恋愛仲介部の結末【終】
正面玄関前へとやってくると
お馴染みの二人組みが屋敷から出てきた。
「桐谷、無事だったか…ってなんで高野まで?」
「紀野里先生に言われて助けに来たんすよ」
「なるほど…」
「そしたら急に爆発音がしてさぁ、怖くなったから逃げてきたんだ」
正しい判断。
「あんたは? お嬢さんはどうした?」
「助け出した、門の前に待たせてる」
「そうか、よかった」
「それと叶野が裏口にいる、詳しい説明はアイツからして貰ってくれ」
「……あんたはどうするんだ?」
「俺は用がある…後は頼んだぞ」
俺は返事を聞かずに走り出した。
サウナに入っているような感覚に陥るほどに屋敷内は暑くなっていた。
息をすると喉が焼けてしまいそうだ。
発火元は見ていないが…どのくらい火が回っているのだろう…。
早いところ、用を済ませないとな…
暑さで意識が朦朧とする…。
生きていいの…それとも私はこのままここで死ぬべきなの…?
そんな疑問に縛られて、私は彷徨っていた。
「…バカね、死に場所…求めて」
私の後には女がついて来ている
腹部から出血しているせいか、足取りも遅い。
「…あなたには関係ありません」
「そうね、でも…お互いに年貢の納め時だと思わない?」
「………」
「私は…」
「生きたいなら、その手を離しなさい、じゃないと地獄まで道連れよ」
繋いだその手を彼女は振り解こうとした。
「…姉さん」
「…なに?」
「私は…間違っていたんですね…」
「そうね…色々と」
「取り返し…つきますか…?」
「…さぁ、私は貴女じゃないから分からないわ」
「……そうですか」
二人はテーブル越しに対になる様腰掛けた。
「…一つ、聞いてもいいですか…?」
「…いいわよ」
「どうして…家族を殺したんですか…姉さんは私よりも…あの人達に必要とされていたのに…」
「…醜かったからよ」
「醜い…?」
「ええ、あなたが生まれるまで…私も同じ様な仕打ちを受けてきたから」
「…姉さんが…」
「あなたが生まれた時…私はあなたを身代わりにした、そう、そうすることで家族として認めてもらう為に」
「……」
「でもね、そんなことじゃ満たされなかった。欲しかった本当の愛情は手に入らなかった」
彼女は悲しそうな瞳をして呟いた。
「だから諦めたのよ」
「家族を…ですか?」
「ええ…どうでもよくなったの…」
そこには彼女の失意とどこにも向けられない憤怒が入り混じっていたんだろう。
「さぁ、もう質問は終わり…さっさと行きなさい」
「………」
「死ぬことに未練のある人間が…軽々しく死にたいなんて思わないことね」
彼女は力尽きるように瞳を閉じた。
閉じると同時に溜め込まれていた涙腺から一筋の涙が零れた。
そして周囲は火に囲まれる。
「姉さん…私は…臆病でした…。姉さんを憎んでいないと…壊れてしまいそうで…」
「姉さん…ごめんなさい」
彼女もまた走り出す。
姉に背を向けて…自らの道を進むために。
さてと、屋敷の中に入ったのはいいが…部屋をうろ覚え状態だから
一部屋一部屋確認すると手間がかかる。
「ヤバイな…」
思ったよりも火の回りが速く、どうやら窓でも破らないと脱出できそうにない。
「この部屋で…最後だ」
ドアを開けると他の部屋とは印象の違うファンシーなインテイリアが所狭しと並べられていた。
そう、この部屋こそ探していた部屋である。
「……」
無言のまま、手当たりしだいに物を持つ。
「戻るか…」
一瞬、自分が火事場泥棒っぽく思えたのは気のせいだろうか
そして、振り返った瞬間に…俺が入ってきたドア付近が炎に包まれたのも
気のせいだと思いたい。
うぁ…案の定。
手に汗握る展開になって来たじゃないの…
いや、実際もの凄い勢いで汗かいてるけどさ
突っ込むか?
