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いきなりの展開につっこみを入れる暇さえ無いです。
恋愛仲介部
作:MOR



恋愛仲介部の決断1


「…ん」
眼を覚ますと既に夕方の5時。
集合時間を一時間も過ぎていた。
「…寝過ごした」
まぁ焦る事はない。
ぶっちゃけた話、俺が居なくても仲介部は機能できるしな。
みんなもう帰ってるだろうし
俺も帰路につくとしますかね。

家に帰ると冬が玄関で俺の帰りを待っていた。
「お帰りなさい、兄さん」
「ただいま」
なんともお迎えとは嬉しいものだと実感。
今までは月さんが出迎えてくれていたけど…
最近は出迎えてくれるの母さんだけだったからなぁ…
それにしても…月さんは今、どこで何をしているんだか
ちょっと気になっていたりもする。
「晩御飯の用意できてますよ」
「早いな、もう夕食か?」
「はい、ちゃんと手を洗ってきてくださいね」
まるで親の様なことを言う娘さんだこと。
しっかりしているのはいいことだけどさ…。

で、他愛も無い話をしながら、あっと言う間に夕食は終了した。
母さんも冬とは仲良さげだったし…心配する事は何もないか…

一時間ちょっと食休みをして
風呂に入り、泊まりの準備をする。
着替えだけでも良いだろう。
適当に鞄に詰め込んでまだ早いが家を出る事にしよう。
「どこか行くの?」
と玄関で靴を履いていると母さんが尋ねてきた。
「ちょっと仲介部の用事で、今日は泊まってくる」
「そう、気をつけてね」
「ああ」
なんとなく…秋と二人きりとは言えなかった。
ま、いいか…。

薄暗くなってきた夜の街を歩いていく。
確か…迎えが来るとか言っていたよな…
仕方が無いので…待つとしよう。

…………。

さすがに…少し早すぎたのだろうか…?
一向に…迎えが来る気配が無い…。
「もっと家でのんびりしてればよかったかな…」
そんなことを思い始めていた矢先に
黒いリムジンが俺の目の前で停車した。
「お待たせしてすみません」
と、運転席のスモークガラスが開き、西沢さんが言う。
「いえ、すみません…俺の方こそ…わざわざ迎えに来てもらって…」
「その辺はお嬢様が望まれたことですので、気遣いは無用です」
「…そうですか」
「お乗り下さい」
と西沢さんが言うと後ろの扉が勝手に開いた。
俺がそこからリムジンに乗り込むと
静かに神崎邸へと向けてリムジンは発車した。
正直な話、神崎邸までは相当距離がある。
自転車で行くと…凄く疲れる距離。
「少し…よろしいですか」
無言で座席に寄りかかっている俺に西沢さんが話しかけてきた。
「なんですか?」
「お嬢様のことです」
「秋の…?」
「執事である私がこんなことはお頼みできる立場ではないのですが…」
西沢さんは振り返らずにミラーで俺と目を合わせると
「お嬢様と…婚姻を結んでいただきたいのです」
「えっ…」
婚姻…?
それって結婚しろってことだよな…。
「無理にとは仰いません…ですが…私はお嬢様には幸せになって欲しいのです」
「…でも、秋は…」
「お嬢様はあなたに全てを委ねています…そして、今日お嬢様は別れを告げるためにあなたを神崎邸へと招待したのです」
やっぱり…留学と関係が有るのだろうか…。
じゃなきゃ…秋は別れるなんて言わないだろう。
「この老いぼれの…ささやかなお願いでございます…どうか…お嬢様を…」
必死…という感じではない
どちらかと言うと…望めるなら…かなえて欲しい。
そんな感じのお願いだった。

でも…それきり俺は口を開かなかった。

ここで安請け合いするよりも…秋に直接、自分の気持ちを伝えたかったからだ。

やがて、神崎邸へと到着すると
「では、私はこれで失礼します」
と、西沢さんはリムジンに乗ってどこかへ言ってしまった。
「………」
俺はそれを無言で見送り
神崎邸へと歩き出した。
門を潜って…
大きな花壇が両隣になる大きな道を真っ直ぐに進んでいくと
神崎邸がそこにはある。
ここには何度も来た。
でも…毎回がドタバタで…
落ち着いてここを訪れたのは初めてかもしれない。
俺が入り口の扉を開けると
エントランスには灯りが灯っていた。
その灯りは豪華…と言うには程遠く
質素に…最低限周りが見えるくらいだった。
「待ってました」
その玄関の中央に秋は立っていた。
「秋…」
白いドレス…。
そして左手の薬指にはちゃんと「Autumn」の指輪がしてあった。
その光景が…無性に俺に結婚式を…イメージさせた。
「こっちです」
と俺の手を取り、秋は自分の部屋へと俺を導いてゆく。

