恋愛仲介部の合宿2
徹夜の時、ある一線を越えてしまうと眠くならない。
一度はそんな体験をしたことがあるのではないだろうか?
まぁ俺は現在それを実行中で
ちっーとも眠くないのだが…。
節々の筋肉痛も安眠妨害に加勢して俺の身体は既に限界状態な訳だ。
でも…俺の予想では今日も奴はとんでも無いことを急に言い出すことだろうよ。
それだけはどんな感の鈍い奴にも分かっていただけると思うね。
てな、訳で俺は奴との枕投げ大会とやらを終了し
優雅とも言えない放心状態で俺は眠気覚ましに食堂で珈琲を飲んでいた。
「おはようございます、昨日は良く眠れましたか?」
自分の珈琲をカップに注ぎ終えた叶野が俺の隣の席へ座る。
「この顔を見ても分からないとはな…」
目の下の黒い部分を見れば分かるだろ。
それと叶野…お前昨日の枕投げを途中でエスケープしただろ…。
最後まで一緒にやるのが同士じゃないのか?
「昨日は大変でしたね、僕は今日の準備をして直ぐに寝てしまいましたので、とてもよく眠れましたよ」
お前の安眠状態は聞いてねぇよ。
「…今日の準備だと…?」
また、バラエティ的なノリのサプライズじゃ無いだろうな…。
「ええ、今日は海に行きます、昨日部長さんが言っていましたが…お聞きになっていませんか?」
なんだって…俺はそんな事一言も聞いていない…。
「聞いていないぞ、奴がそれを話したのはいつだ?」
「肝試しの前です、エントランス集合時に言っていましたが」
あーそう言えばそんなことを言ってたような言っていなかったような…。
人間極度の疲労状態だと感覚の一部をマヒさせるらしい。
できれば、奴の発言時のみ俺の聴覚をカットしてくれるとありがたい。
「そうか…」
「出発は10時ですので…僕は部屋に戻ります」
カップを食堂の流しに置いて叶野は俺を置いて部屋へと戻った。
「………」
10時ですのでって…。
壁にかかっている時計を見ると現在時刻は9時30分…。
急いで俺も準備しないと間に合わん…。
部屋に戻って水着を鞄に詰め込む。
よし…準備完了。
部屋に施錠し俺はエントランスへと向かった。
既にエントランスには部長を除く全員が集結していた。
「おはようございます」
と、可愛らしい私服の神崎さんが俺に挨拶をした。
「おはようございます」
俺の残りHPの半分を消費する程爽やかに挨拶をする。
神崎さんにはちゃんと挨拶をしておきたいからな。
「………」
影島は目が合ったときに軽く会釈。
なにやら本を読むのに夢中らしい…って今度はスイカ割りの心得。
そんな本いったい誰が読むのだろう…。
そんな疑問を抱いていると。
「アンサン、おはようさん」
昨日、行方不明だった生還者が俺に声をかけてきた。
「昨日はどこに言ってたんだ?」
まさか地球の裏側にでも行ったのだろうか。
「…あのバスに乗ってたら朝の集合場所まで戻された」
おいおい…。
「ちょっと待て、じゃあなんでここにいるんだよ、しかも一人増えてるし」
カメラの調子を確かめているロり坂を見る。
「イベントの後に合流してここまで来た」
「冗談だろ…」
まさか、そんなに仲間に入りたかったのか?
