属音を響かせて奴はボールをホームランにしたのさ…。
これで9対7かよ、俺たち本当に勝ってしまうかもしれない…。
「まずいですね」
俺がバットを持ち、ベンチを後にしようとすると叶野が話しかけてきた。
「なにがだ?、絶好調じゃないか」
「いえ…このままでは確実に勝ってしまいます」
「喜ばしいことだろうよ…一部の人間を除いてな」
「その一部の人間に僕も含まれるのですが…」
珍しく困った顔を見せる叶野。
「じゃあどうすればいいんだ?」
「そうですね…適当に、あくまで本気でやらないでください」
「は?」
「つまり、必死にならないで欲しいのです、昨日も言いましたが僕たちの目的は同点で試合を終了させる、もしくは接戦状態で僕たちが負ける…ですから」
はいはい、そうだったね。
じゃあ適当に頑張るさ。
まぁ適当と言うことで俺は見事にツーストライクを相手ピッチャーにプレゼントしたのだが…。
「打て、副部長の意地見せろー!」
部長の野次が飛ぶ中…。
「頑張ってくださーい」
神崎さんの可愛らしい応援が聞えてしまったの頑張るしか無いだろうよ。
全国の男子諸君には同感していただけると思う。
とりあえず、打ち頃の球を軽くセンター辺りまでふっ飛ばし俺は難なく一塁へと駒を進めた。
ちらりと叶野を見ると苦笑していた。
ネクストバッター叶野君は手を抜いたらしく三振。
その次の池上は送りバントで一塁に俺は二塁に駒を進めた。
そして次は先生だったが…期待空しく三振に終わる。
で、現在ツーアウト、二塁の状況で。
栄治は腹痛がどうのこうので1回休み。
影島は再び一塁に進まされ、そして神崎さんも用心の為か一塁へ駒を進めた。
俺がホームに戻り一点追加で。
10対7ですよ…。
しかもネクストバッターは
あー田中か…。
せっかくの満塁のチャンスもどうやら無駄に終わったようだ。
「田中、ちょっと来い」
と田中は奴に何やら耳打ちをされている。
「そ、そんな、無理やて、アンサン!」
「んなことはいい、とにかく体張れ」
と、言っていたのが聞えたんだが…。
体張れってもしかして…。
「ぐはっ…」
「デッドボール」
なるほどね、こういうことか…。
それで田中は初めて塁に出て、池上はホームに無事帰還をする訳だ。
11対7か…やれやれ。
「困りましたね、これでは大差で勝ってしまいます…」
本当に困った顔の叶野が話しかけてきた。
「そりゃお気の毒にな」
「こうなったら他の策を考えるしかありませんね」
まぁ頑張ってくれ、俺には関係ないから手伝わんけど。
「おい、お前の打順だぞ」
と、部長に言われたのはなぜだろう?
得点版を見るといつの間にやら。
15対7になっていた。
まさか…満塁ホームランだと…。
相手のピッチャーは膝をついていた。
まさか俺たちのせいで一人の投手生命を絶ってしまうかもしれん。
まぁ危険を感じた俺は三振で茶を濁し。
六回の裏になった。

しかし、本職の野球部は意地を見せてきた。
俺のリード+叶野の甘い球では打たれるのが当然で…。
現在満塁のピンチな訳ですよ。
「タイム」
また、叶野のタイムコールが入りましたよ…。
今試合何回目だ?
「どうする?満塁だぞ」
俺が聞くと
「分かっています、わざとそうしたのですから」
「なんだと?」
「これで僕は次にスピードの遅い球、つまり打ちやすい球を投げます、おそらくホームランにするでしょうね」
「なんでこんな事をしたんだ?」
「これでホームランを打たれた場合、15対11です、接戦と言えなくも無いでしょう」
「そりゃそうだが…負けるんじゃなかったのか?」
「ええ、当初はそのつもりでしたが、策は柔軟に動くように練っていますので」
「…そうかい」
てことでタイム終了。
その後叶野は甘い球を投げ、見事にホームラン。
15対11になった…。
それでまぁ…ランナーを出しつつも、なんとかこれ以上の失点無しでチェンジを迎えた。