秋の部屋に着くと
前回と変わらない空間が広がっていた。
クマのぬいぐるみの位置も全く変わっていない
「座ってください」
と言うので
俺は近くのイスに腰掛ける事にした。
「ごめんなさい、急に…泊まりに来てくれ…だなんて…」
「いや…大丈夫だけど…」
「そうですか…我が侭じゃないかって…不安でした」
「そんな、我が侭なんかじゃない…むしろ、秋にはもっと我が侭を言って欲しいくらいだ」
秋は遠慮しすぎている。
よく言えば奥ゆかしいが…
彼氏としてはもっと…なにを求めているのかちゃんと言って欲しい。
「じゃあ…言いますよ、一番の我が侭…」
「ああ…」
彼女は呼吸を整え始めた。
でも、俺は彼女が何を言うか…大体想像できる。
きっと…ロンドンに俺に一緒に来て欲しいのだろう。
答えは決まっている。
もちろん…一緒に行くさ。
確かに苦労を強いられる…けど。
俺は…大丈夫。
秋と一緒なら。

でも…彼女の口からは予想外の言葉が発せられた。

「ごめんなさい…私と…別れてください」

無理だ。
いくら秋の我が侭でも…それは受理できない。
本心なら別に良い…。
秋が俺と本当に別れたいのであれば俺は大人しく引き下がる。
でもな…

そんな無理して言ってるの丸分かりなんじゃ…俺は黙ってその言葉の本当の意味を素直に受け止められないだろ

つまりだ…彼女は別れたくないんだろ。
簡単じゃないか。
俺の単なる思い込みでもいい。
でもな確信が持てるんだ。
秋のことなら…なんだってな。
「嫌だね」
彼女にそう言ってから…少し涙目だった彼女を強く抱きしめた。
「っ……」
感極まってしまったのか…そのまま秋は泣き出してしまった。
「…一緒に…いたいです…本当は…ずっと…傍に…いたいです」
「…やっぱりな」
だったら居ればいい。
俺は拒否しないし、留学するなら俺も着いていく。
「だったら、このお願いは却下だな」
「…はい」
「他になにかあるか?」
「えと…ええと…」
秋は涙を拭きながら考えている。
「じゃ、じゃあ…」
「ん、思いついたのか?」
「今日一日…あなたのお嫁さんにしてください」
「…なんで一日限定なんだ?」
「だって…どうせ…別れてしまうから…」
「こら、決め付けるな。俺はこのまま別れるなんて嫌だからな」
「え…」
「……俺の分も買わないとな…指輪」
「…それって」
「ああ、俺も秋にずっと…傍にいて欲しい」
「っ……」
「待ってるから…長いけど六年間…ずっと…待ってるよ」
「ホントに…?」
「ああ、本当に本当だ」
「嘘…つかないよね…」
「心配性だな、だったら年に何回か帰ってくればいいだろ」
「あっ…そっか」
「焦らなくても俺は何処にも行かないさ」
「はい…信じてます」

で、まぁ…俺達は今後のことについて話し合った。
秋が帰ってきたら入籍することとか…
毎月手紙を書くよ…とか。
遠距離になるけど…揺るがないものが目に見えて…秋は心底安心しているようだった。

ずっと待っていよう…秋の帰りを…

…………。

3日後、秋はロンドンへと旅立った。
空港への見送りには俺だけが来ていた。
最後まで別れを惜しんでいたが…今はパソコンで顔を見ながら会話だってできる。
だから…ほんの少し、寂しくなるだけだ。

冬への答えも決まっている。
俺は今の家が一番安心できるし、住み易い。
だから、七瀬の家に行く事ははっきりと断ろう。
そう…決めていた。

電車を降りて帰る途中に池上から電話がかかって来た。
最近ろくに会話もしてなかったし…
微妙な間を取って電話にでる。
「もしもし」
「…えと、久しぶり…」
そんなに久しぶりではない。
三日前に会ったばかりだし
「どうかしたか?」
「ううん…その元気かなって…思って」
「まぁ…元気だけど…」
「そっか…なら良かった」
なにが良かったのだろうか?
もしかして池上も秋のロンドン行きを知っていたのだろうか…?
「それだけか…切るぞ」
「うん…ごめんね」
「謝るなよ、お前なにも悪くないんだし」
悪いのは…俺だから…
「う、うん…」
「じゃ、休み明け学校でな」
「うん…学校で」

