Clear〜The sun〜
合宿も終了し
安堵の息を漏らした俺を追撃する敵は未だ出現せず。
なんとかゴールデンウィークも乗り切って
梅雨の季節がやってきた。
ご存知の通り、連日雨の天気予報に参っている所だが
それ以上に心を悩ませる存在が居ないことは大きなプラス点である。
日常の偏差値があったら軽く平均は取れるくらいの充実した日常。
そんなのが今更やって来ても…なぁーんもすることが無いって。
結局は仲介部の連中が何か始めない限り、俺の退屈も続きそうだった。
それもまぁ…たまにはいいんだろうけどさ。
傘を差しながら湿度の高い通学路を歩いて
俺は教室へと向かう。
制服がベタベタと肌に付きまとうのは鬱陶しいが俺の横に居る女程じゃない。
「…えへへ」
「くっつくなって…」
何が嬉しくて腕なんか組んで登校する必要がある?
俺には理解できないが
自分の彼氏ですよーとでも全校生徒に自慢したいのだろうかコイツは。
そんなことしなくても文化祭の一件以来俺らは大分有名な人物なんだが…
そんなのをこいつが気にする訳でもなく
ただ純粋に一緒にいたいという気持ちの表れなのかもしれない…。
ガラッと教室のドアを開けるとむわぁんとした湿度と
ジメジメした雰囲気が俺たちを飲み込んでいった。
「おはよう、今日も雨だねぇ」
「まぁ、梅雨だしな」
栄治とそんな当たり前の話をする。
どっかのお天気お姉さんが今年は空梅雨とか言ってたのを思い出し
やっぱり女は嘘つきだと嘆きたくなるような衝動にかられる大羽とは違うのだよ。
「部活の方は最近忙しいのかい?」
「いや、暇…って言うか平和だ、今のところな」
そう、仲介部はバランスの取れていないヤジロベーみたいな構造してるからな
いつ俺が危険なイベントに巻き込まれるか神も予想不可能なくらいだ。
いや、多分…神をも超越(自称)の部長殿なら100%の確立で次のイベントを的中できそうだけど
「そういや、午後ってホームルームだっけ?」
「そうだよ、多分進学のことについてなんじゃないかな」
すっかり忘れていたが俺たちはもう3年生なのだ。
つまり、そろそろ進学or就職と自分の進路を決定しなければならない。
大半の生徒は進学を希望するだろうが
俺はどうするか考えたこともなかったな。
でも、順当に行けば俺も進学した方がいいだろう。
理事長に頼んでどこかの大学に推薦入学でもさせてもらえないだろうか…
「それは無理ですよ」
ちょっぴり困った表情が愛らしい…。
しかし冗談を真面目に否定しないで下さい。
昼休み、紅茶飲みたさに赴いた理事長室で
栄治と話していた進路について話してみると
こんな返事が返ってきた。
「冗談です、本気にしないでください」
「わかってますよ、でも、あなたの成績なら私が推薦しましょうか?」
なんてことを仰る。
えっと…それは冗談なのだろうか?
