恋愛仲介部の復縁1
息切れしている…自分らしくない。
全速力で自転車で走っている。
学校まで到着、辺りは文化祭色一色。
そんなの目に入らねぇよ。
目指すは体育館。
俺には…その場所しか目に入らない。
演奏開始を…20分を過ぎている。
やっぱり…来てくれないんだ。
そりゃそうだよ、もう…何日も話してないもんね。
「大丈夫ですよ、彼はきっと来ます」
俯く私に後ろで控えていた叶野君は言った。
私は信じてる。
でも…心の中で…来ないんじゃないかって
ずっと…不安で…今にも泣きそうで…。
「そろそろ本番だな、もう時間も押しているから急げ」
部長は私にそう言った。
私は流されるままに…壇上へと上がった。
湧き上がる歓声。
私はそれに耐え切れない。
プレッシャーが凄くて…手が震えている。
ダメ…声も…出ない。
叶野君は無言のままギターを持っている。
私に助け舟を出そうとはしない。
影島君の抜けた穴を埋めるように
北条さんがキーボードのポジションについている。
彼がいなくても…演奏はできる。
でも…私は…。
バダンッ。
勢い良く体育館入り口の扉が開いた。
体育館にいる全員の視線がそこに注ぎ込まれる。
「………」
彼は私服だった。
制服を着る暇が無かったのだろうか…。
でも、私たちだって舞台用の衣装。
さして気にはならない。
彼は黙って壇上へと飛び乗った。
「叶野」
「はい」
叶野君は用意していた彼のギターを彼に手渡した。
「キャア〜〜〜」
女の子たちの黄色い声援があがる……気に入らない。
定位置について演奏を始める。
その時…もう、私の緊張なんて無くなっていた。
私達は難なく演奏を終えた。
演奏後彼は叶野君にギターを返して
「フォローありがとな」
「いえ、思ったより僕の出番は少なかったです」
「そうだな、自分でも驚いてる」
そう言うと彼は楽屋裏には戻らずにそのまま体育館を出て行こうとしている。
話しかけるなら今しかない。
私は彼の後を追った。
約束は果たした。
客席にも見知った顔が何人かいた。
透子が親指を立てていたのは真っ先に目に付いた。
さて、帰るか…。
すべき事はした。
帰って二度寝でもするか…。
でも、その前に…。
する事があるみたいだ。
「なんの用だ?」
後ろにいた彼女に尋ねる。
「あ、ありがと…」
そんな言葉が出た。
でも、一番伝えたかった言葉。
「…わざわざ言いに来たのか?」
「…そうだよ」
「…そうか」
彼は私に近づいてそっと頭を撫でてくれた。
「約束は守ったからな」
「うん」
そう言うと彼の手はそっと私から離れていった。
ダメ…。
離れたらもう…二度と戻らない。
そんな気分になる。
大好きな彼。
…そんな彼が遠くに行っちゃう。
ふられた時よりも遠くに…。
それは嫌…。
ギュっと私は彼の腕を掴んだ。
彼はそれを払いもせずに…じっとしている。
「池上…離してくれ」
「嫌っ…」
「聞き分けの無い子だな」
「…むぅ」
また子供扱いする…酷いよ…
「いつまでも…子供扱いしないでよっ」
「…はいはい」
彼は五月蝿そうにしてる。
「じゃあな」
彼は私の手を振り払って…そのまま歩き出した。
彼は振り返ることも無く。
自宅と思われる豪邸へとやって来た。
「…しつこいな、文化祭はいいのか?」
「まだ初日だもん…」
「…そうかい」
彼は別館と思われる建物のドアを開けた。
扉が閉まる瞬間に私は足を扉に挟む。
「痛っ」
「…あのなぁ」
でも、これで家の中に入れる。
室内は前の彼の部屋とは全然違っていた。
なんていうか…片付いている。
「ふぅ…」
彼は着ていたジャケットをハンガーにかけてそのままベッドに横になった。
目を閉じて私のことなんて…空気になったかの様に無視している。
「なんで…無視するの?」
「………」
彼、無言。
「私のこと…嫌い…なの?」