そんなに入りたいなら俺のポジションを譲ってやってもいいんだぞ…。
「いや、自転車を飛ばしてきた」
冗談にも程がある…まぁ不屈の鉄人田中なら不可能は無いのだろうが。
「ご苦労なこった」
それと一言言っておこう。
「水着撮影は禁止だ」
俺はロリ坂からカメラを取り上げる。
「か、返して〜」
ロリ坂は泣きそうになりながら俺に言う。
こいつが撮影したらホームページ上に流出することは間違いないだろうからな。
そんな危険な奴をご同行させるのは心配でしょうがない。
俺は叶野にカメラを渡す。
「では、これで皆さんの記念撮影をしましょう」
と爽やかに答えてくれた。
ロリ坂は落ち込んだようにその場でいじけている。
田中は慰め係にあたっている。
「待たせたな」
と勢い良く現れた部長は俺たちを驚かせる登場をしやがった。
なぜなら大量のスイカを両手に持ってきていたからだ…。
「そりゃなんだ?」
一応聞こう。
「スイカ」
簡潔に答えが返ってくる。
「そんなに食べる気か?」
数は20近くあるぞ…。
「いや、割る」
なんだって…ただ割る為だけにこんなにスイカを調達したというのかこの男は…。
全国のスイカ栽培の農家の皆さんに心から謝罪して頂きたい。
「確かに定番だが…もっと他になかったのか?」
ビーチボールで遊ぶとかな…。
「うーん…じゃあ…」
奴は周囲を見回し田中で視線が止まった。
しかもにやけている…。
「…田中割り」
ボソッと影島が発言。
「よし、それでいこう」
即座に意見を採用する部長殿。
「ひっぃ…」
そして怖がる田中。
そりゃそうだ、普通なら冗談に聞える事を恋愛仲介部は本当にやる奇妙な団体だからな。
「やめておけ、流血沙汰にでもなったらどうする」
止めよう…俺はまだ傷害罪で捕まりたくはない。
「そしたら海の藻屑になってもらうだけだ」
マジか…可愛そうに田中…。
葬式には言ってやるよ。
待て…海の藻屑になったら死体はどうするんだろう…。
「そろそろ時間です、みなさんバスに乗ってください」
叶野が絶妙なタイミングで割って入る。
きっと機会を狙っていたのだろう。
俺たちはバスに乗り込み海に向かい出発した。
静かだと思えば…池上はバスには乗っていなかった…。
海に着いて大量の荷物を置いていると
目に入ってくる景色は
一面の青き海、そして白い砂浜とのコントラスト。
一瞬で悩みなんて吹き飛ばしてしまいそうな光景だが…。
現在進行形で悩み事が増えているのはどうやら気のせいじゃ無いらしい。
「とりゃぁーー!!」
「こっ殺されるーー!!」
いやぁ騒がしいなぁ…。
既に田中は見事に真っ二つにされそうだし。
「それじゃあ着替えてきますね」
と、可愛らしく言って神崎さんは更衣室へと向かった。
まぁ男子は既に水着を着込んでいるからそんな必要は無いのだが。
さて、神崎さんが戻るまで休憩しておこう。
先程、部員全員対一でじゃんけんに負けたせいで
荷物もちをさせられた可哀想な俺の二本の腕にも安らぎを与えてやらないとな。
それにしても静かだ…。
ザザーンと言う波の音が聞えてくる。
なんでもここは神崎家専用のプライベートビーチだそうだ。
もう、神崎家の財力に驚かされることは無いだろうが…。
さすがにロケットの一台二台もってそうな気がしてきた…。
「どうしました?落ち着かないようですが」
ビニールボールを膨らませた叶野が俺に話しかける。
「いや、安らぐね、俺としては少し眠りたいくらいだ」
覚めた眠気が再び俺を襲いだしたからな。
「池上さん…気になりませんか?」
「さあな、今頃別荘で一人退屈な時間を過ごしてるだろうよ」
別に気にはならない…でも、怪我をさせたのは俺にも現因がある訳で…。
「きっと…来たかったでしょうね」
「…そうだな」
別に足が痛くても来ればいいのに…。
俺がそう言ったら
「ダメ、行かない、海を見たら絶対泳ぎたくなるから」
なんて言っていたしな。
池上らしいと言えば池上らしい。
「さてと…ビーチボールでもやりますか?」
遠慮したいね、俺は寝たいのさ。
俺は首を横に振る。
「そうですか残念です、では僕は一泳ぎしてきます」
と爽やかな男は去って行った。
しかもちゃんと日焼け止め塗ってやがる…。
徹底してるところがなんて言うかね…好きになれん。
もっと隙の多い方が好感触だぞ。
まぁ好感触でもお前のルートを攻略するつもりは毛頭無いが。
「あれ?泳がないんですか?」
着替えを済ませた神崎さんが帰ってきた。
「ええ、疲れているので、少し休憩です」
神崎さんの水着はそりゃとても似合っていた。
とりあえず「似合う」としか言えないので
どんな水着かはみなさんの想像に任せるとしよう。
「………」
無言になってしまう…。
神崎さんは泳ぎに行かないのだろうか?
