恋愛仲介部の対決2−3
廃工場の中は静まり返っていて独特な不気味さを醸し出していた。
そんな場所に臆することなく…俺は歩を進めていく。
コツン、コツンと俺の足跡だけが薄暗い廊下を響いてゆく。
「やっと来たか」
真崎、影島と女性が二人、そして森羅がそこにはいた。
見た事があるのは真崎と影島だけだ。
おそらく…こいつらが非恋愛主義の幹部なのだろう。
「これが新人?」
一人の女が俺の顔を覗き込む。
「随分といい感じじゃない…私の好みよ」
その女はそう言うが真崎は呆れた表情で
「手癖の悪さは自分の身を滅ぼすぞ…小葉月」
「はぁい♪気をつけまぁ〜す」
ふざけた感じで真崎の元へと戻っていたその女は確かに小葉月と呼ばれていた。
俺を慕っていた彼女とは似ても似つかない品の悪さだ。
反吐が出る…。
「よし、全員揃ったな。では計画を説明する」
真崎がそう言ったので
俺は下を向いている影島の隣へと着席した。
問いただしたいことは山ほどあるが…今はその時ではない。
「我々の標的は神崎家だ、ここを…今夜焼き払う」
真崎は怪しげな笑みを浮かべ俺を見る。
「なにか算段はあるのか?」
俺は真崎に問う。
「ああ、既に爆薬は仕掛けてきている」
「随分手回しのいい…」
「作戦決行は今夜の10時過ぎだ」
どうやら作戦決行まで後3時間弱も無いみたいだな。
計画の説明を終えると真崎は俺の元へとやって来た。
「獅子身中の虫か?」
「何が言いたい…」
「いや、俺たちの仲間になったふりをしてアジトを暴こうと言う作戦じゃないのか?」
「そうだと言ったら?」
「そうだな、この場で動けなくするまでだが」
「生憎、俺はそんな器用には動けないんでね」
「そうか、ならいい」
それだけを言って真崎は影島を連れて奥の部屋へと入っていった。
「ねぇ」
小葉月が話しかける。
「…なんだ?」
「怖い顔しないでよ、仲間なんだし」
「…別に」
「クールね、ますます気に入ったわ」
「お前に気に入られようが…俺には関係ない」
「へぇ、…あなた、夏の主人だったんでしょ?」
「…忘れたね」
「そうよねぇ、あんな女より、私の方がよくない?」
「…さぁな」
俺は椅子に座り腕を組んで目を閉じる。
森羅はカタカタとさっきからパソコンをいじるのに夢中で
もう一人の女はぱっと見た感じでは…人相も悪くない清楚な女性だ。
そうして…この鬱陶しい女はどうやら俺に興味を示したらしい。
「もう、冷たいのね」
必要以上に密着してくる小葉月をあしらいながら俺は計画実行の時が来るのを待っていた。
三時間と言うのは中途半端に長い。
俺は廃工場の中を見て回ることにした。
「…ちょっと見張りをしてくる」
「…御供します」
さっきから無言で俺のことを見ていた女性が俺の案内役を引き受けてくれた。
夜の廃工場内は得に面白いものも無く
延々と古びたオイルの臭いの部屋が沢山あっただけだ。
「………あなたは」
「ん?」
今までずっと無言だった女性が俺に話しかける。
「何のために我々と行動を共にするのですか?」
「…さぁな」
「…………」
「逆に聞くが…あんたは何のためにこんなことをしている?」
「私は自分の正しいと思うことがここにあるからです」
「正しい事…か、俺も似たような理由だ」
「そうですか…」
無表情だった彼女が少し微笑んだ様な気がした。
「あんた…家族は?」
「いません…今は一人です」
「そうか…」
再び何秒かの沈黙。
「私は…復讐なんて考えていないんです」
「えっ?」
「そんなこと意味ないですから…私はただ…」
「ただ…?」
「晴らされなかった想いを…背負っているだけなんですけどね」
「…恋人かなにかか?」
「いいえ、恋人はいません、でも恋愛に関しては否定的ですよ」
「?」
「怖いんですよ、特別辛い思いをした訳じゃなくて…ただ純粋に」
恋愛が怖い?
そんな理由でこんな場所にいると言うのか?
