Albino〜家族〜
「どこから話そっか…」
彼女は私を抱きかかえるように浴槽に入り
こう呟いた。
「…私もね、死んじゃおうって思った事があるの…」
「……」
「私ね…妹がいたんだ、生きていたらちょうど…あなたより6,7歳上の年齢かしら」
彼女は自分の生きてきた人生。
妹の事故のこと。
自分を悔いて自殺しようとしたこと。
ある人との出会いによって立ち直れた事…。
それを淡々と語っていった。
「…だから、辛いなら一人にならないで、一人じゃ悪い方へしか考えが行かないから」
確かにそう思う。
一人ではもどかしさ、不甲斐なさに飲まれ…状況を打破するどころか逆効果になりかねない。
でも、こんな私を受け入れてくれる人間なんていない。
心のどこかで…同情を抱いている。
見下されるのが嫌だった。
私だって…アルビノと言うこと以外は…みんなと何も変わらないのに…。
「絶対にその人の痛みは理解できないの…だって私はあなたではないから」
彼女は言う。
「でもね、違う人間だからこそ、あなたのこと…別の視点で考えてあげられる」
彼女は私をギュッと抱擁して
「一緒に、どうにかしようって思うことができるの…」
わかってる…だけど怖いから。
どこかで…見下されてるんじゃないかって思うだけで…。
その人が信用できなくなる…。
そうなってしまったら。
どんな優しい言葉も…ただの同情に聞こえてしまうから…。
「…まだ、納得できない?」
彼女は聞く。
「……」
私は黙ってコクリと頷く。
「確かにそれは難しい部分ではあるの…でもね、一人でいるよりは他の人と交流をしたほうが良いに決まってる」
彼女の瞳は絶対の自信で満ちていた。
「だから、試してみて…この家に来なさい、本当の家族を教えてあげるから」
「…はい」
この人の自信は凄かった。
自分の意見に不安を感じていない。
その…自信の原動力を知りたいと思った。
私も…この人みたいに…自分の意見に自信を持てる人間になれるだろうか…?
私は………。
少しだけ家族と言うものを…試してみたくなった。
時計に目をやると既に11時過ぎ…。
「…にしても…長湯だよなぁ」
かれこれ一時間は過ぎている。
「そうですね…どうしますか?」
「放っておいても大丈夫だろ、とりあえず明日学校だから、俺はそろそろ寝るけど」
「そうですね、ではお休みなさい」
「ああ、お休み」
月さんにお休みを言って俺は部屋へと戻ってきた。
秋は遅くなる前に西沢さんに連絡を取って迎えに来てもらった。
終始元気が無かったから少し心配だ…。
明日…元気づけてやろう…それが彼氏の役目ってもんだろ。
翌日。
「で、まぁ今日から家族に加わるから」
「は?」
寝ぼけ眼の俺を無理やりリビングに連れ出して何を言うかと思ったら…
「待て…確かに俺はそんな感じのことを昨日言った…だが早すぎないか?」
もう少し悩むとかさ…。
「大丈夫、施設には連絡を取っておいたし」
「いや、そっちじゃなくて…」
「快く了解を貰ったから」
「だから…そっちじゃ…」
「私仕事だからそろそろ行くね」
「おーい…人の話を聞け」
母さんは疾風の如く行ってしまわれた。
「はぁ…全く、唐突な人だな」
「ご主人様に似たんですね」
「えっ、なにが?」
「なんでもありません♪」
機嫌良さそうに月さんは台所へと入って行った。
ま、いいか…。
とりあえず、着替える為に部屋へと帰還。
するとベッドの上にちょこんとSIROが座っていた。
「おはようございます」
丁寧に会釈をくれる。
「ああ、おはよ…」
さっき入れ違いになったのか?