七回の表…そろそろ足腰がしんどくなってきたが…。
例の如く叶野は三振。
池上はセンターフライでアウトに。
そして先生がピッチャーゴロにてアウト…。
あっと言う間にチェンジになってしまったのは相手ピッチャーが交代したからであって…。
決して俺を除く恋愛仲介部メンバーが疲れてきた訳では無い。

七回裏。
「タイム」
チェンジになった途端にタイムはないだろう…。
「今度はなんだ?」
予想は出来ているが聞くのがこの部でのマナーなのさ。
「ピッチャー交代です」
もしかしたら全員にピッチャーが回るまで交代する気じゃ無いだろうな…。
「で、次は誰だ?」
「そうですね…次は…あなたにお願いしましょうか」
「勘弁してくれ、俺は球威も無いしコントロールも良くないぞ」
自慢じゃないがストライクゾーンに投げられる自身も無い。
「あの…私がやってみてもいいですか…」
おずおずと手を上げたのは神崎さん…。
「できるんですか?」
俺が聞くと
「頑張ります」
威勢良く答えてくれたのはいいのだが…。
「ええいっ」
思いっきり下投げなのはどうにかならないものか…。
しかもキャッチャーミットにはギリギリとどくくらいの飛距離…。

まぁ試合再開な訳で…。
「行きますっ」
と威勢良く投げたのだが…。
敵バッターにブゥンと勢い良くジャストミート…?
と、思われたが…ボールは後数センチのところでバットに当たらず地面に落ちていた。
お、落ちる魔球…。
で、その神崎さんの微妙なところで落ちる変化球は見事に相手バッターを打ち取ってチェンジ。
「ナイス、ピッチングです、神崎さん」
俺は神崎さんにボールを投げる。
「どうも、ありがとうございます、失敗しなくて良かったです」
なにをもって失敗と言うのだろうか…。

八回の表。
まぁ栄治は空振り三振なのは確定事項であり。
影島はバントで一塁に滑り込み。
神崎さんも空振り三振。
部長は珍しく空振り三振し。
直ぐにチェンジになった。
ちなみに田中は現在保健室で寝ているのさ。
速球が頭に直撃したからな。
もしかしたらショックで真人間に戻るかもしれん。
「おい、どーした?ホームランは打ち止めか?」
と、俺が奴に聞くと
「限界みてぇーだ」
それはもういいっての…。

八回の裏も神崎さんの落ちる魔球で簡単にチェンジかと思われたが…。
そろそろこの魔球の弱点に気がついたらしい…。
てか、俺から言わせると、今の今までどーして気がつかなかったのかと思う。
「ええいっ」
またもや下投げ。
しかし打ち頃の球にも関わらず、野球部員は振る気配が無い。
「ボール」
そりゃそうさ、振らなきゃボールはミットに届かないから確実にボール。
そんな訳で満塁。
神崎さん泣きそうだし…。
「タイム」
さて、そろそろ二桁に達したんじゃないかと思う叶野タイムだが…。
「今度は誰だ?」
1回ごとに投手が変わるのは作戦なのか?
「次は先生、お願いします」
「えっ、私がやるの?」
「ええ」
てな訳で…ってどんな訳だか…。
教員指導の先生がマウントに立ってるよ…。
それより、そろそろ誰かキャッチャーを交代してくれ。
足が痛くて困っているのだが…。
「えいっ」
完全なソフトボールの投げ方だが球威は速い。
「ストライク」
まぁ変化球を投げることは無かったが…。
速いストレートのお陰で野球部は手が出せずにスリーアウト。
「野球経験者ですか?」
ベンチで水を飲んでいた先生に聞くと。
「ううん、昨日ちょっと練習しただけだよ」
なんて答えよった…。
天才型か、羨ましいねぇ…。