「私は監視役の様なものなんです、非恋愛主義の…えっと、まとめ役みたいなものですかね…?」
「へぇ…」
「だから、直接表には出ないので実際こうして敵対する人とお話しする機会は初めてかと思われます」
「…なるほどな」
話半分に聞いていたが…向こうから色んなことを話し出したな。
「休憩室とか…あるか?」
少し疲れた、休みたい。
「はい、こっちです」
案内された部屋は少し汚かったが…まぁベッドはあったし最低限休めるレベルだ。
「じゃあ何かあったら呼んでくださいね」
「ああ」
「それと私…光です、南光。方角の南に、お日様の光です」
名乗ると彼女はそのまま去っていった。
全然…悪そうな感じの人間には思えなかったが…。
「………」
まぁいい…。
今は身体を休めておこう。
これから東奔西走することになるんだからな。
「ザァーザザー…僕です…ザァー…聞こえますか…?」
やれやれ…休もうと思った矢先にこれだ。
「ああ、聞こえてるよ」
内ポケットに入れてあった通信機を取り出し応答する。
「そちらはどうですか?」
「別に大丈夫だ、盗聴はちゃんとできてたか?」
「はい、十分奴等の目的は把握できましたよ」
「ならいい、手は打って置いてくれ」
「任せてください」
「じゃあな、あまり長いと勘ぐられる」
「そうですね、では検討を祈ります」
そう言って俺は通信を切った。
なるほどね。
どうりで易々と仲間になるなんて言ってきた訳ね。
「でも、私が聞き耳を立てているなんて思わないでしょう」
定刻になったので俺は広間へとやって来た。
「…おい、そろそろ出発しないのか?」
「ああ、そうだな時間だ。だがその前に片付ける問題がある」
カチャリと真崎は自分の懐から拳銃を取り出して俺の懐へと突きつける。
「なんのつもりだ?」
「惚けるな、通信機を使っていたのは小葉月から聞いている」
「残念、聞いちゃいました♪」
「そうか、俺の計画もバレてたって訳か…」
「そうだ、そしてお前を餌に神崎の連中を呼び出す」
「でも、さすがにここまではバレてないよな?」
「なにっ!?」
バキュウンと鋭い銃声が響いたと思うと
真崎の握っていた拳銃は煙を上げて変形していた。
「相変わらず、精密射撃だな…田中」
俺の背後からは二人の人影が現れた。
一人は…田中。
「き、貴様ら…」
「今頃、神崎家の爆薬も叶野が処理している筈だ」
「…俺達に計画をバラすのも計画の内だったという訳か…」
真崎はギリと奥歯を噛み締めて
「だが、ここには様々な仕掛けがある…森羅っ!」
森羅は顔色を変えずにパソコンのエンターキーを押した。
しかし、なにも起こらない。
「あら、あなた達の真似をしただけだけど?」
さらに後ろからはパソコンを片手に母さんが現れた。
「くっ、真崎ここのセキュリティがロックされてる」
「焦るな、向こうは丸腰、俺たちには武器がある」
南光を除く全員が拳銃を構えるが
「無駄よ♪」
母さんがそう言った瞬間に田中が全ての拳銃を撃ち落した。
腕前が前と比べ物にならないくらい…上達してやがるな。
「自主しなさい、あなたたちのしている事は犯罪よ」
「優位に立ったつもりか…?」
そう言えば影島の姿が見えない…。
まさか…。
「伏せろっ」
田中が言ったのと同時に俺達に向かい集中砲火が飛んできた。
一瞬にして俺たちが立っていたところは蜂の巣と化す。
「…マシンガンか」
田中が言う。
「どうする…」
「動けば危険だ、仕方ないが…ここは弾切れの隙を狙うしかない」
その間にも真崎たちは逃げる準備をしている。
せっかくここまで追い詰めたのに…逃がしてたまるか。
「田中、影島のマシンガンを撃ち落せないのかっ?」
「さっきからやっている、だが奴の正確な射撃に全て撃ち落されてる」
「…くそっ」
飛び出すのは自殺行為だ。
そんなことはしない。
だが…作はある。
「田中、影島の斜め上の天井を狙え」
「…天井?」
「いいから、考える前に撃て!!」
「信じたぜ…相棒」
田中は自分の銃で天井を打っていく。
影島はそれを気にも留めずに…田中に向かいマシンガンを乱射する。
「かかった!!」
精密さは時として仇となる。