と言うか…なんで俺の部屋にいるのだろうか…。
「あの…」
「ん?」
「これから宜しくお願いしますね」
「あ、ああ…えっと…」
SIRO…と呼びそうになったが…途中でやめる。
「そういや…本名を聞いてなかったな…」
「…ふふ、言ってませんでしたね」
結構ドタバタしてて聞く機会も無かったしな…。
彼女は立ち上がって真っ直ぐと俺を見据え。
「雪…です。紀野里…雪」
「それが…本名?」
「変ですか?」
「いや、いいんじゃないか」
「優さんがつけてくれたんですよ」
「母さんが?」
「はい、イメージにぴったりだとかで」
「へぇ…」
まぁ確かに…母さんにしては的を得ている。
「あ、そろそろ時間じゃないか…俺着替えないと…」
「忙しいんですね」
「ああ、…だから詳しい事は帰ってからな」
「はい」
とりあえず、ワイシャツとズボンに着替えて…と。
ブレザーを肩にかけて鞄を持って…。
「ご主人様、朝食はいかがなさいますか?」
「食べてる暇無いから、今日はパス」
「では、お弁当を」
「ありがと、月さん」
月さんの手から弁当を貰って玄関を飛び出す。
「いってらっしゃいませ」
と手を振る月さん。
さて…学校まで走るとするかな…。
はぁ…全速力をいつもの3割り増しで持続させ
やっとの思いで学校に着いたはいいが…。
ホームルーム開始のチャイムが虚しく鳴っているのは言うまでも無いよな…。
そんなわけで俺は現在
無常にも閉まっている校門前でやるせない気持ちに陥っている。
「…なにも、校門閉めること無いのに…」
いつもは無防備なくらいに解放してるのにさ…。
「こら、そこの生徒!!早く教室に入りなさいっ!!」
「す、すみませんっ…って…あれ?」
校門を空けて出てきた女性は母さんだった。
「…なに…してんの?」
「仕事」
「いや…だから何の?」
「教員」
「…ちょっと待て…なんで今更?」
「生活費を稼ぐためによ」
「……マジですか?」
「ほらほら、話してないで教室に行くわよ」
「ちょ、ちょっと…か、母さんっ」
俺は襟首を掴まれて教室の方へと引っ張られていく。
「は、離してって…自分で歩けるから」
「無理♪」
なんて力だ…女の力とは思えん。
「なぁ…母さん」
「なぁに?」
「こっち教室方向じゃないけど…」
2階へ上がる階段とは別方向だ。
「うん」
「いや、遅刻するって」
「もう、してるでしょ」
あ、そっか。
「いや…そういう問題じゃ…」
「ねぇ、質問していい?」
「なんだよ…?」
唐突だな…。
「私は雪ちゃんを家に置いてあげました」
「ああ、それには感謝してる」
「でも、私は何も得になることがありません」
「…だから…?」
「何かご褒美が欲しいです」
「…子供かあんたは…」
「いいのかなぁ〜私、体育倉庫の鍵持ってるんだけど」
「…なにをする気だ…」
「あら、私に言わせるの?」
母さんは色気をかもした言い方をする。
「……ダメだぞ…親子なんだから」
「いいじゃない、誰もいないんだし♪」
「…俺…授業が…」
「さぁて、そろそろ体育館ね」
「た、助けてくれ…」
で、体育倉庫内
「ほ、本当に…するのか?」
「あたりまえでしょ、ほら」
「いや…でも、さすがにこれは…」
「経験無いの?」
「当たり前だろ…」
「ふぅ〜ん、意外ね」
「……」
「頑張ってね♪」
「こういう冗談…本当に嫌いなんだけどな…」
「大丈夫よ、誰も来ないし、バレないから」
「そうじゃなくて…こんなとこ…誰かに見られでもしたら…変な噂立つだろ」
「困るの?」
「かなり困る…と言うか変なレッテルが貼られる」
「酷いな〜レッテルだなんて」
「はぁ…」
深く溜息を一つ…。
そして全てを諦めて…俺は覚悟をした。
「で、どこから、どこまで掃除すればいいんだ?」
「体育館倉庫全体」
「はぁ…勘弁してくれ」
「大事な任務よ」
「へいへい…」
「それじゃあね」
「あいよ…」
こんなとこ…一人で掃除してたら絶対誤解を生むだろ…。
でも、これで遅刻が無しになればいいか…。
「押し倒しても良かったのよ♪」
「なっ、まだ居たのかよ」
「頑張ってね」
「息子の扱いが酷すぎる…」
でまぁ…微妙なすっぱい香りのする体育倉庫を掃除している。
そろそろ昼休みになりそうだ。
