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もしかしたら、ハンカチが必要かも知れません…。

恋愛仲介部
作:MOR



恋愛仲介部の奔走2




恋愛仲介部の市内散策から10日くらいが経過した頃。
俺の誕生日はカウントダウンできるくらいに迫っていた。
でも…母さんはあの日、夜出かけたきり帰ってきてはいない。

なんか…心配になってきた。
自由人で…無邪気なあの人もいないといないで心配になる。
しかし…俺から母さんに連絡しようにも…母さんは携帯電話を置きっぱなしにしているからなぁ…。

でも、そんなある日。
俺の携帯の着信が鳴り響いた。
「もしもし」
「今から言う場所に来て欲しいの…」
声の主は紀野里先生だった。
先生に言われた場所を明記して俺は家を飛び出した。

…中央病院。
俺が入院していたところだ。

俺が病院に着くと受付の近くで先生が待っていた。
「あの…」
「着いて来て…」
神妙そうな顔つきで先生は俺に言った。

連れてこられたのは三階の入院患者たちのいる場所だった。
階段を上ってから先生は廊下の一番奥の部屋の前で止まった。
「……入って」
部屋の名札を見ても知らない苗字が書いてあった。
俺は無言で扉を開ける。

部屋の中には母さんが眠っていた。
「なっ…か、母さんっ」
「落ち着いて…今は…眠っているわ」
「ど、どうして…」
ほんの一週間前くらいまでは…元気にしていたのに…。
先生は備え付けの椅子に座る。
「この人はね…私の…恩人なの…」
「えっ…」
「私にとって…お姉さん代わりの人だったから…」
「……」
「ごめんね…今、説明するわ」
先生は淡々とした口調で言う。

「…一週間前くらいに、検査入院に来たの」
「検査入院?」
「ええ、健康診断で引っかかったらしいわ」
「…それで…病気は…?」
「ガン…ね」
そんな…嘘、だろ…。
間の前が暗くなっていくのがわかった…身近な人が…そんな…ドラマじゃあるまいし…。
「それで手術したんだけど…体中に転移していて…」
嘘だ…なんだよ先生…そんな大真面目に…。
そろそろ叶野がでてきて冗談です…とか言うんだろ…?
そう…なんだろ…?
「私…口止めされてて…でも、あなたに言わなくちゃって…思って…」
先生が泣いているところを初めて見た…。
それきり…俺は…なにも…口にできなかった…。
「…あなたのお母さんと同じ病気…」
「え…」
「あなたの本当の親はこの人じゃないわ…この人の双子のお姉さんのほうよ…」
「………」
もう、なにが真実で…嘘なのかわからない…。
「あなたに言うのを拒んでいたのは…苗字をみたら…本当の母親じゃないって…わかってしまうから…」
それで…俺には連絡をよこさなかったのか…。

その後先生は
「目が覚めたら声をかけてあげて…」
と言って病院を後にした。

「…ううん」
暫くすると母さんの意識が戻ったらしい。
「…もう、夕方だぞ」
母さんは驚きもせずに
「そうだね…寝坊…しちゃったね…」
そう答えた。
「…どうしてここに…?」
「先生が教えてくれたんだ」
「そっか」
母さんはいつも通りの明るさだった…。
でも…俺には…裏の神崎さんの最後と…重なって見えた。
「手術…成功…だってさ」
口から…嘘が出た。
なにか…言わないと…そう考えた結果…最も言ってはいけない嘘をついた…。
でも…体は自分が一番良く分かる。
こんな嘘ついても…意味…ないのにな…。
「………」
母さんは無言のままだった。
「退院したらどうする?…そうだ、池上誘って三人でどっか行こう」
俺は嘘をつくのが下手だ…。
池上にも…神崎さんにも…。
もう少し…上手く嘘をつければ…なんて思う。
「いいの…お母さんも行って…邪魔じゃない…?」
「大丈夫だって、池上も喜ぶだろうし」
「…私…本当の…お母さんじゃ…ないのに…?」
母さんの目には涙が溜まっていて…。
俺が少しでもなにかを言うと零れてしまいそうだった…。
「…ああ」

「用事があるんだ」
そう言って…。
俺は…母さんの病室を後にした。
扉をしめて…部屋から出た時…。
母さんが声を殺して泣いているのがわかった…。
今まで…俺を騙していた罪悪感と…自分の病気…。
その二つが…彼女の明るさを奪っていく…。
病室の名前を見ると…。
違う苗字が…俺と…彼女との間で壁を作っているように思えた。

俺はそれから毎日病院へ通った。
部活が終わってから…病院が閉まるまでの時間…母さんの傍にいた。
「毎日、ごめんね。退院したら美味しい料理いっぱい作るからね」
なんて…俺に言ったりして…。