「ふふ、冗談です」
と彼女は子供の様に笑顔を作った。
なんだかそれ…反則です。
それにしてもこの一ヶ月、彼女とは春奈のいない時に何度か会ったが
今までの神埼裏表に比べると妙に大人びている。
どっちかと言うと今までは俺が冗談を言ったりしていたが
今では冗談も彼女の方が一枚上手…
ああ…この性格のまま俺たちが付き合っていたらどうなっていたことやら…。
少し興味は沸いたが、いかんせん俺は春奈一筋なので
これ以上は踏み込んではいけない。
まぁ、今の彼女に俺がどう見えているかは謎だけど
「どうかしましたか?」
「いえ、別に…それより紅茶美味しかった、また来るよ」
「ええ、お待ちしています」
彼女に手を振って俺は理事長室を後にした。
昼休みも残り少ないので俺は寄り道せずに自分の教室へと帰還することにした。
席について物思いにふけていると春奈が寄ってきた。
「お前は蜜を舐めに来たカブトムシか?」
「なに、その例え?」
「いや、聞き流してくれていい」
彼女も俺の会話パターンはすっかり把握している。
意味の分からん例え…自分で言うのも何だが、それに変に反応しないだけマシか
昔はもっと突っかかってきたしなぁ、こいつも大人しくなったもんだ。
「うん、聞き流すけど…今日、家に行ってもいい?」
「いいけど」
来るも何もほぼ同棲だろ。
何を今更断る必要がある…
しかし、冬が来てからは色々と気まずいらしく
俺の家に来るのも2日に一回とか言うペースになっていたし
今考えると、そんなに一緒にいる時間は無いのかもしれない。
「今日は私が晩御飯作るね」
「カレー?」
「違うよ」
「シチュー?」
「もうっ、なんで汁物ばっかりなの?」
「いや、お前のことだから…それくらいかなぁ…と思って」
いつも簡単、丁寧、失敗しないって理由で採用率が70%だからな…。
「…ぐすん、どうせ冬ちゃんには適いませんよぉーだ」
いじけた様に春奈は拗ねてしまった。
はぁ…冬と比べたら他の奴の料理にゃ味に霞がかかる。
まともに相手できるのは月さんくらいか…
月さん…か…。
今頃何をしているのだろうか?
連絡は一切取れない。
西沢さんに聞いても分からないと言うし
叶野に聞いたら
「彼女から出てくるのを待ちましょう、あなたから動いても多分無駄ですよ」
なんてあっさり断言されてしまった。
はぁ…俺が動こうにも何をすればいいのか分からん。
俺がビルの屋上から飛び降りれば助けに来てくれるかもしれないが…そこまで命をかけれはしない。
何だかんだでうやむやになり現在に至る。
仲直り…いや、俺が一方的に悪いんだ…できれば謝って和解したい。
だが、姿が見えないとなると…万策尽きるって訳。
「キーンコーンカーンコーン」
んなこと考えてる内に予鈴が鳴った。
俺は席に突っ伏して寝る準備
うわっ…机が若干湿ってる…。
環境が悪いせいか午後の授業は眠れなかった。
俺は珍しく…真面目に授業を受けた。
大半は左の耳から入って右の耳から抜けて行ったけど
それでも顔を上げて先生を見るってことは大事だと思うんだ。
そんな訳で一日無駄に過ごした感が取り払えないまま
放課後となった。
鞄を持って仲介部部室へ
今日は部長が欠席だから安心だぁ…なんて浮かれていてはいけない
あいつは授業にはでなくても部活の参加意欲はすばらしいからな。
でも、そんな出来れば現実してほしくない人物の登場を願わない様に俺は部室の扉を開いた。
「どうもっす」
と軽く挨拶して来たのは高野。
偉そうにも備え付けソファーで寝転がりながら漫画読んでる。
「どうも」
桐谷も近くで漫画を読んでいた。
どうやら図書室で借りてきたらしい…俺も何回か借りた覚えのある本だ。
「2年は早く授業終わったのか?」
「僕ら授業は午前中まででしたから」
なんだと、羨ましいなオイ。
そう言えば進路説明の先生の都合とかで2年は午後休講なんだっけ。
なら、さっさと寮にでも帰ればいいものを…どうやらこの部屋の居心地の方がいいらしいね。
ちょっぴり同感しつつ
俺は定位置のパソコンデスクに腰掛けて
椅子に腰を下ろした。
「あーそうだ先輩、この部活に紹介したい娘がいるんすけど…」
「紹介したい娘?」
そう言うのは俺じゃなくて叶野に言え。
「えっと同じ寮なんですけど…帰国子女で」
