恋愛仲介部の復縁2
目が覚めたのは8時頃だった。
俺の隣では春奈が幸せそうに寝息を立てて寝ている。
「……」
俺は春奈を起こさない様にベッドから抜け出して
二人分の朝食の準備を始めることにした。
そして現在、俺は似合わないにも台所でトントンと包丁の音を立てている。
不思議な感覚だ、本来なら俺と春奈のポジションは逆じゃないのか?
まぁいい…。
きっと疲れているんだし、寝かしておいてあげるのが一番。
そんなことを思っていると
『ギュッ!!』
と後ろから手が伸びてきて俺を抱き寄せた。
「こら、危ないだろ」
仮にも包丁を扱っているんだから
「えへへ♪」
しかし、そんなこと微塵も思っていないほど、ニッコリと笑顔を作っている春奈。
頼むから服を着てくれ。
シーツ一枚羽織っているだけの彼女は…なんとも言えない色気が…。
…って、朝からこんなんじゃダメだろ。
「とりあえず、服を着なさい」
風邪を引いちゃいますよ。
「だって、着替えないもん」
「じゃあ…俺の服があるから…それ着てなさい」
「はぁーい」
大人しく納得してから
春奈は俺の洋服を漁り出した。
やれやれ…。
朝食の準備ができたので俺は寝室へと春奈を呼びに行く。
「着れるのあったか?」
あっても多分ぶかぶかだろうが…。
「うん」
と普通に青ジーパンと学校指定のYワイシャツを着ていた。
「…Yシャツ着るのはいいが…中にTシャツ着ろよ」
そのままじゃ風邪を引くだろうに。
「わかった」
堂々と俺の目の前でYシャツのボタンを外していく春奈を止めるのも面倒だ。
「手伝って」
「一人で着なさい」
「えぇー」
嫌な顔をするなっての…。
「早くしろよ、今日は文化祭行くんだろ」
「うん」
全部見て回るには午前中から行かないと時間が足りない。
だから早く起きたというのに…。
準備が全て終了したのはそれから一時間後だった。
さすがに学校の文化祭に私服登校するってのは気が引けたので
春奈のYシャツは却下。
校章までプリントされてるからな…一発で生徒だとバレる。
よって他の…まぁシャツ系の洋服を着せて
それだけでは寒いので昨日着てきたコートを着て春奈の準備も完了した。
「髪、結ばなくていいのか?」
「えっ?」
「ほら、いつも結んでただろ」
「もう、いいの」
「?」
「だって、こっちの長い方が似合うでしょ?」
「まぁ…な」
「だからもう結ばないよ」
俺が察するに…得に気に入って結んでいた訳じゃないみたいだ。
女心は分からんねぇ。
自転車に二人乗りして
20分近くかかって俺たちは学校に到着した。
「賑やかだな」
昨日ほどでは無いが…校内は賑わいを見せている。
準備等をしていない為、どうも第三者視点だ。
人ごみの中、見慣れた生徒が俺たちの到着を待っていたかのように手招きをしている。
仕方ないので赴くことにしよう。
「おはようございます」
丁寧伯爵はいつものように挨拶をしてきた。
「早いな」
「ええ、僕は見回りもあるので大忙しですよ」
「指導係としてか?」
「ええ、それもありますが…」
叶野が視線を逸らした先には北条の姿があった。
「なるほどね…デートってことか」
「ええ、楽しく回らせてもらっていますよ」
「そりゃよかったな」
北条は春奈となにか話している。
「…ところで、秋はどうしてる?」
「見かけていませんね、ここ数日、連絡も無いので心配しています」
「そうか…」
「そう言えば紀野里先生があなたのことを探していましたよ」
「『先生』が?」
「はい、おそらく職員室にいると思います」
「そうか、わかった」
後で顔を出してみるか…。
「おっと、そろそろ時間のようですね、それではお互いに楽しみましょう」
