恋愛仲介部の設立4
当然と言うか当たり前の如く、結果は誰も来ず終いだった。
と、思っていたのだが…まさか、本当に来るとは思わなかったね。
その娘は堂々と正門からやって来た。
「…………」
一年生の女の子は見た目は普通の女子高生。
可愛いとも不細工ともとれない顔立ちだ。
おっと…声をかけなくては…。
と、俺が声をかけようとした時。
「待って、ちゃんと手紙を入れるところを抑えましょう」
確かに、冷静な判断ですね先生。
俺たちはそのまま彼女の後をつける事にした。
まぁ念のため叶野に連絡を取って置こう。
「はい、叶野ですが」
一コールもしない内に、待っていましたと言わんばかりに叶野は直ぐに電話に出た。
「一人女子が通った、今からその娘の後をつける」
「分かりました、では、我々も直ぐに向かいます」
よし、では行くとするか。
気づいたことは尾行とは以外にも難しいことであると言う事である。
少しでも近づくと見つかってしまうし、離れすぎると見失ってしまう。
かなり距離感覚が試される行為である。
全国のストーカーの皆さんはこんなことを平気でやってのけるのかと思うと頭が痛い。
階段を上がり三階へとやって来る。
一年生の教室は三階なので後は七組の教室に入ったところを抑えればOKだ。
「……入った…」
まさか、とは思ったが…本当に七組の教室に入ってしまった。
俺たちは直ぐに彼女の後に続き教室へと入る。
「っ……」
当然彼女は驚いている。
それもそうだ今にも恋愛仲介部依頼専用ポスト(俺のロッカーだが…)に手紙を入れる瞬間だったのだ。
「そこまでだっ!!」
と、格好良く登場したつもりなのか奴は窓から登場した。
それに彼女は再度びっくり…当たり前だ。
で、梯子が窓にかかっていた、下を見ると苦笑しながら手を振る叶野と影島が梯子を支えていた。
…って影島…いつの間に。
「よし、部室に連行しろ」
それは俺に言っているのか?
連行とは穏やかじゃないな…せめてご同行を願えよ。
怖がっている彼女は今にも逃げ出しそうだったので…優しく説得して見るとしよう。
「ええと…君は依頼書を出しに来たんだよね…?」
出来るだけ優しく問う。
「……はい」
と微かな声で返事が返ってきた。
「まぁ…知ってると思うけど…恋愛仲介部です、できればこのまま部室に来て話を聞かせてもらえると嬉しいんだけど…」
彼女は少し考えた後。
「…わかりました」
と納得してくれた様だ。
まぁそんなこんなで今は全員で部室に居るのだが…。
「それでは話を聞かせてもらってよろしいですか?」
と、丁寧口調で尋ねる叶野。
一応、俺はお茶を用意して彼女の前に置く。
「まずはこの手紙を出したのはあなたで間違いありませんね?」
「…はい」
と彼女は答える。
「では、どうして5通も出したのですか?」
そりゃ一番気になるところだ、俺も早く聞きたい。
「その…時間が無いんです」
「時間?それは…どういう意味ですか?」
「じつは…」
彼女の話はこんな感じだった。
自分には小さい頃から近所に住んでいる上級生が居るらしい。
が、その上級生は来月引っ越してしまうらしい…。
なるほどね…だから
「だから、できるだけ早く目に付くように5通も出したんですね」
「…はい」
これで手紙を5通も出したことは納得できたが
なぜ、日曜日に手紙を入れに来ていたのだろうか…?
「それは…この方ですね」
と、叶野が一枚の写真を内ポケットから取り出す。
「そうです…彼です」
その上級生も彼女に似合いそうな容姿をしていた。
「さすが叶野、既に調べていたか」
奴が叶野を誉めると。
「恐縮です、これも僕の務めですから」
おい、つっこむ場所が違うだろ、そもそも叶野はこの娘のことを事前に知っていた筈だろ…。
だから写真を用意できた訳だし…。
「では、いかがなさいましょう?」
叶野の視線は奴では無く俺に向いている。
いやいや、俺に聞かないでくれよ。
俺は叶野から目線をそらす。
と、池上と目が合った、明らかに睨まれていた様だ…。
「よし、仲介は明日にでも行う、前にも言ったが俺に任せてくれ」
奴は自信満々にそう言った。
「と、言うことですので明日、放課後に部室まで来てくれますか?」
「……はい」
彼女は了承し叶野にエスコートされて帰って行った。
「じゃあ俺は帰る、鍵は任せたぞ」
