Clear〜予兆〜
あれから俺と高峰は親しくなっていった。
いや、多分高峰がそれを望んでいたんだと思う。
互いの性格的相性が抜群だったんだろう。
そうして次第に仲良くなっていった俺たちは
やがて名前で呼び合うようにもなり、毎日馬鹿やっては楽しく過ごしていた。
…………。
………。
…。
「でも、私は…結局、友達にしかなれなかった」
情けをかけてほしいのか…?
それなりにもプライドを持っていた彼女の発言とは思えない。
弱々しき言葉の中には不安が垣間見える。
「…とりあえず、家に帰ったほうがいいんじゃないか…もう夜も遅いし…」
そんな情けない言葉しか出ない。
強気の彼女になら
そんな家出ればいいじゃないか、とかも平気で言えるってのに…
「…そっか、ごめん、私迷惑だったね…」
節目がちに彼女はそう言った。
「…………」
無言の時間が続く
「でもさ、期待しちゃうんだよ…だって態々私の為に…みんなと合宿に行ってても帰ってきてくれるんだから…」
「……」
俺は彼女に…何をしてあげれるのだろうか
「ほら、もう大丈夫…じゃあね…」
そう言って彼女は俺の横を通り過ぎていく
「………」
呼び止めない。
それが俺が選んだ選択肢だった。
冷たくとも残酷に…立ち去る彼女の姿を見ていることしかできなかった。
「プルルルルルッ」
ふと、俺のポケット内の携帯電話がコール音を響かせた。
「もしもし…」
知らない番号だったが出てみる。
「もしもし、僕です」
「叶野か…?」
声色と一人称で電話の主が誰か直ぐに分かった。
「用はお済ですか?」
「……」
「池上さんも心配しています、迎えを送りますので…早く帰ってきてください」
「あ、ああ…」
その電話が切れてから10分くらいした後。
西沢さんの車が家の門の前に止まった。
「お待ちどう様です」
深々と会釈をした後
西沢さんは俺を車へと招きいれた。
「…………」
車の中ではクラシック曲がメロウな旋律を奏でていた。
「…どうかなさいましたか?」
無言を通していた俺に西沢さんが話しかけた。
「…いえ、特に何も…」
せっかく気を使ってくれたのに申し訳ないが
ここは黙秘権を行使させてもらった。
夜の駅前はとても夜とは思えないほどの光を放っている。
その輝きの前に…私は立ち尽くす。
何も考えることができない。
家に帰ることだってできない。
もう、私を受け入れてくる場所なんてないから…。
「君、一人?」
不意に後ろから話しかけられた。
「どうしたの〜こんな夜中に?」
男はチャラチャラとした態度で話しかけてくる。
「何で黙ってるの?」
男は私の手を取った。
「怪我してんじゃん、大変だ、病院行かないと」
男は私を引っ張っていく。
抵抗するのは簡単…でも、もう…どうでもいい。
男は私を自分の車へと乗せるとそのまま夜の町を走り出した。
「……」
数分程、走った後。
人気のない所に男は車を止めて、私に降りろと言った。
「抵抗しないってことはいいんだろ?」
ニヤリと男は笑う。
「…あ、ここら夜は誰も通らねぇから」
なるほど、悲鳴を上げても無理だと丁寧に教えてくれている。
「それじゃあ…」
男の手が私に伸びる。
ああ…きっとここで私はこんな男の玩具と化すのだろう。
身も心も犯されて…彼と向き合えなくなるくらいに…。
いいや、それでもう諦められるし。
全身の力を抜いて…
「バシィン」
私に覆いかぶさろうとしていた男が行き良く地面に転げ落ちた。
何か行きよい良く男の顔面にぶつかったんだと思う。
見る見るうちに男の頬が青くなって行った。
「ふぅ…やはり着いて来て正解でしたね」
暗くて良く見えないけど…女の人みたいだった。
「…あなたは…?」
私は彼女に問う。
「そうですね、私は…」
俺が別荘に戻った頃にはすでに皆さん就寝済みで
明かりが灯っている部屋は1つしかなかった。
携帯で時間を確認すると午前3時…
やれやれ、明日も寝不足だな。
そんなことを思いながらエントランスへ
「遅かったですね」
迎えてくれたのは叶野だった。
はぁ…どうせなら春奈にでも健気に待っていて欲しかった。
「お疲れ様です、明日も早いので直ぐにでも寝てください」
「言われなくても寝るつもりだ、俺は疲れた」
「……何かありました?」
俺の顔色を伺うように叶野が聞く
「あったから疲れたんだよ」
そう言い捨てて俺はさっさと自分の部屋を目指した。
部屋に着いたらベッドへ直行。
着替えるのも面倒だ。
全身の力が抜けるように俺はベッドに体を委ねた。
2秒と経たずに俺の精神は睡眠へと誘われた。
「もう…着替えないで寝ちゃダメだよ」
「んー」
「もう…しょうがないなぁ」
次の日
目の下がジンジンと痛むと思えば案の定、目の下には隈がくっきりと出来ていた。
鏡でそれを確認した俺は深く溜め息。
朦朧とした思考で洋服を着替え…って、あれ?