叶野は時計を見ると思い出したかのように言った。
「ああ」
叶野は北条と一緒に楽しく文化祭を回るみたいだ。
なんだかんだ言ってあいつらは仲が良くて羨ましい。
「さて、俺たちも見て回るか」
春奈の手を取って俺たちも純粋に文化祭を楽しむことにした。
「随分と上機嫌ですね」
叶野が北条に言う。
「え、そうかしら?」
「はい、何か良い事でも?」
「良い事があったのは私じゃなくて春奈よ」
「そうですね」
「また…色々と後押ししたんでしょ?」
「いえ、僕はなにもしていませんよ」
「嘘、知ってるんだから、彼の昔の友人に色々吹き込んでたの」
「僕の行動は全て把握済み…ですね」
苦笑しつつも冷静な表情で叶野は言う。
「でも、どうして春奈となの…?」
「どういう意味ですか?」
「だって…神崎とくっつけたり…春奈と復縁させたり…あなたは何がしたいの?」
「…僕のしたいこと…ですか?」
「そう…なにがしたいの?」
「そうですね…僕は彼がどちらを選ぶか見てみたかったのかもしれません」
「どう言う事?」
「観察してみたかったんです、極限的な選択肢を与えて彼がどちらを選ぶのかを」
「……」
「軽蔑しましたか?」
「ううん、…でも、それで答えは見えたの?」
「はい…しかし、彼はまだ答えが断片的にしか見えていないようですが…」
「断片的?」
「僕が心配しているのは…彼だけではありません」
叶野は冷静な口調と共に
「一番心配なのは…彼をかけ替えの無い存在として認識してきた人たちです」
そんな言葉を口にした。
文化祭…なんてのは
騒々しいだけ…だと思っていたが意外に面白い。
それは一人ではなくて…春奈と回っているからなのかもしれないけどな。
「そうだ、俺職員室に行かないと」
「呼び出し?」
「ああ、少し待っててくれ」
俺は春奈をちょうど職員室前に待たせて職員室のドアを開いた。
なんと言うか…
文化祭当日の職員室は異色の空気を放っていた。
静けさ…に似ている。
「『先生』用事ってなんですか?」
席に座っていた『先生』に話しかける。
「…ごめんなさいね、呼び出してしまって…」
『先生』は少し疲れているようだった。
「大丈夫ですか…顔色が良くないみたいですが…?」
「平気よ…最近ちょっと寝つきが悪いだけだから」
少し無理して微笑んで『先生』は俺に封筒を差し出した。
「これは…?」
「影島君からの手紙…彼、質問には答えないけど、あなたにならってことで手紙を書いてくれたわ」
影島からの手紙か…。
いったい…なにが書いてあるんだろう。
「……」
「あなただけに読んで欲しいそうよ」
「…そうですか」
きっと…本心が分かる。
あいつが…どうして非恋愛主義なんかに入ったのかが…きっと…。
手紙を受け取った俺は職員室を出る事にした。
「ねぇ…」
途中『先生』に後ろから呼び止められた。
「なんですか『先生』?」
「…ううん、なんでもない…」
「…?」
「ごめんなさい、なんでもないわ」
「そうですか…では、失礼します」
俺は職員室のドアを開けた。
「先生なんか言ってた?」
早速春奈からの質問。
「ああ、これ」
貰った封筒を見せる
「なに?封筒?」
「ああ、これが…多分鍵なんだと思う」
「……へぇ」
どうやら春奈はあんまり興味がないようだ。
「さて、続きまわるか」
「うん」
とりあえず…クラス単位での催しがいくつか存在していたらしいが
そんなもんは気にも留めず。
ひたすらに出店を見て周り、昼飯を調達。
適当な座るところが見つからなかったので屋上へと移動し
少し遅めの昼ご飯と洒落込もう。
「はい、あーんして」
箸で焼きそばを俺の口へと運ぼうとする。