俺に部室の鍵を放り投げ奴はそのまま帰っていった。
「あーあ、つまんないの…もっと色々あると思ったのに」
池上よ…俺にあんなパンを食わせておいて何も無かったとは言わせないぞ。
「………さようなら」
影島は囲碁入門を部室の本棚に置き帰って行った。
なるほど…既にルールは覚えたのか、明日にでも碁盤を持って来そうだな。
影島が帰るのと同時に叶野が帰ってきた。
「お待たせしました」
待ってねぇし。
お前と一緒に帰る筋合いなんて無い。
さっさと帰ってればいいものを…。
まさか…俺と神崎さんの二人っきりの下校を邪魔する気じゃ無いだろうな。
あの瞬間の一分一秒が恋愛仲介部によって疲れ果てた精神を癒してくれるんだぞ。
「顔、にやけてるわよ」
池上が俺の背中を叩く。
「気のせいだ」
いや気のせいでは無いのだが…。
どうしてもあの愛らしい神崎さんと歩いている姿を想像するとにやけてしまう。
「あの、よろしいですか?」
確認を取るな、ダメと言っても喋るのはいつものことだろ。
「ああ、勝手に喋ってくれ」
叶野は少し考えて
「やはりここは遠慮しておきます、後ほど携帯にかけますよ」
「なんだ拍子抜けだな、喋らないのか?」
「いえ…ここでは」
そうか、池上に先生…それと神崎さんがいるもんな。
タネ明かしはお預けか…。
まぁそれが無いなら帰るか。
「じゃ行きましょうか」
俺は神崎さんに一声かける。
「はい」
つぶらな瞳で答え、俺と一緒に歩き出す。
歩幅が小さくちょこちょこ着いて来る感じはなんか小動物を思わせる。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
池上が慌てた様に後ろからついて来る。
「ふふっ、みんな仲がいいわね、叶野君は帰らないの?」
教室内には叶野と紀野里先生の二人だけ。
「ええ、僕もあなたにお話がありますから」
爽やかな笑みを浮かべ少年は微笑する。
「僕も?」
「あなたも僕に言いたいことがあるのでしょう、違いますか?」
先生はソファに腰掛けて。
「さすが、生徒指導係…何か知っているのね」
「全てはどうか判りませんが…有る程度は理解しているつもりです」
「どこまで知っているのかな?」
「…あなたが理事長直属の人間であること…そして、生徒指導係の僕と同じようなことをしている…そんな所でしょうか」
叶野は珈琲をカップに注ぎ先生に差し出す。
先生はそれを受け取り一口飲んで。
「教員指導係…私はそう呼ばれているわ、ここに来た理由も君と似たようなものだけどね」
「そうですか…あなたも」
「うん、恋愛仲介部…まさかこんな部の顧問がそんな役職だなんて誰も思わないでしょうから」
「そうですね…あなたは以前有名企業の情報管理の仕事に着いていたと聞きましたが…引抜ですか?」
「そう、ここは元々私の卒業校だったし、理事長にはお世話になったしね、それに…」
「それに…なんですか?」
「面白そうだったから」
と笑って彼女は言った。
「どうやら、長い付き合いになりそうですね」
「君のおかげかな?」
「なんのことでしょう?」
「惚けないで、今回のことも…君が仕組んだ事なんでしょ」
「ええ、気づいていましたか…流石ですね、僕としては出来るだけ自然な形でやってきたつもりですが」
なんて捨て台詞を吐いて
叶野は部室を後にした。
夕食を終え、部屋で漫画を読んでいると叶野から電話がかかって来た。
「今、よろしいですか?」
「よろしいと言えばよろしくないことも無いが…できればお前の長話は常時遠慮したいおきたいね…」
「では、よろしいと解釈します」
どんな解釈方法だ、俺はお前との会話が面倒だと言う趣旨を伝えたかったんだぞ。
「で、何だ?」
「今日の件です、彼女のことで疑問に思ったことはありませんでしたか?」
「なんだ?そのあったと言って欲しそうな聞き方は?」
「その通りですよ、僕はあなたにあったと答えて欲しいのですから」
面倒な奴だ、だったら最初から話を始めろよ。
「では率直に言います、彼女が日曜日にわざわざ来ていたのはなぜでしょう?」
「俺の見解でいいのか?」
「はい…お聞きします」
「多分人目を気にしたんだろうな、こんな部に相談しているところなんて見られたくないだろうし」
と、俺は思う、他に意見があるのか?