ほうほう…帰国子女ですか、なんとも部長が食いつきそうなネタだねぇ…。
「おい、お前…本気で言ってるのか」
やけに真剣に桐谷が高野を止めている。
「いいじゃんよ、お前だってアルが傍にいた方がいいじゃねーの?」
「べ、別に俺は…」
なんだか桐谷が複雑な表情をしている、ここらで助け舟でも出しておくか
「まぁ、部長が来たら改めて話してみればいいだろ、急ぐことは無い」
「それもそうっすね」
簡単に了承。
なんとも単純な奴で心底安心しているのは桐谷だった。
それから3人で暇つぶしにボードゲームでもしたがすぐに飽きてしまい
何か飲み物を調達に
紅茶やコーヒーが飲みたかったのだが…高野が断固金を出すことを拒否したため
俺は職員室と理事長室に拝借しに出かけた。
決して2年二人の中で俺が浮いていた訳じゃない…多分。
職員室に来ると他の教員は部活動とかの監視もあるのか数名の教員しかいなかった。
その中で紀野里先生を発見。
「先生」
「どうしたの?」
「えっとコーヒー豆って余ってます」
「え、ええ…あるけど」
「少し分けて貰えないですか?」
「いいけど、インスタントよ」
そうそう、言い忘れていたが、なんて言ったか忘れたがコーヒー豆を潰すやつがある。
「それじゃ、いただきます」
「あ、ちょっと待って」
「はい?」
「これ」
と先生が手渡してくれたのは可愛い包みに入ったクッキーだった。
「お茶菓子にどうぞ」
「ありがと、先生」
お礼を行って俺は職員室を後にする。
さて、次は理事長室か…。
なんか完全に生徒として理事長室を利用していることに違和感が無いのはヤバイと思う。
しかし、慣れって言うのは恐ろしいね。
「…てください」
おっと、ドアに手をかけようとしたら中から話し声が聞こえてきた。
うーん、ここは大人しく来客が去るのを待とう。
俺はそう思い扉から離れようとした。
「ちょうど良かった、入ってください」
と何時の間にか理事長室のドアが開いており
秋が俺のことを見つけてニッコリと微笑んでいた。
そのままなし崩し的に俺は理事長室内へ
来客の方は理事長の…つまり秋の反対側の椅子に座っていた。
しかも、とんでもない格好で…。
「メ、メイド服…!?」
つい言葉に発してしまったが来客者の女の人は見間違うこと無きメイド服を着込んでいた。
しかも俺と顔をあわせるなり少し頬が赤くなる、恥ずかしいなら着なきゃいいだろうに…。
でも、びっくり…月さん以外にもメイド服を着る様な人間に出くわすなんて
俺は秋葉原にでも行かないといないもんだと思ってたから驚きですよ。
「じゃあ、こっち側に座ってください」
三竦み状態になる様に俺を隣に座らせた秋は来客者の紹介から始めた。
「こちら、小日向さんです」
とメイド服の女性を指す。
「…初めまして」
礼儀正くお辞儀をされたので俺も恐縮してお辞儀をしてしまった。
「これから、あなたの身辺警護をすることになっているので仲良くやってくださいね」
……はい?
「あ、あの…今なんて?」
「ですから、これからあなたの身辺警護を全て小日向さんにやってもらいます」
意味が分からん…てか、それは月さんの役目だったのでは?
「小葉月さんには別の任務についてもらっているので彼女は代役と言うことですね」
秋は平然と凄いことを言っている。
「………」
無言のまま小日向さんとやらを見て見る。
「あ、あの…な、なにか…?」
モジモジと照れている様だ、なんか可愛らしい。
どうやら背丈は俺と同じか少し下くらい。
髪は紅って感じの茶で長さは中位、ポニーテールって感じでも無いんだが
後ろで纏めて纏めた方はスパイラル上に微妙に周囲に展開している。
これってなんて言う髪型だっけ、まぁいい…それにしても難しい表現の髪形だなぁ…いや、綺麗な人だけどさ。
結局、俺は数分の間、永遠と秋から小日向さんの説明を受けていた。
「それじゃあ、頑張って下さいね」
どっちに言ったんだろう。
「えっと…とりあえず、部室に戻ろうか…なんて…」
あはは…なんかやり辛い。
「お供します」
そのまま俺の左斜め後ろにスタンバイ、どうやら月さんと定位置は逆らしい。
そして俺はメイドさんと言う意外な戦利品を抱えて部室へと帰還するのであった。
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