水着を持ってきているので多少はそう言う気持ちがある筈だ。
「よいしょ」
「えっ…」
俺の手を掴んだ神崎さんは俺をパラソルの下から引きずり出す。
「あの…」
どうしたのだろうか…やけに積極的過ぎやしないか?
「せっかく海に来たんですよ、遊びましょうよ」
なんだか一瞬…。
神崎さんが池上の様に見えた…。
ここまで言われて俺も黙っているのは不毛だろう。
「…そうですね…少しくらいなら」
倒れない程度になら遊ぶとしよう。
で、みなさんを集合させて…俺たちはビーチボール大会を開催することにした。
審判は叶野に任せるとして…。
チームは…俺、奴、神崎さん。
相手チームが…田中、ロリ坂、影島
になった。
叶野のホイッスルの合図で試合がスタートして…既に二十分が経つのだが
お互いに五分五分の戦いであと一点で勝負が決まる状態。
そして相手チーム田中のサーブ。
「行くぞっ」
勢い良く、ボールを上に投げて手でそれを思い切り叩く。
するとボールは勢い良く神崎さんに向かって飛んできた。
「え、ええとっ…」
慌てる神崎さん…。
「させるかっ!!」
部長はネットの直前で奴のサーブを打ち落としやがった…。
「なにぃ…」
驚く田中…そりゃそうだ、奴らはサーブを返せなそうな神崎さんを狙っていたのだから。
「………」
だが…俺たちは知っている…夏休み前の野球大会時に見せた俊足を
部長のブロックした球は後衛にいた筈の影島がレシーブ。
さすが影島…こんなにも球技に強いのは驚きだぜ。
「っ…」
俺はそれをレシーブで敵陣に跳ね返す。
「もらったぁ!!」
と、田中。
しまった…俺と部長は奴らの球を打ち返すので神崎さんから離れている。
今試合1回もレシーブを返していない神崎さんに田中の球が遅い来る。
間に合わないっ
「神崎さんっ」
神崎さんはボールの接近で目をつぶって手をジタバタさせている。
「きゃ…」
だが偶然にも肘にボールが当たり、神崎さんはボールを弾いた。
しかし、ボールの起動は大幅にずれて…ネットギリギリのところで落ちそうだ…。
「決めるぜっ!!」
ナイスタイミングで奴はジャンプしていた。
バシィンと音がして奴の鋭い直球が
「ふごっ…」
田中の顔面へと直撃した。
「決まったぜ」
と奴は華麗に着地を決める。
「試合終了ですね、みなさんお疲れ様です」
叶野が終了をお知らせするが…。
「……」
田中は気絶状態。
「おい」
俺を呼ぶ部長。
「なんだ?」
「田中を埋めるぞ」
この時ばかりは俺も同意見だったね。
田中の球を受けた神崎さんの肘は赤くなっていたからな。
しかも
「ううぅ…痛いです」
なんて半涙目だったし。
田中割りでもなんでも好きな様にしてくれよ。
なんなら埋めたままで放置でもいいんじゃないか?