自分に無害と思える弾は撃ち落さない。
だが、脆い廃工場の天井ならば
田中の正確な狙撃で脆い場所を破壊するのも容易である。
つまり…。
「っ…」
天井は崩れ影島は瓦礫の下敷きとなる。
間接的な攻撃ならば…奴の死角となるってことさ。
俺は一瞬の隙をつき
影島へと歩み寄る。
瓦礫の下敷きとなって動けないのか影島は動かない。
マシンガンを田中へ渡して俺は影島の身柄を確保した。
「他の連中は…?」
「ダメだな…もう、逃げている」
くそう、またしても逃げられたか…
でもいい、影島を捕まえる事はできたのだから。
こうして騒がしい一夜は終局を迎えた。
俺の服に叶野が盗聴器を仕掛けるとは予想していたが
まさか通信機まで仕込まれているとは予想外だった。
しかし結果的にそれが功を制した。
その後、影島は多少怪我をしていたため
叶野の監視下で病院へと連れて行かれることになった。
降り出しに戻った…なんて田中は言っていたが大きな成果だ。
影島から奴等の目的、真意を聞き出せば。
奴らを一網打尽にすることもできる。
つまり、まだ…奴らの尻尾は掴んでいるってことだ。
夜の公園
俺は田中、叶野と共に缶コーヒーを飲んでいた。
「騒がしい…一夜だったわね…」
母さんが俺に飲み物を渡す。
「ああ、でも…これで一段落だな」
奴等の足がつくとは思えないが…影島の真意を聞くことができる。
「そう言えば田中、お前いつ戻ってきたんだ?」
「つい最近だ、一仕事終わったからな」
なんの仕事かは予想できない…追及するのも止めておこう。
「まだ問題はありますよ」
「問題?」
「あなたは…これから、どうするつもりですか?」
叶野が俺に言う。
「俺は…」
数日後。
妙にホコリっぽいベッドから起きると朝の日差しが差し込んでいた。
どうやらシーツだけではなくマットも干さないといけないらしい。
自分の部屋となった新しい空間を見ても生活観の無さが窺える。
こんなことなら素直に清掃業者に頼めばよかった。
そう後悔している今日この頃。
俺は結局あの後、家を出た。
自分の力で生きる。
…もう、誰にも迷惑をかけたくない。
そんな一心であの家を後にした。
俺の我が侭な申し出に紀野里先生もなんとか了承してくれた。
実の母さんの実家である鳳翔院家は大した広さなのだが…
俺としてはあまりにも広いと落ち着かないので管理人用の別館に住む事にした。
不便なのは家事炊事を自分でやることと、登校時間に+10分追加されたってことくらいだ。
でも自転車通学にした今、そんなことは些細なことに過ぎない。
あの後、俺は秋と月さんと春奈に一度も会っていない。
連休に入ってしまったと言う点も有るが
月さんとは…もう、会わないほうがいい気がしたからだ。
彼女の気持ちを踏みにじって…俺は最低なことをしでかしたんだから。
例え偽りでも砕かれた信頼はそう簡単に修復するものではないし。
俺個人としても…今は一人になりたい。
そんな気分だから…。
でも、そんなセンチメンタルなことを考えている暇も無く。
そろそろ文化祭の準備期間に突入する。
俺はあれから学校の授業にあまり顔を出さなくなった。
朝から放課後まで屋上、もしくは図書室で暇を潰す毎日。
出席の方は理事長の計らいで俺が「生徒指導係」として働く事によって免除されるそうだ。
最も、こんな風紀の乱れた生徒に、どんな生徒を指導できるかと言うと微妙である。
もちろん、仲介部の方は完全にボイコット状態。
本来、屋上は危ないとか言う理由で締め切られてはいるが俺と叶野は鍵を持っているので
人気の無い絶好の情報交換の場にしている。
そして田中は2年生に編入した。
扱いは俺と同じ生徒指導係としてだが俺と違って授業には出ているらしい。
真面目なのか…真面目じゃないのか…。
少し分からない。
自分のした決断に後悔なんてしていない。
でも…過ちを悔いる事さえ…俺には願えない。
人の温もりを求めても…傷つけ、そして裏切るだけだから…。
だから…もう、温もりなんて…求めてはいけない…。
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