そんなんで最終回、俺たちの攻撃。
俺は最後くらいホームランを打ちたかったが悲しいことに三振。
叶野は新しいピッチャーの分析が追いつかずに三振。
池上はそこそこファールで粘ったが三振に終わってしまった。
「だらしないぞ」
なんで俺だけに言うのかね部長さんよ。
他にも言う奴がいるだろよ。
退場中の田中とかな…。

九回の裏、この回を押さえれば俺たちの勝利だ…。
先生の投げる速球は反応が難しいらしく。
ノーアウトでツーストライク、ツーボールの状況さ。
「タイム」
はいはい…予想はしてたけどな…。
「栄治だろ」
「良くご存知で」
そんでピッチャーをやっていない栄治がマウントに立った。
でも、素人の栄治だから強打線に滅多打ちに合い…。
現在15対14…本当に接戦じゃないか…。
で、アウト無しの満塁…。
絶体絶命…さぁどうしよう。
「タイム」
やれやれ…。
「お願いします」
俺にピッチャー用のグローブを渡す叶野…。
勘弁してくれ…なんでここ一番の状況で俺を投手にするんだよ…。
こうなったらなる様になれだ…。
渾身の力で投げたはいいのだが…。
カキィンといい音がして俺の後ろを飛んでゆく白い球体…。
はぁ…しかしバスッと俺の後ろで音が聞えたので後ろを見ると。
見事に池上が球を取っていた。
「アウト」
これでワンアウト…。
「しっかりしなさいよね」
なんてダメだしをする池上。
「善処するよ」
本当にプレッシャーで押しつぶされそうだ…。
続くバッターを俺のへなちょこ球でアウトに出来たのは奇跡と言っていいだろう。
しかも次はわざわざ代打で出てきた強打者…。
一球目は
「ストライク」
どうやら球筋を見ているらしい…ニヤリと笑ってるし。
「ボール」
今度はちょっと様子を見てボールを投げたが振ってこない…やはり経験者は違うな…。
三球目、これを真ん中に投げると
カキィンと音がして三塁方向へ打たれた。
しかし、それを叶野が取り、アウト。
「ご苦労様です」
と、代打の方に言ってベンチに戻る叶野。
はぁ…。
これで恋愛仲介部対野球部の戦いは恋愛仲介部の勝利で幕を閉じた。
「お前らこれからグラウンド100周だ」
なんて監督に言われてる野球部は可哀想だったよ。
「さーて次は甲子園だな」
奴は満面の笑み。
「お言葉ですが、出場を辞退した方がよろしいのではないでしょうか?」
と叶野。
「なんでだ?」
「ここで下手に有名になるより、来年、いえ、再来年、完璧な仲介部になってから全国に放送した方がいいと思います」
奴は少し考えた後。
「そうだな、不完全な今の状態をさらすより、完全な姿の仲介部をお茶の間にお届けした方がいいな」
なーんて了承しちまったのさ。
てか叶野…それ問題の先延ばしじゃないか?と俺が聞くと
「それまでに対策を考えましょう」
なんて言いやがったのさ。

ちなみに…。
その後で池上に女子ソフトボール部から入部のお誘いが来ていたらしいが…。
違う学校の生徒なので断ったらしい。

こうして一学期最後の行事を終了したのだが…。
恋愛仲介部は更なる繁栄を目指して夏休みも活動をするらしい。
最近…切実に思った事がある。
俺の自由な学校生活を返してくれと…。



仲介部で団体競技をしてみたかったので適当に野球をやらせてみました
なんだか…前回からそうなんですが池上さん…目立ち過ぎ
どうやっても神崎さんよりキャラが強い。
スポーツ万能って設定は神崎さんの運動音痴の逆から来てるんですが…。
まさか、これ程とは!!
やはり、ツンデレは最強の属性なのでしょうか?
まぁ…そんなことはどうでもいいですが…(よくないけど)
やばいです、なんて言うかキャラ多過ぎでコントロールできてません。
ぶっちゃけ、副部長、叶野君、池上さんでこの物語書けそうですよ(笑)
でも、それはなんか悲しいですねぇ…(涙)








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