現在体育館では2年のクラスの女子がバレーボールをやっているみたいだ。
「あいつ調子に乗ってない?」
「あー分かる」
「…ねぇ、目障りだからさ…登校拒否にしちゃおうよ」
「でも、無理じゃない?今までも結構色々やったでしょ」
「だから〜今度は結構マジでやればいいじゃん」
「バレたらヤバイって」
「平気、バレねー様にやればいいだけ」
「どうやって?」
「あれを…あーして…こうすれば…」
「いいかも、マジそれ名案」
盗み聞きするつもりは無かったけど…。
俺は出て行ってそいつらを殴ってやろうとまで思った。
放課後…。
結局俺は一時間も授業に出ることなく放課後を迎えてしまった。
「…行くか」
掃除なんて途中で投げ出して…俺は自分の教室へと向かう事にした。
部活動の連中も帰ってしまった教室は…凄く静まり返っていて
生徒の居る頃の時と違う場所なんじゃないか…そう、思わせるくらいだった。
俺は一目散に一つの机へと歩み寄った。
そこに置いてあって教科書を…全て持ち自分の鞄に入れて。
自分の机に入っていた教科書をその机へと入れて
俺は教室を後にした。
下駄箱に行き。
俺は下駄箱の扉を開けた。
すると…そこからは夥しいほどの紙が溢れてきた。
俺はそれを一枚一枚拾い。
くしゃくしゃに丸めて…自分の鞄の中へと押し込んだ。
そして中に入っているボロボロになった上履きの中から大量の画鋲を取り出して
上履きを持ち…画鋲をゴミ箱に捨ててその場を後にした。
駅前へやってくる頃になると時計は9時を回っていた。
「すみません…これと同じサイズのありますか?」
「悪いねぇ…うちは新学期にしか発注しなくてねぇ」
「そうですか…」
何軒も店を回るうちに町の明かりも次第に薄れていった。
「くそっ…」
俺は自転車を飛ばして隣の街にまでやってきた。
右腕の不自由さもあり…着く頃には11時を回っていた。
この間の駅前のデパートにやって来た。
24時間営業がこれほど嬉しく感じたことは無い。
「あーありますよ、ちょっと待ってくださいね」
店員さんが奥から在庫を持ってきてくれた。
「でも、どうしたんですか血相変えて…なにかあったんですか?」
「いや…急に必要になって」
「へぇ、女物を?」
不信に思ったのか追求をしてくる店員さん。
「妹が…必要で、その…えと」
「まぁ、深くは聞かないですが」
そう言って店員さんは俺に新しい上履きを渡してくれた。
それから俺は学校に戻って
下駄箱に上履きを置いておいた。
これでいいだろう。
家に帰ると母さんと月さんの質問攻めに遭ったが
寄り道をして帰ってくるのが遅れた…とだけ言って置いた。
翌日。
いつもより、早く起きて俺は学校へと来た。
生徒数はまだ少ない…でも後五分もすれば通学路は生徒で溢れる。
「よし…」
何もされていない…。
下駄箱を見て安心する。
これなら大丈夫だ。
俺はその日も授業に出なかった。
屋上でただ…空を眺めていた。
「新しい教科書…買わないとな…」
昼休みが終わったら購買部にでも行こう。
「すみません、2年の教科書下さい」
購買のおばちゃんに言う
「はいよ、どの教科だい?」
「えっと…全部」
「ぜ、全部!?」
「えっと…この間の雨で…その鞄ごと濡れちゃいまして…」
「そうかい、しかたないねぇ…」
なんだかんだ言っていたがおばちゃんは教科書を売ってくれた。
きっと良い人なんだろう。
その後、五時間目終了前に俺が廊下を歩いていると
一人の女子に呼び止められた。
声からいって前回の体育倉庫で計画を持ち出した女の様だ。
「あなた、なんのつもり?」
リーダー格の女が俺に言う。
「なんのことだ?」
「あたしの邪魔しないで」
「別に、邪魔なんてしてないさ」
「…っ」
女は舌打ちをする。
「ムカつくんなら俺に嫌がらせすればいい」
「…そんなこと言ってると本当に学校にいられなくするわよ」
「ああ、別に構わないさ」
「…あたしを甘く見ないことね…」
そいつはそれだけを言って俺の前から姿を消した。
誰だろうと関係ない…。
別になんだっていい…。
ただ…
俺は春奈を泣かせる奴が許せないだけだ…。
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