遊びに遊んだ後…。
俺たちは別荘へと帰ってきた。
「夕食はバーベキューですのでエントランスに集まってください」
叶野は去り際にそう言ったので各自荷物を置きに部屋へと戻る。
とりあえず、砂まみれの身体をシャワーで洗わないとな。
俺はシャワーを浴びてエントランスに行くことにした。
「っ…」
廊下でばったり顔を合わせたのは池上だった。
俺から目をそむけた様に思えるのは気のせいではないらしい…。
「海、意外に楽しかったぞ」
と、感想を述べる。
「あっそ…」
池上は気の無い返事をして俺の横を通り過ぎる。
「ほらっ」
俺は池上に貝殻を投げつける。
「なによこれ?」
「貝殻だ、日本人でも知らない奴はいないと思ったけどな」
一日目のお返しである。
あの後、叶野から教えてもらったのだがポテトとフランクフルトは合計金額が450円だったらしい。
つまり、その50円分のお礼って事さ。
「………」
無言の池上。
「海に行けなかったのは俺の責任もあるし…せめてもの罪滅ぼしさ」
なんて、柄にも無いことを言うと
「あっそ、でもね、私の海に行きたかった気持ちはこんな貝殻一つじゃ満たされないの」
なんて答えやがった。
「あのなぁ…人がせっかく拾ってきてやったのに」
そんな言い方はないだろうに
「それにしても小さい貝ね、私はもっと大きいのがいいんだけど」
だったら来年お前が自分で探しに行け…と言おうとしたが…やめた。
池上が何を言いたいか分かったからだ。
「来年、私が納得するような貝を探しに行くわよ、あんたは強制参加」
やれやれ…素直じゃないんだから…。
「…考えておくよ」
と、池上に言って俺はエントランスへと向かった。
エントランスへと来ると集合三十分前にも関わらず叶野は俺たちの到着を待っていた。
「おや、お早いですね」
「することが無いからな」
とまぁ適当に言っておく。
「それにしても…あなたがなぜ貝殻を拾っていたか疑問だったのですが…先ほどの事で疑問は解消されました」
見てやがったのか…くそう、場所が悪かったな。
「勝手に解決して置け」
「そうさせてもらいます、この件に関して僕は手出しはしないつもりですから」
一体なんの件だ?
それの説明を迅速かつ丁寧にお願いしたい。
「はぁ……」
俺は溜息を着く人間ってのでギネスブックに載るかも知れないね。
「そう言えば田中くんはどうしています?姿が見当たらないのですが…」
あ…しまった。
波は田中の首元の砂を湿らせてゆく。
「…あの…どんどん波が俺に近くなってきているんですけど…」
身体全部を埋められているので逃げられない。
「も、もしかしてそろそろ満潮の時間とか…??」
このままでは確実に海の藻屑と化してしまう。
「た、助けてーーー!!」
だが、彼の叫びを聞いてくれる人物はそこにはいなかった…。
まぁいいか…放置されるのも彼のアビリティの一つなのだろう。
「お待たせしました」
私服に着替えた神崎さんは俺の前へとやって来た。
「いえ、全然待っていませんよ」
到着時間に早く来たのは俺の方だし。
「ニヤケ面」
池上よ、頼むから影島のように後ろで囁かないでくれ。
で、本家の方は隅っこで読書中だし。
とりあえず、部長以外の全員は集合したのさ。
それと…ロリ坂が来ていないのは見たいアニメがあるらしい…。
「待った?」
奴登場、待ったさ、待ったとも。
いつものことでもう諦めてるが
「では、外へ移動しましょう」
外へ出るとバーべキューセット一式が完備されていた。
「凄い設備だな…」
と、感心していると
「凄いだろ」
奴が返事をした。
凄いのはお前じゃなくて神崎家の財力だ。
「それでは焼いていきますので、みなさんお皿を持ってください」
叶野がみんなに皿と飲み物の入ったコップを渡す。
「なんか言えよ」
急に振られても困る、てか普通こういうものは部長であるお前ががするべきだ。
「えっと…」
俺が頭の中で何を言おうか必死に考えていると
「乾杯!」
俺を放置してみなさん乾杯終了。
勝手に進めやがってこの野郎…お約束過ぎるぞ。
てな訳で俺たちは神崎家が用意した豪華バーベキューをご馳走になったのさ。