それが…俺の覚えている限りでの…池上との最後の会話になるとは…
俺は…知りもしなかった。


最近、俺の住んでいる町も都市化が進んできている。
駅から自宅へ歩くに連れて少なくはなってきているが
所々で建設中のビルが多く並んでいる。
そんな中、俺のことを待っていたのか一人の青年が立っていた。
「ストーカーか?」
「いえ、違いますよ」
と叶野は微笑して俺の問いを流した。
「また…厄介事か?」
「そうです」
「やれやれ…」
「非恋愛主義が…動き出しました」
「あいつらが?」
「ええ…気をつけて下さい」
「待て、秋はロンドンに行っちまったんだぞ、なのに何で俺が気をつけるんだ?」
「これは…まぁ説明すると色々ありますが…」
なんだ?
言いたくない事でもあるのだろうか?
「とにかく…気をつけてください」
「あ、ああ…」
気味が悪い…
叶野が必要以上に気をつけろだなんて…なんかあるのか?

正直、気をつけろと言われてもできることには限りがある。
仮に向こうが銃を持ち出したら身の守りようが無い。
はて…どうしたもんだかねぇ…。
叶野や月さんクラスの人間なら大丈夫だろうが…俺じゃ無理だろ。

叶野と別れた後、何気なしに歩いていると…
猛スピードの軽トラックが迫ってきた。
「おいおい…唐突じゃないか…」
明らかに俺を狙っている。
減速する感じには見えないし…。
でも、あらかじめ注意を受けていれば安心だ。
人間の瞬発力を甘く見ないで欲しい。
俺は軽々しく軽トラックをかわして…

いたはず…。

でも…車は俺の近くで急に曲がった。

なんだよ…びびらせやがって…ただの余所見運転かよ…

そんな風に俺が思った瞬間…

トラックの荷台に積んであった大量の鉄パイプが俺へと降り注いだ。

「ガシャン!!ガラン、ガラン…」

意識が朦朧とする。

ドッキリか…?

いや…流れているのは正真正銘の俺の血だ。

周囲には野次馬まで…集まってきてる。

なんだよ…頭が…ガンガンする…。

痛くて…死にそうだ…

でも、人間死にそうとか言ってるうちは大丈夫ってどこかの本に書いてあったな…。

そんなこと…考えてる場合じゃないだろ…。

俺は…秋を…待たなくちゃいけないんだ…。

なのに…力が入らない…。

自分の体全体を見る…

なんとか四肢は繋がっている。

酷いのは出血だけか…?

なんか…サイレンの音とかしてるけど…頭痛で…耳を塞ぎたい…。

ああ…もう…。

こんなところで…死ぬのかよ…。

バカみたいに…約束も…守れずに…。



病院に駆け込むと
叶野君達は既に病室の外に集合していた。
「はぁ…はぁ…」
信じられなかったけど…
認めたくなかったけど…
これも…既に起こった事実。
「どうしてっ…兄さんがこんな目にあわなきゃいけないんですかっ…どうしてっ…」
涙ながらに…一人の少女が叶野くんに言っている。
「冬ちゃん…これは事故…叶野君のせいじゃないわ…」
「嘘っ…だって…この人は…この人がいたから…兄さんはっ…」
終には泣き崩れてしまった…。
それを先生が必死に慰めている
「大丈夫だから…きっと、治るから…」
そんな先生の声にも覇気は無かった。
むしろ…恐怖に脅える…そんな感じの…声…。

まだ…彼はキズを縫い合わせている状態らしい。
精密検査では右腕と左足の骨折。
外傷が酷くて…出血量もかなりのものだったらしい
少なくとも…全治半年以上。
この事実を知る頃には夜も遅くなっていた。

でも、みんな病院から帰ろうとはしなかった。
先生も…冬ちゃんも…叶野君も…そしてもちろん私も…
「これ…食事です…みなさん、なにか食べないと体を壊してしまいますよ」
と、北条さんが夕食を持ってきてくれた。
彼女は直接彼のことを多くは知らないけど…
その分…みんなの表情や態度で…どれだけのことが起こったかを実感したらしい。

