Clear〜消えた少女〜
「えー…なんだ、まぁ色々と言いたいことがあるんだが…」
部室に着いた俺と小日向さんを見て呆れた様に桐谷言った。
「簡潔に頼む」
俺も正直…なんと言われても反論の仕様が無い。
なんてったって飲み物を調達するつもりが
メイドを一人連れてきたんだ、海老で鯛を釣るよりも凄いことだと思う。
「…あんたは女を引っ掛けるのが得意なんだな」
「好きでこうなっている訳じゃない」
「あの人も可愛そうに…」
あの人ってのは多分春奈のことだろう。
生憎俺は春奈一筋なんだ…お前の余計な心配はいらない。
まぁいい、とりあえず俺は腰を下ろすことにした。
いつまでも立ちながら会話するのは疲れる。
そして俺は定位置へと戻る。
「お茶の用意をします」
態々小日向さんは俺の持って来た紅茶を淹れてくれる。
「気を使わなくてもいいのに…」
「いえ、仕事ですから」
自給を尋ねてもいいですか?
なんだってこんな人間に尽くすのか俺には解らん…自分で言うのも悲しいが
でも、理事長の管理下に置かれてるみたいだし
なんかあった場合の護衛なんだろうが…できれば何も無い方が俺は安心できる。
「どうぞ」
小日向さんは俺の近くに紅茶の入ったティーカップを置いた。
一口飲むと美味しい紅茶の味が口の中へと広がっていった。
流石理事長…高級な物飲んでるんだなぁ
なんと言うか気分だけでも上流階級って感じ。
結局、その日は俺がややリッチな気分を味わっているだけで最終下校の時間となった。
下校の時間になって気がついたことがある。
このまま家に連れて帰ってもいいのだろうか?
春奈に変な誤解をさせてしまうんじゃないだろうか…?
俺の脳裏を不安が過ぎる。
「……」
考えながら自宅への道を歩いていく
しっかりその後ろには小日向さんが…
悩んでいるうちに答えが見つかるなんてのも稀だが
鳳翔院家の門前にて俺はいいことを思いついた。
「あのさ…えっと、小日向さん」
「は、はいっ」
俺に急に離しかけられて少し驚いている。
「俺の家の隣に妹が今住んでるんだけどさ」
「はい、冬さんのことですね」
なるほど俺の生活環境とかは把握済みですか…
「冬に言って部屋を一つ用意して貰うから、ちょっとここで待っていて欲しいんだ」
「分かりました」
「それじゃ…」
と小日向さんをそこに残して俺は鳳翔院家へと走る。
「冬ー!!」
エントランスから冬を呼ぶ、だだっ広いから大声でだ。
「なんですか、兄さん…そんな、大声だして」
夕飯の支度をしていたのか、可愛らしいエプロンをつけた冬が出てきた。
「ちょっと来客がいる、大至急部屋を準備してくれないか?」
「そんないきなり…、客間で大丈夫ですか?」
「いや、長期滞在する予定だから、出来るだけ生活の出来る部屋が好ましい」
「…分かりました、すぐに準備します」
彼女は二階へと上がって行き、二つ目のドアを開いた。
一つ目のドアは冬の部屋らしい。
ちなみに二階には5つ部屋がある。
どうやら一番奥の部屋には田中が常駐しているらしいが…
「大丈夫です」
冬の声がドアの向こう側から聞こえた。
「それじゃあ、呼んでくるからエントランスで待っててくれ」
俺は冬をその場に残し
小日向さんの元へ向かった。
「用意できたから、来て」
と俺は小日向さんに言う。
彼女にリアクションは無く、俺の後ろを無言で着いてきた。
「冬、こちら小日向さん」
「………」
冬は愕然として小日向さんを見ている。
「あ、あの…お客さんって女の人…?」
「あ、ああ」
「メ、メイド服着てるけど…」
「彼女の趣味だそうだ」
「違います」
と小日向さんは冷静に俺の発言を否定した。
「小日向と申します、当分ご厄介になりますので、どうぞ宜しくお願いします」
小日向さんは深々と頭を下げる。
「え、ああ…はい」
冬は戸惑いながら彼女を見ていた。
とりあえず大丈夫だろうと思い俺は自宅へ
「遅いよ」
「すまん、色々あってな」
適当に制服を脱ぎ捨てて
俺は食卓へ、やっぱり今夜はカレーらしい。
白ワイシャツなので着替えないといけないな…
まったく…兄さんの行動には毎回度肝を抜かされる。
これで何度目だろう。
まさか家にメイドが来るとは思わなかった。
「え、えと…この部屋を使ってください」
「はい、お手数かけます」
しかも礼儀正しいし…
「そろそろ晩御飯ですから着替えたら食堂に来てください。あ、食堂は一階にありますから」
「はい」
仕草も上品だし…綺麗な人だ。
なんであんなにも兄さんの周りには女の人がいるんだろう…。
私は彼女を置いて食堂へと戻る。
今夜はカレー…春奈さんと買い物に行ったら
カレーの食材が安かったのでそれに決定。
きっと兄さんも今頃春奈さんお手製のカレーを食べているに違いない。
なんか、新婚生活みたいで羨ましいなー
なんて考えちゃったりもする。
でも、兄さんだし、気の利いたことは言えないんじゃないだろうか…?