「半分正解ですね」
「半分、なぜだ?」
「確かに彼女は人目を避けていた、ですがそれが個人特定の糸口になったんです」
「何が言いたい」
さっぱり判らん、部室のホワイトボードを使って明日説明してくれた方が楽だ。
「僕がなぜ、彼女の好きな人間を特定できたと思いますか?」
「ストーキング行為でもしたのか?」
今度こそ変体扱いだ、覚悟しろよ叶野。
「いえ、彼女の好きな人は簡単に割り出せました」
「だから…どんな方法でだ?」
「消去法ですよ、彼女は月曜〜土曜日までは好きな人に見つかるのが怖くて手紙を出さなかった、これは前提条件です」
「ああ…」
「つまり、月曜〜土曜、今は週休二日ですから通常の学生は除外できます」
「なるほど…つまり部活、もしくは委員会をやっている連中に限られる訳か」
て、ことは…結構人数を絞れるな。
「そして次です、土曜日に手紙を出さない…と言うのはなぜだと思いますか?」
「それは…」
わからん、頭がパニック状態だ。
「土曜日は文科系の部活は午後からしかありません、つまり好きな相手の部活が文科系の場合、土曜日の午前中に手紙を出した方が効率がいいのです」
「…まぁそうかも知れないが…」
「それをしないと言う事は…次に委員会ですが…これは特別な行事前などでしか動きませんから最初から除外して結構です」
「と、言うことは体育会系の部活に好きな人はいたんだな」
「はい、それで年上と限定されているので、一年生は除外できます、それで確率的な問題ですが…三年生は受験なので大半は部活を引退しています」
「じゃあ二年生に絞られたな」
「はい、それで体育系の部活で休みの日でもニアミスする心配の有る部活…それはバスケットボール部です」
「なんでだ?他にもいっぱい部活はあるだろ」
「いえ…バスケットボール部は火曜日と水曜日と土曜日のみ体育館を使えるんです、ご存知無かったですか?」
ああ、そういや曜日で体育館を使う部活が違うんだっけ…。
入学式直後の部活紹介で先輩方が言ってたな。
「それでバスケットボール部の男子12名の内、まぁ彼女は徒歩通学なので、電車通学の生徒は除外します」
「それで…」
段々聞くのが面倒くさくなってきた…。
「残るは5名です…この5名の中から出身中学が彼女と同じ生徒を探します」
「ほう…それで?」
「これで3名にまで絞ることが出来ました」
「ご苦労だな、あとの3人には会って来たのか?」
「いいえ、まだ絞れますよ、最後に今日の彼女の行動を見てピンと来ました」
いったい何処にピンと来たんだよ…
「彼女は今日正門から入りましたよね」
「ああ」
それがいったい…
「質問です、もしあなたがやましいことをして逃げるのなら、正門と裏門、どちらから逃げますか?」
「そんなの人に見つかるのが嫌なら…裏門に…って」
そういうことか…だからわざわざ今日、門の前で待っていたのか…。
彼女を抑えるなら教室に張り込めば良いんだし。
「そう、彼女は正門でした、つまり、万が一彼に会うかもしれないと言う心が働いて彼女はいつも入る裏門では無く、正門から入ったと言うことです」
「………」
なぁ叶野…前も言ったかも知れないが…探偵にでもなったらどうだ?
「それで彼女と同じ裏門方向の通学路を使う生徒をこの中から探したところ…」
「最後の一人に絞れたんだな」
「はい」
「思ったんだが…彼女に直接聞けば早いんじゃないか?」
「彼女は手紙を出したのに自分の名前を書けない程のシャイな方ですよ、聞いても答えるか判りませんでしたから」
確かに…大人しそうな彼女は結構恥ずかしがり屋ぽかったな…。
「と、言うのが今回の僕のしてきた仕事です」
「ああ、そうかい…」
「最初に意図は判る、と言っていましたが…いったい何処まで判っていたのですか?」
「とりあえず、お前の策略で先生を採用させるためにわざとこの件を持ち込んだ…くらいだ」
「そうですね、正解です」
はぁ…疲れるな。
叶野も先生が顧問になった方がいいと思っているのだろう。
俺は叶野の電話を切った後…。
「俺…なにもしていないのに…なんでこんなに疲れてるんだ…?」
やり場の無い疑問に頭を抱えていたのだった。
で、翌日の放課後。
恋愛仲介部一同は彼女を無事に仲介し終え部室へと戻って来ていた。
どうやって仲介したかって?
それは俺もわからんよ…奴が言っていた秘策がどうやら上手く行ったらしい。
「いったいどんな秘策を使ったんだ?」
俺が聞くと
「企業秘密だ」
と、奴は答えた。
おいおい…いつからこの恋愛仲介部は企業化したんだ?
仕方ないので叶野に聞くと
「難易度が比較的に低い仲介でしたね、放って置いてもあの方達は互いの気持ちに気づいていたでしょう」
お前の難易度はどんな感じでつけているんだ…。
俺にとっては結構面倒な仲介だったと思ったのだが
まぁいいか…。
また、しばらく平和な日々が続くと思い、俺は安心しきっていた。
しかし、そんな訳にもいかないらしい…。
「どうかなさいましたか?」
叶野よ、白々しい…お前が知らない筈が無い。
仲介部の机の上には一通の封筒が置いてあった。
「依頼書…か?」
俺は茶封筒の封を切り中を見る。
すると、中にはこう書かれていた。
「恋愛仲介部を高校の正式な部として認める」
…夢、であって欲しいと切に願った一瞬だった。
こうして恋愛仲介部は正式な部活として承認されてしまったのだ…。
そして…まぁこれからの一年間、色々起こるのだが…。
今の俺が予想できることなんて一つも無かったな。
さて…俺はどうなってしまうのだろうねぇ…。
知っている奴がいたら俺に教えて欲しい。
多大な謝礼金を払ってもいい。
そんなこんなで俺のこんな部活はすぐに無くなると言う
予想は大幅に外れ…。
奴の「恋愛仲介部」は部活へと昇格したのだった。
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