世話しない食事を終えて俺が外のベンチに座って束の間の休息を味わっていると
「どうも」
叶野は軽く一礼をして俺の隣に座る。
随分と近すぎるぞ…おい…。
「何だ?」
俺はお前に話すことなんて何一つ無いつもりだが…。
いや、苦情や不満なら腐るほどある。
「夕食後、ちょっとつき合ってくれますか?是非とも連れて行きたい場所があるのですが」
「断る」
0,2秒の即答さ、もしもコイツについて行ってみろ
なんの躊躇も無く地の果てにでも連れて行きそうだからな。
「いえ、あなたについて来てもらわないといけない事態なのですが」
どんな事態だ、まさか生徒指導係としての任務とか言い出さないだろうな。
俺はもう一学期終了近くの時のアレで懲りたんだ、だからその手伝いなんて死んでもゴメンだね。
「一応聞こう、どこへ連れて行く気だ?」
すると髪を掻き揚げて爽やかに。
「すぐそこですよ」
叶野…答えになってないぞ…。
叶野に着いて来てしまった俺は警戒心が無いのかはたまた学習能力が無いのやら…。
でもまぁ…「神崎さんが来る」なんて言われた日にゃあ黙っている訳にも行かないので
こうして夜の山道を恋愛仲介部は勢ぞろいで歩いているのさ。
「なぁ、まだ歩くのか?」
そろそろ歩き始めて二十分くらいになる。
俺は全然余裕だが…体力的に神崎さんが心配だし、一応足の痛い池上も心配の内に入っている。
「もう少しです」
それを俺たちは何回聞いただろうか?
俺の記憶回路が狂ってなければ既に一桁は超えてるだろう。
後ろを見ると歩くのが辛そうな池上と
息を切らしてきている神崎さん。
で、闇夜に溶け込みそうなほどの存在感の影島。
田中とロリ坂はエスケープ…まぁ誘わなかったのだが。
それで奴はと言うと、恋愛仲介部のテーマなるハイキングソングを口ずさみながら上機嫌の御様子さ。
それにしてもなんと音感の無い歌なのだろうか…。
既にそれは歌なんてもんじゃ無いだろうが
部活のテーマなので俺たちも強制的に口ずさまないといけないらしい。
適当に口パクで誤魔化すのが無難だね…。
「お待たせしました、着きましたよ」
着いた場所は綺麗な川の流れる土手だった。
「で、ここに一体何があるってんだ?」
なんか特別に目に付く物は無いんだが…。
「すみません、少し静かにしてくれますか」
と、叶野は人指し指を自分の唇に当てる。
辺りは静まり、生暖かい気温だけが鬱陶しく残る。
「そろそろですね…」
パチンと叶野が指を鳴らすと一面に緑色の光の点がいくつも現れる。
「これは…」
「蛍です、この時期だとこの辺りに生息しているみたいです」
なるほどな、お前はこれを見せたかったのか。
確かに…優美かつ幻想的な光景ではあるものの…。
「きゅう…」
叶野…一つ言っておくとだな…。
みなを喜ばせようとしたのは分かるが虫嫌いの神崎さんには逆効果だぞ…。
マジで気絶してますよ…。
俺は倒れそうになる神崎さんを受け止めると同時に
背中に池上の強力なブローをくらうのはどういうことだ?
「………」
いやぁ…無言ですよ池上さんは。
女心なんて一生俺には分からんと思ったね。
まぁ池上の心なんて世界が反転でもしない限り知りたくも無いけどな。
とりあえず、これは一応いい思い出として俺の頭に認識させておくよ。
「…ご苦労さん」
叶野の苦労を労ってやると
「いいえ、まだ合宿は終わってませんよ」
おいおい…まさか明日もなにかやるつもりじゃないだろうな…。
そんなんじゃ俺の精神力が持たん。
「はぁ……」
溜息をついて神崎さんを支えつつ。
俺は別荘へと重い足取りで歩き出していた…。
やっとの思いで神崎さんが回復し
別荘に帰り着くと
「では、みなさん地下に集まってください」
なんて普通に言いやがる叶野。
「ちょっと待て、今日はもう解散じゃなかったのか?」
お前の人に対する考慮は完璧だがそれは俺以外の人間に対してのみ…というのは勘弁してくれ。
「いいえ、これは僕の見解ですが、今日も寝るのは難しいと思いますよ」
「なぜだ?」
勝手に決め付けるな、俺は誰がなんと言おうと今日はふかふかベッドでスリープしたいんだ。
「部長さんの体力はまだまだ余裕ですから」
奴の体力の発生源は太陽エネルギーなのだろうか?