いつの間にか洋服を着替えていた様だ。
ついにボケまで始まったか?
まぁいい…とりあえず食堂にて朝飯だ。
その後にでも秋にアプローチをかけるとしよう。
食堂へと来るとみんな元気そうな笑顔…眠そうなのは俺だけかよ
「やはり寝不足ですね」
「お前は元気だな…」
「慣れというものです」
そんなものに慣れたくはないな…断じて。
「それよりも池上さんはどうしました?姿が見えない様ですが」
「ああ、寝てたよ、あいつ寝坊の達人だから」
あいつは朝が苦手なんだよ、昔からな。
きっとまだ夢の中だろ。
「…そうですか」
「ん、なんか含むところでもあるのか?」
「いえ、何でもありません」
何でもない様に聞こえていたらそんなこと聞かんよ。
その後人数分出てきた食事を頂いた。
春奈の為に少しパンでも持っていってやるか…。
春奈は結局何度起こしても起きなかった。
疲れてたんだろうか…?
無理に起こすのも可哀想だし大人しく寝かせておいてあげよう。
さて、本題。
いや元々合宿が本題だから、これは本題じゃないんだがなぁ…
意を決してドアを叩く
「どうぞ」
間違いなく秋の声が返ってきた。
「……」
無言でドアを開けて俺は部屋の中へと入る。
部屋の中は俺たちに割り振られた部屋と同じだったが
彼女の部屋にはテーブルと椅子
そして小型のバルコニー的な場所があった。
「どうかなさいましたか?」
俺の顔を見るなり彼女は問う。
「少し話が…」
「それならお掛けになってください」
と自分の隣の椅子を指差す。
「あ、ああ…」
言われるままに俺は椅子へと腰を下ろす。
「紅茶、お飲みになりますか?」
とテーブルに置いてあったティーポットを見て秋が言う。
「…頂きます」
「少し待ってて下さいね」
ニコッと笑顔を浮かべると気品のある動きで俺に紅茶を淹れてくれた。
うん、いい香りだ。
おそらく高級な茶葉を使っているに違いない。
味わって飲んでいたんだが…おっと、本題を忘れるとこだった。
「えっと…秋、いや…神崎さんは…」
「いいですよ、秋で」
「え…あ、ああ…」
何言い直してんだ俺は…。
「その…記憶が飛んでるって言うのは本当ですか?」
うわ…なにストレートに聞いてんだよ俺。
秋もキョトンとした顔で見ているし
「西沢さんから聞いたんですか?」
「ま、まぁ…」
「そうですか…そうですね、言われてみればそうかもしれません」
彼女は紅茶に口をつけると目を細めてから
「忘れてしまいたい程のことが、あったんだと思います」
グサッと俺の心に罪悪感と言う名のナイフが刺さる。
もちろん会心の一撃。
「でも、今の私には何も分かりませんから、少し困っている程度です」
苦笑交じりに彼女は言った。
察するに俺とのことは覚えてない。
それどころか…記憶が無い事をあまり気にしてないって感じだ。
「そうですか…」
「?」
「それじゃあ…俺はこれで…」
確かめるべきことは確かめた。
長居してボロが出るのは嫌だし、俺は退散するとしよう。
「あ、あの」
「はい?」
「合宿から戻っても、理事長室に居ますので遊びに来て下さいね」
「はぁ…」
曖昧な返事を返して俺は彼女の部屋を後にした。
帰りのバス内でも俺と春奈は方を寄り添う様にして寝ていた。
お互いに疲れたんだ帰りぐらい休ませろ。
「それじゃあ解散、また学校でな!!」
俺の中ではすっかり空気だった部長はさっさと帰ってしまった。
「それじゃあ俺たちも帰るか」
「うん」
春奈と一緒に帰路に着く。
「おい」
帰ろうと思っていた矢先に田中に話しかけられた。
「ん、どうした?」
「少し話がある」
それだけ言って田中は俺たちを導くかのように歩き出した。
着いて行きたくなかったが…帰り道と同方向だったので止むを得ずだ。
「お前なぁ…」
連れて来られたのは自宅、つまり鳳翔院家だった。
しかも本館の方…広いけどホコリまみれだから出来るだけ入りたくなかったのに…
エントランスへと入り、奥へ
「あれ、兄さん…どうかしたんですか?」
冬が出迎えてくれた、いや…本人も俺たちがなぜ来たか判ってないみたいだけど
「とりあえず、座れ…話はそれからだ」
偉そうに、お前の家じゃないってのに…。
俺と春奈、冬はその場に腰を下ろした。
「で、話ってのは何なんだよ」
「神崎家のことだ」
「神崎家のこと?」
「ああ、俺は独自にあの家について調べている」
「…なんでそんなことを?」
調べるのは非恋愛主義で十分じゃないのか?
「理由は時が来たら話す、だが…気をつけていて欲しい」
「おいおい、大げさな…」
「油断が死を招くこともある」
真面目な顔つきで田中はそう告げると
奥の部屋へと消えていった。
「まさか居座る気じゃないだろうな…」
冬に危害があるかもしれんし。
まぁ…田中だしなぁ…大丈夫か。
「はぁ…」
溜息一つ、そして我が家へ。
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