俺の誕生日前日…。
母さんは息を引き取った…。
「誕生日プレゼントなにがいい?」
そう聞いてきた母さんに…。
「なんでもいいよ、母さんがくれるんならさ…」
そういった矢先に…母さんはこの世から去って行った…。
不思議と…俺は涙が流れなかった…。
彼女が消えてしまうのに…。
15年間も…親として育ててくれたのに…。

葬式が終わって…。
俺は何も考えたくない…そんな気分になっていた。

ふと…母さんの部屋に行ってみた。
普段は
「絶対入っちゃダメだからね」
と、言われてたから…入れなかったけど…。
中に入ると子供の頃見た光景と変わらない母さんの部屋がそこにはあった。
俺がクレヨンで書いた落書きもそのままで…。
壁紙を張り替えればいいのに…。
思い出を大切にしたかったんだろうか…。
そして机のところには何枚もの写真が貼られていた。
「小学校入学」
「中学入学」
「高校入学」
全部…作り笑いの俺と…満面の笑みの母さんが写っていた…。

机の上に…一枚の手紙があった。
俺の名前宛で…母さんの字で書かれている。
それを開き呼んでみる。
「これを読んでいる…と、いうことは私の部屋にはいったな。もう…お仕置きだよ」
イタズラか…と、思うとまだ続きがあった。
「でも…そしたら私はこの世にいないんだよね…」
…母さん。
「もし、16歳の誕生日まで生きれなかったことを考えて、もう誕生日プレゼントは用意してるよ」
………。
「机の引き出しを開けてみて…」
俺は一番上の机の引き出しを開けた。
中には手紙が一つ入っていた。
「…これは私の宝物」
手紙の下には何枚かの古びた原稿用紙が置いてあった。
一枚取り出して読んでみる。
「題名…『僕のお母さん』
僕のお母さんは美人でとても優しくて作ってくれる料理もおいしいです。
僕のお父さんはたんしんふにんとかいうのでなかなか家に帰ってきてくれません。
でも、僕はお母さんがいるから寂しくないです。
お母さんは色んなことを知っています。
僕の知らないことをいっぱい知っています。
この前も、一緒にセミ取りに行きました。
僕はお母さんに質問しました「どうしてセミは一週間でしんじゃうの?」
そうしたらお母さんは「セミは泣くのが仕事で泣きすぎて疲れちゃうから」と教えてくれました。
僕はそうなんだぁ…と思いました。お母さんは僕が家にいないと僕のゲームをかってにやります。
この前もかってにクリアされました。だから僕はお母さんに負けないくらいゲームがうまくなってお母さんをビックリさせたいです。」
俺の…作文…。
小学生の頃…授業参観で読んだやつだ…。
これを読んだ時…友達とかに羨ましがられて嬉しかった。
自慢の母親だった。
次に二番目の引き出しを開けた。
すると一冊のノートがあった。
「…お料理ノート」
と、書かれたノートの中を見る。
中には母さんの得意料理が作り方や隠し味などが細かく書かれていた。
俺の好物には…堂々と『大好物』って印がついていた。
一緒にあった手紙を読んでみる
「私の料理の作り方…私はもう、料理を作ってあげられないから…お嫁さんに来た人に作ってもらってね。
…その料理を食べて…少しでも私のこと…思い出してくれたら…嬉しいな」
俺は三番目の引き出しを開けた…これが最後の引き出しだ。
中には手紙だけが入っていた。
「これを読んでいるってことは…私はもう、この世にいないのかな…。
私…姉さんがガンになった時から自分もいつか…そうなるんじゃないかって…思ってた。
でも、姉さんにあなたのこと頼まれて…私は…姉さんの変わりに…ちゃんと育てなくちゃって…思って…。
最初は必死だった、育児経験なんてないし…なにをしていいか分からない…。
それに夜鳴きは五月蝿いし…もうやめようと思ったこともいっぱいあった。
私は…自分の人生は楽しく生きて悔いを残さなければそれでいいやって思ってた。
でもね…あなたといるうちに…本当の家族…本当の子供みたいに思えてきて…。
ああ、この子が結婚するまでは生きたいななんて…それが目標になってたりして…。
あなたは姉さんにそっくり…いつも冷静ぶってるし。そういうとこ好きになってくれる娘ちゃんと見つけるんだよ。
結婚式…のときにあなたに…私が本当の親じゃないことを言おうと思ってた…。
軽蔑されたりしないか不安だったけど…それでも「母さん」って呼んでくれたら嬉しいな…。
優しいからきっと呼んでくれるよね。私は信じてる。
ガンでも抗がん剤なんて飲まないもん、髪の毛なくなっちゃったら…嫌われちゃうだろうし…いつまでも…綺麗なままでいたいから。
……長くなってごめんね…もう、最後だから…これだけは言わせてね……『私…あなたに会えて…嬉しかった、ありがとう』」
涙が…止まらなかった。
声を上げて泣いた…。
神崎さんのことで…失うことには…なれたと思っていた。