それくらいの持続力は誇っている筈だ。
俺と徹夜した癖にあの元気さは反則だろうよ。
それで…二階に来てまず驚いたのは
カジノの様な設備と広さがそこに広がっていたからさ。
ルーレットにビリヤード…奥にはバーらしきカウンターまであるぞ。
まぁそんなのは定番なのだが…。
いや、そんなのが定番になっちゃ不味いんだがなぁ…。
「何やってんだ?」
バーのカウンターにいたバーテンダー…。
新キャラ登場か?
と思わせておいてそこにいたのは田中…ホントになにやってんだか…。
でも、オールバックの辺りとか結構似合ってると思えてしまう。
「今日は何がお望みですか?」
なんて渋い口調で言うもんだから。
「とりあえず、俺に話しかけるな、それが一番の望みだ」
「ひどいっ」
適当に田中のハートにロイヤルストレートフラッシュで傷つくことを言って俺はカウンターを後にした。
カウンターに泣き崩れるバーテンダー…凄い変な感覚だったね。
さて、何をするか。
おっと神崎さんを発見。
「なにしてるんですか?」
神崎さんはルーレット台の前に立っていた。
「これ、なんですか?」
「ルーレットですよ、やってみますか?」
「はい」
まぁルーレットを回し適当なところでボールを入れる。
勢い良くボールがルーレット内を回ってゆく。
「何番がいいですか?」
最初に聞くのを忘れていたの失敗だったかな。
「28番です」
今一瞬…神崎さんのカットインが画面中に出た気がしたんだが…気のせいだよな…?
カラカラと音をたててボールが赤の28番に入る。
「あ、入りましたよ」
見て見て、と言わんばかりにはしゃぐ神崎さん。
「…ま、マジですか…」
本当に入りやがった恐るべき運の強さ。
もしかして神崎家の財力って神崎さんが賭け事で稼いだものだったりして…。
はは…まさかな…。
で、影島はと言うとどうやらブラックジャックを奴、そしてロリ坂とやっていた。
影島は黒のカード、つまりスペードとクーローバー以外を手にしないのは気のせいじゃ…ないよな。
そんでもって…俺と一番会話率の高いアイツは気取ってビリヤードをしている。
「上手いもんだな」
叶野は着実に順番どうりにボールを穴へと入れてゆく。
「どうです、ナインボールでもしませんか?」
仕方ないな…こいつの相手でもしてやるか…。
まぁそれで何回かやった訳だが…。
「………」
完全的に負けてしまった…くそう、まさか1回も勝てないとは
「ちょっと貸しなさいよ」
なんて後ろから現れたのは池上。
俺から棒を取り上げると
「おや、今度は池上さんが相手ですか?」
「お手柔らかに頼むわ」
二人の勝負が始まってしまった…。
俺は大人しく観戦するとしよう。
で、あっと言う間に十分経過。
状況を簡単に説明すると勝負は五分な展開だ。
叶野は確実にボールを取っていくが池上はそろそろ疲れてきたのか?