「自分で食べれる」
そう言って春奈から箸を取り上げて一頬張り。
「あーっ」
あっけに取られている春奈の口にも焼きそばを運んでやる。
「美味しいか?」
「…えーと…微妙」
「だよな」
所詮、学生の作る三流焼きそばなんてたかが知れている。
まぁ無難に腹を膨らませるだけならば合格点だが。
「林檎飴、林檎飴♪」
しかも春奈はもう焼きそばに飽きたのか林檎飴を頬張って御満悦。
そういや近所の花火大会の時も林檎飴舐めてたっけ。
「春奈」
「ふぁあに?」
きっと「なぁに?」と言いたかったのだろうが…
飴を頬張った状態じゃ残念ながら聞き取れる発言になってない。
「楽しいか?」
俺の問いかけに躊躇の欠片もなく
「うん、楽しい♪」
満面の笑みが帰って来た。
放課後
「彼なら…来ないわよ」
…だれも居なくなった学校の前門に立つ一人の人影に言う。
「……知っています」
彼女は憂いな表情でそれを返す。
「自転車置き場…裏門の方が近いから…そこで待てば?」
「いえ…私はここで待ちます」
彼女は視線を逸らすことなく…ただ、主の帰りを待つ…。
「……なら、勝手にしなさい」
彼女もまた帰路につく。
お互いにそれ以上はなにも話さない。
壊れてしまった。
戻れなくなってしまったのだ。
あの…微笑ましく、笑い会えたいた…あの頃には…。
繋がりはやがて絶たれ…絶望へと変わる。
楽しき日々が続けば続くほどに…残酷さと悲しみを深めていく。
あがけばあがくほどに…自らの醜い姿を晒すこととなる。
そんなこと…自分でも分かってる。
でも理解と…行動は時として逆に作用する。
私はあの人に裏切りを覚え…絶望の淵まで叩き落された…。
でも、私は…あの人を…完全に憎むことなんてできない…。
居場所をくれた人だから…私に価値をくれた人だから…。
でも、もうとどかない…。
待っていても彼は私の迎えなんて…もう、必要ない。
私はいらなくなったから…。
きっと…もう、価値も存在も感情でさえも…
塵と化し…あの人に気にされることもなくなっていくのだから。
それでも私は…無駄だと分かっていても…
いつまでも帰らぬ主の帰りを待ち続けている。
文化祭を隅から隅まで見て疲れている状態で家に帰ると
「お帰り」
……ちょっと待て
見覚えのある金髪の女性…じゃなくて春香さんがコタツに入ってミカンを食べていた。
「お、お母さん!?」
驚く春奈。
そりゃ当然のリアクションだ。
「二人が入籍したって聞いたから帰ってきちゃった」
「え、にゅ、入籍!?」
ことが随分と跳躍している…。
「違うの?」
「違うよ、ただ…えっと…」
そこでモジモジと顔を赤くする春奈。
「あーうん、そうだよねお年頃だもんね」
何を納得したのか春香さんはうんうんと頷いていた。
「もう、優ちゃんには言ったの?」
「いえ、まだ『先生』には言ってないですけど…」
「そっか…」
春香さんは少し考えて
「じゃ、ちょっと買い出しに行ってくるね」
「え?」
「あー晩御飯の、義理の母の手料理をご馳走するね」
そんなことだけに帰って来たと言うのか…。
「…えと、それはありがたいですけど…」
「いいの、いいの遠慮は無しでしょ、もう家族みたいなものだし」
「はぁ…」
「大丈夫、ご飯作ったらすぐ帰るから。今夜もお楽しみね」
「ちっ、違いますよっ!!」
「ふふ、冗談よ♪」
上機嫌に春香さんは買出しへと旅立たれた。
「なぁ…本当にお前の母親は凄いよ」
「自分でもそう思います」
「…はぁ」
二人で溜息。
なんとなく…最近春奈が俺に似てきた気がする。
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