春奈さんを怒らせないか不安。
そして晩御飯時。
田中さんと小日向さんは食堂へとやってきた。
「いつも、すまない」
「別に大丈夫ですよ」
こんな広い家に一人だと不安だし、家の警備もしてくれてる。
でも、はっきり言って田中さんは好みじゃない…。
「美味しそうですね」
「いっぱいあるから遠慮せずに食べてくださいね」
小日向さんは私服に着替えていたみたいだった、そういえば大きな荷物を持っていたなぁ…
青いジーンズにカジュアルなTシャツ…髪も纏めずに梳いている。
ちょっと初見とはイメージが違う感じ
でも、着こなせてるのが悔しい。
二人とも食べ終わった後はお風呂。
いつもは私が一番に入るんだけど…小日向さんにお風呂の場所を教えるのも兼ねて一緒に入ることに。
「ここが脱衣所です」
「広いですね」
「こっちが浴槽です」
「…温泉みたい」
メイド服を着ていない彼女の反応は私たちと同世代みたいな感じだった。
「それじゃあ、入りましょうか」
服を脱ぎ風呂へ…
まずは体を洗う…自然と彼女の身体を見てしまう。
同じ女として他の人の身体って言うのは割と気になる。
「肌白くて綺麗ですね」
「えっ…そ、そうですか?」
「何か手入れとかしてるんですか?」
「特にこれと言っては…」
羨ましい、なにもしてないのにこんなに肌が綺麗だなんて…。
「冬さんだって綺麗ですよ」
「そ、そうかなぁ…」
「ええ、とても可愛らしいです」
あ、今胸見て言ったな!!
どーせ人並みですよ〜だ。
…うう、泣かないもん。
「…肩凝りそうですね」
「…なにか言いましたか?」
「いえ、別に…」
はぁ発育ってのは遺伝なのかな…。
溜息を吐きながら私は湯船に浸かった。
「あの…兄さんとはどんな関係なんですか?」
失礼と思われようとも、そこはハッキリさせておきたい。
「…大切な人です」
「!!」
「とか言ったらどうしますか?」
「冗談ですか…」
「いえ、冗談では無く…本当に大切な方です」
……そんな感慨深い目で遠くを見るようにして言わないで…。
私にとっても兄さんは大切な人なんだから…
次の日
ああ…なんて言うか学校に行きたくない
そんな衝動に駆られる。
外は大雨…湿度は高い。
ジメジメジトジト…、もう、こんな日は休校にしてしまえと…。
そう言いたかったのだがそうも行かない。
「お迎えにあがりました」
お前は俺の執事か!!
…って突っ込みを入れたいのを我慢して
叶野が迎えに来たので泣く泣く家を出ることに…まぁ車だからいいけどさ。
「小日向さんはどうですか?」
「どうにもこうにも、まだ滞在して一日目だ、しかも俺とは全然喋ってない」
「いえ、好みのタイプかと聞いたつもりです」
「…はぁ」
そりゃ…まぁ好みかって聞かれたら好みだけど…
「その顔は満更でも無いって顔ですね」
こいつ…俺の面見てニヤケてやがる。
「それよりも言いたいことが一つあります、宜しいですか?」
「……ああ」
もう、お前が来た時点でなんらかの問題事があるってのは気づいてたさ。
「あなたの御友人の高峰さん、まだ家に帰っていない様です」
「透子が…?」
「はい、ご両親も心配しているみたいですね、もう一ヶ月以上になるそうですし、警察も動いてるそうです」
嘘…だろ?