「…嫌いではない」
その返答が一番困る。
「はぁ…」
私も溜息をついてその場に腰を下ろした。
彼はなんの反応も無しに私を見ていた。
2時間くらい経過した。
私も彼も終始無言。
彼は時計を見ると急に立ち上がった。
「…なにか食べるか?」
「え、う、うん」
そう言えばもうお昼…お腹減ってる。
「出店とか…よかったのか?」
「大丈夫…明日もあるし」
「…そうか」
彼は台所でなにかを作っているようだった。
数分後
「ほれ」
私の前にはスパゲティが置かれていた。
「え、作ったの?」
「ああ」
「…美味しそう」
彼は既に食べている。
私も一口頬張る。
「美味しいね」
「…そりゃよかった」
「…うん」
黙々と私たちはスパゲティを頬張っていた。
でも、嬉しかった。
少しでも私に気を使ってくれるんだから。
困ったな。
池上が帰る気がないのかさっきから居座っている。
まぁ…いいけどさ。
俺は眠ることにする。
「ねぇ…」
池上は何か言いたそうにこちらを見ていた。
「……」
俺は無反応を決め込む。
「そっち…行ってもいい?」
「………」
拒否するべきか…。
俺は…もう、池上を…。
池上は俺の返答を待たずに…寝ている俺の傍にやって来た。
「……好き」
俺に寄り添うようにして池上は言う。
「……」
「なんとか言ってよ…」
俺はこいつのこと…。
好きだ…嫌いな要素なんて一つも無い。
「お前は俺になんて言って欲しいんだ?」
「え…」
「……」
「えっと…それは…」
もじもじと頬を紅くしている。
「ちゃんと春奈って呼んで…そしてギュッと抱きしめて」
そんなことで満足なのかこいつは…?
「先に言っておくが…俺はお前のことを一度傷つけている…また傷つくかもしれないんだぞ」
「…いいよ、それでも…す、好きだから」
「…はぁ、本当に救いようの無い女だな」
「うぅ…」
「ま、お互い様か…」
俺はそっと彼女のことを抱きしめてやった。
「あっ…」
「満足か…?」
「まだ…」
「そうか…『春奈』…これでいいか?」
「…うん」
池上は俺に背中に手を回してきた。
「……」
そのまま5分くらい俺たちは抱き合っていた。
「……もっと」
俺が抱きしめるのをやめると池上は物欲しそうに俺を見る。
「ダメだ」
「え…どうして…?」
「とにかく…ダメだ」
これ以上はダメなんだ。
これ以上しては…また春奈を傷つける。
それだけは…ダメだから。
「傷つけるのが…怖いの…?」
ドキッとした。
自分の心の中を見透かされているんじゃないかってくらい…。
彼女は俺の真意を捕らえていた。
「私なら大丈夫だから…傷つかないから…」
彼女はそう言うと…俺のことを強く…強く抱きしめた。
情けない。
俺は本当に情けない奴だ。
池上に…春奈に…慰められて…。
不覚にも…心が揺れ動く。
人間は何度も失敗を犯す。
でも…それを糧に前へと進むことができる。
俺は失敗が怖かった。
春奈と別れた時も…。
秋と付き合った時も…。
きっと…心のどこかで…手放したくないと…脅えていたんだと思う。
もう離さない…そう思っても…砂のようにするりと手から抜け落ちていく。
そんな…存在に心を揺れ動かされていたのかもしれない。
大好きさ…ああ、好きなんだよ。
俺は春奈のことが好きなんだ。
でも…今更、あんなことをしておいて…春奈を…
春奈に対して好きって言う自信が無いんだよ。
俺…臆病だから…現状維持がしたかった。
何かが変わっていくのが…怖かった。
でも、…違う。
きっと変わって行くのは…時間が流れてくのが怖いのは俺だけじゃないんだ。
誰だって…幸せは手放したくない…。
だからこそ…今を大事に生きられる。
そう…尊さを知っているから…。
そんな一瞬を共感して…一緒に…俺は歩みたいと思う。
「春奈…」
彼女は泣いていたのか…?