彼の意識はまだ…戻らない。

次の日が来た。

みんな寝ずにいたので…眼の下は黒くなっていた。
彼の手術はそろそろ終わるそうだ。
長かったけど…。

これで…。

一筋の希望を胸に…病室の中へと入る。
でも…そこには変わり果てた彼の姿があった。
上半身はキズだらけで…所々縫い合わせた箇所がある。
折れた左足と右手は包帯で固定されている。
意識はまだ戻らないのか…彼は眠っていたままだった。
「………」
叶野くんは無言のまま、彼の姿を見た後、病室を後にした。
先生に聞いた話によると手術代等は全て叶野君が支払ったらしい。
私は彼の枕元に近寄る…
微かながら…息をしているのが分かる…。
よかった…。

死んでしまっていたら…言いたいことも…言えなくなっちゃうから…




夢…。
深い夢…。
夢に溺れる…人間の心理を海と例えると
こんな表現が適切なのではないだろうか?
無の世界から始まり…自由に全てが創造されていく。
こんな世界に…ずっといられるのは…正直楽だと思う。
現実から隔離されて…平和でいられる。
悩み事も無く…
全てが自分の意のままにいられる。
こんな世界なら…俺は…。
「いいの?」
横を見ると…よく知っている顔の女性が俺の隣に座っている。
「…母さん」
そうか…死んじゃったのか…俺。
なら紗也香母さんの亡霊っぽいのが見えるのも頷ける。
「いいって…なにが?」
「このまま…ここにいる気なの?」
「ああ…それもいいかなって…」
変な話、俺は母さんと話したい事が山ほどある。
感謝したいことや…なんで真実を生きているうちに語ってくれなかったのかとか…
母さんの心理を聞きたい。
「もう…困った子ね」
「えっ…」
「まだ、こっちには来れないのよ、あなたは」
「えっ…」
「死んでいないから」
「でも…俺…母さんが見えるけど」
「それは…ここが黄泉との境目だからよ」
黄泉との境目?
さすが俺…こんな時でも滅茶苦茶だ。
「なんで母さんはここにいるのさ?」
天国とか地獄とか…その辺には行かないのか?
「心配だったから…」
「心配…俺のことか?」
「うん、ずっと…ここで見てたよ」
「えっ…」
「ふふっ…彼女もできたんだよね」
どこまで…そして何を見ていたかを問い詰めたいが…
ここは黙っていよう。
「でもね、もう…心配いらないかなって」
「どういうこと?」
「もう、私なんていなくても大丈夫でしょ」
「そんなこと…ないけど」
失って初めて分かった大切な人だったって事が。
「ほら…そろそろ起きないと…みんな心配してる」
「…母さん」
すっと…目の前が光に包まれた。
夢から覚めるのと…同じ…感覚だ。


俺が起きて周囲を確認すると…
最初に眼に映ったのは白い天上だった。
まぁ…正直この体験も二度目なので…なんともコメントのしようがないが…
独特な消毒液の臭いと
麻酔の効いていない場所の痛さが
これが現実だと俺に丁寧…いや、強引にも教えてくれる。
「っ…」
目の前には…いつも見ている…黒髪の女性が涙を浮かべていた。
「…か、あ…さん…?」
「………」
無言のまま…俺の左腕を握って母さんは泣いていた。

母さんが落ち着くまで…まぁ俺がちゃんと喋るようになるまで大分時間がかかった。

「なぁ…母さん」
「…どうしたの?」
「俺さ…家、出るよ」
「えっ…」
不意打ちされたかのように…冷静さを失った母さんの表情になる。
「いや…七瀬の家に行く訳でもない…もっと別の方法で…一人でやって行くよ」
貯金も…かなりある。
高校を卒業するまでくらいなら…なんとかなる。
安いアパートか寮にでも入れば…大丈夫だろう。
「そんなの…ダメよ…」
母さんは力いっぱい俺の意見を否定する。
「決めたことだから…」
かなり迷惑をかけた…今まで。
でも…もしかしたら…これ以上、迷惑をかけるかもしれない…
そんなの…嫌だった。
今回は俺だったから良かったけど…
母さんや…他の人がこうなるのは…我慢できない。
もう…池上の様に…心を傷つけたくもない…。

だから…俺がここから居なくなれば済む。

そんな…考えが俺の中に…生まれ始めていた。



この話辺りから、新展開への準備になってきています。








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