恋愛仲介部の決断4
自分勝手…。
彼に私が言った言葉。
でも…本当に自分勝手なのは…私だったんだと思う。
彼を失うことで周りが見えなくなって空回りして…
彼に…凄く迷惑をかけた。
でも、そんな自分はもういない。
心を入れ替えて…すぐには無理だけど
私は…私らしく。
彼のことを想っていたい。
例え…それが叶わない願いでも。
私は…彼の傍にいたい。
一晩泣いていた私の顔の目元には薄っすらと黒い線が浮かび上がっていた。
「ふぅ…」
これ以上無いほどに…泣いたんだと思う。
でも、スッキリした。
彼は…神崎さんほどではないけど…私のことも大事にしてくれる。
それが嬉しい。
優しさが無くなるのが怖かったけど…
でも、恐れるほど…それは遠くには行かなかった。
まだ、触れられる場所にある。
考えるなんて私らしくない。
今までだって…なにも考えないで走ってきた。
そんな私を好きに…なってくれたんだよね。
だったら…そんな私に恥じない様に生きていきたい。
洗面所へと来て顔を洗う。
失恋とかすると…女の子は髪を切ったりするって聞くけど
私の場合はこれでいいよね。
ヘアバンドを取り出して後ろ髪を束ねていく。
「う〜ん…こんな感じかな?」
鏡を見るとすっかりポニーテール姿の自分がいた。
印象は結構変わったと思う。
でも、自分なりのけじめ。
もう一度彼に会うために…しなければいけないこと。
今までの自分は過去に捨てよう。
これからは…もっと…
夏もそろそろ終わりである今日この頃。
ぶっちゃけた話…病室はかなり快適だった。
冷房がガンガン効いてたからな。
でも、そんな生活ともそろそろお別れのようだ。
そう、俺は明日、退院する。
ちょっと早いくらいだが…傷の治りが思ったよりも早いらしく
早急に病院側としても家に帰って欲しいそうだ。
なんか…追い出される感じだが…その辺のつっこみはしないで置こう。
で、まぁ…退院の日は夏休みのラスト一週間ちょうどの日に決まった。
荷物整理とかは特に無いので
このまま歩いて家に帰ればいいだけだ。
足は殆ど完治したが…問題は腕だ…。
右手は相変わらずだが…
微妙に指先にも力が入るようになってきたのはリハビリのお陰かもしれない。
動かなくなった時は正直焦ったが…
ただの筋肉の疲労…と言われたときは安堵した。
退院の日…。
俺はみんなに出迎え…とか
そんな騒がしいのがあまり好きではないので
秋と母さん意外には退院の日を教えなかった。
だから…看護婦さんやら先生方にお礼を言った後。
一人で家に向かうことになる。
秋は家で俺の部屋の荷物整理。
母さんは御馳走を作るとか言っていたので今頃は買い物の真っ最中だろう。
病院から出ると真夏の熱い日差しが…俺を容赦なく照りつける。
「熱い…」
冷房病か…?
凄く暑さを感じる。
じっとしているのもなんだし…早く帰ろう。
そんなことを思いつつ…俺が顔をあげた瞬間に
俺の目の前に一人の女の子が立っていた。
いつものカジュアルスタイルで
花束を抱えた池上が俺の前に立っていた。
「…池上」
彼女は満面の笑みを作り。
「退院、おめでとう」
嬉しそうにそう言った。
「なんで…」
ここにいるんだ?
そう問いたくなった…。
「荷物、持つね」
俺から荷物を取り上げると両手で鞄を持つ。
「お、おい…」
いったい…どういうつもり…なんだろうか?
「今日も熱いね」
「あ、ああ…夏だからな」
「プールとか込みそうだよね」
「どっちかと言うと海だな」
いや、そろそろクラゲが出る頃だし
やっぱり海は空いているのかねぇ…。
「…元気、だった?」
「…それなりにはな」
「手紙読んだよ」
「俺も…読んだ」
そして互いに沈黙…。
「ねぇ、髪型…気づいた?」
「…変えたのか?」
「うん、好きな人できたから」
「えっ…」
…その言葉が…ショックだった。
でも、そうだよな…池上だって…好きな人くらい…。
「えへ、冗談だよ、引っかかった?」
「……はぁ」
やれやれ…。
「好きな人なんて…世界で…一人だけだから…」
「池上…」
「あなたが…私を嫌いになっても…私はずっと好きでいるから」
「バカ…別に嫌いになんて…」
なった訳じゃない…ただ…
「恋人以上、妻未満」
「なんだそれ?」
「私のポジション」
「はい?」
「だから、恋人以上で…妻未満なの」
「意味が分からん」
それって…様は愛人じゃないのか?