結構限界と見える。
「あっ」
池上が放ったボールはギリギリで穴に入らず壁にバウンドしてしまった。
「試合終了ですね、いやぁ…池上さん、かなりお強い」
なんて叶野が言うと
「残念ね…足さえ痛くなければ勝負は分からなかったのに」
俺を見る池上。
まぁ目線を逸らしておくかね。
そんなジト目で見られると背筋が凍りつきそうなのさ。
さて…今日も色々あって疲れたしそろそろ部屋に戻るとするか…。
そんなこんなで二日目を終了するのさ、今日は出来れば早く寝たいね。
俺のキャパシティも限界値をとっくに振り切っているからな。
現在時刻は午前七時。
たっぷりと安眠を得られた俺は水を得た魚の如く元気になっていた。
なぜならば今日で合宿は終了。
なにかやるにしても午前中だけじゃ大したことは出来ないだろうし
やったとしても家でゆっくり休めるのは大変ありがたい。
廊下を歩いていて現れたのは
「おはようございます」
爽やかな笑みを俺に向ける美少年だった。
顔には少しだけ疲れが表れている。
「昨日は大変だったな」
そう、叶野は昨日俺の代わりに奴、そして池上の相手をしていたのさ。
そりゃ疲れて無い方がおかしい。
「そうですね…さすがに疲れが溜まっています」
叶野は例の如く俺の隣に腰掛けて考え込んでいる。
「なぁ…まさか、とは思うが…今日も何かあるのか?」
何もありませんように、何もありませんように。
「そうですね…これと言って特別なことはやらないと思います、最終日なのですから各自自由行動ということで」
「それはありがたいね、俺としても今日は静かにしていたい気分なんだ」
一日目、二日目と、はっちゃけ過ぎていたからなぁ…。
「僕は朝食を摂った後、少し町の方へ行こうと思っていますが…あなたも一緒に来ますか?」
普段なら即で断るのだが
両親たちに頼まれたお土産でも見て来るとしよう。
「…わかった、俺も行く」
「では、朝食後に部屋で待っていてください」
叶野は言い終えると去っていった。
朝食まであと一時間か…微妙な時間なので食堂にでも先に行っておくか。
食堂へ来るがだーれもいない。
当たり前だがみなさん熟睡中なのである。
さて、静かな一時を満喫するか。
「おはようございます」
なんて考えていた俺の後ろには神崎さんが立っていた。
眠そうな眼を手でこすっている姿はどうも同級生には見えないくらいに幼く見える。
「おはようございます」
神崎さんは俺の隣へちょこんと腰掛ける。
ここは紳士的に神崎チェアーにハンカチを敷こうかと思ったが生憎俺は英国紳士じゃ無いので常時携帯はしていない。
叶野辺りだったら持っていそうだが
「今日はなにか予定があるんですか?」
一応聞いておこう、もしかしたら叶野とのショッピングに花が添えられるかもしれんしな。
「はい、今日は池上さんとお買い物に行く約束をしています」
なるほどね、女同士買い物した方がそりゃ楽しいだろうな。
「そうですか、俺も叶野と町まで行くんですけど、途中まで一緒に行きますか?」
「はい、みんなで行った方がきっと楽しいですよね」
なんて返事をしてくれたので俺は上機嫌になることが出来るのさ。
恐るべき神崎パワーこの半年で少なからず精神面で何回かはこの笑顔に救われてきたんだろうな。
神崎さんと二人で軽いティータイムと洒落込んでいると
影島、叶野、ロリ坂がやってきて自分のポジションへと座っていった。
で、我らが恋愛仲介部の部長さんはと言うと…現在夢の世界に滞在中と叶野が教えてくれた。
「私が最後?」
キョトンとした顔で登場したのは池上。
奴と同じく底をしらない体力ゲージの持ち主らしく。
疲れてる痕跡が無いのは同じ人間として羨ましい限りだ。
その力を解明して学会にでも発表してみたらどうだ?
軽くノーベルなんちゃら賞も狙えるんではないだろうか…。
みなさんで騒がしくも心安らぐ朝食を終了し
自室で荷物整理をしているとドアを誰かがノックした。
「どうぞ」
まぁ誰か…と言う以前に誰か分かっていたんだけどな。
「どうです、準備はできていますか?」
「もう少しだ」
ちゃっちゃと整理を終わらせる。
「終わったぞ」
「では、行きましょう」
俺も叶野も手ぶらで行くのはそんなにいっぱい物を買わないからだろう。
だが、神崎さんと池上は小物を多く購入するらしく。
可愛らしいトートバッグなんかを持参していた辺りが実に女の子らしいと言えばらしかった。
町へと来るとお土産物屋が大量に並んでいた。
観光地ってのは大体こういうものだと理解していてもどの店に入るか迷ってしまうのは優柔不断の表れだとさっき叶野に注意された。
適当に饅頭や煎餅なんかで茶を濁しておこう。
無駄にアレンジすると親のご期待に答えられなくて気まずい食卓を囲むことになる。
それだけは回避せねば。
まぁ…逆に言うと親が納得すりゃなんでもいいのだが。
叶野は叶野で興味深く店内を見て回っては頷いたりしている。
お前はいったい何がしたいんだ?