いや、冷静になれよ、一瞬にして火ダルマさんの出来上がりだぜ
そんなの笑えない…。
とりあえず、こうなってしまった以上。
俺からは何もできない。
でも、待てよ…もしかしたら誰か助けに来てくれるかもしれん。
そんな切な願いを胸に抱きながらも…
少しテンパりつつある現状…もう、どうにかしてくれと。
しかし、冷静になって考える
幸い窓もある訳で…飛べないことも無いじゃないかぁ…あはは。
追い詰められると人間は壊れるってのは本当らしい。
半壊状態ですが…どうしましょうね。
覚悟を決して俺はダイブと行きたいが
まずはベッドからシーツ、窓からカーテンを取り外して結ぶ
ドラマとかである脱出法には必ずと言って良いほど使われる物だね。
これをベッドの足に結び付けて俺はそれを伝ってゆっくりと降りていく。
「あ…」
若干長さが足りなかったみたいだが…問題ナシ。
飛べばいいのさ。
「痛ッ…」
ジーンと来る下半身への痛み。
だが、気にせずダッシュ。
門までの道のりを走っている最中。
持ってきた写真を見てみた。
仲介部メンバー全員集合の写真と秋のお母さんと思われる女性と理事長の写っている写真。
秋の部屋の枕元にあったんだ、きっと大事なものに違いない。
それと…まぁ私念で持ってきてしまった、この熊のお人形さんは…どうしようかねぇ。
元々これを取りに戻ったわけで…。
渡すの…前提なんだろうなぁ。
門の前には既に全員集合らしく。
冬や透子の姿もあった。
「ほら、これ…」
皆が奇異な目で見ているソイツを秋に渡すと
「ありがとうございます…」
むぎゅっと可愛らしく抱きしめていた。
熊の分際で羨ましいなぁ…おい。
じゃ、なくて…
「とりあえず、みんな無事で良かった」
俺は全員にそう言った。
「私は…兄さんのことが一番心配でした…」
グスっと冬は泣き出してしまったので優しく撫でてやる事に
どうやら西沢さんが消防団を呼んだらしく
火はあっという間に消し止められた。
しかし、ほとんどが灰と化していて
再び住める状況では無かった。
「…とりあえず、あなたの家に行きましょう。そこで詳しいことはお話しますよ」
「あ、ああ…」
俺が焼けてしまった神崎邸を見ながら
月さんと田中が戻って来なかったことに胸を痛めていた。
実家に着いて一安心する暇もなく
叶野による、今回のネタばらしが始まった。
「まさか、これほど大事になるとは思いませんでした」
「大事って言うか…なんか面倒だったよな」
そう色々とね。
「真崎を捕まえるのが目的だったのですが…どうやら逃げられてしまったみたいですね」
「そうか…じゃあ、また復讐しに…」
「いいえ、その辺は大丈夫です」
「え?」
一同唖然。
「先ほど、神崎家が事件の隠蔽について世界中に真実を公表しました」
「待った。それを防ごうと俺たちは…」
頑張ってたんじゃないのかよ
「いいえ、いいんです。私が望んだことですから」
秋が俺を制す様に言った。
「全ての罪を償って…1からやり直したい、そう思ったんです」
「じゃ、じゃあ理事長は?」
「今頃、マスコミに質問攻めにされてると思います」
そんなアッサリと!?
いいんですか、仮にも父親なのに…
「あ、あと…透子は…?」
「大丈夫です、高峰さんの暗示は解いておきました。解けた瞬間に一発殴られましたが…」
痛そうに頬を摩る叶野。
「で、透子は?」
「…別室にて北条と…喧嘩してます」
あーなんとなく展開読めたわ。
そんでまぁ、ネタばらし後
叶野は病院へ、それに北条が同行して行った。
「疲れた…」
一瞬にして疲れが出てきた。
「桐谷、僕たちもそろそろ帰ろうよ〜」
高野が眠そうに桐谷に言った。
「そうだな、じゃあ俺たちも帰るよ」
「ああ、今日は…ありがとな」
二人の見送りに外へ出ると既に朝日が昇っていて
小鳥さんの囀りも聞こえている。
もう、朝なのか…随分長いようで短い夜だった。
居間に戻ると冬が眠たそうに朝食の準備をしていた。
「みなさん、お腹が減っていると思って」
なんて良い子なんだ…兄さんは嬉しいよ。
俺は朝食ができるまで透子の様子でも見に行くとするか
確か叶野の話では小日向時に使っていた部屋にいるとのこと
早速コンタクトを試みる。
ドアを開いて第一声
「透子、調子は…」
ベシッ…
いきなりビンタが俺の頬を直撃したんだが…。
「な、なにを…!?」
親父にも…いや、なんでもない。
「バカっ…」
顔を真っ赤に染めて恥ずかしがっている透子。
「忘れろっ、この数ヶ月のこと全部忘れろっ!!」
ポカポカと俺の頭を叩く、どうやら本当に恥ずかしくてしょうがないらしい。
「いたっ…痛いって…透子、や、やめっ…」
「うわ〜ん、もう生きていけない…」
「落ち着けって…忘れるから、ちゃんと忘れるから」
「本当?」
「……あ、ああ」
「ちょっと迷ったでしょ今、ねぇ!?」
よかった思ったよりも元気そうで
「あ、そろそろ飯の時間だ…」
「あ、こら、待ちなさい!!」
追ってくる透子の頭にポンと手を乗せて
「もう少し休んでろ、お前だって疲れてるだろ」
「……う、うん」
透子を上手くなだめて俺は居間へと向かった。
なんだかなぁ…
悲しいかな、これから学校に行くという最終任務が残ってるんでね。
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