この一ヶ月家に帰っていないなんて…
「……」
「あなたなら何か知っているのではないかと思い、参上したまでです」
確実にあの日のことが原因だろう…。
それ以外思いつかない。
「これは僕が私的に調べているだけですよ、警察は関係ないので簡単にあの日のことを説明していただけるだけで良いですので」
「…」
「話難いことの様ですね…」
「すまん…」
「いえ、全然構いません、僕には彼女の行く末が哀れで仕方ないと思っただけなので」
「おい…なんのことだよ」
背筋に悪寒が走った。
「あの日の夜のことです、彼女のことを駅前で目撃した人がいたそうですが…」
叶野は含みのある言い方をする。
「どうやら知らない男に着いて行ったみたいなんです、まぁその人は真面目に見えない風貌だったらしいですが」
…冗談じゃない。
「その男に何かされた…、もしくは彼女はこの世に既に存在していない、そう考えるのが僕の現在の見解なんです」
「ふざけるな!!」
俺は車の中にも関わらず、叶野の胸倉を捕まえて言った。
「なんで早く知らせないんだよ!!透子に何かあったら…どうするんだ!!!」
一瞬最悪の考えが俺の脳裏に浮かんだ。
でも、それを振り払うほどの怒りが今の俺にはある。
梅雨のジメジメも吹き飛ばすほどの…
「落ち着いてください」
「落ち着けるかっ!!」
俺は信号待ちで止まっていた車を飛び出した。
くそう…こんなことなら傘を持って来るんだった。
雨粒は次第に俺の身体を濡らしていった。
濡れたワイシャツが背中に張り付いて気持ち悪い。
唯一の救いが今は夏服でブレザーを着ていなかったってことくらいか…。
駅前、商店街、色々な場所を走る。
だが…彼女らしい人物はどこにもいなかった。
そりゃそうだよな…一ヶ月も前なんだ…。
今探したって…もう、遅いんだよな…
息を切らせながら商店街を駆け抜けると
俺のことを呼び止める一人の女性がいた。
「あら…どうしたのこんなにずぶ濡れになって」
「佳代さん…」
会うのは中学以来、透子の母さんで高峰道場の師範をされている人。
「…実は」
透子に俺がしたこと…透子が門下生にされた暴行
それを佳代さんに話した。
「…そう、家に来て」
彼女はそう言って俺を自宅へと招いた。
ここに来たのは数年ぶり、いや…中学の頃は道場を見ただけだったから
本家に上がるのは今回が初めてだ…。
「……」
俺は客間へと案内された、服は洗面所で脱ぎ
浴衣を貸してもらった、どうやら旦那さんの物らしい…少しサイズが大きいからな。
「…あの子、あなたに迷惑かけたでしょう」
「いえ、そんなことは…」
「いいのよ、…私が強く言い過ぎたせいもあるんだけど…」
話を聞くところによると
透子のお父さんは数ヶ月前に亡くなったらしい。
そのせいで門下生たちを咎める人間も消え。
佳代さんも葬式とかの手続きもあり忙しく、透子が暴行を受けていたことを知らなかったらしい。
聞いても本人は「転んだだけ」としか言わなかったらしく
本人が思いつめていたことに気がつかなかった。
「ちょっと見て欲しいの」
と言われて俺が案内されたのはこじんまりとした部屋だった。
ドアには透子ルームと書かれている。
正真正銘透子の部屋だろう。
「入って」
佳代さんがドアを開け、俺は透子の部屋へと脚を踏み入れた。
部屋は洋室だった。
古風溢れる作りの外観からは予想できない部屋だ。
「あの子が洋室がいいってゴネたの…」
なんて佳代さんは笑っていた。
周囲を見渡すと
ぬいぐるみ、少女漫画、…春奈の部屋と変わらないくらい
女の子らしいものがあった。
ちらほらゲーム機とかもある…いつかやった格闘ゲームのコンシューマ版だ。
これで練習していたのかな…。
「これを…」
佳代さんの手から差し出されたのは日記だった。
ご丁寧にも☆日記帳☆と書いてある。
俺は受け取ってから表紙を開く
「ゆっくり見ていって…私は居間にいるから」
と言って気を利かせてくれたのか佳代さんは部屋を出て行った。
とりあえず、近くの学習机の椅子に腰を下ろし、俺は日記を読み始めた。
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