結局、俺と同じものを一式買った叶野に俺が
「それでいいのか?他にも面白そうなものはいっぱいあった筈だが…」
なんて聞いてやると。
「構いませんよ、親に買った訳では無いので…それに僕では女の子が何で喜ぶのか分からないのでね」
ちょっと気になることを口にした。
「女の子だと?いつもなら女性…じゃなかったか?」
こいつが女の子なんて言ったのは初めて聞いたので驚きさ。
「そうですか?気のせいだと思いますが」
まぁこれも複線といえば複線のようなものだったらしい。
この言葉の意味を理解するのはもう二ヶ月ぐらい後なのだが。
今は軽く流しておくのが得策さ。
別荘に帰ってくると池上と神崎さんは既に買い物が終わっていたらしい。
バスに集合なので荷物を持ってやってくると
「男の癖に買い物に時間かかるなんて…」
そう、ぼやくなよ池上。
俺だって一番安く、そして質のいいものを選んできたんだから。
「遅かったな」
俺を出迎えてくれた重役起床人である部長さんは今さっき朝食を終えたらしい。
そうだ、思ったんだが…。
「聞きたいことがある…なんで急に合宿なんてやろうと思ったんだ?まさか気まぐれじゃないだろうな…」
「バカにするな俺がいつも気まぐれで動いてると思ったら大間違いだ」
いやいや…間違っているのは100%お前の進むべき未来だろうよ。
「そうかい…じゃあ理由があるのか?」
「ああ」
奴は腕を組み偉そうな態度で
「一日目はサバイバル能力向上訓練、そして二日目は反射神経の訓練だったのさ」
あれが…訓練だったのと言うのかこの男は
実際遊んでいただけだろうに
「で、その二つが恋愛仲介となんの関係がある?」
うーん、と奴は考えた末に出た結論が
「特に無いな」
だったのは…拍子抜けと言うか予想で通り言うか…。
つまり、奴の考えることは大体、いや…ほとんどが意味を全くなさない無駄な好意に等しいということだ。
「はぁ…」
俺が溜息を着いていると
「では、サバイバルは人間的な面、つまり二人一組になることによって互いの信頼度を高め、反射神経は生命的窮地の打開等の機転を利かせる訓練だと思えばいいのでは無いでしょうか?」
なんでもそう言えば聞えはいい。
てか叶野。
「その通り、俺はそれが言いたかったんだ」
あっと言う間に部長さんの意見になっているが…。
そんなこんなで俺たちは軽井沢に別れを告げて
願わくばまた来年も…なんて思いつつ
バスに乗り込んだ。
帰りのバスの中でも奴は原子力エネルギー並みの元気さを放っており。
俺は家に着くまで奴とユカイな仲間たちと面白おかしい。
そして疲れる時間を堪能していたのさ。
あれ…でも、なんか忘れているような…?
午後三時。
「グッモーニンッ」
勢い良く食堂の扉を開けたが中には誰もいない。
「あ、あれ…もしかしてみんな…俺のこと忘れてる」
孤独に見舞われ泣きそうになる田中。
「そ、そんなぁ…ちょっと起きるのが遅かっただけで放置…??」
田中の叫びを聞いていた人間は誰もいなかったとさ。
ま、いいか…。
でも、帰ってきて一番驚いたのは
平日の休み分が公欠扱いだったってことだね。
恐るべき恋愛仲介部…。
こんな部に所属してついに二学期も本格的に始動するらしい。
次は…おそらく合唱コンクールに出場…なんて言い出しそうだし…。
それと、悲しいことに俺の予感は外れないのさ。
まぁそれはまた別の機会にお話しするとしよう。
でも今は…。
家の布団で明日に備えたっぷりと寝ることにしよう。
明日も大変な一日にならなきゃいいんだけどな…。
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