瞳にはいっぱいの涙を溜め込んでいる。
次の一言は彼女の涙腺を崩壊させることができるのだろうか…?
できるだろう…。
「好きだ…俺とつきあって欲しい」
その一言に彼女は
「うん、こんな私でよければ…」
既に涙と笑顔で春奈の顔は凄いことになっていたが…。
そんな顔でも春奈の笑顔は可愛かった。
そして俺たちは…。
二人して同じ時を刻んでゆくことを誓う。
「ねぇ…キスしよ」
「ああ」
甘ったるいキスを終え春奈はすっかり笑顔を取り戻していた。
「私も…ここに住んじゃダメかな?」
「は?」
「だ、だって…その一緒にいたいし…」
「別にいいけど…狭いぞ」
「ううん…狭くても一緒ならいい」
「…そうか」
一緒にいたい…そんな一言が嬉しく思える。
「……あの…ね」
「ん?」
「私…彼女…に…戻れたのかな…?」
「…ああ」
「…嬉しい」
「よしよし」
再び頭を撫でる。
「頭撫でるの好きだよね?」
「嫌か?」
「嫌じゃないよ、嬉しいもん」
「なら良かった」
なんか癖みたいで…春奈にはよくやるんだよなぁ…。
「あのさ…あの時のこと…怒ってる…?」
「いつのこと?」
「私が…その、押し倒した時のこと」
「ああ…」
あの時は驚いた。
春奈の必死さ…そして本心が露になったからな…。
「もしかして…そういう願望あるのか?」
「願望?」
「えっと…なんていうか…」
「え、えっちなこと…したいかって…こと…?」
「あ、ああ…」
春奈は顔を真っ赤にして
「うん…少しだけ…ある」
そう、答えた。
「…あるのか」
「私だっていつまでも…子供じゃないもん」
「そうだよな…」
俺だって…興味がない訳じゃないし…
「…す、する…?」
「いきなりだな…おい」
「だ、だって…私から言わないと…してくれそうにないんだもん」
「……そんなに俺は甲斐性なしか?」
「うん」
即答ですか…。
ちょっとショックを受けつつも…嬉しかったりするのは内緒だ。
とりあえず、自分で脱ぐか?
と聞くと…「普通は彼氏が脱がすんじゃないの?」
って真顔で聞かれたので…一応俺が脱がすことに…。
と、言うか…なんで女子の服装はあんなに脱ぎにくくなっているのだろうか?
まぁ…そんなことはどうでもいい…。
あっと言う間に春奈は下着姿になったが…
まぁ下着姿は恥ずかしいらしく…春奈は顔を朱に染めていた。
「一応、勝負…下着…だから」
「へぇ、これが」
「…変…かな?」
「いや、似合ってると思うよ」
春奈は意外にスレンダーな体系の癖して胸あるからな…。
なんて理想体型だ。
全国の女子諸君がうらやむに違いない。
ちなみに下着の色のチョイスは白だった。
まぁ…無難…なのかも知れないが…。
色白な春奈にはぴったりかも。
「不安か?」
ちょっと震えていたので聞いてみる。
「さ、寒い…」
「寒い?」
「うん…ちょっとだけ寒い」
まぁそりゃ下着姿だからな…。
「暖めて」
「それ…微妙に凄い発言だと思うぞ」
「?」
なるほど…意識して発言した訳じゃないのか。
まぁいい…。
とりあえず…まずは優しく抱きしめてあげよう。
春奈が落ち着ければそれでいいのだから。
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