池上や仲介部のみんなも俺に気を使って誕生日会をしてくれた。
池上渾身の手作り誕生日ケーキというプレゼントも…今の俺では嬉しさも皆無に等しかった。
自分でも痛々しいくらい元気ぶっていたのは…みんな…わかったいたんだと思う。
でも…ちっとも嬉しくなかった。

池上も俺を慰めに来たり様子を見に来たりしたが…色々と理由をつけて帰ってもらった。
家事や炊事は月さんが…やってくれていた。
他のことは紀野里先生が母親の代理としてやってくれた…。
みんなに…迷惑ばかりかけている自分が…情けなかった。

…次第に、学校に行くのも疎かになって行った。

昼間まで暗い部屋にこもって何も考えずにいる…。
それが日常になって行った。

約2週間くらい…部屋にこもっていた…。
ヤル気も…活力も…そんなもの…沸いてこない。
「まだ…立ち直れないのね…」
俺の前に…先生が立っている。
放っておいてくれればいいのに…。
「…私の知っているあなたは…いつも…冷静だった」
「あんたに…あんたに…俺のなにが…わかるんだよ…」
知ったような口を利くな…。
「わかるわ、半年以上もあなたを見てきているもの」
そんな…半年で…わかったような…ことを…。
怒りがこみ上げてくるのがわかった…。
でも、すぐにそんな事は無駄だと知った。
「……これ、食べて」
先生は俺に料理を運んできてくれた。
「何も…食べたくない…」
胃に…なにも入る気がしない…。
「いいからっ…食べてよっ…」
先生は俺を諭すように言う。
普段から…冷静で…落ち着いた印象の先生からは想像できない声だった…。
「………」
無言のまま…先生を一瞥する。
「……お願い」
俺は先生からリ料理を受け取って一口食べる…。
「あ…」
「…どう」
母さんの料理…そのままの味だった。
どうして…先生はノートの存在なんて知らないのに…。
「私が学生の頃…あなたのお母さんに料理…習っていたの」
…だからか。
「私、あの人のためにも…あなたにはちゃんとして欲しい……だから…」
「…先生」
「…どうしたの…?」
「ごめん…迷惑…ばっかり…かけて…」
「…いいよ、だって…私はあなたに元気になって欲しかっただけだから」
母さんは消えた…でも、こうして覚えていてくれる人はいる。
母さんの料理の味だって…受け継がれてるじゃないか…。
もう、やめよう…落ち込むのは…。
立ち上がり部屋を後にする。

そして…母さんの部屋へとやってきた。
「……」
片付けよう…思い出は残すけど…。
そればっかりにとらわれてはいけない…。

片付けが終わる頃には日が完全に沈んでいた。
「…吹っ切れたのね」
「…はい」
「よかった」
先生に母さんの面影を見ているのかもしれない…。
この人と一緒だと…心が落ち着く。
「それでね、一つ。相談があるんだけど」
「え、なんです?」
「この部屋、私が使ってもいい?」
「えっ…」
「私…あの人の分も…あなたを見守っていきたいから…」
「で、でもそれって…」
先生は少し照れた仕草をして
「私が…お母さんじゃ…不満かな…?」
そう、俺に問いかけた。

その後、先生は学校を辞めて正式に俺を養子に取る事になった。
葬式にも来ない父さんは勝手にしろと言っていたけど…。
「うん、これで終了だね」
先生の荷物を運び終えて俺達は休憩する。
「…でも、よかったんですか…学校」
「うん、いいの。私は…あなたを見守っていく…そう、決めたから」
「…そうですか」
先生の意思は強いと思う…。
「じゃあ汗かいたし、一緒にお風呂入ろうか」
「えっ…ちょっと…」
ま、マジ…ですか!?
「冗談だよ、顔、真っ赤になってる」
「せ、先生、おちょくらないでくださいよ…」
こんなところまで似せなくても…。
「もう、先生じゃないもん♪」
先生は嬉しそうに微笑んだ。

「はぁ…」

久しぶりについた溜息は…。
気のせいかもしれないが
なにか…自分の中の未熟な部分を吐き出した様な気がした…。


すみません。ハンカチ必要とか嘘でしたね…作者は脳内補完のお陰で書いているうちに泣いたような…気がしたんですが…文才のなさが身にしみます(涙)ちょっと最近鬱展開が多いのでもっと明るい話を載せたいです…。








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