「私ね、今はそれで十分だから」
「待て…十分って…」
かなりの地位だぞ…それ。
「だから…私のことも…名前で…呼んでね」
「………」
「ダメ?」
「ダメだ」
「意地悪〜」
頬を膨らませて拗ねてみせる。
「…面白い顔だな」
「つっこむの…そこじゃないと思うけど…」
「…はいはい」
「あ〜邪険にした」
「お前は子供かっ!!」
「もう、大人だよ」
「…どこが?」
「胸とか」
「……まぁ、子供ではないか…」
「でしょ」
「…やれやれ」
バカみたいなやり取りだけど…
池上とこんな関係に戻れるなんて…思いもしなかった。
どんな心境の変化なのだろう?
こればっかりは俺にも分からん。
「過去の私は…もう、いないから」
池上が言う。
「そうか…じゃあお前は池上2(セカンド)だな」
「あのさ…人が真剣に喋ってるのに茶々いれないでよ」
「すまん…」
「だからね…もう、怒ったり、拗ねたりしない」
「…そうか」
さっき拗ねてたけどな。
「それなら…これからも、一緒にいて…いいよね…?」
「まぁ…友達としてならな」
「うん、ありがと」
まぁ…池上に笑顔が戻っただけでも良しとするか…。
一度にあまり多くを求めないのがこの世界を無難に生きるれる法則だからな。
それに従うのも悪くはない。
「それじゃまた明日」
家の前で池上は俺に荷物を渡してきた。
「寄ってかないのか?」
「ううん、私がいると気まずいでしょ、だから遠慮しとくね」
「気を使わなくていい」
「だれが…気を使わせる様にしたんだっけ?」
「すみません…俺です」
「わかればよろしい、それじゃ夏休み明け、学校でね」
「ああ、宿題ちゃんとやっとけよ」
「あっ…歴史のレポート終わってない…」
「…頑張れ」
「うん、頑張る」
意気込んで池上は帰って行った。
あ…。
池上に…ポニーテール似合うって言いそびれた。
ま、今度会ったら言えばいいか。
玄関を開けると…
「ご主人様っ〜〜〜〜〜〜〜」
いきなり…俺を抱擁するメイドさんが…。
「帰ってきたの…月さん…?」
「はい、戻ってまいりました」
ニッコリと微笑む年上のメイドさん。
髪も適度に伸び…おしとやかさが40%くらいUP
「心配していたんですよ…ずっと」
「ごめん、その…俺の注意不足で」
「大丈夫です、この小葉月、帰って来たからにはご主人様を命懸けで守る覚悟です」
「そんな…大げさな」
「いえ、大げさではありません」
月さんの目が…マジになってる。
「まぁいいや…とりあえず…ただいま、月さん」
「お帰りなさい…ご主人様」
頬が赤くなること数秒。
「あっ…そうそう、お嬢様がお部屋でお待ちですよ」
「そっか…秋、俺の部屋の整理がどうとかって…」
「Hな本も捨てられちゃいますよ」
「そんなものありませんよっ!!」
「ふふ、冗談です♪」
「…はぁ」
月さんまで…冗談を言う様になっているだなんて…。
「じゃあ見てくる」
「はい♪」
上機嫌な月さん。
前より少し明るくなったかな?
部屋では秋が一人頭を抱えていた。
「おかしいです」
「なにがおかしいんだ?」
「Hな本が一冊もありません…男の人はそういうの持っていると聞いていたんですが…」
「こら、誰もがそうだと思わない」
「秋ちゃん、どうしてないか教えてあげようか?」
と母さんまで人の部屋に入ってくる。
「どうしてなんですか?」
無垢に母さんに尋ねる秋。
「それはね…」
そうだ、言ってやれ母さん。
男が誰しも…そういう奴じゃないってことを!!
「私で満足してるからよ」
「は!?」
「えっ…そうだったんですか…?」
心配そうな眼で俺を見る。
「…母さん、秋信じるから…そういう冗談やめてくれ」
「いいのよ、私はいつでも大丈夫だから…」
「…マジでやめてくれ」
なんなんだ今日は…
みんなで俺のことを驚かせるドッキリかなんかか?
まぁ…いいや…。
考えるのもだるかったので俺はベッドに寝転がるがることにした。
「えへへ…」
秋も俺の傍に寝転がる。
「帰って…来たんだな…」
「はい…帰って来ました」
日常…
関係…
仲間…
大切な人…
全部…が元の鞘に戻っていく。
この安心感が…唯一の心のオアシスだ。
「二学期から…一緒に学校に行きましょうね」
「ああ、楽しみだな」
こんなにも学校が楽しみなんて…俺の慣性も終に壊れたか?
いや…本当の意味で楽しみなんだろうよ。
高校生活も半分終わって…残り半分…
いい思い出が作れればいいんだが…
俺はそればっかりを願ってる。
でも…俺たち恋愛仲介部は…そうは行かないんだろうよ。
さすがに俺もその辺は理解できるのさ…。
ま、そのなにが起こるかの何かを予想できれば
今頃…こんなことにはなってないんだけどな。
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